ラブライブ!~胸(ポケット)にはいつも転学届~ 作:カゲショウ
二週間に一回とか言ったのに七週間もあいてしまい、すみません。年末年始の忙しさ舐めてました……。まさか大晦日にも正月三が日にも出勤せねばならなくなるとは思ってませんでした。
月末にはテストもあるので若干また更新が遅れるかと思いますが、春休みは頑張りたい所ですね(予定として自動車学校行くから厳しいかもですが)
さて、今回は柔らかなぬくもりに包まれる話です。雅也を包んでくれるのはみんな大好きなあれですよ、あれ!
では本編をどうぞ!
副会長との部活動探訪から三日たった金曜日の朝。本日も変わらない陽気の中早目に登校した俺は、若干疲れた声で理事長室の扉をノックした。
「ん?」
が、中から入室を許可する声は返ってこず、ただ静寂だけが返された。念のためにもう一度ノックしてみるがやはり返事は無くしんとしていた。
理事長は不在、か……。まいったな、朝の内に“これ”について話しておきたかったんだが……。そう思いつつちらりと右手に持っている数枚の紙を綴った物を見る。
これはあの後高坂、絢瀬を招集して話し合ったり、休み時間などに田城野やクラスメイトから今の生徒会システムなどを聞いたりして三徹して練り上げた“今の音ノ木坂を変える制度”をまとめた物だ。もっとも、変えると言っても百パーセント変えられるという保証はないのだがな。高坂にも「こんなのすぐ導入できるとは思えないんですが……やっぱり間が抜けてますね」と言うお言葉も貰ったしな。因みにその後お礼代わりとして軽くチョップをくれてやった。
「まぁいい。ひとまず今これをどうするかだが……」
試しにドアノブを握って下げてみる。ドアノブは素直に俺の力に従って動き、カチャっという音を立てて役目を放棄する。ふむ、扉は開いてるのか。不用心ではあるが、書置きを残して資料だけ置いておくという選択肢が出来たわけか。
「先に資料を読んでもらって後で詳しく説明するのが話が早いけど……また来た時に読んでもらえてるという保証もないし、出直した方が得策か?」
ドアノブから手を放して少し考え込む。現在ある選択肢は『時間を改めて出直す』『書置きと資料を置いておき出直す』『そもそも資料も話も通さず独断で行動する』の三択。まぁ誰が見てもまず三択目は切り捨てられるから実質二択なんだがな。
そもそもが新しい制度を作ろうとしているのに、ただ一人だけ「これ今日から始まった新しい制度です。よろしくお願いします」等と言っても、ただの妄言として受け止められるだけだ。学校からの正式な承認と援助があってこそこの制度は意味を成す。故に話を通さないわけにはいかない。
「一番面倒くさくないのは前者か後者か……。くそっ、こうして考えるのも面倒くさい」
ぶつぶつと扉の前でぼやいていると、トントンと軽く肩を叩かれた。
傍から見れば怪しい人物であるという事は自覚しているので警察かそれに準ずる機関の人間かと思ったが、振り向いてその姿を目でとらえた瞬間その危険性は消え去った。
「…………理事長」
「はい。おはよう、西原君」
ふんわりと柔らかく微笑みを浮かべて挨拶してくる理事長がそこにはいた。俺も一応礼儀なので理事長に挨拶を返しておく。
理事長はそれに再び柔らかく微笑むと、それで、と話を切りだしてきた。
「西原君は私に何か用かしら? さっきすれ違った生徒から理事長室前に扉を睨みつけてる男の子がいるって聞いたのだけれど」
「別に睨みつけてはいないのですが……」
生来生まれ持った瞳で扉を見ながら考え込んでいただけなのだが、どうやら他の人から見ればそれは睨みつけているように見えるらしい。別に理事長に対して睨みつけるほどの怒りも憎悪もないんだがな……。まぁ、この面倒くさい状況に巻き込まれたわけだから多少は怒りも憎悪もあるんだがそれは今置いておこう。
「一応理事長に用があると言えばあるので、今から少々時間をいただけますか?」
「ええ。貴方がホームルームに遅刻しない程度なら大丈夫よ」
俺の申し出に理事長はちらりと俺の手元の紙束を見て快く頷く。そしてどうぞと理事長室の中へ促され、軽く会釈をして他の部屋とは一線を画する空間へ歩を進める。……正直、やっぱりこの厳格な雰囲気のある空間は苦手なのだが、これからの事を考えると慣れるしかないのかもしれないな。
そう思いつつ前進し、理事長がいかにも立派な椅子に座った所で足を止め、机一つを隔てた状態で理事長と対峙する。こうしてるだけでも上手くいくか分からない交渉の最悪のパターンが頭にチラついてあまり落ち着かない。
……取り合えず、まずは軽くこの前の調査結果を報告しておくか。
「理事長、本題に入る前に少しよろしいでしょうか?」
「ええ。どうぞ」
理事長の許可を貰い、軽く咳払いをして調査結果を報告する。
「三日前、自分はこの学校の部活動の実態を把握するために副会長と共に調査しました」
「東條さんと?」
「はい。主に現在配給されている部費での活動状況、設備、そして各々の技術力を視察してきました」
ポケットから四つ折りにしたルーズリーフを取り出して、そこに書いた調査結果のまとめを見つつ話を続ける。
「部費に関しては部活動十五の内十の部活は部費が少ないとの声があり、その内三の部活は部費次第では今以上の成果が残せるかと。残りの七は部費を理由に活動状況はあまり芳しくありません」
「芳しくない……とはどういう事?」
「大した活動ができないと部活の参加が積極的でない者がいる。参加してはいるけれど意欲的に活動をしてない等です」
「そう……」
理事長は少しだけ顔を俯けて悲しそうな顔をする。教育者として、そしてこの学校の最高責任者としてこのような現状を憂いているのだろう。だが実際に存在するのだからしょうがない。
俺は理事長の悲しみに気付かないふりをして言葉を続けた。
「設備に関しては放送部を筆頭に文化部は軒並み現段階でもそれなりに問題は無いかと。運動部はちらほらと結果を望むには不十分な所がありますが……今の技術力だと無用の長物になる可能性が高いです。それに、どちらかと言えばそう言った技術を持った人と向上心のある人が欠如してる事が問題ですね」
「つまり我が校の部活動は部費も設備も技術も不十分、ということね。……薄々わかってはいたけれど、こうして誰かの口から聞くと結構悲しいものね……」
そう言って理事長はふぅとため息を吐いて顔を伏せた。
……ぶっちゃけ中学生を集める主な広告塔がこれでは理事長のように悲しみたくもなるし、なんなら全てを覆い隠してしまいたいのも何となく理解できる。この結果をまとめてる時に何回ため息を吐いた事か。
どれか一つや二つ欠けているだけならば、そのどちらかを補充しできる限りの支援をすればいい。だが、数個の部活を除いた殆どが全て欠けてるし、揃っている部活動も今一つ成績の残りにくいものだったり、そもそもかなりマイナーな部活だったりする。代表格としてはアイドル研究部だろう。スクールアイドル活動を停止したあの部活は特に行事に参加したりはしなかったらしい。
部活動の改善は入学希望者を引き入れるうえで必ず改善しておかなければならない事だ。しかし、部活動問題以外にもやるべき事と問題は山積みなわけで、生徒会と協力しても小組織+一人じゃ焼け石に水。結局、忙殺されて廃校決定ルートだろう。
「一応聞いておきますけど、部活動の整備資金に今年の予算を大目に割く事はできますかね?」
「貴方の言いたい事は分かりました。ですが、難しい事を理解してください」
右手で額を押さえつつ首を横に振る。理事長も入学希望者を集める一つとしての部活動の重要性を理解はしているようだ。ただ、今から今年の予算を変更するのは厳しいし、何処の予算を割くかという話し合いで時間を無駄にとって結局後手に回ってしまう。理事長は暗にそれを告げているのだろう。
「ま、考える頭が一つ……生徒会あわせて二つなら当然そうもなりますよね」
「おまけにこの廃校に関しては手も足も足りないので困ったものです……」
困ったように肩を竦めて笑う理事長を見て、少しだけ口角が上がった。
勿論俺がサディスティックな性癖を持っているからではない。あまりにも都合の良いくらいに理事長が俺の話に乗っかる様に話を進めてくれたからだ。俺の手に持ってる資料の話をするには、恐らく今が一番のタイミングのはずだ。
「では理事長。その頭と手足とやらをもう一つ増やしてみる気はありませんか?」
「頭と手足を?」
「ええ。それも今までより動かしやすくて大きな奴をです。……お話を聞いてくれませんか?」
スッと手にしていた資料の束を理事長の前に置く。
理事長は数度俺とその資料の間で視線を彷徨わせた後に、パラパラと資料を流し読みして暫く考え込む。そして十秒もしない内に視線を上げ、まっすぐ射抜くような視線を俺に向ける。
裏を探られてる……というよりも、どういうつもりなのか見抜こうとしている。そこに書いてあるのは通常の手順を踏めば最低半年はかかるような内容なのだから、高坂ではないが何を考えてこんな事を提案するのかが知りたいのだろう。
勿論公には出来ない謀をしてないわけではない。というか、そういう事をせずにどうにかできる問題ではないのだから当然なのだが……。さて、この理事長はどう出る?
「…………話を、聞かせてもらえるかしら?」
一応此処に書いたこと以外の目的がある事には気付いたのか、若干渋い顔をしつつも頷いてくれた。俺はその事に軽く安堵してばれないように胸を撫で下ろす。
……まぁ、本当の戦いは此処からなんだけどな。いかにこっちの裏を悟らせずに、且つこの新制度がこの音ノ木坂にとっていかに有益なものになるのかを説明しなければいけないわけだし……。他企業相手にプレゼンする営業マンの気持ちが少しだけ分かった気がする。
「では、一から説明させてもらいますね」
口角を少し上げて、俺は理事長相手に
「それでは失礼します」
軽く会釈をして西原君は理事長室から出て行った。
「ふぅ……」
完全に扉が閉まったのを見届けると、私は自然と体にはいっていた力を抜いて背もたれに体重を預ける。その時に若干椅子からずり落ちたのか、背中からギュギュっと皮の擦れる音が耳に届いた。
正直な事を言えば疲れた。今日一日のエネルギーの内半分くらい消費した気がするし、あまりにも予想外な話をされたものだから頭も痛い。
「田嶋君の紹介した子だから少しは頭の切れる子だとは思ってたけど……正直予想外すぎたわ」
そう、西原君は予想外な程頭が切れる子だった。いや、頭が切れるという表現は適切じゃないかもしれない。何せ今日はただ彼から話を聞いただけなのだから。
ただ発想の仕方は他の人より少し違うのははっきりとわかる。だって、こんな状況で百人の生徒に解決策を講じなさいとしたら、「現状を調査する」という所まで至ったとしてもそこからは「生徒会と協力する」という答えを出すだろう。
勿論それも不正解ではない。寧ろ模範解答と言っても過言ではないと思う。
ただ、西原君はそうはしなかった。まぁ、彼の話を聞く限り絢瀬さんとさっそく何か諍いがあったから頼りたくなかっただけかもしれないけど……。
彼は生徒会と教師陣だけでは現状手が足りていない事を知っていた。しかし、現状の生徒会を改革するほどの時間もないし、絢瀬さんと事を構える気はない。教師陣に手を貸そうとすると、結局は思い通りにならない所が多々出てくるからその選択肢はとらない。
だから新制度として、今回の話を私に持って来たのだろう。
背もたれから体を起こして彼が渡してくれた資料の一番上、表紙に書かれた文字に視線を落とす。
『音ノ木坂学院新制度 生徒会下議会設置について』
生徒会下議会。これが彼の考えた新しい頭と手足。
内容に関しては少々精査が必要となってくるだろうが、発想としては悪くは無い。それはさっき彼から簡単な説明を受けた時からずっと思っている。
西原君が活動しやすい環境ができて、尚且つ公認の組織にする事で此方からの援助もしやすくなる。だから基本的に私が反対する理由はない。
そう、基本的には無いのだけど……。
「西原君、絶対何か裏で企んでるわよね……」
私に生徒会下議会についての説明をしている時に、西原君の口元はずっとつり上がったままだった。
偶然の一致かどうかは分からないけれど、田嶋君が何か企んで交渉とかを持ちかける時は決まって口角は上がっていた。だから、西原君にも何か裏があるのではないか? と頭を悩ませる羽目になったのだ。
たとえ裏があってもマイナス方向に作用しないならば私は裏で何を画策してても構わないつもりでいるし、過度な干渉をする気もない。元々彼に任せた案件なのだから此方が口煩くできるわけないのだけれど。
「それでも不安なのよねぇ……」
はぁと大きくため息を吐く。きっと田嶋君を知らなかったらこんな事で頭を悩ませるつもりは無かったのだろうに、と今は別の場所で教鞭をとっているであろう彼に心の中で文句を言う。
「…………取り敢えず、少しこちらでも考えておきましょう」
資料を引き出しの中にしまい、私はそう呟いた。
昼休み。俺は空を覆い隠すほど枝を伸ばした中庭の巨木の下で弁当を食べていた。
中身はいたってシンプルな白飯に冷凍ハンバーグ。そして昨日の夕食の残りのごぼうの煮物に、簡単な胡瓜の酢和え。そして少し焦がしてしまった卵焼きと、不味いわけではないが特に美味しくもない弁当をもさもさと頬張っている。
「理事長のあの反応……あまりいい答えが返ってくるとは考えない方が良さそうだな」
そう呟いて卵焼きを口の中に入れる。ふむ、甘すぎる。砂糖の分量を間違えたか。
結局、朝のあの新制度の営業が成功か失敗かと言えば、俺の感覚的には四対六の割合だろう。成功四の失敗六。説明した段階で五分五分に持っていけなかったのは辛いな……。
一応すぐに答えを出すのは早計だろうからと保留にしては貰っているが、こちらとしてはじっくりと精査されると色々と面倒なので即決即断がよかった。
「……ま、上手く事が運ばないのはいつも通りか。くそっ」
こういう時位天で胡坐かいてる神様は力を貸せよと心で悪態をつくが、その直後に最後のおかずだったハンバーグが箸から落ちて地面にダイブしたので、冗談ですと謝っておく。見てる時はちゃんと見てるってのかよ。
ため息を大きく一つついて、思考をリセットする。今回は五分五分とはいかなかったけれど、四分六には持っていけたのだから、可能性がゼロになったわけではない。だからいちいち気にしてるよりは、次の策をいくつか講じてた方が建設的だろう。
食べ終わった弁当箱を片づけて手を合わせる。そして次の策を考える前にお茶でも買いに行こうと、腰を上げてふらっと自動販売機のある購買前へと足を踏み出す。
「購買前にしか自販機がないのは少し面倒くさいな……。改革案の一つとして提出しておくか?」
設置場所は購買前と体育館前。後はこの中庭近くに一つだな。それだけあれば個人的には満足だ。
まぁそうなると学校側の予算が消費されることになるだろうし、通らないだろうなと思いつつ歩く。
「……ん?」
中庭の巨木から数歩歩いた所で、俺の耳には聞き慣れない奇妙な音が入ってきた。
何だと思い、一度足を止めて耳を澄ましてみる。するとまたその奇妙な音が……いや、これは生物の鳴き声か? ヤギの鳴き声と羊の鳴き声を足して二で割った後に間抜け要素を足したような感じ……。
いったいどんな生物なのか考えこむ。その時脳内で高坂が凄いいい笑顔で「間抜けなお兄さん、鏡ならありますよ」と言ってきたので、今度会ったらタバスコ風味のあののど飴でも無理矢理口に押し込んでやるとしよう。
それはそれとして、こんな奇妙な鳴き声を持つ生物は俺は今まで出会った事がないわけで、脳内のデータベースに該当する生物は見当たらなかった。
「…………ふむ」
いつもならここで思考するのを切り上げてお茶を買いに行くのだが、今回のは何故か無性に気になってしまった。何故かと問われると、本当に何でだろうなとしか答えようがないのだが……。もしかしたら理不尽な現実に晒された心が自然とアニマルセラピーを欲したからかもしれないな。
「そうと決まれば少し探してみるか」
くるっと体を九十度回転させ、耳を頼りに音のなる方へ歩を進める。
それから歩いては立ち止まり、耳を澄ませて方向を変えるという奇妙な行動をとっていた俺は、遂に音の発信源と思われる小さな小屋を発見した。
木造の小さな家みたいな外観をしたそこからは、確かにあの奇妙な声が聞こえてきている。ちらっと目にはいった時に物置だと判断しなかったらもっと早く見つけられたのにと、少しだけ後悔する。
だが後悔しても時間は有限。昼休みの時間は限られているわけで、俺はさっさとその小屋に近づいて中を覗き見る。
「…………」
「フェ~」
「ブルルルルッ」
其処には俺の人生の中で今まで一度も見たことの無いもこもこした毛で覆われた生物が二匹ほど生息していた。
白と茶色の毛で覆われた生物が一匹ずついて、その内白い方は俺の顔から拳二個しか離れていない程の至近距離で見つめてくる。だから必然的にこの生物の鼻息がもろに顔面に当たってくすぐったい。
「……お前、何者なんだ?」
「フェ~」
「質問を変えよう。お前は羊か?」
「フェ~」
「それともヤギか?」
「フェ~」
「…………そうか」
分かっていた事だが、まったくわからん。コイツ的には何らかのニュアンスを含ませつつ答えてくれたのだろうが、同じ哺乳類でも種族が違えばこうもなるか。
流石に鼻息がくすぐったくてたまらなくなったので一歩離れたところで、俺はふととある事を思い出した。
確かこの学校、アルパカを飼ってるってパンフレットに書いてあったな……。もしかしてこの生物がアルパカなのか? 俺が校内を回った限りだと動物を飼育している所は此処だけだし、きっとこの二匹がアルパカなのだろう。
「これがアルパカか……。なんかリャマの様な動物だな」
「フェ~」
「いや、フェ~じゃなくてだな」
つかこの白い方さっきからフェ~しか言ってないぞ。村人Aなのか? 隣の茶色いのに至っては俺無視して餌をむしゃむしゃ食ってるし……。飼われ慣れてるから人に慣れてるにしても、流石に神経太すぎやしないだろうか?
「フェ~?」
「うわっ!? いきなり顔の距離詰めるな、お前は」
一歩分離れていたのだが、首を目一杯伸ばして顔を近づける白い方に驚いて尻餅をつきそうになってしまう。
それにしてもこの白いのは人懐っこい性格なのか、それとも好奇心旺盛な性格をしているのか異物に対する恐怖とかが感じられないな……。ここが都会と言うコンクリートジャングルだからいいものの、お前らの本当の生息地だとそんなんじゃあっという間に淘汰されてしまうぞ。
そんな念を込めてアルパカを睨むが俺の意図をくみ取れないアルパカはただただフェ~と鳴くだけだった。
「それにしても、お前らは温かそうだな。物理的にも立場的にも」
見るからにもこもこした毛は言うに及ばず。それだけではなく、こうして天敵はおらず、餌に困る事は無いそれなりに広い小屋で暮らせている。更におまけで他の者に無理難題押し付けられたり詐欺にかけられないというオプション付。
こいつらにとって今の生活がどうなのかは分からないが、今の俺個人からすれば随分優遇された環境にいるわけで、正直羨ましいんだが。
「俺もこの小屋に入れば何もしなくて済むのかね……なんてな」
少し冗談めかして言ってはみるが、そんなのは無理だと分かりきっている。
たとえ俺がこの小屋の中で生活を始めたとしても、今のコイツのように敵もいない、社会の寒波も受けないという事は無いだろう。何せ俺は人間で、コイツはアルパカ。種族が違えば生活様式も変わってくるわけで、俺が何もしなくていい道理はないのだ。
「フェ~……」
そんな事を考えていると、白いアルパカは首を目一杯伸ばして自身の鼻先を俺の頬に摺り寄せてきた。濡れそぼった鼻先が少しだけ冷たいが、それ以上にどこか温かい。
「……お前、同情してくれるのか?」
「フェ~」
「いや、だから何言ってるのか分からないんだって」
やはり言葉の壁は分厚い。
ただ、何となく同情しているのは分かった。どうしてかと聞かれると、ただ何となくそう感じたとしか言えないのだが、昔はよく同情等を一身に受けていた身だからほぼ間違いないと俺の経験則が語っている。
しかしまぁ人間からだけじゃなくて、遂には人間よりも知能指数が低いアルパカにも同情されてしまう日が来るとはな……。人間としてどうなんだよ、そこ。
「だけど仕事を押し付けるだけの奴等や面倒くさい奴等とは違って、今の俺を憐れんでくれたのはお前が最初だよ。ありがとな」
「フェ~!」
お礼と共に顎の下あたりを撫でてやると嬉しそうに鳴いて、目を細めた。
そんな様子を見ると、もう少しだけ撫でてやってもいいと思ってしまうのが人の心理という物で、そのまま継続して撫でていく。その際にコイツを覆っている白いもこもこした毛に指先が触れた。
「柔らかい……あ、いや結構ベタベタするな」
一見柔らかそうなそれは思っていた柔らかさは無く、少しごわっとしていて汗か何かのせいでべたついていた。……うわぉ、理想と現実のギャップ凄いな。
そう思いつつも、すり寄ってくるアルパカに罪は無く、結局無理矢理顔を引き離す事は断念して撫でていた手を止めて頭を数回軽く叩く。するとそれで理解してくれたのかすっと離れてくれた。
「中々聞き分けのいい……というか察しの良い奴だな。そういう奴はモテ――!!??」
突然俺は謎の引力により胸倉が引っ張られ、腹部が小屋の柵と衝突して言葉を失う。
痛い。滅茶苦茶痛い。ついでに上手く息が出来なくて苦しい。身体にも上手く力が入らずにだらんと柵に干された布団のように寄りかかる。
…………一体何があったというのだろうか? いきなりすぎてまったく頭が働かないんだが。
ぐるぐると思考と肺から失われた酸素を巡らせていると、答えが自然と背中にのしかかり、後頭部辺りにも高めの温度の少しごわっとした何かが当たった。
「フェ~」
「………………貴様か」
アルパカが先程よりワントーン高く鳴きながら干されてる俺の背中に長い首を置き、擦り付けるようにすりすりと動いている。震える手で胸元を触ってみると、仄かに湿っている。
犯行の手口はこうだろう。俺が油断した隙に一気に首を伸ばして胸倉を噛み、そして瞬間的に顎と首に力をいれて引き寄せた。その結果が腹部の強打と言った所か……。うん、何してくれてんだこの野郎。
流石に看過できない所業にどう仕返ししてやるか呻きながら考えていると、ざりっと何か、恐らく人が背後の地面を踏む音が聞こえた。
いったい誰だ。誰でもいいから少しだけ力を貸してもらえないだろうか、そう思いつつ脇の隙間から後ろを見やる。
「あ、あの。だ、大丈夫、ですか……?」
真っ黒な脚が喋っていた。
「……くそっ、このアルパカの野郎どうしてやろうか?」
「フェ~」
「五月蠅い黙れ近寄るな。ついでにすり寄るなっ」
全力で睨みを利かせてみるが、どうも効いてないようで視線を俺の胸倉に向けて再びあの惨劇を起こさんと虎視眈々と狙っている。あの時の痛みは本当にやばかった。どれくらいかっていうと、今こうして狙われてるだけで強打した部分が痛むくらいだ。
「あ、あの、あまり怒らないであげてくだ、さい……。悪気があるわけじゃ、ないと、思うの、で…………」
人間対アルパカの凄惨な潰し合いが始まるかとしたその瞬間、かなり怯えた様子ではあるが俺達を、と言うか主に俺を宥めようとする弱々しい声をかけられた。
その声の主である少女は、会長や副会長の様なスタイルをブレザーとスカート、そしてデニール数の低いタイツで肌を包みカタカタ震えている。小動物を彷彿とさせるような顔にはアンダーリムの眼鏡がかけられ、その奥にある瞳は今にも泣きそうなくらい潤んでいて別に彼女に睨みつけた訳じゃないのにものっ凄い怯えてるんだけど。
生まれたての小鹿。蛇に睨まれた蛙。妻に浮気のばれた夫。どれも今の状況を適切に言い表せているとは言えないが、彼女がどれだけ目に見える位怯えているかは分かってもらえるだろう。それなのに声を掛けるとは動物愛護欲が強いのか優しいのか馬鹿なのか……。
「………………はぁ」
これ以上そんな顔で此方を見られていると体面上よろしくしたくない組織が駆けつけかねないと判断した俺は、深くため息を吐いてアルパカに向けていた敵意を鎮めて一歩距離をとった。
俺が敵意を引っ込めたのを感じ取ったのか、少女は俺より深く息を吐いて胸を撫で下ろす。そんなに大きく胸を撫で下ろすくらいなら最初から無理せず黙ってれば良かったものを……少なくとも、
思い出すのはほんの数日前の秋葉原。その時チケットをなくして悲しんでいた彼女は、誰かの親切さえも怯えてねこの後ろに隠れていた。それが今はかなり怯えてはいるが、人相の悪い奴に話しかけたのだから驚きだ。
このたった数日で彼女にいったい何があったというのか……。いや、そこら辺の詮索はやめておこう。時間の無駄だ。
「そう言えばさっきの礼を言ってなかったな、一年生。動けない所を助けてくれてありがとな」
「あ、えっと、いえ。助けただなんて、そんな……」
そう言いつつみるみると身体と声が縮こまっていく。人と話すのが苦手なのか俺が怖いのかは分からないが、最後辺りは彼女の言葉は中庭に吹く風に飲まれてもはや何を言っているのかよく聞き取れなかった。
ふむ、困ったな。正直言うべきことは言ったし、さっさとこの場から退散してもいいのだが、彼女にはもう少し聞きたい事があるのだが……。この様子じゃまともに話が出来るかどうかすら怪しいな。
「あー……そんなに怯えなくても大丈夫だぞ。この目つきはデフォルトの初期装備だから気にしないでくれると助かる」
「こ、この子達に怒ってるからじゃないんです、か……?」
「腹を立てていないわけじゃないが、今は別にそこまで怒っていない」
一応これは本当の事だ。だがあの仕打ちはきっと忘れる事は無いだろう。アルパカよ、今は学校存続のためのマスコットとして生かしといてやるが、それが過ぎたら覚えてろよ? お前等の餌を毎日少しずつ減らしてやるからな。
そんな誓いを立てつつ頷いていると、さっきよりは顔から怯えの色が消えて表情が柔らかくなった。
「そう、なんですね……。すみません、勘違いしちゃって……」
「慣れているから気にするな」
「慣れてるんですか…………」
ちょっと引き気味なその言葉に、俺は自信と誰に誇るでもない誇りを持って頷こう。生まれてこの方十六年、その半分以上こういう誤解をされ続ければ嫌でも慣れる。
その事を少女に言うと、どう反応したらよいのか分からないといった感じの顔をされた。大抵この事言うと引かれるか呆れられるかの二択だったのだが……新しい反応だな。
「そういう事でそう怯えるな、一年生。俺は二年の西原雅也だ。予定としてはこれからよく見かける事になるだろうから覚えておいてくれ」
「西原雅也……さん?」
「そんなに珍しい名前じゃないと思うが……どうかしたか?」
もしや既に悪評と共に名前が知れ渡っているのか?
「あ、いえ。ただ、その、凛ちゃんが……じゃなくて、わたしの友達が、その……」
「凛? …………あぁ、星空凛か。違う凛なら知らないが」
「あ、その子、です。その子から少しだけ話を聞いてたので、まさか会えるとは、思ってなくって……」
成程な。あのねこと繋がりがあるなら「こんな奇人に声をかけられた」と話題になってもおかしくないか。しかし最後ぽつりと呟いた西木野さんがぼやいてたって言ったけど誰だったっけ。ボッチ姫がそんな名前だったか?
「ま、世界広しと言えど学校は狭すぎるからな。こういう事もあるだろう」
「そう、ですね。あ、わたしはこ、小泉花陽と申します」
名乗るのを忘れていたからか、思い出したようにぺこりと頭を下げる小泉。少しだけ動作が軽快になってきた所を見ると、もうだいぶ警戒と怯えは無くなっているようだ。多分理由としては星空が話してた人物ってのが大きいんだろうな……。という事は奇人変人として話されては無かったという事か。
その事に少し感謝しつつ、そろそろ聞きたかった事を聞くのには頃合いだと思いなるべく自然に小泉に問いかける。
「星空から話を聞いたっていう事は、俺が何をしようとしてるのかも聞いたのか?」
その問いかけに小泉はこくんと小さく頷く。
「は、はい。確か学校を救おうとしてるって聞きました……」
「……まぁそんな感じだな」
第三者が言葉にして改めて思うが、学校を救って大分大きく出たよなぁ……。いやまぁ、最終的にはそうしないと駄目なんだけど、もう少し無難な言い方があったんじゃないか? ついこの間の俺よ。
若干の気恥ずかしさを感じてはいるが、幸い顔には出にくいタイプなのでため息とともにこっそり吐き出して話の本題に入る。
「で、だ。実はつい先日スクールアイドルがこの学校にできたという話を聞いてな。これの支援活動も含めて行動しようと思ってるんだが、いかんせんこっちに情報が回ってこないんだ。だからもし小泉が知ってるなら教えて欲しい」
これが小泉に聞きたかった事。
小泉は以前会った時にア何とかっていうスクールアイドルの握手券を必死に探していた。ならば少しはスクールアイドルに関する情報や、少なくとも俺よりは肥えているであろう目からみた評価が聞けるだろうと考えたのだ。
勿論何とかズだけしか知らないという事もあるだろう。だが、それでもそいつ等との単純な比較はできるのだから、判断材料の一つとして十分つかえるだろうが……さて、どうなることやら。
そう思って小泉を見ていると、俺は視力が急に悪くなった気がした。
と言うのはまぁ単なる比喩に過ぎないんだけど、そう表現をしてもおかしくないくらい小泉の表情は明るかった。
彼女の顔から怯えと恐怖は跡形もなく消え去り、笑顔と目の輝きがログイン。そして今にも雄弁に語りたそうに唇がうにゃうにゃ動いている。
さっきまで怯えた小動物みたいだった彼女が、急にこうなれば誰だって一瞬目を疑う。
「…………因みに、熱く語る必要は無いからな?」
「…………はい」
小泉の今の状態を見て話が長くなりそうだと判断して先に釘を刺しておくと、これまた露骨に笑顔と目の輝きが鳴りを潜めて小動物へと戻った。
此方の意図を超えて意欲的に協力してくれるのは嬉しいのだが、流石にいらない情報まで聞いていられるほど昼休みは長くない。
少し寂しそうな表情をする小泉に少しだけ申し訳なくなった俺は、軽く謝りつつ左腕につけている腕時計を掲げて指で指し示す。小泉もそれが何を意味しているのか悟り、納得した顔で両の手を合わせた。
「えっと、この学校のスクールアイドルについて、ですね。……実は、その、わたしもつい最近知ったのであまり知らないんです。すみません」
「いや、謝らなくていい。最近結成されたばかりらしいから知らないのも無理はない」
副会長から聞いた話ではまだ学校公認グループにすらなっていないらしいので、広報に関してはまだ不足してても不思議ではないしな。
寧ろ少しは広まっているという事に驚きだ。正直、まだスクールアイドルに抵抗のありそうな園田が積極的にアピールしているとは思えないし……。グループ結成の首謀者の仕業か。
しかし憶測だけで考えるのは駄目だな。もう少し話を掘り下げてみるか。
「取り敢えず知ってる情報だけでもいいから教えてくれないか? 厚かましいようですまないが……」
「い、いえ、そんな……」
小泉はパタパタと両手と首を振った後、えっとと少しためらい気味に話し始めた。
「その、わたしが知ってるのはメンバーの方の印象と、名前と……あ、あと練習場所位です……」
「そうか……。いや、だがその情報はかなり大事な事だ。教えてくれ」
「は、はい。えっと、一人は髪の長い黒髪の綺麗な先輩で……確か園田海未先輩です。とても落ち着いてて、大人な感じの先輩、でした」
園田海未。唯一彼女には会った事があるが、本当にスクールアイドルだったのか……。正直あの姿を見てから半信半疑だったんだが。……というか小泉の話す人柄と俺の知ってる園田が上手く一致しないがまぁこの際いいだろう。重要なのはその先だ。
「二人目は理事長みたいな先輩で、南ことりさん、だったと思います。にこにこ笑ってて可愛い先輩でし、た……」
理事長みたいな先輩? にこにこ笑ってるって事は厳格な人って事じゃないだろうし……容姿の話か? そいつの名字も“南”だし、もしや……。まぁ理事長の年齢を考えるといてもおかしくはないか。
しかし俺の予想が正しければ、尚の事このスクールアイドルとはパイプを持っていたいところだな。初対面の男子より、見知った奴から紹介された男子より、同性の。しかも身内のほうが断然交渉に関する壁は薄い。中々成立しない交渉の時に援護射撃要因として手を結んでおきたい。
「最後の先輩は、多分グループのリーダーのような人でした。とても元気で明るい先輩で、名前は、えっと…………」
上手く名前が思い出せないのか眉尻が少し下がり、斜め上の虚空を見ながら小首を傾げる。
「名前は……すみません、名字がよく思い出せなくって……」
「まぁ人の名前を覚えるのは難しいから忘れても仕方ないか……。下の名前は覚えているのか?」
リーダー、憐れ。
「は、はい! 穂乃果さんです」
「つまり園田、南、名字不詳の穂乃果の三人のユニットってことか」
恐らく園田が活動に慣れるまでは、この二人が園田を焚き付けたり支えたりしなければならないだろう。となると外部への発信はかなり後手に回るか消極的なものになりかねないな。もっとも、南か名字不詳のどちらかが園田を上手く焚き付けて外部に向けてのアピール方を考え付けばいいが……。
「…………小泉」
「は、はい」
「お前はその三人を見てどう思った?」
三人じゃ手の回らない所を此方でカバーしていきたい。
とは言ってもこちらももうすでにオーバータスク気味だし、設立が許可されたわけでもない。最悪スクールアイドルは切り捨てないといけなくなるわけだが、果たして小泉は彼女達をどう判断するだろうか。
「わ、わたしは……」
急な質問だったためか小泉は少しだけ動揺して視線を彷徨わせ、口をうにうに動かす。
小泉の口からまだ答えは出てこない。だが、それでも俺はその答えが出てくるまで待ち続けた。
脳裏にチラつくのは、ついこの間見た矢澤先輩の顔。三人のスクールアイドルが写された写真。
――――私はそんな事でやめないくらい本気でやってた。少なくともその写真の二人のやめる理由になるくらいには本気だったわ
そして、あの時の矢澤先輩の言葉。
多分俺は彼女達が大成するかどうか以前に聞きたかったのだ。この三人は本気なのかを。途中で放り投げたりしないのかを。
それは一目見るだけでは分からない事だと思う。だけど小泉が今までに多くのスクールアイドルを見て来たというのなら、きっとその中には夢半ばで解散したグループもあっただろう。となればそういう地雷臭を嗅ぎ取る力があるかもしれない。
「わたしが、先輩たちを見て思ったのは――」
そしてようやく言葉を見つけ出した小泉が、俺に教えてくれた。
「――嬉しい、でした」
俺が求めていた種類の回答から四十五度ほどずれた回答を。
嬉しい? いやいやいや、確かにどう思うか聞いたけれども。確かにお前の感想を求めたけれども。……あー畜生、説明不足だったっ。
そう悔やんでいる俺をよそに、小泉はようやく口にした言葉を続けた。
「その、わたしたちが入学して、急に廃校になっちゃうって聞いて、不安で……。たまにすれ違う先輩たちも、廃校の話してるけど、しょうがないよねって、諦めた感じで……。わたしが入学した学校って皆冷めてるような、学校なのかなって思っちゃって……」
顔を伏せて悲しそうに弱々しく語る小泉。
確かに良く考えなくても、今年入学したばかりの一年生にとってはこの廃校問題は相当不安を煽る物だったはずだ。なのにこの学校に一年でも長く通っている筈の先輩が何もせず、ただ仕方がないと早々に諦めてしまえばこの学校はそういう人達しかいない薄情な学校ではないかと思い込むのも無理はない。
でも、と小泉は少しだけ口元を綻ばせて言葉を続ける。
「でも、先輩たちは、廃校を何とかしようって動いてくれて、ちゃんと学校が好きな人がいるんだなって思ったら、嬉しくって……っ」
切れ切れでたどたどしい言葉ではあるが、其処には確かな安心が滲んでいた。
「廃校がどうとかじゃなくても、ただ自分の学校にスクールアイドルが結成されたのも嬉しいんで、す……」
そこまで言って小泉ははっと言葉を止めて、顔を赤くして急に身を縮こまらせてしまう。察するに語ってる内に少し熱が入ってしまって、そんな姿を晒してしまった事が恥ずかしいのだろう。
別に恥ずかしがる事ではないだろうが……まぁいいか。照れ隠しと称して殴られるよりは数億倍微笑ましい。
しかし、そうか。いや、そういう物だったか、スクールアイドルという物は。
今のご時世でスクールアイドルは生徒会長と並ぶ学校の顔だ。つまり、スクールアイドルを生徒会長から保護しつつ活動させれば末端まで。それこそ小泉みたいな内向的な生徒までこの学校はまだ諦めていないという事を伝える事が出来る。戦意高揚、とは少し違うかもしれないが暗い道先を照らす小さな明かりにはなるはずだ。
そうして灯りの元に集団を形成さえすれば、普通の精神を持つ人間なら簡単にはやめられなくなる。つまり俺が危惧していた状況がまず潰れるはずだ。
「ありがとう、小泉。お前のお蔭で今後の方針が固まりそうだ」
「え? あ、えっと、はい……」
お礼の品は何も持ち合わせていないから何も彼女に上げることはできないが、自分でも珍しいと思うほど感謝の気持ちを込めてお礼を言う。
さて、これでまた仕事が増えてしまったわけだが……これは必要な事だ。面倒くさいなんて言う暇があったら次へ動き始めるとしよう。
「そう言えば小泉は、スクールアイドルやってる奴等の練習場所を知ってるって言ってたな。最後にそれだけ教えてくれるか?」
「は、はい。先輩達は毎日放課後に屋上で練習してるそうです」
「そうか。ありがとう」
すれ違いざまに小泉の肩を軽くポンと叩き、その場を離れる。背後からアルパカの鳴き声が聞こえてきたので、今度お前と会う時は何かされたら容赦なく拳骨かますからなという意を込めて小さく拳を握る。
さて、まずは手始めに屋上の練習風景の視察をする……前に、置きっぱなしの弁当箱をとりに行くとしよう。もうすぐ昼休み終わるし。
頭の中でパーツがはまる音がした。
次回予告
「何よ、そんな嫌な顔しなくてもいいじゃない」
二度ある事は三度ある。仏の顔も三度まで
古来より日本には事象が二回続けば三回目があるとされてきた
つまり、雅也が彼女と三度巡り合うのは何もおかしなことではなかった
「知らんもんは知らん。それに俺が答えられるわけないだろ」
相変わらず冷たく彼女を突き放すように言う雅也
しかし、彼女の反応はちょっと思ってたのと違っていて……!?
「…………お前ら、何してんだよ」
例によって例のごとく、彼の歩みは牛歩になるしかなかった
次回「日本では二回あったら三回目が起きるのが必然」
「作ったら私は変れると思う?」