ラブライブ!~胸(ポケット)にはいつも転学届~   作:カゲショウ

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素直にすみませんでした。
というか、連載開始三年たっていまだにファーストライブも終わってないってのは凄い放置しすぎだと自分でも深く反省しております。……これ、大学在籍中に完結できるのかな?

ともかく、長い長いプロローグ的なものは今回で終わりにして!!次回からは速度上げていきたいですね!!(今回は17535文字だから絶対これが最長)
投稿形式としては、たぶん章ごと投稿という形をとると思うので、また空白期間は長くなってしまうと思いますが、誠心誠意この物語を紡いでいきたいと思います。


20話 始まり

 ――吾輩は猫である。名前はまだない。

 

 実に有名な小説、『吾輩は猫である』の冒頭の一文。だらだらと長くなく至ってシンプルで、一度目にすると何処か忘れ難い始まりの言葉だ。

 読書という物にあまり時間を割かない俺だが、今まで出会って来た所謂“名作”と呼ばれる物語と言うのは冒頭から読者を惹きつけてくる。お蔭で本の内容にすぐ入り込めるし「この一文から始まる物語はこういう話だった」と覚えやすくて、読了後も物語の世界に簡単に入り込める。

 無論小説の冒頭が全てこの物語のように簡素な冒頭というわけではない。例えば『人間失格』の冒頭の一文は「私は、その男の写真を三葉、見たことがある。」とある。これは題名の不穏さも相まってとても不気味な物語が始まろうとしていると予感させる。もっと古い作品を挙げるのならば『枕草子』の冒頭「春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく、山ぎはすこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる。」という一文。平安時代の作品と言うだけあって使われている言葉自体はかなり古いのだが、言葉のテンポが良く、また情緒的で人懐っこく心に寄り添ってくる。

 このように多種多様ではあるが、冒頭一文と言うのは読者の心を鷲掴みにする為に物語を象徴し想起させイメージし易くさせるものが大半だ。敢えて冒頭分で読者を惹きつけようとせずに一ページ、一章使って読者を惹きつける作品もなくは無いがやはりそう多くはない。

 まぁつまりは人を惹きつける作品は始まりの一文が重要というわけだ。

 では仮にだ。仮に俺達がしようとしている音ノ木坂学院存続プロジェクトを物語にするのなら、果たしてどんな一文が最適なのだろうか?

 主人公も登場人物も物語も何もかもが曖昧で、ぶっちゃけどうなるかすら分からないこの一年の物語に明確な始まりを与える為の一文。

 そうだな。例えば俺が主役の話だとして、たった今を物語の冒頭とするのならばこういう文になるのだろうか。

 

「集合時間から一時間。待ち人も未来も見えないでいた」

 

 …………いや、ホント。なんで来ないんだよ、あの中学生どもは。

 場所は以前高坂と絢瀬と共に訪れたファーストフード店の一角。柱の陰になるような席が空いていたので其処に陣取り、注文したフライドポテトをもさもさと食べつつ待ち人を待つ。その待ち人というのも協力者である高坂雪穂と絢瀬亜里沙の二人なのだが……摩訶不思議な事に呼び出した本人が指定した時間になっても現れる気配がない。お蔭で無言でいつまで居座るんだと圧力をかけてくる店員さんに睨まれる羽目になっている。今日はチーズバーガー頼んでないというのに。

チラリと上体を逸らしてカウンターにいるであろう件の一人圧力団体様を盗み見る。が、前科二犯である俺は徹底的にマークされていたようで、笑顔で接客しつつも瞳だけは数秒に一度俺を射殺す勢いで見てくるので盗み見るという事は出来なかった。というか見過ぎだろ。普通に怖いんだけど。

 逸らした上体を戻して冷めきったポテトを一齧りし、独り誰に聞かせるわけでもなく不満を漏らす。

 

「ったく、どんだけ遅刻するんだよ高坂の野郎……」

 

 しなびたポテトをいくら齧ろうと満腹感は得られず、代わりに中学生に対する怒りゲージは満たされていった。因みに今は割と腹が立っているのでチョップ一発で許す気は毛頭ありません。

 それからまた暫く無言でポテトを齧りドリンクを飲むだけの時間が流れ、注文した物が全て食べ終わりそうな頃に聞き慣れた声と共に自動ドアが開いた。

 渋紙色のショートカットにプラチナブロンドセミロングの二色。少し下に視線をずらせば、小悪魔みたいな小生意気な高坂と天使の様に無垢な絢瀬が若干疲れた表情で肩を上下させている。

 二人はきょろきょろと辺りを見回し、柱の陰からその様子を睨むように見ていた俺と目が合い、それだけで何かを察した高坂はやばいものでも見た顔をし大きくため息を吐いた。おいおい高坂、ため息を吐きたいのは此方の方なんだぞ? 途中から店員も圧を引っ込めて可哀想な物を見る眼で見てきたんだからな。

 高坂は小さくため息を吐いて俺の存在を絢瀬に伝えると、注文を済ませて商品を受け取り俺が座っている席にようやくやってくる。チラリと腕時計を見ると集合時間から一時間二十四分遅刻でのご登場です。

 本当は文句の一つや二つじゃすまないくらい言ってやるつもりだったが……まぁ俺もこいつ等からしたら年上なわけだし、そもそも何かしらやんごとなき事情があるのかもしれない。それも聞かずに怒鳴りつけるのは年上失格という物だろう。

 

「いやー、すいません、普通に忘れてました」

 

「……もう少し何か言い訳しようという気は無かったのか?」

 

 あまりにもノータイムで、それもあっさりと言ってのける高坂に逆に怒る気もなくなり、その清々しさに肩透かしを食らった気分になる。何と言うか、こう、仰々しいタイトルなのにいざ読んでみると王道青春小説だったみたいなそんな感じ。

 当の本人はと言うと、これまた潔く「言い訳して何か言われるのも面倒くさいですし」と俺の正面の席に腰を下ろした。此方としても正直に言ってくれた方が問いただす手間が省けていいのだが、ここまで堂々とされても反応に困る。

 その隣に腰掛ける絢瀬は額に少し汗をにじませながら、頭を深々と下げる。

 

「西原さん遅れてしまってごめんなさい! その、ついうっかり忘れちゃってて……」

 

「お前も言い訳はしないのか……。人としては褒めるべきなんだろうが……」

 

 ぶっちゃけ素直に謝られると嫌味も言いにくいから言い訳して欲しかった、とは言えないか。

 開き直ってる高坂は兎も角、絢瀬は本気で謝ってるように見える。ここで嫌味の一つでも言えば絢瀬に怖い奴だと再び警戒されてしまい、今後の活動に何かしら支障が起きるかもしれない。だから何も言えずにいるわけだが……。

 

「…………ふっ」

 

 向かいで勝ち誇ったような顔してるのは解せないんだよな。……さてはコイツ反省する気がないな?

 ジロリと高坂を睨みつけるが効果はなく、ストローからジュースを吸い上げつつ目を逸らして誤魔化せていないのに誤魔化す。

 

「おい高坂。お前には一時間以上待たせた相手に悪いなと思う気持ちは無いのか?」

 

「やだなー、あるに決まってるじゃないですか。なかったらまず来てませんって」

 

「それはつまり、来てやった事で最大限の誠意を見せてやってるんだから俺に許せという事か?」

 

「そういうつもりではなかったのですが、間抜けなお兄さんがそう思うならそういう事でいいですよ?」

 

 ああいえばこう言い返してくるあたりコイツは本当に頭の回転が速いのだなと痛感する。その回転の速さのおかげで生徒会下議会の案は一人で考えた物より遥かにいいものになっているとは思う。が、それとこれとは話は別で、今は単純にウザいし高坂のしてやったり顔がそれに拍車をかける。

 

「……………………まぁいい。今日の所は初犯という事で何も言わないでおくさ」

 

「何だかんだで最終的には不問にしてくれるところ好きですよ。私」

 

「お前に好かれても嬉しくないな」

 

「現役中学生女子に好きって言われてその反応は無いんじゃないですか?」

 

「生憎肩書やブランドに拘らない人間でな」

 

 珍しい人ですねと至極どうでもいいかのように言い、またジュースを吸い上げる。会話処理の雑さに少しイラッとしたが、まぁ高坂だしなと短い付き合いの中で学んでしまったので割り切る事にする。

 しかしこいつらが遅れてきたとはいえこれ以上ここで無為な時間を過ごすわけにもいかない。俺にはやるべき事がたくさんあるのだからな。直近の用事として夕飯の準備が待っている。

 だから俺は指でテーブルを数回叩いて高坂達の注意を此方に戻し、話を再開させることにした。

 

「それで、お前が今日俺を呼んだ理由はなんだ?」

 

 そう問いかけると高坂は口からストローを放し絢瀬は目を輝かせて頬張っていたポテトを飲み込んだ。話があるって言って遅れて来たのに随分とリラックスモードじゃないですか? 君達。

 高坂がコホンと軽く咳払いをする。

 

「今回間抜けなお兄さんをお呼びしたのは、私達の方で少しだけ進展があったのでその報告と――」

 

「それと作戦会議です!!」

 

「お、おう……」

 

 ポテトを食べた余韻が残っているのか若干どころではなくテンション高めに絢瀬が身を乗り出す。流石にテンションが高く、声も大きかったので自称常識のある中学生の高坂に窘められ、真っ白な頬を少し朱に染め縮こまる。今回ばかりは高坂にファインプレー賞をやろう。おかげであの店員の殺気が消えた。

 

「それで先に報告をしますが、良い報告と悪い報告、それととても微妙な報告のどれから聞きたいですか?」

 

「何だよ微妙な報告って……」

 

「微妙な報告は微妙な報告です」

 

 要領を得ない説明の真意を知るために視線を絢瀬に向けて聞いてみるが、どうやら本当に微妙な事があったらしく凄く曖昧な笑みが返ってきた。

 となると俄然微妙な報告の内容が気になってくるのだが……どれから聞いたものか。

 

「…………じゃあまずは良い報告から聞こうか」

 

「はーい。じゃあ亜里沙よろしく」

 

「うん! 任せて雪穂!」

 

 そういってふんすと胸の前で小さく拳を握る絢瀬。何もそこまで意気込むほどの事ではないだろとは思いつつも、別に高坂と違って何か害があるわけでもないしいいかと割り切る。

 こほんと高坂の真似をしてか一音一音しっかり発音された咳払いをし、絢瀬は語りだす。

 

「西原さん、良い報告はなんと二つあるんです!」

 

「二つあるという事が良い報告?」

 

「ち、違います! えっと、あの……」

 

 どうやら違ったらしく、どう説明したものかとわたわたし始めた。いやまぁ分かってたんだけど。

 そこでふと前方から俺の脚に向かって蹴りが飛んできた。威力はそこまでなかったのだが、弁慶も泣いてしまう有名な箇所につま先だったのでそれなりの痛みが走る。

 

「間抜けなお兄さん、亜里沙を困らせないでください。貴方と違って純粋だから冗談も本気にしちゃうんですから」

 

「だからって脛を蹴るなよな……ったく」

 

 絢瀬に悪かったなと頭を下げ続きを促す。

 

「え、えっと、良い報告は二つあって、一つ目は私達の他に協力してくれる人が見つかった事です!」

 

「協力者っていうと前に話してたす……す? 加賀だったか?」

 

「須賀ですよ。須賀京介(すがきょうすけ)君。私達の学校の中でも屈指の亜里沙のファンです」

 

「アイドルでもないのに絢瀬にはファンまでいるのか……」

 

 まぁ絢瀬は見た目もさることながら性格も今時の中学生にしては擦れたところがなく非常に純粋で、愛嬌があって所謂愛される性格をしてる。男子の一人二人に好かれていてたとしても不思議ではないが……成程、そういう利用の仕方もありか。

 しかし関係は無いが、高坂はモテるのだろうか? 見た目はまぁいい方なのだろうが、こんな性格だと人を選びそうな気がしなくもないが……。

 

「……間抜けなお兄さん、今失礼な事考えませんでしたか?」

 

「…………いや、別に」

 

 きっと高坂にもいい人が見つかるであろうと結論付け、話を戻す為絢瀬にそういえばと話を振る。

 

「協力者は須賀だけなのか?」

 

「いえ、須賀君の他にも四人くらい手伝ってくれるそうです!」

 

「四人もいるのか? 受験生なのに暇な奴らが多い事で……」

 

「あ、あははは。えっと……一応勉強は忙しいみたいなので手伝えない事もあるそうです」

 

「それが妥当な判断だな。前も言ったがこっちに専念して落ちましたじゃ責任は取れないからな」

 

 だがそれでも五人、高坂達を合わせて七人が協力してくれるという事はありがたい。人脈は五人の知り合いがいれば世界中の人と繋がっていると言われてるらしく、ならば七人も協力してくれれば高坂達の通う中学校の三年の人脈は手に入れたと言ってもいいだろう。

 人脈抜きにしても七人も協力してくれるという事は少なくともこの七人は音ノ木坂学院という存在に触れるという事になる。つまりこの七人はほぼ最新の音ノ木坂の変化を知る事が出来るわけで、もし俺達がする事が彼等に良い印象を植え付ける事が出来れば、その変わった音ノ木坂の“良さ”はきっと伝播する。名作と言われる作品たちも誰かが感じた“良さ”が伝播した結果有名になったのだ。

 もっとも、“悪さ”も同じように伝播するのだが……そうならないように気を付ければいいだけの事だな。

 

「協力者に関しては上々の結果だな。それじゃあもう一つの良い情報を教えてくれ」

 

「はい! もう一つはですねー……ふふふっ」

 

 余程有益な情報なのか、それともただ俺を焦らしてみたいだけなのか。はたまた小学生ぐらいの子が親に今日あった楽しい事を話す時よくするあの溜めなのか……もし三つ目だったら流石に精神年齢幼すぎじゃなないか? 高坂みたいに生意気じゃない分だいぶましではあるが、その内変な人に騙されたりしないか気になってくる。

 取り敢えず気になってる的なニュアンスを込めて何なのか問う。絢瀬はその反応を待ってたと言わんばかりにサファイア色の瞳を輝かせた。

 

「なんと! 私達の学校がお手伝いしてくれるそうなんです!!」

 

「へぇ、そうなのか」

 

 ジュースを一口飲み、一呼吸。

 

「で、もう一つの良い情報って何なんだ?」

 

「え? 今言いましたよ?」

 

「いやいやいや。絢瀬さんよ、いくら俺を驚かせたいからと言ってそんな嘘はいただけないな」

 

「えっと、一応本当の事なんですけど……」

 

 どうやら絢瀬は嘘を吐くのが下手らしい。そんなたかだか生徒一人二人の頼みの為に学校側がこんな面倒くさい事に首を突っ込むわけないだろう? 今度人をだます事を生業としてる奴に会わせてやろうか? ……あ、やっぱ駄目だ。きっとアイツは絢瀬に悪影響しか与えないだろうし会わせるわけにはいかない。善良な一般市民として悪の手から守らねば。

 それはそれとして何度も本当なんですと言われ続けると、流石に実はそうだったりするのでは? と思ってしまうのが人間の性という物だ。なので取り敢えずはさっきから黙って俺の頼んだポテトを勝手に食べてる高坂に確認をとる事にした。

 

「高坂、絢瀬はこう言っているが、真実はどうなってるんだ? 後ポテト勝手に食べるなよ」

 

「あー、まぁ亜里沙の言ってる事はあながち間違いじゃないんですけど、ちょっと言い方に問題がありますかね。ポテトいただいてます」

 

 もはやいただきましたと言っていいほど減っていたポテトの最後の一本を無情にも口に放り込んだ。別にこの際食うこと自体に文句は言わないから一言くらい声かけろよ……。

 はぁと嘆息をし高坂による解説に耳を傾ける。

 

「大雑把にいえば私達の学校がこの事に関して手を貸してくれるというのは本当です。まぁこれは凄く微妙な報告にも繋がるんですが、学校側から自発的な支援はしないっていう条件で協力してくれるっていうのが真実ですね」

 

「つまりこっちから何か頼まない限り何もしてくれないって事か……」

 

「まぁそういう事ですね」

 

 確かにそれは強力な味方が出来て喜んでいいのか仕事が増えたことを嘆けばいいのか微妙だな……。

 俺は高坂の思惑通り何とも言えない顔をしていたのだろう。こっちを見る高坂が何処か勝ち誇ったような笑みを浮かべていて大変腹立たしい。

 

「表だって全面協力は贔屓とかそういう理由でできないそうですが、音ノ木坂出身の先生が多いみたいだから一応は期待してていいかもしれないですよ」

 

「そういう理由ならしかたない、か……でもなぁ……」

 

「間抜けなお兄さんの言いたい事は分かりますが、協力してくれないよりましだと割り切った方がいいですよ。ポジティブにいきましょう」

 

「そ、そうですよ! ぽじてぃぶですよ!」

 

 二人の言うとおりここは強力な味方が出来たと前向きに捉えるべきなんだろうが……やはり手放しには喜べないな。

 廃校を阻止するのは仲間を集めてハイ終わりみたいな簡単な話ではなく、仲間は増やすがやるべきタスクは簡略化活効率化させ、尚且ついくつかの道筋を立てたりその過程で生じるトラブルへの対処等を考えなければならないという極めて取りにくいバランスをとり続けなければならない。

 そのバランスをとるには協力者にある程度の自主行動性が求められるのだが、今回の二人の学校側の申し出は学校側でして欲しい事を言えばやってやるぞという完全に受動的姿勢でいるという事になる。余計な行動をされないで済むという点ではいいのだが、やはり此方の仕事が増えるというのは現状よろしくないな。

 

「……取り敢えず今取り扱いを考えるのはやめておこう」

 

 それが良いですよと高坂は言う。

 一息つく為にジュースを飲もうとするが、ズズッと空気を吸い込む音が聞こえる。どうやら中身はもう底をついてしまったらしい。少しだけ肩を落としつつジュースを置く。

 

「それで、残りの選択肢が悪い報告だけになったわけだが……悪い報告はなんだ?」

 

 その問いかけに高坂と絢瀬は一度顔を見合わせると、苦い顔で告げた。

 

「今の音ノ木坂の評判、あんまり良くないんですよね」

 

 正直聞かなければ良かったと思ってしまった。

 あまり評判が良くないだと? 認知度が低いとか他校に比べて魅力がないとかじゃなくて、今の音ノ木坂を知ったうえで評価してるって事、つまり――。

 悪い予想が脳の底から湧き出てくる。とめどなく溢れ出るそれに自然と口角が引き攣ってくるのがわかる。

 

「あ、勿論学校の全員とかじゃなくて、あくまでごく一部の意見をまとめたらそうなるのかなってだけで別に本当に評判が良くないわけじゃないですよ」

 

「でもそう判断できる意見が出たって事だろう?」

 

「それはまぁ……そうですけど……」

 

 フォローしようとした高坂はむにゃむにゃと何か言いたげに押し黙る。高坂の善意を無にした感じがして流石に良心がちくりとするが、今はそんな事を言ってられない状況だと判断し謝罪の言葉をぐっと飲み込む。

 まずは冷静に分析しよう。

 高坂曰く一部の生徒には今の音ノ木坂は評判が良くないとの事。この短期間で協力者をあれだけ募れた二人の事だからたった一人二人の意見というわけはないだろう。それを踏まえても尚『あまり評判が良くない』と結論が出たという事は好感度はゼロではなくほぼマイナスよりであると言えるだろう。

 結論。廃校阻止は予想以上に難航、もしくは頓挫するであろうと予想される。うん、最悪だ。

 

「……因みに、どこら辺がそいつらにとって不評だったのか聞いてもいいか?」

 

「そうですねぇ、理由としては行事がつまらなそうとか設備が古そうとかありましたけど……」

 

「けど?」

 

「共学化しようとしてる事が結構皆の反感をかってしまっているようです」

 

「はぁ!!??」

 

 思いもしない理由を聞いて思わず大きな声を上げてしまった。

 その瞬間高坂と絢瀬が落ち着いてと宥めてくれたおかげで直ぐに冷静に戻れた。ついでに視界の端に例の店員が映りこんできたのでもう何があっても大声をあげまいと誓った。

 コホンと一つ咳払いをして話を戻す。

 

「……で、どうしてまたそんな理由で反感をかったのかわ分かるか?」

 

 絢瀬は分からないですと首を横に振る。うん、俺も分からない。俺が思いつく理由としてはそいつらが男嫌いだという事だけなのだが、共学の中学に通っていながら男嫌いの生徒がそこまで多いわけはないだろう。

 そう考えると理由はもっと別の所にあるのだろうが、今の情報等を照らし合わせてもその答えは出なかった。

 この中で唯一その理由という物に心当たりがあるのか高坂は苦い顔をして頬を掻いている。

 

「そう答えた人達にこっそり聞いたんですけど、その、なんか男の人に媚び売ってるみたいなのが嫌みたいで……」

 

「何だそれ。女のプライドって奴なのか?」

 

「私には分からない何かがあるみたいですよ。まぁただでさえ最近はこの辺り女子高ばかりだから、そういった格付けがされてるかもしれないですねぇ」

 

「格付け、ねぇ……」

 

 どうも現役女子中学生には男子に頭下げて存続しようとする学校より、名門女子高の方が受けがいいらしい。となると音ノ木坂の共学化は完全な悪手だ。まさか一手目で相当不利な状況に追い込まれていたとはな……聞いてないですよ、理事長。

 

「取り敢えず今日したかった報告は以上なんですけど……作戦どうします?」

 

「逆に聞くがお前らはどうしたらいいと思う?」

 

「…………さぁ?」

 

「あ、あはははは……」

 

 ま、普通はそうだよな。

 今現在分かっている音ノ木坂のマイナス要素は、設備が古い事。行事がつまらなそうな事。宣伝方法。部活動の成績。学校としての実績。そして共学化。前半三つはどうにかできなくはないのだろうが、後半三つがかなり難しい。

 部活と実績に関しては本来は時間をかけて積み重ねていくもので、たった一年、学校選びの時間を考えれば半年でどうこうできるものではない。共学化に関してはもはやどうしようもないというか、そういった意見がある事を踏まえてどう改善するかをひねり出さなければならないのだ。そう簡単にこうしていこうという作戦等が浮かぶがない。

 

「間抜けなお兄さん。提案なんですが、取り敢えずこの問題は一度置いておいて、私達がこれからどうするかを話し合いませんか?」

 

 眉間に手を当てて具体的な改善策等を考えていると、高坂が不意にそんな提案をしてくる。

 

「置いておくってお前な……。問題を先延ばしにしても結局はやらなきゃならなくなるんだぞ? だったらさっさと終わらせた方がいいだろ」

 

「そうだよ雪穂!諦めるにはまだ早いよ!」

 

 俺の反論に絢瀬が同調して諦めるのはまだ早いと抗議する。それに高坂は困ったように薄く笑う。

 

「でもすぐに思いつかない事を頭捻って出そうとしても、まともな答えなんてそうそうでないと思わない?」

 

「それは確かに……そう、なのかな?」

 

「ほら、テストでも難しい問題は一度飛ばして余裕が出来てから解き始めると意外と解けたりするでしょ。これも一度冷静になった頭で考えたほうがいい案が出るかもだし、今は考えないようにしましょうよ」

 

 確かに高坂の言ってる事は一理ある。今俺の脳は新情報と予想外の事態でキャパシティオーバーとなっていて、それから最適解を出そうなど到底無理だろう。

 ただ個人的にはこういう面倒くさい問題は先延ばしにしたくないのだが…………ここは時間を有効活用する方が賢い選択になるか。

 

「オーケー、わかった。取り敢えずこの問題は後々何かしら話し合いの場を設けるとしよう」

 

「前みたいに裸をいきなり見に押し掛けられても困るんで事前に連絡は入れてくださいね」

 

「は、裸!!??」

 

「おい高坂口には気をつけろ。でないと直ちに俺が国家権力に連行される事に――あ、ちょっとそこのマダム違うんです。誤解なのでその『110』をプッシュした携帯をしまって話を聞いてください」

 

 近くに座っていた婦人方が若干怯え顔で通報しようとしているのを寸前で止める。こういう挙動を察知できるあたり確かな経験と積み重ねを感じるな。全然嬉しくも感慨深くもないが。

 まぁいい。取り敢えず今は若干不審な視線を感じる事と、近くではわわと顔を赤くしながらパニックを起こしている絢瀬を無視してマダム達の誤解を解くのを優先しよう。

 

 

 

「さて、それじゃあこれからの話でもしようか」

 

 あれから誤解を解く事約一時間。やはり人の見た目というものは話し合いにおいてかなり大切なファクターとなる様だ。高坂が最終的に絢瀬の誤解を解き終わった後に介入してくれなかったら、後一時間は切々と高坂との馴れ初めを語る事になっただろう。

 

「その前に間抜けなお兄さんは私にお礼の一言二言くらいないんですか?」

 

「そもそもお前が変な言い方しなければあんな誤解は生まなかった訳だから謝罪の一言二言くらいないのか?」

 

「細かい事は取り敢えず置いておいて話し合いしましょうよ」

 

「全然細かくは無いが、これ以上変に長引かせてお前まで帰られたら困るからスルーしてやるよ」

 

「ありがとうございまーす」

 

 反省のまったくがまったく見えないんですけどそこん所どうなんですか? 高坂さん?

 はぁと盛大にため息を一つついて高坂と視線を合わせる。因みに今この場に絢瀬はいない。どうやら門限が誓いらしいので、先に帰らせたのだ。

 

「これからの事と言えば結局アレどうしたんですか? 生徒会下なんとかって奴」

 

「生徒会下議会な。一応概要とかをまとめて理事長に出してはみたけど、詳しい説明と最終判断はまだだな」

 

「てことはまだ何も動けない状態なままなわけですか」

 

「そういう事だ」

 

 二人してはぁとため息を吐く。提出したばかりなので動けないのが当たり前ではあるのだが、やはり此方としては即時動き出したいというのが本音だ。高坂達の報告を聞いてその気持ちが強くなっている今は尚更現状がもどかしくてたまらない。

 

「じゃあ取り敢えず今出来るのは認可された場合の今後の動きを話し合う事くらいですね」

 

「認可されなかった場合も考えた方がよくないか?」

 

「意地でも許可をもぎ取ればいいので、そんなifは考えなくていいんです」

 

「お前それがどれだけ難しいと……いや、でも正論か」

 

頑張ってくださいね、とニヤニヤと笑う高坂。コイツに協力を頼んだことを少しだけ恨みつつ、分かったよと大人な対応をして煽りを流す。

 

「取り敢えず今後の動きだが、こっちは暫く生徒会下議会の編成に当たる予定だ」

 

「暫くってどれくらいですか?」

 

「最短二日で最長一週間くらいだな。ある程度役職者の目星もつけてるから明日から勧誘をする予定だ」

 

「そうですか。一応逃げられない事を祈っておきますね」

 

余計なお世話だ。そう言いたいが、残念ながら似たような前科なら両手の指では数えきれない程ある。例え小悪魔の祈りでも保険にはなるだろう。

拭えない過去にため息を一つ。そのタイミングで高坂が話を戻した。

 

「それじゃあその後はどうするんですか? さっそく生徒会に喧嘩ふっかけるんですか?」

 

「アホか。それより先にやる事が山ほどあるわ」

 

 具体的には部活動の相互管理を目指した組織の形成とか年間行事の見直しとか宣伝方法の改善とか。ついでに時間があれば予算変更等、生徒会と事を構える前にある程度これらを終わらせる必要があるからすぐには無理だ。すぐには。

 

「なーんか含みのある言い方ですね……。一応冗談なので本当に喧嘩したりしないでくださいよ? 亜里沙の悲しむ顔は見たくないんで」

 

「そう言えば絢瀬のお姉さんが生徒会にいるって話だったな……。ま、努力はするさ」

 

 努力はするが確約はしない。だってこの世に絶対などないのだから。

 しかし高坂はマジやめろよと言いたげな怒気と憎悪の篭った視線を向ける為、政治家仕様の返事を取り下げて極力諍いを避けるように誓わざるを得なかった。友達想いなのはいい事だが向ける敵意が強すぎやしませんかね。

 プレッシャーから解放されてふっと肩から力が抜ける。会長とは違った意味でおっかなそうなので、今後絢瀬関連については真摯に対応していこう。

 

「じゃあ生徒会下議会作り終わったら、間抜けなお兄さんはそのまま部活関連を。私達は音ノ木坂の良いアピール方法を考えるって感じに役割分担します?」

 

「そうだな。……あ、いやお前達には違う仕事をしてほしい」

 

「違う仕事って、また意識調査ですか?」

 

 待ったをかけられた高坂は折角の提案を棄却されたからか若干不満そうな顔をする。一応似たような仕事をしてもらうから文句は内容を聞いてからにしてもらうとしよう。

 氷が完全に溶けきってできた水をストローで吸って軽く喉を潤し、話を切りだす。

 

「まず高坂に聞きたいんだが、お前はスクールアイドルって知ってるか?」

 

「は? ……ええ、まぁ知ってますよ。かなり前から流行ってますからね」

 

 聞いた瞬間口元が少し引き攣ったように見えたが……まぁいいや。気にしないでおこう。

 

「なら話は早い。今年になって音ノ木坂に新しくスクールアイドルが結成されるらしくてな。俺としては目立って親しみやすい看板が出来るのは願ってもない事だし、生徒会下議会としてこいつらのバックアップをしたいと思っている。まぁ、新しいスクールアイドルとやらがどれだけの実力を持ってるかはまだ知らないがな」

 

「……つまり私達の次の仕事って、そのスクールアイドルの宣伝って事ですか」

 

「流石高坂。話が早くて助かる」

 

「今回ばかりは分かりたくはなかったですけどね……」

 

 そう言う高坂の表情は苦虫を噛み潰して青汁で流し込み、更ににがりの原液でうがいしたかのようだった。端的に言えば凄く嫌そうな顔された。

 高坂は基本的にはなんだかんだ文句言いつつも協力的な姿勢を見せてくれた。だがそれが今は出来れば協力したくないという意志が強く伝わってくるではないか。何? スクールアイドルに親でも殺されたのか?

 とはいえ流石にこの反応は予想外で、少なからず気になってしまう。

 

「どうした、高坂。この仕事はしたくないか?」

 

「したくないというかあまり私は表だって関わりたくないというか……」

 

「歯切れが悪いな……。何かやりたくない理由でも?」

 

「無かったらこんな顔してませんって」

 

 それもそうか。

 高坂は今日見た中で一番の大きなため息を吐き、右手で頭痛でもするのか額を押さえる。そして肺の中の空気を出し切ったであろう後にテーブルに両腕を置いて話す。

 

「間抜けなお兄さんはそのスクールアイドルのメンバーの名前って知ってますか?」

 

「名前? 確か園田海未と南ことりと……あと名字は知らないが穂乃果という二年生という事は知ってる」

 

「なーんで一番重要な所の情報が抜け落ちてるんですかねぇ……」

 

「俺に教えてくれた人が覚えてなかったからしょうがないだろ」

 

 小泉も若干申し訳なさそうにしてたから許してやってくれ、と続けて言おうとしたがそもそも小泉って誰だって話になりそうなので黙っておく。

 全然音ノ木坂のスクールアイドルについて知らないで本当に大丈夫ですかと言われ、ふむと考える。確かにスクールアイドルに利用価値はあるものの、その対象がどんな人物か知らなければ御する事も出来ない。明日にでも田城野や辺田に聞いて調べておこう。

 

「で、どうやらその穂乃果って奴が関係してるみたいな口ぶりだが……どんな因縁が?」

 

「因縁は無いです。血縁ならありますけどね」

 

「血縁? おい血縁って事はお前の――――」

 

「あれ? 雪穂?」

 

 その先の言葉は俺の口からは出てこなかった。いや違う、正確には遮られたのだ。

 ではいったい誰に?

 正面に座っている高坂雪穂が最有力候補だが、どうも違うみたいだ。高坂自身酷く驚いた顔をして俺の方を、というか俺の後ろを見ている。鳩が豆鉄砲をくらった後に猫だましされたらきっとこんな顔をするのだろう。

 

「おーい、ゆーきほー?」

 

 俺の背後からもう一度聞こえる言葉を遮ったものと同じ音。女声だが南や星空の様な高い声ではなく少し低めで、だけれども聞きやすく明るい声。園田や会長にはない親しみやすさを感じる、そんな声が真後ろから高坂を呼ぶ。副会長や小泉、そして矢澤先輩とは違った独特の声質に何故か無性に興味をそそられた。

 後ろにいるのは何者なのか、その純粋な疑問と興味からくるりと上半身をねじって後ろを振り返る。

 まず目についたのは音ノ木坂の制服だった。リボンの色から二年生だと推測できる。次にバーガーとドリンクの乗ったトレイに目が行き、其処から徐々に視線を上げていくと愛らしさと活発さが見事に調和した顔があり、高坂より明るい茶髪を左側で一房結っているのが特徴的だった。

 

「……お姉、ちゃん? 何で此処に?」

 

 高坂の問いかけにちょっとお腹がすいちゃって、とお姉ちゃんと呼ばれた人物はたははと笑った。

 お姉ちゃん。確かに目元とかは似ている気がするな。ただ母親似である高坂……高坂雪穂とは違ってそれ以外に似ているパーツが見当たらないため、にわかには信じ難いがそいう事なのだろう。

 ……ならば恐らくこの人物がスクールアイドル三人組の最後の一人、高坂穂乃果。音ノ木坂の二年生で高坂の血縁者である以上ほぼ間違いは無いはずだ。

 じっと高坂穂乃果を観察していると、流石に俺の存在に気付いたのか彼女と目が合う。

 

「男の人……」

 

「そう言う貴女は女の人」

 

「間抜けなお兄さん面白くないんで怪しまれない内に先に自己紹介してもらってもいいですか?」

 

 手厳しい評価をいただいた事を少しだけ残念に思いつつ、後頭部を軽く掻いて自己紹介をする。

 

「あー、どうも怪しい者じゃないです。西原雅也、一応豊丘高校所属の二年生だけど、今は音ノ木坂で色々やってます」

 

「あれ? 君の名前どっかで聞いたことあるような……」

 

 むむむと首をひねりながら真剣な顔で記憶を掘り起こし始める高坂穂乃果。コイツの関係者には大体接触してるから大方南とか園田辺りから名前がぽろっと出たのを聞いたのだろう。この二人からじゃないなら高坂雪穂からだろうがな。

 中々思い出せずに唸る姉に妹が助け舟をだす。

 

「ほら、お姉ちゃん前ご飯のときお母さんと話してた迷子の人」

 

「あぁ! 確かにそんな名前だったね!!」

 

 一度高坂家に家庭訪問して印象操作しないといけない気がしてきた。確かに印象的な出会い方ではあったのかもしれないが、あれはほぼ俺のせいじゃないからもっとこう、身体的特徴で記憶してもらえませんかね? ほぼ無いけどさ。

 がっくりと肩を落としそうになる俺に後ろから勝ち誇ったような短い笑いが聞こえ、前からはたははと少し申し訳なさそうな笑いが聞こえる。高坂雪穂、やっぱりお前後で今日の分の罰を全部脳天に叩き込んでやるから覚えてろよ。

 

「隣り、いいかな?」

 

「ええ、どうぞ」

 

 持っていたトレーと荷物を置いて俺の隣の席に座る。そして手を合わせて元気よくいただきますと唱えると、大口を開けてハンバーガーに齧り付いた。

 

「ん~、おいひぃ~」

 

「もう、お姉ちゃん、口の中にもの入れたまま喋らないでよ。というかご飯前なのにそんなに食べてたらすぐ太るよ?」

 

「ふ、太らないよ!! それに雪穂だってここにいるって事は何か食べたんでしょ? そっちこそ今ダイエットしてるのに太るよ?」

 

「ちょ、お姉ちゃんっ!!!」

 

 ……できることならそういったデリケートな話題の姉妹喧嘩は俺のいない所でやってもらえないだろうか。この二人の母VS妹の方の時もそうだったが、どうもそういった話題を異性の前で繰り広げる傾向があるみたいだがそこら辺の教育をもう一度した方がいいのでは? 流石にこの空間には居心地の悪さを感じてしまう。

 体重がどうの行儀がどうのと段々と言い合いがエスカレートしている兆しが見えてきたので、一度咳払いをして俺の存在をアピールする。そこでようやく俺の存在を思い出したかのようにピタリと動きを止め、羞恥に薄く顔を赤くして押し黙る。

 

「あ、あはは。ごめんね、急に変な話始めちゃって」

 

「そうですね。あまりそういった話を異性の前でするのは気を付けてください」

 

「……間抜けなお兄さん、此処は気にしてないよとか気の利かせた一言をいう所ですよ」

 

「そもそもお前の煽り耐性が低いのが原因だろうが。皮肉はさらっと流せるくせに」

 

「乙女には無視できないワードがあるんですよ」

 

「そう思うなら人のポテト勝手にとって食うなよ乙女」

 

 ぐぬぬと何も言い返せない高坂雪穂に少しだけ優越感を感じる。実に愉快だ。

 心の中で高笑いをしているとふと横から視線を感じる。横目でちらりと見ると、当然だが高坂穂乃果が物珍しそうな顔をして俺の顔をじっと見つめていた。

 

「……なにか?」

 

「あ、ううん。別に君に何か言いたい事があるとかじゃないんだけど、雪穂と随分仲が良いんだなぁって思って……もしかして雪穂の彼氏さんだったりする?」

 

「「…………はぁ」」

 

 今日一番のため息が重なった。

 

「お姉ちゃん、流石にその発想は短絡的じゃない?」

 

 疑問形ではあったが俺と恋人扱いされたことが気にくわなかったようで、心底嫌そうな顔をする高坂雪穂。

 

「確かに間抜けなお兄さんは弄ると面白いけど、見ての通り気遣いどころか優しさは皆無だし、私好みのイケメンじゃないんだよ? 何よりすぐ暴力をふるうんだから、この人が恋人なんてありえないよ」

 

「確かに同感だ。身内の前で言うのもなんだが、年上に対する敬意も払わず生意気に楯突いたりからかってくる奴なんて土下座されても嫌だし、何よりこんな子供を恋愛対象としてみるなんてできないからな」

 

 そして始まるテーブル下での脛蹴り合戦。今の所男女の力の差で俺の方が有利であるが、高坂雪穂も負けじとつま先で一撃を重くしてくる。このガキ、そういう素直に引き下がらない所が子供だって言うんだってのっ。

 ゲシゲシとテーブル下でけり合う程の仲の良さを目の当たりにした高坂穂乃果は数度瞬きをして、またあはは、と苦笑するのだった。

 その数秒後には蹴り合いがテーブルの脚をお互いが蹴ってしまい、互いに自爆して痛み分け、という形で一応の決着を迎えたのだった。

 三度、深呼吸をする。

 

「そういえば、高坂は————」

 

「「私?」」

 

「…………高坂のお姉さんはスクールアイドルやってるって本当なのか?」

 

 同じ苗字が同じ空間にいると面倒くさいなと思う俺に、高坂穂乃果は少し目を開いて、今口の中に入ってるハンバーガーを飲み込んだ。妹の忠告を素直に聞き入れてる当たり、その妹よりは素直な性格をしているようだ。

 

「君、私達のこと知ってるの?!」

 

「あぁ。学校で噂を聞いてて、今偶然そこの妹にその話を聞いてたところで————」

 

「君も音ノ木の生徒なの?!」

 

「あ、あぁ、まぁ。一応二組に————」

 

「そっかー、まだ挨拶くらいしかしてないけどもう私達のことが噂になっちゃってるのかー! そっかそっか!」

 

「…………」

 

 こいつ凄い話聞かないんだけど。そう目で訴えると、彼女は肩を一度すくめ、どうしようもないですと言いたげに静かに首を横に振るのだった。高坂雪穂みたいに故意に話を聞かないのは対処(せいさい)加えれば済むけど、こうも天然全開だと同じ方法が使えないから困るな……。

 露骨にため息をつくと、流石に浮かれて暴走気味になっていた事に気づいたのか「ごめんね」と、たははと苦笑して謝る。

 

「それで、私に何か聞きたいことがあるのかな?」

 

「いや、なんか面白いことをやってるみたいだから、その活動は今どんなことやってるのかと気になってな」

 

 結局宣伝と練習してるってことしか知らないし。

 祭り上げて逃げ道を塞ごうにもやり方というものがる。下手に事実と違うレベルの過剰広告でもしようものなら、現実とのギャップでこいつらはいらない失望を買い、俺は信用を得られなくなる。そうなったら非常にまずい。

 こいつらのライブは、いわば今回の廃校阻止におけるガソリンなのだ。エンジンは生徒会で、その動きをよくするオイルが俺たち生徒会下議会……。ガソリンがないエンジンなど後は暴発する事しかできないのだから、しっかりと適量(事実に基づく)でなおかつ良い物(人を引き付ける)を使わなければならない。その為にはやはり情報は大切だ。

 高坂穂乃果はえーっと、と必死に思考を巡らせているのか眉間にしわが寄っている。

 ……おかしい。こいつらが活動を始めたのってつい最近だったはずなのに、こうまで必死に考えなければ思い出せないだなんて……よほどの馬鹿なのか? 妹の方を見ると、どうしようもないですと言いたげに静かに首を横に振るのだった。

 

「えっと……あ! 今日は街でライブの広告を配ったよ!」

 

「ほうほう。それから?」

 

「屋上で練習したよ! ステップと踊りながらの立ち位置の入れ替わりとかが難しくてまだ上手くできないんだけどね……たははー」

 

「まぁ初心者だし仕方ないだろ。練習あるのみだ」

 

「うん、頑張るよ!」

 

「で、他には?」

 

「ないよ!!」

 

「正気?」

 

「正気だよ!?」

 

 つい本音がぽろっと出てしまった。失敬。

 しかし、まぁ……何とも言えないなぁ。練習自体は真面目にやってるにしても、街の人への宣伝はいらないだろ……。ライブの日は普通の授業日で部外者入ってこれないから、配っても来れないオチが待ってるだけなんだよな。可哀そうに。

 ただ、こいつらが今はやってないようだけど、動画配信サイトとか専用ホームページとか作れば今日の活動は無駄にはならないし、何なら学校の許可もぎ取ってスクールアイドルのサイトに登録するこも……。あ、そこら辺を俺らがフォローすべきなのか。

 

「お姉ちゃん、意外と何もしてないんだね……」

 

「え、嘘っ!?」

 

「って顔を間抜けなお兄さんがしてるよ」

 

「おいコラ。勝手に人の心を代弁するんじゃない」

 

「否定はしないんだ!?」

 

 正直、もう少し別のこともしてほしかったなとは思いました。そういう意味を込めて目を逸らすと、そんなぁと情けない声を出してがっくりと肩を落とすのだった。

 

「うぅ……他にすることってなぁにぃ……」

 

 一生懸命やってる活動が全然足りてないと言われたのがよほど心に響いたらしく、サイレンよろしくウーウー唸りながらハンバーガーを齧る。

 ……流石に初対面なのにずけずけと言い過ぎたか? これでスクールアイドル活動に支障が出てもらっても困るし、何かフォローをすべきかな。しかし、なんてフォローすればいいのだろうか……。

 

「……ま、悩んでても仕方ないよね!!」

 

 逆に悩み始めた俺と交代するように、高坂穂乃果はカラッとした笑みを浮かべる。その瞳は先を見据えているようだった。

 立ち直り早くない? 妹の方を見ると、それが姉の良い所ですと言いたげに笑みを浮かべて首を縦に振るのだった。

 

「高坂のお姉さんは……辛くはないのか?」

 

 何気なく、問いかける。

 

「辛いって、何が?」

 

「いや、さっきみたいに努力足りてないみたいなこと言われたりしてさ。それに生徒会長からも目をつけられてるんだろう? どうせあの会長の事だから難癖付けてきてるんじゃないのか?」

 

「あはは。まぁ、確かに辛くないわけじゃないかな。生徒会長からも小言言われたりしちゃうし」

 

 苦笑して頬を指先で掻く。やっぱりあの会長小言言ってたのかよ……。

 でもね、と高坂穂乃果は両手で拳を握ってガッツポーズをとる。

 

 

「やるって決めたんだから、最後までやり遂げるよ。絶対にっ!」

 

 

 すっとその言葉は俺の胸に響いた。

 というよりも、その言葉に対して何の抵抗感も持たなかった。努力とはこうでなくてはと、思えた。

 トントンと脛が軽く蹴られた。顔を向けると、高坂雪穂が手招きしていたのでなんだよと思いつつ耳を近づける。

 

「お姉ちゃんがこう言うなら、スクールアイドルの活動、期待しててもいいと思いますよ」

 

 こそっと耳元で囁かれたその言葉に俺はどう返せばよかったのだろうか。不安要素はたくさんある。正直彼女たちの状況もそうだが、メンバー構成的にも不安ではある。ただ、妹のお墨付きであるのならば多少は期待して最悪の事態を考えなくて済むのだろう。

 ならば俺が高坂穂乃果にかける言葉はそう多くはないだろう。

 

「そうか。なら、頑張れよ。高坂のお姉さん」

 

 とてもシンプルな激励。けれども、やはりこの言葉選びは間違いなかったようで、高坂穂乃果はその顔に笑みを浮かべてこういうのだった。

 

「うん! 頑張るよ!!」

 

 冒頭の一文というのは読者の心を鷲掴みにする為に、物語を象徴し想起させイメージし易くさせるものが大半だ。

 では仮にこの音ノ木坂存続プロジェクトを物語にするのなら、どんな果たしてどんな一文が最適だろうか?

 主人公も登場人物も物語も何もかもが曖昧で、ぶっちゃけどうなるかすら分からないこの一年の物語に明確な始まりを与える為の一文。

 そうだな。例えば俺が主役として、きっとそれらを小説家みたいに何かに例えて、ロマンチストみたいなきざったらしい言い回しで飾るのならこうなるのだろう。

 

 ————辺りは暗闇で、自分の手さえも見えない。けれども、一番星は確かに見えていた。

 

 

 




【次回予告】
「理事長、私はこのような組織は必要ないと思います」

物語は彼と彼女の邂逅から加速する

だが、やはり現実は非常で上手くいかないことばかりで雅也を苦しめる

「あの氷河期会長、いつか絶対ぎゃふんと言わせてやる……!」

会長との悶着

そんな心境穏やかではない彼のもとを訪れる一人の少女

「あ、あの、西原雅也先輩はいるかに……いますでしょうか?」

音ノ木坂の仲間一号に彼女はなってくれるのか

次回「学校に草むらはないから仲間は酒場で探す」

「ちょっと何言ってるかわかんないにゃ」
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