ラブライブ!~胸(ポケット)にはいつも転学届~   作:カゲショウ

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どうもカゲショウです。
先刻しておきますがまだ原作キャラは出てきません。
次回までには出したいなぁ~と思っております故、どうか駄文に御付き合い下さい。

では、本編をどうぞ


02話 騙されるアホ < 騙すアホ

「田嶋ァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「敬称を付けろ馬鹿野郎」

 

 音ノ木坂学院へ編入することを決めた翌日の早朝。俺は進路指導室に特攻を仕掛けた。

 はたから見れば変人に見えるかもしれないが、一年の頃はよく教師から逃げるために廊下を爆走したり窓から逃げたりしていたので今更だろう。

 そして俺が朝から特攻を仕掛けてくることを見透かしていたように、田嶋の野郎は進路指導室にいた。

 

「敬称とかそんな些細な問題は今はどうでもいいんだよ!」

 

「教師である俺にとっては大問題だ」

 

 あくまで冷静に返す田嶋先生は、手に持っていたファイルの角を俺の脳天に振り下ろした。全ての衝撃が一か所に集約された一撃は冗談抜きで痛い。

 というか普通はファイルの表紙か背で叩くものじゃないのか? 角とかファイル攻撃の最上位の攻撃じゃねぇか、下手すれば血が出るぞ。

 叩かれた場所がズキズキと痛む。しかし、そのおかげか幾分か冷静さを取り戻せた俺は、咳払いを一つして田嶋先生に向き直る。

 

「貴様は音ノ木坂が女子高だという事を知っていたな?」

 

「全然冷静になれてねぇよ」

 

 なんということだ。田嶋の野郎に対する怒りを完全に取り除けていなかったとは……。

 だが今の俺はそんな事を心の中で反省する余裕などないわけで、一度深呼吸をして田嶋先生を睨みつける。

 

「先生は音ノ木坂が女子高だったという事を知っていましたよね?」

 

「知らない、と言ったら?」

 

「正直に答えてください」

 

「……ああ、知ってたよ」

 

「ならば何故あの時教えてくれなかったんですか」

 

「聞かれなかったから」

 

 ……この野郎。一度徹底的に拳で話合った方が良いかもしれない。

 田嶋先生に見えない位置で右手で拳を作り、いつでも殴れるように準備しておく。しかし、それを見透かしていたように田嶋先生は俺から一歩距離を取り薄笑いを浮かべてこちらを見る。

 俺はそれがさらに気に入らなくて素早く一歩で間合いを詰めてボディブローを放つ。が、それは田嶋先生が持っていたファイルによって防がれてしまった。

 

「くっ……!」

 

「ま、落ち着けよ。どうせ今騒いだって無駄だって話しただろうが」

 

 言われて昨日進路指導室を出る直前の会話を思い出す。

 

 

 

『それじゃ、この書類に名前とか必要事項を記入してもらうが……後悔はしないな?』

 

『そうですね。しいて言えばこの学校に入学した事が一番の後悔です』

 

『いや、そう意味じゃなくてだな……。一応募集締切が近いから一度提出したら変更はできないって意味だ』

 

『別に問題ないですよ。正直共学校に逃げられるなら願ったり叶ったりですから』

 

『確かに将来的な意味では共学校だが……まぁ、いいか。そんじゃ決定でいいんだな?』

 

『はい』

 

 

 

「……詐欺師」

 

「残念ながら教師だ。注意不足だったお前が悪い」

 

 そう言われていやらしい薄笑いを浮かべる田嶋先生。そして俺は自分が行くと言った時の田嶋先生の不敵な笑みを思い出し、悔しさから歯を食いしばる。

 俺はあの時から……いや、もっと前からこの詐欺師の掌の上で踊らされていたのだ。

 そのことに気が付かなかった自分への後悔と俺を騙した田嶋先生への怒りのせいか、いつの間にか握っていた両拳が白く変色している。

 もし望みが叶うのなら、俺は昨日に戻って全力で昨日の俺を殴っていただろう。

 

「だけどそんな事あの書類には書いてありませんでしたけど」

 

「いや、確かに書いてあったぞ…………裏面に、な」

 

「やってる事は立派な詐欺師だよ!」

 

 何故か自慢げな表情で言う田嶋先生。きっと俺と同じ女子高に行きたくない奴らの何人かは同じ手口で騙されただろう。

 此処まで巧妙で悪質な手を使うなんて前世は詐欺師かなんかだったんじゃないのか?

 そんな俺の考えを読み取ったのか、田嶋先生は「ああ、そうだ」と言っていつものだるそうな表情でサムズアップしてきた。

 

「因みにあれはお前専用にわざわざ用意した別プリントだから」

 

「ほんっっと面倒くさいなアンタは!?」

 

 わざわざ俺を騙すだけにどんだけ本気なんだよ! その熱意を他の所に向けろよ、頼むから。

 俺が田嶋先生に呆れて落胆していると、田嶋先生が今まで見たことないくらいの優しい微笑みを浮かべながら俺の方に手を置く。

 

「あのな雅也。この世には二種類の人間がいるんだ」

 

「詐欺師と一般人ですか?」

 

「騙すアホと騙されるアホだ」

 

「あんたもう教師辞めてしまえ!」

 

 教師とは到底思えない発言だな。なんで聖職者なんてやっているのか不思議に思う。割と本気で。

 というか、それだと自分もアホだと言っているのだがそれでもいいのか?

 怒りや呆れが体の中に蓄積された結果、俺はこの詐欺師を殴ることを諦め深くため息をついて話を元に戻す事にした。

 

「……そういえば田嶋先生は昨日、俺が音ノ木坂を選ぶと思っていたと言ってましたが何か確信めいた理由でも?」

 

「あぁ、それね……。ま、とりあえず座れよ」

 

 促されるまま田嶋先生の向かいのソファに腰を下ろす。

 

「さて、何処から話せば良いんだろうな」

 

 

「最初から話してくださいよ」

 

「そうか。……俺は今から三十六年前に福岡県の北九州市に生まれてだな」

 

「誰がお前の生誕日から話せと言った!?」

 

 というか田嶋先生三十六歳だったのかよ。全然顔老けてないし(ただし無気力そうな顔で三白眼)二十歳前半だと思ってた。

 冗談だ、と軽く笑って流すと咳払いを一つして急に真面目な顔つきになる。

 

「実は俺は音ノ木坂の理事長とちょっとした知り合いでな、二週間くらい前だったか? 音ノ木坂まで呼び出されたんだ」

 

「二週間前……春休み中ですか」

 

「ああ。んで、二か月前には既にこの生徒派遣の話は決まってたから言われたんだよ『この学校を救ってくれそうな人はいませんか』ってな」

 

「はぁ……」

 

 何か急に話が見えなくなってきた。なんだよ『学校を救ってくれそうな人』って……。音ノ木坂は実は不良女が集まる所とかなのか?

 

「俺はこう見えても昔『お人好し』と呼ばれてて、まぁ無下には出来なかったんで適当にお前の名前出しといたんだ」

 

「ツッコみたい所が多すぎてツッコミが追い付かねぇよ」

 

 コイツが昔はお人好しなんて呼ばれてないだろうし、何だよ適当に俺の名前を出しといたって……果てしなく無責任だろ。確かに『適度に良い』って意味はあるけれどもさ、絶対そんな意味合いでは言ってないだろ。

 田嶋先生を半眼で睨みつけていると、心外だとでも言いたげに肩を竦める。

 

「まぁ、後はお前が行きたくなるように計算された俺の完璧な策略に引っかかったってわけだ。納得したか?」

 

 

「理解はしましたが納得はしてません。……何故このような事を? 田嶋先生は他人の頼みごとなど一蹴するように思えますが」

 

「だから言っただろ? 俺は昔お人好しと呼ばれててだな――」

 

「本当は?」

 

「成功したら焼肉奢ってくれるって言うからやった。反省はしていない」

 

「…………」

 

 コイツが教師やってられるのって反面教師の意味合いが強い気がしてきた。焼肉のために生徒を売るとか、教師以前に一人の人間として駄目だろ。

 ……なんかもうどうでも良くなってきた。というか田嶋先生に真面目な話をしてもまともな返事が返ってくるとは思えなくなってきた。

 この教師の皮を被った詐欺師に心底呆れて何か言う気力もなく、ただ大きなため息ばかりが俺の口から出ていく。

 そんな俺を見て、田嶋先生は何故か満足そうに笑うと「そういえば」と話を切り出してきた。

 

「通学はどうするか決めたか? 一応音ノ木坂に行く生徒は下宿先とか紹介することができるんだが」

 

「そういえばそんな事も言ってましたね……」

 

 俺が愚かにも奴の策に溺れ、何も知らずに契約書を書いた後に通学方法について問われたのを思い出す。

 家に帰ってすぐネットで音ノ木坂学院の住所を調べると、秋葉原近辺だという事が分かった。ついでに女子高だという知らなくてもいい事実も一緒に……。

 豊丘校とそんなに離れているわけではなく、頑張れば電車と徒歩で行けるので生徒は下宿するか選べるが、朝早く家を出ないといけないのは正直つらい。

 

「なら部屋を一部屋お願いできますか? なるべく安い所を」

 

「はいはいっと。ま、下宿先決めるのは俺じゃないから何とも言えんが一応伝えておく」

 

 という事は学校側……教頭とかそこら辺が決めるのか? となると教頭を信用してないわけではないが色んな意味で不安過ぎるな。

 

「そういえば今回音ノ木坂に行く生徒は何人くらいなんですか?」

 

 昨日ふと思い浮かんだ疑問を口にする。

 あの書類には豊丘高生の特別クラスが編成されるとは書いてあったが、それが何クラス編成になるとは書いてない。田嶋先生の話では、校舎がデカくて教室も余っているとのことなので一クラスだけになるとは限らない。

 田嶋先生は腕を組んで考え込み、暫く考え込んだ後に口を開く。

 

「確か一クラスがウチと同じくらいだったから……四十人×三位だな」

 

「という事は約百二十人ですか」

 

 百二十人。この数字がこの企画のほんの一部だと思うと、これが要請があった全ての学校へ派遣した人数を考えると恐ろしいものを感じる。

 しかし、俺は此処で一つの疑問が浮かんだ。

 

「田嶋先生、今回要請があった学校は全部で何校だったんですか?」

 

「だいたい六、七校だな」

 

「それだと二年生じゃ足らなくないですか?」

 

 そう、一学年六百三十人なので今回の要請があった学校全てが四十人×三だと一学年以上の人数が派遣されることになる。一年生は入学したばかりなので論外だと考えると三年生でも巻き込むつもりなのだろうか?

 三年生は受験があるだろうにと心の中で思っていると、田嶋先生はかなりの大型爆弾を投下してきた。

 

「いや、一年、二年、三年の全学年対象だから」

 

「…………………………はぁ?」

 

 この教師は何を言ってるのだろうか。三年ならまだしも一年も対象とか……一年は入学したばかりだろ!

 投下された爆弾のあまりの大きさに呆然としているが、田嶋先生は気にした様子もなく説明も続ける。

 

「今回全ての学校が音ノ木坂みたいに四十人も募集してるわけじゃないからな。少ない所では十人程度のところだってあるんだぞ」

 

「……でも一年生は入学したばかりじゃないですか」

 

「何のために今年は春休みを繰り上げて復習のために授業をやってると思ってるんだ」

 

「このためだったのかよっ!!」

 

 さも当然のように語る田嶋先生。

 確かに俺達は今年は春休みが短く、入学式もかなり早い段階で行われて全国で一番早い新学期を迎えていた。授業内容も前学年の復習だったので今年は気合が入ってるなと思っていたが、まさかこの馬鹿げた企画のためだとは思わなかった……。

 

「ま、色々考えてたら面倒くさいから気楽に行けよ」

 

「…………そうします」

 

 俺はがっくりと肩を落として深いため息を吐く。

 完全に朝から疲れ切った俺は、一刻も早く教室に戻って寝ようと思い田嶋先生に背を向ける。そして後一歩でドアにたどり着くと思った所で不意に田嶋先生から呼び止められた。

 振り返ると、田嶋先生は何処か落ち着かない態度で視線を宙にさまよわせている。

 

「……あー。その、なんだ。これから旅立つ我が教え子に一つ真面目な話がある」

 

 いつもとは違う落ち着かない様子の田嶋先生。そんな田嶋先生を不信に思ったが、とりあえずいつもの様に軽口をたたく。

 

「何ですか、その喋り方。若干キモイですよ」

 

「ほっとけ」

 

 後頭部を乱暴に掻き毟ると、急に真面目な顔になる。それにつられて俺も真面目な顔になったのが自分でも分かる。

 暫く視線を合わせていたが、次第にポツリポツリと慣れない事をしているからかその口から不器用な言葉が紡がれる。

 

「俺は、すぐ逃亡したり生意気な態度をとるお前の事をヒーローだとは思っていないし……そんな人間はこの世にいないと思っている」

 

「当たり前ですね。俺はそんな大した人間じゃない」

 

 そう、俺はヒーローなんて呼ばれるような立派な性格をしている訳でもないし、自分が田嶋先生に生意気な態度をとっていることも自覚している。

 ただ一つだけ、田嶋先生との考えの違いはヒーローに近しい存在。……『主人公』は存在していると思っているところだろうか。

 だが話の骨を折るわけにもいかないので、黙って田嶋先生の言葉に耳を傾ける。

 

「いくらお前が『S特』で学校側が特別視しても、俺はそんな事はしない。俺の前じゃお前も等しくただの生徒だ」

 

――『S特』

 

 それはS級特待生の略でこの学校に導入されている特別な制度だ。そして俺もこのS特の生徒の一人だ。

 この学校にはD、C、B、A、Sと五つの特待生制度が設けられており、生徒全員がその階級のどれかに割り振られている。

 そのなかでもS特はこの学校においての尊重し、自らの目標として特別視すべき存在だ。……もっとも俺はこの制度に激しい嫌悪感を抱いてるわけで、その点においては俺を特別扱いしない田嶋先生に感謝している。

 俺はS特と聞いたせいか、いつの間にか強張っていた身体から力を抜き次の言葉を待つ。

 

「もっとも、お前は素行は決して悪いわけじゃないが、常識的な面が少し欠けてるから悪い意味では特別視してたかもな」

 

「さっきの俺の感謝を返せ。つかお前に常識とか言われたくな――」

 

「だが俺はお前に可能性を感じている」

 

「……可能性?」

 

 俺の言葉を遮るように放たれた『可能性』という言葉。俺はその言葉を聞いてきつく拳を握る。

 

「お前はこの可能性とかの精神論みたいなのが嫌いかもしれない。だけど俺には感じるんだよ、お前には何かを守れるだけの力が……変えるだけの力があるって」

 

 普段の気の抜けるような声とは違う心の底から真面目な声で語る田嶋先生。

 不器用で、何処か中二病っぽくて、根拠もない、そんな純粋な言葉に俺の拳は柔らかく解かれていった。

 田嶋先生の語る『可能性』が何に関することかは聞かない。いや、薄々わかっているからこそ聞くべきではないだろう。

 

「だからお前は、お前の中にある可能性を信じろ。そして――」

 

――あの場所を守ってやってくれ

 

 田嶋先生はこういう真面目な話は得意ではない。だから言葉と言葉が上手く繋がらず何を言っているのか分からない。

 だが、その言葉は何故か俺の脳内に深く響いた。

 俺は暫く何も言えずに田嶋先生を呆然と見ていた。そしてふっと小さく笑いを零して静かに言ってやった。

 

「……俺は一角獣のロボットじゃないですよ」

 

「うっせ」

 

 その言葉とほぼ同時に予鈴が鳴り、ホームルームの始まりを告げる。

 それが入れ替えのスイッチかの様に田嶋先生からさっきまでの真剣な表情は消え去り、いつもの活力の失われた表情に戻っていた。

 

「下宿先は今日中に連絡する。場所が分かりにくかったら自分で調べろ。解ったか」

 

 若干早口になっているのは羞恥心からか、はたまた真面目に仕事をしているためかは分からない。しかし、コイツから今ほど『教師』というものを身近に感じたのは初めてかもしれない。

 

「それとお前は今日午前で下校な。来週から音ノ木坂生活だからしっかり準備しとけ」

 

「はいはい。了解ですっと」

 

 俺は片手を振って進路指導室を出る。

 来週から俺は此処に居ない。そんな新鮮な気持ちを感じつつ、自分の教室へ続く廊下を歩く。

 …………それはそれとして、なんとか転校できないだろうか。元女子高に編入は色々と面倒くさいので早々に転校したいものだ。

 

 

 

「制服良し。私服は……一、二着でいいな。後は筆記用具にノート、日用雑貨っと……」

 

 自宅の自室で中型のスーツケースに必要なものを詰め込んでいく。俺はあまり娯楽用品を持っていないので、スーツケースも大型の物じゃなくていいからこういう時便利だなと改めて感じる。

 向こうであまり頻繁に外を出歩く気はないので私服も少なめで良いかと思ったが、連休などの長期休暇の事などがあるので後上下二セットスーツケースに入れ込む。

 因みに俺の傍らにはパーカーが数着おいてあるのだが、それは俺が制服の上に着るものなので制服扱いにしている。

 

「他に何を持って行こうか……」

 

 他に何か持っていくべきものを探して部屋を見回す。しかし、私物が少なくて家族から物寂しいと言われてる俺の部屋からは、そう簡単に見つからなかった。

 そこで、ふと机の上に散乱している青い分厚いファイルが視界に入る。

 

「……そういえば昨日片づけるの忘れてたな」

 

 机に近づき、青いファイルを一冊手に取って適当なページを開く。

 これは俺が作成した去年の一年間、俺を振り回していたとある事情に関しての資料だ。もっとも、今は必要のないものとなってしまったがな……。

 ふと、開いたページに何かが書かれているのに気が付く。そこにはシャーペンで何か文字が書いてあるのだが、汚くてなんて書いてあるのか読めなかった。

 だが、これを書いた人物、彼女の――いや、彼女達の最後の言葉は覚えていた。

 

『ありがとう』

 

 たったそれだけの実にシンプルな言葉。

 紅い花のコサージュを胸に涙を瞳一杯に浮かべながら、それでも笑顔だった彼女達は何故か俺の心に強く残った。

 それと同時に、そんな彼女達の言葉に、笑顔に何故か俺は虚無感を感じてしまった事を覚えているし、その虚無感の名前を俺はまだ知らないでいる。

 

「……他の家具と一緒に後日送ってもらうとするか」

 

 ファイルを閉じて綺麗にナンバリングしてある順番通りに本棚に並べる。しかし一冊一冊が分厚いために一列に収まらず、やむなく二段目の半分まで使う事になってしまった。

 これが全て俺が自分で作った資料だと思うと、いささか恐ろしいものを感じる。

 

『ただいま』

 

 他には何かないか探そうとしたところで、玄関の扉が開かれて誰かが入ってくる。まぁ、家族以外はありえないのだが……。

 なので特に気にせず作業をしていると、部屋の扉が控えめに三回ノックされた後に「入るよ」と言う爽やかな声が聞こえてきた。

 俺がどうぞと促すと、扉が開かれて長身で爽やかな笑みを浮かべる男が入ってきた。

 

「ただいま兄さん」

 

「おう。おかえり侑希」

 

 部屋に入ってきた男、西原侑希〈にしはら ゆうき〉に手を挙げて応じる。

 爽やかな声と同じく、今も爽やかな笑みを浮かべている侑希はいわゆるイケメンと言う部類で、中学三年で、ましてや弟なのに俺の同年代かと思わせるほど大人びてもいる。

 また、勉強、スポーツ、家事もでき、性格もまず人の粗探しから始める俺とは違い誰にでも優しく接する非の打ちどころのない完璧超人だ。まぁ、本人にこれを言うとそんな事はないと謙遜するのだが……。

 

「今日は帰ってくるのが早かったな」

 

「今日は始業式だけだったからね、授業もないし午前で終わりだよ。そういう兄さんは?」

 

「昨日話した生徒派遣の準備だよ。もっともそんなに荷物はないんだけどな」

 

 そういって床に置いてあるスーツケースを指さす。それを見た侑希は納得したように頷いた。

 

「机は後でこっちから送ればいいのかな?」

 

「ああ。本棚とファイルと一緒に後で送ってくれ」

 

 そう言うと侑希は「わかったよ」と言って爽やかな笑みを浮かべる。いやホント裏表のない性格なのは良い事だが、ずっとそんな風にしていても疲れない物なのか?

 と、そこで侑希が視界に何かを捉えたようで、爽やかな顔に苦笑が浮かぶ。

 

「その……爆竹とか閃光玉はどうするの?」

 

 そう言われて傍らに置いてある小さめの段ボールに視線を落とす。そこには黒い球体と円柱状の物に紐がついた物が敷き詰められていた。

 

「これは一緒に持っていくさ。下手すれば危険物扱いされるからな」

 

 この閃光玉や爆竹は、逃亡用に俺の知り合いのS特の奴が作ってくれた『使っても安全シリーズ』だ。豊丘高校ではあまり使わなかった(使わなかったとは言っていない)が、如何せん田嶋先生の知り合いが理事長をしているらしいので用心するに越したことはない。

 侑希は暫く苦笑していたが、ため息を一つ吐くと感慨深げに独り言を漏らし始める。

 

「それにしても兄さんが女子高かぁ……。貰い手が見つかるといいなぁ……」

 

「余計なお世話だ」

 

 感慨深げな顔で何を言い出すかと思えばこれかよ。

 家族思いなのはコイツの良い所だが、正直こういう俺の将来を本気で心配してくるのが結構面倒くさい。

 

「まぁ女子高に行くこと自体、詐欺にあった結果だからな。俺が誰かと恋愛沙汰に発展する事なんてない」

 

 絶対に。

 というか俺は侑希と違ってイケメンではなく、三白眼と無愛想な表情を取り除けばいたって普通の顔なので誰かが俺を好きになるなどありえないだろう。

 そんな俺の考え方を侑希は知っているためか再び苦笑する。

 

「まぁ、兄さんがそう思うならそれでいいけど……。それじゃ、今日は兄さんの新たな門出を祝してご馳走を作るよ」

 

 右腕で力こぶを作ってやる気を最大限に表現する。その仕草が何とも可笑しくて今度は俺が苦笑してしまう。

 

「いや、そこまでしなくていい。どうせ一年で帰ってくるんだし」

 

「それでも、だよ。父さん達が外国にいてお祝いできない今、こういうのは俺達だけでも祝わないと」

 

「さいで……。ま、好きにしてくれ。俺はもうしばらく準備しとくから」

 

 どうしても言う事を聞きそうにない侑希にそう言うと、満足そうな笑みを浮かべる。まったく、よく出来た弟ってのも対処に困るものだな。

 

「それじゃあ俺は夕飯の支度をしてくるね」

 

「あ、侑希。一つ聞いてもいいか?」

 

 部屋から出て行こうとする侑希を呼び止め、今思い出した疑問を口に出す。

 

 

「お前、転学届の書き方知らない?」

 

 

 




次回はついに音ノ木坂……というより秋葉原周辺へ!
もしかしたら原作キャラが出てくるかも……。記念すべき最初はいったい誰なのか、それは次回にならないと私にもわかりません。

それと質問で出たことなのですが、タグのガールズラブはあくまで一種のネタであり保険ですので、ばりばりユリ展開になることは無いと思います。

次回は結構早めに投稿できるかもしれません
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