ラブライブ!~胸(ポケット)にはいつも転学届~   作:カゲショウ

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五か月ぶりのカゲショウです。すみません……

五月に投稿してから色々あったんです。テストとか、後ちょっとグレーなバイトが始まったりとか……

最近知り合いの作家の作品が着実に感動のラストを迎えて言ってる中、これではだめだと思い直しました。はい。ですので、何とか二週に一回は投稿できるよう時間を作って頑張りたいと思います!!

今回は副会長と運動部を巡るよ! ということで頑張りました!

それでは本編をお楽しみください!


16話 突撃!! 音ノ木部活動!-運動部編-

「西原君っ」

 

 スタスタと廊下を歩く俺の背後から副会長が心配そうに声を掛ける。だが俺は「なんですか?」とそっけなく答えるだけで振り返ろうとはしなかった。

 特に理由があったわけではないが、振り向いて彼女を待つという気が起きなかったというのが唯一の理由だろうか。もっとも、小走りに近づいてきた副会長は、すぐに横目で確認できる位置にいたわけだが。

 

「西原君、さっきの事なんやけど……」

 

 防弾チョッキも着せずに弾丸を放つ副会長。致命傷という訳ではないが、やはり突き刺さる。

 副会長が二言を継ぐ前に俺はそれを遮るように大きなため息を吐き、何ともない風に言い放つ。

 

「悪いとは思ってますよ。少なくとも感情をコントロールしきれなかったことに関しては反省しています」

 

「……てことは、にこっちを怒らせたことに関しては反省してないって事?」

 

「それは……反省はあまりしてないです」

 

 流石に俺も反省してないわけじゃない。というか、今回に関しては俺が悪いので反省しないわけにはいかないだろう。だが、それでもあまり反省していないというのは、やはり自分の中で譲れないものがあったのだ。

 きっとあの場に残って矢澤先輩の口論していたら、自分はこう言っただろう。

 

――本気なら途中で投げ出すなよ

 

 あまりにも自己中心的考えから生まれる言葉。これを矢澤先輩にぶつけていたらどうなっていただろうか? 少なくとも怒声だけじゃすまなかっただろう。よくて平手、最悪拳が飛んできていただろうな。

 今俺がどんな表情しているのかは分からないが、俺の顔を見て何かを悟ったようにふーんと言って追及はしてこなかった。

 そして少し足早に歩いて俺の前に立ちはだかって、人差し指を俺の眼前に突き出した。

 

「君は本当に言葉を考えて言わんとだめやん」

 

 重々承知しています。そう言ってみるが、副会長はいう事を聞かない子供を叱るように柔らかいしかめっ面をして一歩迫る。

 

「承知するだけで行動に反映させんかったら意味ないって事、わかっとるん?」

 

「それは子供でも分かる事ですよ」

 

「それができるか心配だから言ってるのっ」

 

 それは詰まる所信用はゼロという事ですよね、副会長。いや、あって二日で信用も何もないけど。少なくとも無条件で信じられる人扱いはしてもらえ無さそうだ。

 でもまぁ、ここで絶対大丈夫と言えないのが俺なわけだから、反論もできないしするつもりもないんだけどな。

 誠意の上澄み辺りを込めて今後気を付けますと言ってみたが、やはり副会長はよしと言ってくれなかった。

 

「副会長。人間どう繕ってもぼろが出るんです。なので諦めてください」

 

「何で君はそう堂々と言えるのか分からんけど……。まぁこれ以上は時間の無駄やし、早く回ろっか」

 

 ちょんと俺の鼻の頭を押して再び歩き始める副会長。時間の無駄だというのなら最初から言わなければ……いや、これは口に出す事じゃないな。少なくともさっきまでの鬱屈とした空気は晴れたし、俺個人としても深く踏み込んだり説教されるよりは気持ちが楽だ。

 空気を読んだ結果なのか、それとも単なる偶然なのか……。もし前者なら警戒をさらに強めないといけなくなるわけだが、真実ははたしてどっちなのだろうかね。

 

「……ホント、そこの見えない先輩だな」

 

 クリップボードを左手に持ち替えて副会長の背中を追う。

 

 ――――今はまだ“使える先輩”でいてくださいね? 副会長。

 

 

 

「――うん、これで聞きたい事は全部やな。時間取らせてごめんね」

 

「あ、いえ。副会長も生徒会活動頑張ってください!」

 

「ありがとな~。じゃあ、ウチ等はこれで失礼するね」

 

 テニス部部長の笑顔に見送られてテニスコートを去る俺達。ただ俺だけは知っていた、その笑顔は副会長にだけ向けられたものであり、自分には後ろの部員から怪しい人を見る目で見られている事に……。

 まぁいきなり生徒会でもない人間、しかも男が練習場所や部室にずかずかと踏み込んで来たらそりゃ不審にも思うよな。俺が彼女たちに立場だったら絶対に危険人物としてマークしてるね、こんな不審者顔の人物は。

 そんな自虐ネタを心の中でかましつつ副会長の後について歩いていると、テニスコートからある程度離れた所で副会長が俺に問いかける。

 

「なぁ西原君。西原君的にはこの調査続けるべきやと思うん?」

 

「これはまた唐突な問いですね」

 

「ふふっ。でもウチちょっと気になったんよ。この紙に書いてある数値と現実はそんなに大差ないんじゃないかなって」

 

「……まぁ、否定はしませんが」

 

 テニス部は体育系部活動で三つ目だったのだが、やはり文化部同様足りてるもの、足りないものはほぼ手元のクリップボードに書かれているものばかりだった。部費がトップの次点で設備。調査等意味がないのではと思うのは当然のことだろう。

 ただ、俺はこうして調査する事で見えてくるのは何も物質的な問題ばかりではないと思うのだ。

 

「副会長はもうちょっと人に目を向けてみてはいかがですか?」

 

「少なくとも君より他人への配慮はできてるつもりなんやけど」

 

「いえそういう事ではなく、人を客観的に見たらどうですかって事です」

 

「客観的に?」

 

 彼女と会って過ごした時間はまだ一日にも満たないが、今回の調査をするにあたって彼女がとても“いい人”だという事を知った。

副会長は人を見て話す。ただ情報を話すNPCと接するようにではなく、その人のありのままを見て接するのだ。調子や近況を聞いたり、ある人物相手には小粋な冗談を挟みながら人の懐に入り込んで話しかけてくれる。

だけど、副会長の様な見方では分からない物だってある。

 

「圧倒的な技術力不足。コミュニケーションの一歩手前から見れば素人でも分かるレベルです」

 

 人格とかこれまでの積み重ねとかその集団の和とか全てを覆い隠して見れば浮き上がる事実。

文化部だと結局の所は人の感性や芸術性に寄る処があるからぼやけてたが、運動部はそうはいかない。単純な力量で図られる世界だとそこは隠しようがなくなるのだ。

もっとも、それが足りていないから結果が残せていないんだろうけど。

 

「彼女達は設備が不十分という免罪符を持ってるだけで、大した設備がなくても鍛えられる基礎の部分が弱い。さっきのテニス部のスイング見ましたか? 重心が安定していないし、面が作れてない。こんなんじゃ都大会ベストエイトは綺麗に描かれた餅ですね」

 

 歴史ある音ノ木坂の事だ。創部当初から描かれて、時の流れと共に精巧に書き換えられてきたのだろう。だが、それは彼女達の視界を覆い隠し心地よい揺り籠となって“夢を見る事”の快楽を植え付けた。

 自身の力をワンランク上に上げる事は決して楽な事ではない。だから精巧に描かれた非現実に酔いしれて、己に、そして現状に甘える。そして設備不足という事実が無意識に彼女達のそれを加速させる。衰退を食い止めるための集団が、衰退にいい夢を見させてもらっているというのだから皮肉な話だ。

 

「だからこうして部活を回って“一番期待できる部”を探して、優先的に待遇改善を図る。これが今自分達が部活を調査する意味ですよ」

 

 勿論紙面上の情報との齟齬が無いかの確認もですが、と付け加えておく。

 俺の言葉に副会長はふぅんと目を細め、挑発するような軽い口調で言う。

 

「でも、エリチがそんな不公平な事すると思うん? しかも、他ならない君の意見を、ね」

 

 副会長の言わんとしている事は分かる。つまり自分から生徒会長を敵に回すような事したのに、素直に協力してくれると思うのか? という事だろう。

確かに向こうの服装を正せという小さな願いすら屁理屈こねて聞かなかった奴が、これやっといてね、等と押し付けるのは図々しいという物だ。

だが。だけれども――

 

「生徒会長はやってくれますよ。あの人は優秀ですからね」

 

 生徒会長はこの提案を持ちかけたら九割の確率で首を縦に振るだろう。そんな確信が俺の中には確かにあった。

 

「まぁ、振ってくれなくても振らせてみせるんだけどな」

 

 副会長に聞こえない程度にぽつりと呟いた。

 それが聞こえていないであろう副会長は、優秀だから俺の提案を飲むという事がいまいち分かっていないようで小首を傾げていた。

 

「さ、お喋りはこれくらいで続けましょうか。あまり時間もありませんし」

 

「……そうやね。残りの部活も早くまわろっか」

 

 疑問符をその顔の裏側に隠す副会長。こういう感情の整理とか切り替えとかがうまいのを見ると、やはり気を抜けない人だと感じる。目下の此方の目的がばれても表に出さずに裏で何かしてそうで怖い。

 互いに何かを感じつつも悟られないように歩を進め、次の目的地である陸上部御用達のグラウンドへ向かう。

 いや、ここのはグラウンドというよりもフィールドとかといった方がいいのかもしれないな。

 恐らくこの学校で一二を争うほどの設備であろう其処は、しっかりと整備されていて一つの宣伝材料にはなりそうな気がする。

 

「ただ部員が少ないのと成績がな……」

 

「部員と成績がどうしたん?」

 

「別に何でもないです。大切な武器が錆びてるなと思っただけですから」

 

 少し濁した言葉で会話を切り上げ、取り敢えず練習風景などを見て期待度を測るかと足早に歩く。

 テニスコートから陸上部の活動場所まではそんなに遠くなく、五分も歩いていたら目の前には風を切って走る少女たちが見えた。中には鉛玉を青空めがけて押し出している者もいて、活動自体は真面目に取り組んでいるらしい。

 少しだけ感心しつつ練習風景を眺めていると、遅れてきた副会長が隣に立って得意げに話す。

 

「陸上部はこの学校で一番真面目に頑張ってる所なんよ。成績とかはあんまり振るわんようやけど、創設二年目の今年は絶対記録を残して見せるって意気込んどったよ」

 

「創設二年目……? これにはそんな情報載ってないんですが?」

 

「だってそれには昨年度の活動と部費明細しか載ってないもん」

 

「…………そういえばそんな事言ってましたね」

 

 そういえばアイドル研究部も一年の時はスクールアイドル活動をしていたと言っていたのに、この資料には書いてなかったな。ということは二年前にはそれなりの成績を残した部があったりする……わけないか。もしそうなら、もう少しましな待遇や部員がいてしかるべきだろうしな。

 そう考えると創部していい成績が出なかったからと手を抜くことなく、寧ろ力を入れているこの部は今後の活躍が割と期待できるのではないだろうか?

 

「取り敢えず副会長は部長から話聞いてきてください。俺は此処で暫く練習風景見てるんで」

 

「あれ? 一緒に行かんでもええの?」

 

「今回は一人ひとり観察して実力と期待値を測っておきたいので」

 

「そう言って目測で女の子の胸の大きさ測る気やろ~。君も男の子なんやね」

 

「そんなことできませんし、人が聞いたら通報ものな事言うのやめてくださいません?」

 

 特に俺の場合顔と目つきがあれだから、ちょっと思い込みが強かったり無駄に行動力のある奴に聞かれるとこの学校での居場所なくなりかねないからな。そう、例えば音楽室にいたあの一年のような奴な。

 そういう事をある程度理解している筈の副会長殿はにひひと悪戯な笑顔を浮かべて、文句の一つを言う前に陸上部部長の元へ行ってしまった。あの先輩、いつか一泡吹かせてやろうか……。

 

「まぁいい。今はやる事をやってしまおう」

 

 立ったままだと疲れるので無駄にあるベンチに座り込み、練習に打ち込む彼女達を観察する。

 活動している部員の数は七人。文化部を回っている時に聞いた部活設立基準ぎりぎりの人数だ。ただこれくらい広いフィールドを思い切り使えると考えると、このくらいの人数がちょうどいいのかもしれない。少数精鋭の考えは嫌いじゃない。

 部長らしき人は副会長と話しているので今は割愛。まずはトラックを全力疾走する女生徒三人を見る。

 一番手前のレーンを走っている生徒はほっそりした身体をしており、しかし足の筋肉がないというわけではなく、身軽な短距離走専門といった風に見える。その隣のレーンを走る生徒は三人の中で走る速度は一番遅いものの、バランスのとれた肢体、フィールドを蹴る時の足のつきかたやフォームからすると長距離向きなのだろうか?

 そして最後、一番奥のレーンを走る生徒はなんと言えば良いのだろうか。見たままを言えば混合種。少し詳しく言うならば短距離と長距離のハイブリットと言った所か。引き締まった腿の筋肉、洗練された風を切るかのようなフォーム。大地を蹴るその足は短距離のそれだが、長距離にも耐えうる持久力と力強さを感じる。

 

「トラック競技は期待できそうだな。他の部員は……まぁわからないか」

 

 走りに関してはある程度の知識と経験との比較で判断できるが、砲丸投げや槍投げ、高跳びに関しては完全に比較資料がないのでお手上げだ。

 そこら辺は後日陸上経験者に聞いた方がいいのかもしれないな……。今日の調査で外ればかりかと思ったが、取り敢えず鍛え方次第ではすぐに成績が残せそうな部活があると分かっただけでも収穫ありか。

 それからも練習風景を観察しているとふいに横に人の気配を感じ、横目でちらりと見やる。

 細く真っ白な脚。ぱっと見柔らかそうに見えるが、太ももにうっすらと浮かび上がるの筋が無駄な贅肉の無い証だと主張する。そこから徐々に視線を上げていくと凹凸の見られない身体が制服に包まれており、青いリボンと短く明るい髪が微かに吹く春風になびいていた。

 いかにもスポーツ少女とした風貌の彼女を見た時、俺は微かな既視感と共に陸上部の見学か? と思ったが、彼女の表情を見てその考えは打ち砕かれる。

 

「…………」

 

 もし彼女が陸上部に入部希望の生徒だとしたら、こんなに悲しげな視線でトラックを走る彼女達を見ないだろう。

 いったい何を感じてそんな眼をするんだ? 憎しみでも悔しさでも怒りでも憐みでも嬉しさでもない、帰りたくない家に帰り着いたときの様な眼を彼女達に向けるんだ?

 いつの間にか俺の興味はトラックを走る彼女達ではなく、彼女達を見るこの少女に移り変わっていた。

 だが自分から声を掛けたりはしない。聞いた所で目の前の問題に関係ない疑問が解消されるだけで時間の無駄だし、そもそも初対面の目つき悪い男子に話すわけはないだろう。つまりは声を掛けるだけ無駄だ問う事だ。大人しく陸上部の観察に戻るとしよう。

 視線を少女からトラックに戻したところで、彼女がぽつりと呟いた。

 

「お腹すいたにゃー……」

 

「腹がへってただけかよ!?」

 

「え?!」

 

「あ」

 

 あまりにも予想外の言葉過ぎてついツッコみを入れてしまった。女生徒も滅茶苦茶目を丸くしてこっちを見てるし……って、んん?

 彼女の顔を見ると体中が感じる既視感がだんだんと大きくなっていく。何故だ? 俺はもしかしてコイツにあった事がある? どこでだ?

 人相とか目つきだとかそんなのを頭から一切排除して隣の少女を見る。短い髪、活発そうな雰囲気、そして語尾の「にゃ」。どこかで最近見た記憶が……。

 

「あ、あの、何ですか?」

 

 地震の身体を軽く抱き寄せながら警戒度マックスの視線で俺を見る彼女。怯えより敵意を向けるあたり不審者対策はできているようだな。………………警戒心の強い語尾にゃの少女?

 

――凛も一緒に探すからもうちょっと頑張ってみるにゃ!

 

――あの、どういう要件ですか?

 

 ふと数日前の光景が頭の中でフラッシュバックする。

 秋葉原で見かけたこの少女とのやり取りが鮮明に。

 

「お前、あの時秋葉原にいた奴か……」

 

 ポロリと口から零れた言葉。だがこれでさっきまでの既視感の理由が理解できた。

 あの時のねこもこの音ノ木坂の生徒だったのか。なんともまぁ奇妙な巡り合わせな事で。

 そう感慨にふける俺をよそに、目の前のねこは訳の分からないと言った表情で予想外の言葉を投げかけてきた。

 

「えっと、何の事ですか? 凛は貴方と会った事ないと思うんですけど……」

 

 …………ふむ。そう来るか。

 だけどまぁ、この反応は予想外ではあるが納得はできるものだ。俺はあの時きっちりとした制服姿だったし、少なくともこんな目つきの悪い不良ではなく、ちょっと爽やか系の一般人を装っていたわけだしな。ギャップがありすぎて別人と捉えても仕方ない事だろう。

 あの時の顔の作り方が上手くいっていた事に少し嬉しさを感じたが、それが一年生の貴重な情報源の紛失に繋がったのだから素直には喜べない。一応一年に知り合いがいないでもないが、あのボッチ姫様からだとまともな情報が聞き出せるとは思えないしな……。

 

「いや、すまない。人違いだったようだ」

 

 だから俺は人違いだという事にして話を切り上げる。わざわざ俺があの時の人だと証明するのも面倒くさいしな。

 取り敢えず場所だけでも移動しようと腰を上げて、その場を離れようとする。だが、それはコミュ力の化け物の帰還によって阻まれてしまった。

 

「お待たせ、西原君……と、一年生? 西原君の知り合い?」

 

「え? ち、違います。さっき声かけられただけで知り合いとかじゃ……」

 

「――――っ!?」

 

「そんな人知を超えた奇跡の光景を見たような顔しないでくださいよ」

 

 まったく失礼というものだ。俺だって必要とあらば初対面の女子に声を掛けることくらいできるというのに……。今回は人違いだったわけだが。

 はぁとため息を一つ吐き、この一年は俺が人違いで声を掛けてしまっただけで、たださっきまで陸上部の活動を見てた生徒だ。そう伝えようと口を開く。

 

「ウチは東條希。一応この学校の生徒会副会長やっとるんや。よろしくね」

 

「一年の星空凛に……です。よろしくお願いします」

 

 伝える間もなく、というか俺を気にしていない様子で副会長は目の前の後輩に話しかけていた。にゃろ……文字通り口から出かかった言葉が出なくて、開いた口がふさがらないじゃないか。

 

「凛ちゃんね。それで、西原君の知り合いじゃないなら凛ちゃんはどうしてここに?」

 

「それは、えっと……」

 

 副会長にそう問われた途端、ねこの顔にさっきまで浮かんでいた影が下りた。……腹がへってたからじゃなかったのか?

 その変化には副会長も気づいていたようで、どうしたのかと心配した様子で声を掛ける。

 

「別に言いたくなかったら言わんでもええんよ? ただの世間話みたいなもんやし」

 

「いえ、そんな事は無いにゃ……です! ただの部活動見学ですから!」

 

「見学? それなら陸上部に興味があるん?」

 

「一応中学でもやってたので、少しは……」

 

 やっぱり何か運動はしていたのか。陸上部を見てた時点で大体の察しはついていたが……。あんまり乗り気じゃないのはあまりいい思い出がないからか?

 そう勝手に思ってる最中も、副会長はねこと話を続ける。

 

「そうなん? 経験者の凛ちゃんが入ってくれるならあの子たちも喜ぶと思うなぁ」

 

「……多分、陸上部に入ると思います」

 

「本当? 別にもっと他の部活を見てから決めてもええんやで? ウチには面白い部活とかがいっぱいやし」

 

「それでも、多分、凛は陸上部に入ると思います」

 

 ワントーン低くなった声と共に一度顔を伏せる。そして顔を上げた彼女は笑っていた。

 

「凛には似合ってないから……」

 

 春の陽気でさえも温める事が出来ない影。簡単には拭えそうにもない闇を彼女の笑顔の裏に垣間見た気がした。

 ちらりと副会長の方を見やるが、そっかと少し悲しげに微笑むだけで元気づけるような言葉をかけたりはしていない。少し予想外ではあったが、個人的には最善の対応だと思う。

 そもそもねこが悲しそうに笑う理由も、何が似合ってないのかも分からないのに慰めの言葉をかける事は出来ないのだ。なのに無理に励まそうとするのは偽善者か、相手の背景も汲み取れない愚者だろう。

 彼女は何か思うところがあり入るなら陸上部と決めているのだが、完全に吹っ切れているわけではない。しかも結構根が深そうな闇を抱えているときた。今の彼女に空っぽの甘言を言うほど俺も馬鹿じゃない。それに俺に空気をよんで慰めるなど似合わない。

 

「なぁ、一年生」

 

 だから俺は空気を読まない。

 

「部活選びでそんな顔する位なら、学校でも救ってみないか?」

 

 折角“適役”を見つけれられて、しかも弱さを見せてくれているんだ。多少強引でも前後の文脈無視してでも弱さに付け込むような事をしてでも、コイツは此方に引き入れておかないとな。

 

「…………え?」

 

 いきなりの提案に、というか空気を読まずにされた勧誘に猫は目を見開いて俺を見る。副会長もいきなりどうしたんだというような視線を向けてくるが、今は無視しておこう。

 

「別に怪しい宗教の勧誘じゃないから安心しろ。ただ今この状況を何とかするために色々準備をしてるんだが、どうしても必要な人材がそろわなくてな。部活に悩んでるならこういった活動に参加するのも一つだと思うんだが……どうだ?」

 

 そう投げかけるもねこは「えっと……」と困惑するだけで中々答えを口にしようとはしない。だが、答えを中々出さないというのはある程度何かに迷っているというわけで、今の場合部活に入るか、学校を救う活動をするかの二択で迷っている可能性が高い。もしそうなら、こちらとしては万々歳な結果だ。因みに一番最悪なパターンはどう断ろうかと悩んでる場合だ。

 本当はもうちょっとお前が必要だという風に勧誘して引き込みたい所だが、残念ながら今はそんな時間もない。取り敢えずは今は様子見で答えを出してくれるまで待つとしよう。

 

「答えはそんなに急がなくていいからじっくり考えてくれ。そして、もし協力してくれるなら二年二組の西原雅也の所まで来てくれ」

 

「西原、雅也……さん?」

 

「もし俺がいなかったらクラスの誰かに来たという旨を伝えてくれればこちらから出向く。ま、気楽に考えてくれ」

 

 それだけ言い残してねこの横を通ってその場を去る。

 さて、ねこはどういう答えを出すのやら……。急がないとは言ったがなるべく早めに良い答えが欲しい所だな。今俺が計画している事にあんな“適役”は中々見つからないから、一から探す手間が省ければいいのだが。

 後ろから追いかけてくる副会長の足音と静止の声を聴きながら、俺は取り敢えず後者の方へ歩いて行く。……だって弓道部がどこで活動してるかなんて知らないし。

 

 

 

 

 そこは静寂が支配していた。

 ぶっちゃけて言うと結構色んな音が耳に入ってくるのだが、今この俺達がいる空間だけは“静か”と表現するのがしっくりくる。

 時を経て少しだけひびや汚れが見える白い壁に、焦げ茶に変色し少し身じろぎするたびに「ぎっ……ぎっ……」っと軋む床。視線を少し横にずらして目に入るのは緑色の芝と、太陽に照らされて若干明るく見える白い壁と的。そして、それら全てを静寂という表現に変えてしまう烏の濡れ羽色の髪と弓を持つ少女。

 

「――――ッ」

 

 限界まで引かれた弦が右手から解放され、彼女の漏らした小さな息を切って微かな放物線を描きながら的へと吸い込まれていった。

 そして放った状態のまま数秒固まり、静かに残心の姿勢をとって彼女はようやくその凛とした顔を此方に向けた。

 

「お待たせしてすみません。練習の途中だったもので……」

 

 正座している俺と副会長の前に、背筋を伸ばした美しい正座で座る彼女。その容姿を改めて真正面から見ると、ほぅと息をついてしまうほど美麗なものだった。

 全体的に細く華奢なシルエットをしているのだが、きめ細かい白い肌や微かな風にも揺れる程滑らかな黒髪。そして薄い桃色の唇と整った鼻立ちが全てを“和”に変換している。

 清楚の中にしなやかな力強さを感じる彼女に俺が感心している中、隣で副会長が応対する。

 

「いきなり訪ねてきたのはこっちなんやし、気にせんでええよ」

 

「そう言ってもらえるとありがたいのですが……。今日はどういった用件で来たのですか?」

 

 すっと目を細めて微かに警戒する。最初は男子という異物に対しての警戒かと思ったが、どうも彼女の瞳に俺は映っておらず、代わりに副会長が映りこんでいた。

 …………ふむ。

 

「副会長、この人に何したんですか?」

 

「うーん、ウチ等は何かしたけどウチは何もしてないんやけど……」

 

「てことはまたあの会長が私情に駆られて何かしたんですね」

 

 その問いに言葉による返事は無く、ただ曖昧に微笑んで茶を濁された。まぁ何となく予想も想像もついたから濁された気はしないんだけどね。

 

「えっと、今日は生徒会で今の部活動の現状を把握しておこうって事で、設備のチェックや不満とかを聞いて回っとるんよ。海未ちゃん達の活動に難癖つけに来たわけやないから安心してな?」

 

「そうなのですか……」

 

 警戒を解いてほっと溜息をついて安堵する少女。本当にあの会長は何をしたというのだろうか。どうも会長は俺が想像しているよりもはるかに感情的な人みたいだな……少しあの人の評価を変える必要があるかもしれないな。

 

「あ、あの弓道部の話をするのはいいのですが、その……。一つだけ聞きたい事があるのですが……」

 

 会長への評価をどう変えようか思考を巡らせていると、少女が遠慮がちに問いかけた。副会長がなんでも聞いてと言うと、少女はそれではと言って、その綺麗な戸惑いが浮かぶ瞳を俺に向けて言った。

 

「その、こちらの男性の方はどなたなのでしょうか? 昨日生徒会室に行った時はいなかったような気がするのですが……」

 

 どうやら第一警戒対象の警戒が解かれたから、第二警戒対象である俺に彼女の警戒心が向いたらしい。

 一応雑用ワッペンをしているからか、それとも副会長と行動を共にしているからか其処までの危険性は無いと判断したのだろう。彼女の俺を見る眼が今までの人とは違い、純粋な未知への警戒のそれだった。

 まぁ一応挨拶ぐらいはしておくかと思い、軽く佇まいを正して自己紹介をする。

 

「今回豊丘高校から派遣? されてきた二年生の西原雅也です」

 

「え、あ、えっと、同じく二年のそ、園田海未、です……。一応弓道部の副部長をしています……」

 

若干しどろもどろになりつつも自己紹介を返してくれる園田。しかし男と話す事に慣れていないのか? さっきの副会長とのやり取りを見る限りコミュ症って訳じゃなさそうだし……。

 同じ二年生だし情報源の一つとしてお近づきになれればと思ったが、この調子じゃいい結果は得られそうにないな。今回はよろしくしなくてもいいか。

 そう思っていると、ちょんちょんと横から副会長が肘で突いてきた。

 

「……なんですか」

 

「もうちょっと愛想よく挨拶しといた方がええんとちゃう?」

 

「いちいちご機嫌取っておく必要がないかと思いまして」

 

「そんな事言ってていいのかなー? 後々後悔することになるよ?」

 

「いや、本当に何なんですか……」

 

 若干いやらしい笑みを浮かべて此方を見る副会長にため息を吐く。そのノリが若干俺の将来を心配してくる弟の侑希みたいでイラッと来るな。

 しかし、副会長の口から飛び出してきた言葉は侑希の心配とは全く関係もなく、寧ろ確かにそうだと思わせる位の言葉だった。

 

 

「この学校の新しいスクールアイドルとは繋がりがあった方がええんやない?」

 

 

 この学校の新しいスクールアイドル。その言葉で一瞬矢澤先輩のあの憎悪をぶつけてきた顔が思い浮かんだが、すぐに思考から振り払った。

 

「へぇ、今の音ノ木坂のスクールアイドル、ね……」

 

 スクールアイドル。学校の広告塔。…………ふむ、確かにそれならばよろしくしておく必要がありそうだ。何せ今のご時世中学生達の目を引くにはそういうのが効果的だしな。

 …………ただ、一つ気になる事はある。

 

「この学校にスクールアイドルが存在するという情報を聞いてないんですが……」

 

 そう、俺はこの学校に来て、もっと言うならばこの学校に来る以前に調べた際にもスクールアイドル等という文字すら見なかったのだ。仮にホームページに載ってなかったとしても、何らかの形で耳にする事があってもおかしくなかった筈だし、そんな存在がいて尚且つ廃校寸前だというならば、この事を放送部や新聞部が取り上げ無い筈はないと思うのだが……。

 そんな疑問を全て内包したニュアンスで副会長に問いかけると、彼女は薄く笑いさも当然かのように告げた。

 

「だって申請に来たの昨日やし、多分ウチとエリチ以外まだ知らんはずや」

 

「あぁ、成程……」

 

 てことは言葉通りの“新しい”スクールアイドルなわけか。うん、不安だ。

 新規のスクールアイドルは最初でコケさえしなければ注目される可能性は高く、広告塔として大きな役割を果たしてくれる。だが、その逆の場合はあまり大した宣伝にはならない。

 故にスクールアイドルを支援するとしてどれ程の力をかけていいのかさじ加減が分からない以上、園田と手を組んで活動するというのは不安ではあるわけだが……。

 チラリと園田を見る。ビジュアル的には恐らく申し分ないだろう。となると後はパフォーマンス関連か。

 

「園田……さんはダンスとか経験したことはあるんですか?」

 

「だ、ダンスはありませんが、日本舞踊なら少しだけ……」

 

 もの凄い意外な経験を積んでるようで……。でもイメージ的には意外でもないか。厳粛な家庭で育ったお嬢様的な雰囲気があるし。

 でもそう考えるとそんな人がスクールアイドルみたいな事に加担するのは意外だな。

 

「ミニスカートに抵抗とかあるかと思ったけどそうでもないのか」

 

 ぽつりと思考の一部が口から漏れ出す。聞きかたによってはミニスカートの事を考える目つきの悪い男になるので危なっかしくはあるが、此処にいるのは副会長と園田だけだから問題は無いだろう。

 

「園田さんの他にメンバーっているんで…………園田さん?」

 

 そう思って、話を続けようとしたが目の前に座る園田の様子がおかしい。身体全体を強張らせて表情が口角を不自然に釣り上げた状態で固まっている。顔も赤いし、目の焦点があっておらず俺や副会長を見ていない。ついでにはわはわ言ってる。

 訳が分からず副会長に視線で助けを求めてみるが、俺と同じく理解できていないみたいでクエスチョンマークを浮かべていた。

 

「お、おい、園田さん?」

 

 暫く経過を見守っていたが口から何かぶつぶつ聞こえない呟きが生まれるだけで何も進展しないので、恐る恐る声を掛けてみる。

 そして園田海未は叫んだ。

 

 

「あ、あんな短いスカートなんて恥ずかしすぎますっ!!」

 

 

 顔を真っ赤にして、鬼気迫る勢いで、俺達に叫んだ。

 訳が分からなかった。

 だが驚きと動揺で何もできずに、先程よりは鮮明に聞こえるようになった呟きを聞いていたら「肌の露出面積が……」とか「みんなが見てる中でそんな衣装を」とかが耳に入ってきて理解できた。

 そうか。園田は、想像力が逞しい(妄想族)のか。

 

「……副会長」

 

「……なにかな?」

 

「……前途多難な予感しかしないんですが」

 

 副会長はただあの時の様な裏の読めない笑みを浮かべるだけだった。

 




次回予告
「貴方の言いたい事は分かりました。ですが、難しい事を理解してください」

副会長と共に部活動を巡り、改善点を見出しつつある雅也

しかし思ったよりも大きいそれはすぐにどうにかできるものではなかった……

「柔らかい……あ、いや結構ベタベタするな」

考えをまとめるために校内を歩き回る雅也は中庭で奴らと出会う

普段社会の冷たさに晒されてきた雅也はそこでぬくもりを知る

「廃校がどうとかじゃなくても、ただ自分の学校にスクールアイドルが結成されたのも嬉しいんで、す……」

暖かいのは分子運動のせいだけなのか

次回「柔らかなぬくもりに包まれて」

「……お前、何者なんだ?」
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