ラブライブ!~胸(ポケット)にはいつも転学届~   作:カゲショウ

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どうも、カゲショウです!

隔週更新したいですが、ほぼ月一更新になってしまい申し訳ない思いでいっぱいです……
ですが、これからも精進する所存でありますので、どうか見守ってください!!

今回はタイトル通り、二回登場したあのキャラと三度邂逅します。はい。前書きで語れるのは此処までです。元々後書き族なので辛いです

それではどうぞお楽しみください!


18話 日本では二回あったら三回目があるのが必然

 二度ある事は三度ある。

 幼い頃からよく聞いた事のある諺で、恐らく人生で一番初めに覚えた諺だ。

 意味としても書いて字のごとくで覚えやすかったのだろう。二回同じ事があればそれはもう一回繰り返されるから気をつけろという『戒め』の意味だと知ったのはつい最近の事なのだが……。

 それと、同時期位にもう一つ「仏の顔も三度まで」という諺を俺は知った。

 これは何故か意味を最初から理解できていた。いや、きっと頭では完全な理解はできてなかったんだろう。何せ覚えたのは小学生の頃だ。日本語さえまだ曖昧にしか知らぬ子供に、諺の意味が理解出るはずもない。

 それでも『何度も無礼をすれば温厚な人でも怒り出す』という意味は身体が理解していた。一体何故なのかと問われても子供の頃の事だから知らんとしか言えないのだが……子供の情操教育には周辺環境が大きく関わってくるというのだし、きっとそこらへんが関係しているのだろう。

 これ等の諺を通して俺は学んだ。日本と言う国には何らかの強制力が働く不思議な力があり、成功も失敗も無礼も少なくとも二回あったら三回繰り返すものなのだと。仏の顔を三回も撫でた奴がいるのだから、きっとそうなのだろう。

 さて、何故俺が活気あふれる高校生たちがそれぞれの青春に汗とか涙とかその他諸々を垂れ流してる気候的に穏やかな放課後にこんな事を思ったのか。というよりも、瞬間的に脳裏によぎったのかをそろそろ説明せなばなるまい。

 

「……なんですか、先輩。私の顔見た途端露骨に嫌そうな顔して」

 

 説明終了。もはやいちいちここがこうで、あれがああしたから俺はこんな事を考えたと説明するまでもないだろう。

 廊下の白い蛍光灯の光に当てられて赤色の髪が艶輝き、精巧につくられた人形の様な顔には人間らしい不満気な表情が浮かんでいて小生意気そうな瞳が此方を睨む。

 何という事だ。俺はただ生徒会に部活関連の資料と空き教室の利用申請を出しに来ただけだというのに……。既に二回このぼっち姫西木野に出会ってるばかりに日本の因果律が仕事してしまったのか、くそっ。

 ……まぁ出会ってしまったものはしょうがない。何とかさっさとコイツをあしらって生徒会室に行くとするか。

 

「…………そう見えるなら、そういう事だ。お呼びではないので回れ右して教室か自分の縄張りに帰る事をお勧めするよ」

 

「はぁ? ナニソレイミワカンナイんですけど」

 

「決め台詞か何か知らんが、変に敬語にしようとしてギャル化してるぞ、お嬢様」

 

 そう指摘されてばっと手で口を押える西木野。指摘されたという事が悔しかったのか、俺を睨む目に更に力が篭り不機嫌さが強くなる。おー怖い怖い。怖いからそこどいてくれませんかね?

 まぁそんな事言えば西木野の怒りの導火線をわざわざ油とガソリンに浸して火をつける事になるので黙っておき、ため息だけついておく。

 

「先輩、何でわざとらしくそんな含みのあるため息つくのよ?」

 

「いや、別に含みを持たせては無いんだが」

 

 わざとらしくしたのは事実だけどな。

 しかしコイツは常にこんな不機嫌な感じで過ごしてて疲れないのだろうか? 正直コイツに始めて会った時から不機嫌そうにしなかったためしがないんだが……俺のせいなのか?

 

「西木野、何がそんなに気に入らないのかは知らんが、そんなんで疲れないのか?」

 

「疲れるわよ!」

 

「どうどう落ち着け。疲れるなら一度落ち着いて回れ右して教室帰れ」

 

「なんで先輩は私をそんなに遠ざけたがるんですか!!」

 

「今までのお前の俺への態度をその胸に手を当ててよく思い出してみろ。それがそのまま答えだから」

 

「うぐっ……!」

 

 何も言い返さないという事はある程度心当たりがあるのだろう。まぁ自覚があるのはいい事だし、これを期にその面倒くさい性格が治る事を祈ってるよ。

 西木野にはこれ以上何を言ってもそこから引き下がる気はないようだし、ここは先輩である俺が大人な対応をして自分が引き下がる方が無難だな。急がば回れってやつだ。

 

「それじゃ俺はこれで失礼する」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! あ、いや、待ってください!!」

 

「…………」

 

「無言で財布取り出してお金渡すのやめてくださいよ! お金が欲しいわけじゃないし!」

 

「アホ、よく見ろただのクーポン券だ」

 

「尚の事いらないわよ!」

 

 クーポンがいらないとはな……。このクーポンがあればチーズバーガーが少し安く買えるのだが、小金持ちだと値段なんか気にしないのか? それともぼっちだから一緒に行く人がいないか、か……うん、後者だろ。ぶっちゃけ俺もあまり使わないしな。

 

「ったく、だったら何の用だ。俺は今偶然知り合いにあったから世間話に興じる時間もお茶も持ってないぞ」

 

「別にお茶が欲しくて呼び止めてるんじゃないわ……ないです」

 

「だったら何なんだ?」

 

 いい加減俺も時間が惜しくなったので若干乱暴な口調になってるのを感じつつ、最後の義理として用件だけは聞いておこうと問いかける。

 そんな俺の雰囲気を察する事が出来たのか、西木野はたじろいで一歩下がる。しかし、それではいはいさようならとできなかったのは、流石西木野と言った所だろうか。

 彼女は一歩下がったが、その後すぐに口を固く結んで二歩俺との距離を詰めてきたのだ。

 

「先輩に、相談したい事があるんです」

 

 彼女の瞳が真直ぐに俺を射抜く。小さく握られた拳は微かに震えている。

 切羽詰っているというわけではなさそうだが、西木野からは懐かしいものを感じる。自分の手元に答えが無くてどうしようもない、そんな感じ。

 

「…………成程な」

 

 暫く会わない間にコイツに何があったのかは皆目見当もつかないし、微塵も興味がないのだが、こうしてそこまで仲が良くもない俺に相談を持ちかけるという事は本気なのだろう。

 なれば、ここで俺が相談を聞いて西木野の手元に答えの材料を用意するのが良き先輩の姿というものだろう。

 

「西木野」

 

「な、なんですか?」

 

「俺は今時間がない。だから、此処に連絡してくれ」

 

 パーカーのポケットから取り出したメモ帳とペンで数桁の数字の羅列を書いて、俺はその紙を西木野に渡す。

 西木野はその事に若干戸惑いを見せながらも手に取って書いてある数字を見る。

 

「先輩、もしかしてこれって……!」

 

「あぁ、お察しの通り電話番号だ。相談があるならこの電話番号にかけろ」

 

 瞬間西木野の顔に微かな笑みが浮かんだ。なんだ、結構真剣に悩んでたんだな。たったこれだけの事であの不機嫌そうな顔が和らぐとは。

 

「じゃ、じゃあ此処に電話すれば……」

 

「あぁ。基本夕方までは受け付けてるからそれまでに電話するといい」

 

「わ、わかったわ。とりあえずありがとうござ――」

 

 ピタリと西木野の動きが止まる。一体どうしたのか疑問に思っていると、西木野は眉間にしわを寄せながら手渡した紙を凝視し始めた。

 そして四回程視線を往復させた後、声を震わせながら俺に問いかける。

 

「先輩、これ電話番号ですよね?」

 

「ああ」

 

「……フリーダイアルって大体0120で始まりますよね?」

 

「ああ」

 

「…………この紙に書いてある番号、0120で始まってるんですけど」

 

「当たり前だろ? 無料の子供相談電話の番号なんだから」

 

 グシャッと紙が握りつぶされる音が聞こえた。

 

「なんでそこの電話番号を渡すのよ!! 普通!!」

 

 どうやら何かが気にくわなかったようで、西木野はあの生徒会長に劣らない剣幕で怒鳴りつけてくる。さっきまで少し機嫌治ったかと思ったらすぐ悪くなるとか山の天気みたいなやつだな……。

 紙と拳を握りしめてギャンギャン喚く西木野をよそに俺は何が気に入らなかったのかを考える。

 基本匿名で悩みの種類は問わない。相談料金もかからない上にそれなりに経験を積んだ大人が対応してくれるから、そこら辺の友達に相談するより手元に残る材料は多いだろう。俺が渡した番号の所は信頼が厚くて守秘義務もしっかり守ってるからおすすめなんだが……何が不満だというんだ? 好条件しかないだろうに。

 

「西木野、何が不満だというんだ」

 

「基本的に全部よ! 私は先輩に相談したいの!!」

 

「はぁ、俺にねぇ……」

 

 俺は正直面倒くさいので勘弁したいのですが。

 その旨を伝えようとした時に、さっきまで耳が痛くなる程喚いてた西木野がぽつりと言葉を漏らした。

 

「スクールアイドルに関する事で相談があるのに……」

 

 スクールアイドル、だと?

 どういうことだ? 西木野とスクールアイドルの奴らに接点がある? メンバーは昼休みに小泉から聞いたから違うだろう。となると別の所にスクールアイドルとの接点があるという事だが……。

 西木野の相談を聞くほど暇じゃないし面倒くさいので聞きたくもないが、スクールアイドルについての情報が少ない今はこうした情報は貴重だ。それに、万が一メンバーとの反りが合わずに会長との関係みたいになった場合、西木野をパイプにする事で情報を得られたりするかもしれないわけか。

 ……どっちが得かは悩むまでもないか。

 

「オーケー、気が変わった。お前の話を聞こうじゃないか」

 

 

 

 

「――――という事が昼休みあったの」

 

 場所は移り変わって音楽室。静かな音楽室で窓に寄りかかっている西木野が俺の知らない昼休みの物語を語り終える。

 

「ほーん、成程ねぇ……」

 

 西木野の近くの席に座って頬杖を突きつつ話を聞いていた俺は、適当な相槌を打ちつつ頭の中で話を整理する。

 話をまとめるとこうだ。今日の昼休み、スクールアイドルをやると自称してる奴が西木野の演奏中に出現。そいつは何の因果か知らないが俺が西木野と初めて会った日の放課後に同じように歌に引き寄せられてきた奴らしく、その西木野の作曲の才能を見込んで曲を作ってほしいと頼み込んできた……という事らしい。

 そんなアグレッシブさをあの園田が持っているとは思えないし、恐らく残りの二人のどちらかだろう。

 だが正直そんなのはどうでもいい。俺が屋上にいても引き寄せられるほどの歌を歌える西木野の事だから、誰かが噂とか始めていずれスクールアイドルが嗅ぎ付けてくるという事は少し考えれば思いついた事だろう。さっきはそこまで思考が回らなかったけど。

 だから俺は話を聞き終わってすぐに思いついた疑問をぶつけてみることにした。

 

「なぁ、お前の相談事って結局何なんだ? 結局は受けるかどうかって事で悩んでるのか?」

 

「ええ、まぁ、そんな所なんですけど……ちょっと違うというか……」

 

「煮え切らない言い方だな……」

 

 相談とか受け慣れていないが、相談ってこんな面倒くさいものなのか? 話しの核心に触れて欲しい待ちの姿勢とか……うん、超面倒くさい。

 西木野は俺がそうしてくれるのを待っているのか、そわそわと微かに身体を揺らしつつ毛先をクルクルと指先で弄っている。

 ふむと少しだけ思考を巡らせる。

 西木野から得られるスクールアイドルの情報は微々たるものだった。曲を作ってくれる人を探している、という情報以外はこれ以上西木野からは出ないだろう。

 なら今日の時間の使い方としてはコイツの相談を適当に流して生徒会室に行く、というのがベストなのかもしれない。だが、もう少し先を見越した時間の使い方としては、コイツの相談を聞いて作曲担当として関わらせた方がベストであると思えてならない。

 となるとコイツの悩みをちゃんと聞いて、考えて、材料の提供をしないといけないのか…………迷うな。

 

「……………………ふむ」

 

 暫く考えてみたけど駄目だな。俺が真面目に話を聞いて自然に作曲するように促す材料を提供するっていうのが無理だ。慣れないどころかやった事もないのを俺が初回でできるわけがない。

 だからといってチャンスを見過ごすほど馬鹿でもない。西木野の想像からは大きく外れることになるかもしれないが、俺は俺のやり方でまず話の核心に迫ってみるとしよう。

 

「なぁ西木野、一ついいか?」

 

「な、なんですか……?」

 

「俺はこの見てくれだから相談事を受けるという事に慣れてないから、お前の汲み取って欲しい意図を上手く汲み取る事は出来ない。だから――」

 

 頬杖をやめて椅子の背もたれに深くしなだれかかり言う。

 

「分かりやすく、簡潔に、要点を抑えて聞いてほしい悩みを言え。じゃないと分からん」

 

「えぇー…………」

 

 西木野のそわそわが止まり、俺を見る瞳の温度が著しく低下して言っているのがはっきりわかった。何故だ。

 普通に聞いても分からないから分かりやすく説明してもらうというのが俺のやり方なんだが……。まぁ十人十色という事で深くは考えまい。

 

「先輩、相談事って普通は言いにくい事だから言葉を濁すもので、そんな上司への報告みたいにしろっていうのは無理があるわよ……」

 

「そう思うならぜひともさっき渡した電話番号に連絡してくれた方が俺は楽が出来るんだが」

 

 其処の人達は基本的に前向き思考だから上手く作曲させる流れにできるだろうし。

 そう言う俺を見て何を思ったのかはたまた諦めたのか、西木野は大きくため息を一つついて若干呆れたような表情をする。

 

「はぁ、もういいわ。先輩の言うとおり簡潔に相談するわよ」

 

「賢明な判断だ」

 

 睨むな睨むな。人が折角いい相談相手紹介してやったのに俺が良いと言った自分をまず悔いろ。その後に睨め。

 しかし何でまた俺なんだろうな。まともに相談できない事は何となく分かるだろうに、何でそこまで俺にこだわるのか……謎だ。

 西木野は寄りかかっていた窓から離れ、俺の前に立って問いかける。

 

「作ったら私は変れると思う?」

 

 瞳が不安そうに揺れている。難問が解けずに泣き出しそうな小学生のように、西木野は答えを欲しがっている。

 しかし変れるかどうかときたか……。となると西木野は現状に不満を抱いているという事で、その不満を解消し脱却したいと考えているという事になるのか。

 しかし大分アバウトな悩みだな。変わると一概に言っても、その種類は多岐にわたるというのに。改善は変化だが、同じく改悪も変化なのだ。

 西木野は自分の何を変えたくて、どう変えたいのかをはっきりさせて言わないからどうしようもないわけで……あぁ、そういう事か。

 

「…………っ」

 

 何も言わない俺に西木野はじれったそうに口を堅く結ぶ。

 このお嬢様はこの期に及んでまだ俺に期待しているのか。俺なら自分の言いたい事を察してくれるのだと。理解してくれるのだと。そして、そのうえで答えを指し示してくれるのだと。

 …………アホくさ。

 

「西木野、いい事を教えてやろう」

 

「い、いい事?」

 

「あぁ、そうだ。きっとお前のこれからの人生に役立つ事だからしっかり聞けよ」

 

 西木野はこれを聞いたらどう思うだろうか? 失望、落胆……まぁ良い感情は持たないだろうな。

 

「曲を作ったらお前が変われるかどうか」

 

 だけどな、西木野。

 

「そんなの俺が知るわけないだろ」

 

 世界はいつでも答えで溢れてるわけじゃないんだよ。

 西木野がぽかんと口を開けて呆けてるみたいだが、何をそんなに驚く必要があるんだ? 俺はお前が何で変わりたいかすら知らないんだ。だからお前の答え作りの材料提供もできるわけないだろう?

 

「……もうちょっと考えてくれてもいいんじゃないですか?」

 

 冷たく突き放したつもりなのだが、意外にも西木野は食い下がってきた。

 ただな、西木野。悪いが何度聞かれても答えが変わる事は無い。

 

「考えたさ。考えた上で知らんと言っている。なにせお前がどうしたいのか、なんでそんな事を聞くのかすら分からないんだ」

 

「っ! 私は……っ」

 

 キュッと拳を強く握り、それを胸に当てて強く主張するように俺に言う。

 西日が彼女の顔にかかっていた影を全て消し去った。

 

「変えたいっ。私が作る曲も私自身も……っ」

 

「何故だ?」

 

 その問いかけに、西木野は一秒も間を開けないで答えた。

 

 

「もっと上に行きたいから」

 

 

 澱みも曇りもブレもない西木野の瞳。僅かに反射している日光の輝きが彼女の純粋な心を強調する。

 俺は西木野の瞳に既視感を覚えた。

 いや、既視感なんかじゃないか。見たことがある。

 

――――まだ先がある。僕達はまだ先に行けるんだ

 

 いつの日か幼馴染が言ってた言葉。そして今より更に上のステージに行けると信じて疑わなかったあの瞳。ああ、そうだ。西木野のこの眼はあいつと同じなんだ。

 ふっ、と小さく笑いが零れる。自信過剰なのか無知なのかしらんがまさかアイツと似たような事を言う奴がいるなんてな……。やっぱり同類は思考も似てる物なのかね。

 

「また人を小馬鹿にしたように笑うわね……」

 

 俺としてはいつものごとくそんなつもりは無かったのだが、やはり俺が小さく笑うと馬鹿にしたようになるらしい。意図的ではない表情筋の運動は苦手らしい。普通は逆なんだろうがな。

 俺は一応誤解の生まれないように西木野に説明した後、少しだけ考える。

 西木野がどうして変わりたいのかは分かった。思ったよりも単純な理由だったが、なんともまぁ納得できる理由ではある。

 西木野は今まであまり触れてこなかった曲を作る事により自身を変える事が出来るかもしれないと考えたのだろう。個人的意見だが、西木野が考えてる方法は間違ってはいない。視野を広げる事で思考の幅は広がるし、使う技術の選択肢も増える。現に俗にいう秀才たちはそうやってその位まで上り詰めている。

 これを伝えれば、きっと西木野は自身の欲していた答えだと感じて安心するだろう。

 

「西木野」

 

 だから言おう。

 

「知らんもんは知らん。それに俺が答えられるわけないだろ」

 

 お前の未来なんて知らないという事を。

 思ったより西木野は大きな反応を示さずに、ただゆっくりと、握っていた拳を解いた。

 

「随分冷たく突き放すんですね」

 

「俺にしては随分と気にかけてやった方なんだけどな」

 

 俺の言葉に偽りはない。西木野の相手するのは面倒くさいし、小泉と違って感謝も何も感じていないのでいつもなら「変れる」と伝えていた。

 だが、どうしてか俺は彼女の成長を促す選択肢を選んだ。

 西木野が幼馴染に似ていたからか、それとも純粋に上を目指すものの邪魔をしたくなかったからかは分からない。と言うかこれの答えを見つけ出そうとするとかなりの時間を要するから考えたくない。

 ただ確実にこの選択肢が西木野の望む変化をもたらすだろうという確信はあった。

 西木野は答えを欲している。今の悩みに対して明確な答えを出すための材料すらない西木野にとって、「変れる」という言葉は答えであり指針でありになる。

 だがそれは伝えると同時に成長を止めてしまう。

 もし伝えたとした時に西木野がどう動くかは分からないが、安心したと同時にこう思うだろう。『ああ、やれば変わるんだ』と。

 やるだけで変れるなら人生苦労なんてしない。ただ、やればいいという思考が行動を作業化させる恐れがあり、そうなってしまえばそいつは変れはしない。なんせ結果的に変れると思い込んでしまっているのだから。

 秀才が一般人から変れたのは多くの事に手を伸ばしたからではない。その中で自身の目的に近づける要素を取捨選択し続けてきたからだ。

 意志のない行動に意味は無い。そして望みの無い願いは叶わない。西木野の成長を考えるなら、教えないという選択肢が一番望みに近づけるだろうよ。

 さてさて、コイツも言ってた通り割と冷たく突き放したような回答を差し上げたわけで、流石に俺に嫌気がさして……。

 

「………………………んん?」

 

 西木野の顔を見てみるが、どうもおかしい。怒ってるとか幻滅してるとか軽蔑してるとかなら予想の範囲内だから、相談にのってあげた人への態度としておかしくてもどうという事は無い。

 だけどこれは……俺の目がまだ狂っていないなら、西木野は喜んでいる。

 喜んでいるというよりは嬉しそうというか……いや、嬉しそうでもおかしいんだけどね? 小さく何か呟いてるけど「やっぱり先輩は……」ってところしか聞こえないからその心情を察することはできない。西木野よ、やっぱり俺は何なの?

 

「……用事すんだみたいだし、俺はもう行くぞ」

 

 薄気味悪くてこれ以上此処にいたくないというのもあるけどな。言ったらせっかく何故か機嫌が良さそうなのが一転するだろうから言わないけど。

 何の反応も返さない西木野を尻目に俺は扉の方へと歩いて行く。さて、余計な時間を食ってしまったが、完全下校時刻まではまだ時間がある。生徒会は残ってるだろうし、さっさと会長と一戦繰り広げて用事を済ませるとするか。

 しかし、その足は割と早い段階で止める事となってしまう。

 

「…………何あれ」

 

 微かに開かれたドアの隙間。その向こうにあるのはリノリウム張りの廊下……のはずなのだが、どうも見慣れないというか、本来その位置にある筈の無いものが見える。

 カメラのレンズ、だと思う。インスタントカメラとかじゃなくて、割としっかりした一眼レフの望遠レンズの様なものが、こちらを覗いている。

 これだけでも奇妙だ。そう、奇妙であるのに、更に奇妙な物がカメラの上あたりから見える。

 

「……じー」

 

「…………」

 

 顔が半分ほど隙間から見えていて、セルフ効果音までつけている奇妙な生物。俺はその生物の名前を知っている。

 …………というか、隣の席の住人だ。

 俺は早足で扉に近づき、勢いよくドアを開ける。

 するとそこには予想通りの人物と、予想外の人物が潜んでいた。

 

「…………お前ら、何してんだよ」

 

 田城野と彼女専属の盗撮魔さんは目を見開いて俺を見ていた。

 後に問いただしたところ、音ノ木坂新七不思議の『放課後聞こえる謎の少女の歌声』を調査してたとかなんだとか……。西木野、お前ホントどんだけ音楽室に籠ってるんだよ。

 

 

 

 




次回予告
「穂乃果達? 教室にはいないけど……何か伝言?」

雅也は遂にスクールアイドルと直接コンタクトをとる為動き出す

しかし中々三人は捕まらず、労力と時間だけが消費されていく

「理事長、何の冗談か何かは知りませんがその恰好はどうかと思いま……あ?」

そんな中雅也はとある人物にそっくりな人と出会う事になる

良く見かける人とそっくりだけど他人な彼女に、雅也は困惑する

「何か始めてあった気がしないんだけど……何でだろうねっ」

笑顔の裏には何がある?

次回「ミナレタタニン」

「西原くんって面白いんだね」
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