ラブライブ!~胸(ポケット)にはいつも転学届~   作:カゲショウ

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原作キャラ出ます!





…………それだけです。本編をどうぞ


03話 遠い道のり、その途中で

 春独特の気持ちの良い風が俺の頬を撫でた。

 などと詩的に表現してみたが、現在地の駅前は無風。俺の頬を撫でるのは自動車が発する排気ガスなどでまったく気持ち良くない。

 

「……早く下宿先に行こう」

 

 右手でスーツケースを引っ張って歩き始める。人の喧騒の中でもスーツケースを引くガラガラという音はよく響いた。

 

「今はここら辺だから……。今の所大丈夫だな」

 

 昨日田嶋先生から送られてきた地図を活用しながら都会のコンクリートジャングルを歩くのと同時進行で、頭の中に地図と風景をインプットさせていく。こうすることによって初めての場所でも迷子になることはないし、何より逃走ルートが確保しやすい。

 

「しっかし遠いな下宿先は。結構歩いたと思ったんだけどな……」

 

 地図に丸で囲まれてる目的地と俺が降りた駅とでは結構距離が離れていた。しかし、駅を出発してから数十分。下宿先はいまだに見えず、視界に広がるのは普通の住宅街だった。

 所々にマンションやアパートは見えるが位置的に違う。というか下宿先は歩いて五分ぐらいで秋葉原の街に出られた位の場所なので、結構離れている住宅街にあるわけはなかった。

 ……降りる駅失敗したな。

 ここら辺の地理を把握するために少し早目の駅で降りた事を後悔する。きっと素直に秋葉原駅で降りていればこのような事にはならなかっただろう。

 俺は一度立ち止まって大きく深呼吸をし、スーツケースを握りなおして気合を入れなおす。

 

「とりあえず後悔するのはこの住宅街を抜けてからだな」

 

 若干鬱気味になってきた気分を何とか振り払い再び歩き出す。

 だがこの時俺は、この地図の違和感に気づけないでいた。

 

 

 

「……何故だ。何故住宅街から出られない!」

 

 あれからどれくらいの時間が過ぎたのだろう。俺は未だに住宅街から出られずにいた。

 おかしい。予定では今頃秋葉原市街に着いてるはずなのだが…………。

 再び地図を開いて目を凝らして見る。しかし、特におかしな点は見当たらなかった。

 …………困った。俺、迷子だ。

 高校二年生にもなって迷子とは……。こんな事田嶋先生が知ったら大爆笑必至だろうな。

 大爆笑している田嶋先生の姿を想像すると無性に苛立ちがこみ上げてきたが、今はそんな事に気を取られている場合ではないのでその想像を頭から追い払う。

 とりあえずこの状況を打破する方法を考えようとしたらぐぅ~と俺の腹が、今の俺のように情けない音を立てて空腹を訴える。

 ちらりと腕時計を確認すると十二時をとうに過ぎていた。駅に降り立ったのが確か十時位だったのでかなりの時間歩いていたことになる。

 時間を確認すると気が滅入るから此処まで腕時計を確認せずにいたが、よもや数時間も歩いていたとは思わなかった。

 何か食べるれるものがないかポケットの中を探る。が、出てきたのはのど飴(レモン味)とのど飴(イチゴ味)とのど飴(タバスコ風味)だけだった。と言うか最後のなんだよ。のど飴なのにタバスコ風味とか喉をただ痛めつけることしかできないだろ。

 

「腹、減ったな……」

 

 空を仰いで独り呟く。鮮やかな水色をした空が嫌になるほど綺麗だった。

 そこでふと視界の隅に一軒木造の店を見つけた。

 若干古風な佇まいの店の入り口にはいかにもな書体で『和菓子屋 穂むら』と書かれている看板が架かっていた。

 ……手作りはあまり得意ではないが背に腹は代えられないな。

 所持金を確認して店の引き戸を開ける。

 

「あ、いらっしゃいませ」

 

 店内は想像道理だが、カウンター奥に架かっている『穂むら』という文字がこれでもかという程目立っている。

 そのカウンターでは茶髪でショートカットの中学生くらいの少女が愛想のよい笑みを浮かべて俺を迎えてくれた。が、次の瞬間にはその笑顔のまま口の端がヒクッと吊り上り固まった。

 一体どうしたというのだ……などと一応思っておくが、その原因は凄く心当たりがあった。

 俺は三白眼で無愛想な顔をしている。そのため初対面の人はたいてい怖がって俺と関わろうとはしない。……似たような顔をしている田嶋先生は何故怖がられないのか不思議なところだ。

 

「……あの」

 

「は、はい! なんでしょう!?」

 

 ここまで怖がられたのは初めてだ。再認識したけど意外と心にくるものがあるな……。

 無意識なのだろうがこの少女の反応で俺は若干の悲しさを感じつつも、当初の目的を果たすためにあくまで気にしていない風を保つ。

 

「えっと、この饅頭をみ」

 

――――ぐぅうううう

 俺の言葉を遮るように胃が大ブーイングを起こし始める。

 

「…………」

 

「…………」

 

 二人の間に暫く沈黙が訪れる。

 まさか空気を読まない腹の虫がいるとは思っていなかったので、若干の気恥ずかしさが体を駆け巡る。というか君も何で黙るんだよ、なんか更に恥ずかしくなるだろ。

 

「……三つください」

 

 バラ売りになっている饅頭を指さして注文する。

 

「……フフッ。このお饅頭ですね。かしこまりました」

 

 さっきまで呆然としていた少女は唐突に可笑しそうに笑うと先程までの怯えは何処へやら、入店した時のような愛想のよい笑みを浮かべていた。

 

「ちょっと待っててくださいね」

 

 そう言って何故か目の前に並べられてる饅頭を無視して、店の奥へと入って行ってしまった。

 ……笑顔で職務放棄か? 等と考えている内に少女が手に饅頭の載った皿を持って戻ってくる。

 そして先ほどとは違う悪戯っぽい笑みを浮かべながらその皿を俺に差し出してきた。

 

「お腹が空いていらっしゃるんですよね? お父さんに頼んでできたてを持ってきたので、よかったらこの場で食べて行ってください」

 

「…………御心遣い感謝します」

 

 気をきかせてくれたことに感謝しつつ、少女から饅頭が載った皿を受け取る。だが、欲を言えばスルーしてほしかった。

 俺は饅頭を一つ手に掴み頬張る。

 一瞬頭に何かの映像が横切って顔をしかめるが、すぐにそれは収まり口の中に程よい餡子の甘味と皮のモチモチとした触感が口に広がる。

 ……緑茶が欲しくなるな。

 そう思えるほどこの饅頭は俺好みの味だった。

 

「気に入ってもらえたみたいで良かったです」

 

 俺は何も言っていないのだが、態度や表情でそう判断したであろう少女が微笑む。

 

「大きな荷物ですけど……旅行の途中ですか?」

 

 少女は俺の傍らに置いてあるスーツケースを見てそう思ったのか気さくに話しかけてくる。

 

「いえ、今は引っ越しの最中みたいなものです」

 

「そうだったんですか。それってこの近辺ですか?」

 

「あー……最初はそう思ってたんですけど、恥ずかしい話現在迷子中で……」

 

 そう言うと少女は声を殺して笑い始める。

 いや、確かにいい年した男が迷子になってるっていうのは可笑しいかもしれないが流石に笑い過ぎではないか?

 少女は暫く笑っていたが、俺の視線に気が付いてはっと口に手を当てる。

 

「す、すいません、笑ってしまって……」

 

「いえ、笑いたくなる気持ちもわかるので構いませんよ」

 

 笑いたくなる気持ちは分かるが、そこは笑いを噛み殺してくれるとありがたいものだ。

 俺は一つ咳払いをして少女に問いかける。

 

「あの、それで道を聞きたいんですが良いですか?」

 

「あ、はい。私の分かる範囲で良かったら教えます」

 

 快く引き受けてくれた少女に、俺はありがとうと一言言ってポケットから地図を取り出して少女に見せる。

 

「○○って所に行きたいんですけど中々つかなくて……」

 

「○○、ですか……って、あれ?」

 

 地図を受け取ってそれを見た少女の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。そして地図を端から端まで隈なく眺め、くるくると地図を回して見て「あ」と呟いて凄く気の毒そうに顔を上げる。

 

「あの、この地図間違ってます……」

 

「なん……だと……っ!?」

 

 驚愕の事実に思わず膝をつきそうになってしまう。というかあの野郎間違ってる地図を渡すとかどういう神経してんだよ。

 

「というか間違っているというより改竄されてます」

 

「本当に何がしたいんだよアイツは!?」

 

 頭の中では改竄された地図のせいで道に迷っている俺を想像し、今頃大爆笑しているだろう田嶋先生の姿が思い浮かんだ。ここまで来ると本物の詐欺師もびっくりだな、おい。

 田嶋の愚行を前に頭を抱えていると、少女が俺の事を凄く気の毒そうな顔をして、これまた気の毒そうな声を掛けてくれた。

 

「あ、あの……大丈夫ですか?」

 

「ええ、大丈夫です。ちょっと詐欺師を殺してやろうと思っただけですから……」

 

「それ、あんまり大丈夫じゃないですよね!?」

 

 はっはっは、何を言うかと思えばそんなことか。大丈夫、俺は至って冷静だ。どうすれば人が苦しみながら死んでいくのかは理解している。

 どんな方法を使って殺してやろうか考えていると「ただいまー」と言う声が奥の方からして、ぱたぱたと小走りするような音が近づいてくる。

 店の奥とを遮ってる暖簾を手で掻き分けて一人の女性――雰囲気的にこの少女の母親だろう――が姿を現した。

 

「雪穂、店番ありがとう……って、お客さん?」

 

「うん。怖そうな顔してるのに実は結構面白いお客さん」

 

 ヘイ、ガール。その情報は付け加えなくても良いんだぜ? しかも母親の方も「あら、そう」って微笑んでるし……。

 

「それで、どんなふうに面白かったの?」

 

 マダムよ、その話題は掘り下げるような話題ではない。

 

「えっと、お腹が空いてたからお饅頭を買いに来たけど相当お腹減ってたみたいでお腹が大きな音立ててたり、引っ越し先を探して迷子になってたり、なんか改竄された変な地図持ってたりしてた」

 

「いいよな、お前たちは。そんな頑丈そうなケースに入ってて……。俺も入りたい……」

 

 ガラスケースに入っている和菓子たちが何故かとても羨ましく思えたのは何故だろう。

 

「あ、お母さん。ここら辺の地図持ってない?」

 

「地図? そうねぇ、探せばあるだろうけどここら辺の地理は把握してるからあるかどうか……」

 

 人差し指を頬に当てて記憶を巡らせる母親。まぁ、普通は自分の家の近辺は何があるか把握してるから持ってるわけないよな。

 地図も当てにできないので、これからどうしようか暫く考えを巡らせていると母親が「そうだ」と言って両手を合わせる。

 

「雪穂、このお客さんを目的の場所まで連れて行ってあげて。そのついでに生活用品とかが揃ってるお店も教えてあげて頂戴」

 

「わ、私が!?」

 

 母親の提案に驚く少女。こちらとしては有難いが、少女の事を考えるとあまり気乗りしない。

 いくら印象が怖そうな人から面白い人になったしても初対面の、しかも男と歩くのは抵抗があるだろう。

 少女は少し腕を組んで考えてちらりと俺を見る。

 

「ん、わかった」

 

「え、良いんですか?」

 

 正直やんわりと断られるかバッサリ断られるかのどちらかかと思っていたから少々面をくらってしまった。

 

「はい。ここまで間抜け――じゃなくて困ってる人が居たらさすがに放っておけませんから」

 

「今間抜けな人って言おうとしただろ」

 

「いえ、気のせいじゃないですか?」

 

「なら今の台詞もう一度俺の目を見て言ってくださいよ」

 

「じゃあ、私着替えてきますのでちょっと待っててください」

 

 少女はそそくさと店の奥に引っ込んでいった。……逃げたな。

 

「ふふっ」

 

 俺と少女の一連のやり取りを見ていた母親が小さく笑っていた。

 

「本当に面白い人ね、貴方は」

 

「貴女の娘さんの方が面白いですよ」

 

 初対面の客に喧嘩吹っかけるとかマジで面白いですよ、とは言わないでおこう。

 しかしそんな俺の気持ちを知ってか知らずかニコニコと微笑んでいる。

 

「そうねぇ。確かにあの子も面白いけど、あの子のお姉ちゃんの方が面白いわよ」

 

「そうなんですか」

 

 という事は姉の方も初対面の人に喧嘩吹っかけるのだろうか? いや、もしかしたらそれ以上かもしれない……。それ以上ってなんだよ、まったく想像がつかないんだが。

 あの少女より面白い姉がどういう人なのか考えていると、店の奥からエプロンを外して、先程までのラフな格好からショートパンツと薄手のパーカーに着替えた少女が出てきた。

 

「お待たせしました。それじゃ行きましょうか」

行ってきます、と母親に告げると店の扉を開けて外へ出る。俺もその後に続くべく、少女の母親に軽く会釈をして少女を追いかけて店をでた。

 

 

 

「…………」

 

「えっと、ここが○○ですけど……どうかしたんですか?」

 

「いや、何でもない……」

 

 俺の目の前に天高くそびえ建つ建物に圧倒される。

 その建物は外装からして高級感が漂っており、この少女の話だとごく最近建てられたマンションで2LDKの完全防音。しかも一階のロビーにはカフェ的なものまであるらしい。……なんでカフェがあるのかはわからないが。

 俺は下宿と聞いていたのでもっと庶民的と言うか学生や親御さんたちの財布に優しいような場所を想像していたのだが、目の前の建物は俺の想像の遥か斜め上をいっていた。というか、これはもはや下宿ではなく一人暮らしではないだろうか……。

 ……田嶋の野郎。なるべく安い所って言っといたというのに。

 

「……とりあえず、ありがとな。助かった」

 

「いえ、お役にたてて何よりです」

 

 そう言って少女は愛想のよい笑みを浮かべる。因みに俺が敬語からタメ口になっているのは、この少女と商店街や物価が安いスーパーなどを案内している時に、自分は中三で年下なので敬語じゃなくていい。と言ったからだ。

 俺も特に抵抗があったわけではないので少女の言う通りにタメ語で話している。

 ……それにしても初対面だというのに凄いお世話になってしまった。何かお礼をしなければと思うのだが、如何せんあののど飴位しか手持ちがない。

 何かいいものは無いだろうかと荷物の中身を思い浮かべていると、この少女にちょうどピッタリな物を思いついた。

 

「それじゃ、私はこれで――」

 

「あ、ちょっと待て」

 

 帰ろうとする少女を引き止めスーツケースの中に入っている筆箱から、一本のシャーペンを取り出し少女に渡す。

 

「あの、これは……」

 

「今日の礼だ。新品じゃなくて悪いが、それは俺が受験で使って全教科においてかなりの高得点をはじき出したシャーペンだ。まぁ、お守りだと思って貰ってくれればそれでいいのだが」

 

「…………」

 

 シャーペンをじっと見つめたまま無言の少女。うーん、やっぱりこういうのを貰っても嬉しくはないか。

 

「あー……別にいらないなら捨ててくれてもいいんだぞ?」

 

「あ、いえ嫌とかじゃないんです。ただお気に入りのシャーペンが壊れたばっかりだったなぁって思ってただけですから」

 

「そうか。それなら良かった」

 

「はい。シャーペン、ありがとうございます。大切に使いますね」

 

 それじゃあ、と言って少女の言葉が止まる。どうしたのかと思っていると、少女が苦笑しながら頬を掻く。

 

「……お名前、聞いてませんでした」

 

「ああ、そういえば言ってなかったな……」

 

 他愛ない雑談などはしていたがお互い自己紹介をしていなかったことに気づく。まぁ、こっちは名前と思わしきものを知ってんだけどな。

 

「別に、今更しなくてもいいだろ。好きに呼んでくれていい」

 

「えっと……それじゃ、迷子のお兄さん」

 

「…………却下」

 

「じゃあ、腹ペコお兄さん」

 

「却下だ」

 

「おとぼけさん」

 

「却下」

 

「えー、好きに呼んでいいって言ったじゃないですか……」

 

 何故か不満げな顔で抗議する少女。何故そんな顔をしているのかは知らないが、誰だってそんな不名誉な名前で呼ばれたくはない。

 それから少女が何通りか言うがどれも不名誉な呼び方だったので却下となった。その中で「お姉ちゃん二号」と言うのがあったが、何故か一番不名誉な気がした。

 

「じゃあ、もう『間抜けなお兄さん』で良いですか?」

 

「……あ、はい。それでいいです」

 

 数分後、訂正しようとも思ったがそれも既に面倒くさくなったのでそのまま流すことにした。……しかしこの少女は何故こんなに名前を思いつくのだろうか。もはや尊敬できるレベルだな。

 

「それじゃあ、また『穂むら』に来てくださいね、間抜けなお兄さんっ」

 

「はいはい、気が向いたらな」

 

 そう言うと少女は「絶対ですよ?」と悪戯っぽく笑って『穂むら』の方へと歩き出した。

 俺はその背中を見えなくなるまで見送った後に荷物を手に取って体を百八十度回転させる。

 

「さて、と俺も早く部屋に行って――」

 

 ――田嶋の野郎にクレームの電話を掛けるとするか。

 

 

 

「何か顔の割には意外と面白い人だったなぁ……」

 

 間抜けなお兄さんを目的地に送り届けた帰り道、私は何気なくそう呟いた。

 今日お店に最初来たときは無愛想だし、目もなんかこっち睨んでるような気がして怖そうだったけど、何処か間の抜けたというかなんというか……意外と親しみやすい人だと話してて思った。

 今日は引っ越しみたいなものって言ってたし、あの高級マンションに引っ越しとなると……もしかしてお金持ちっ!?

 

「んー。でもなんか違う気がするんだよねぇ……」

 

 お金持ちの人を直接見たことがある訳じゃないけどあの人は多分違うな。

 何というか、よく皆がイメージしてるような上品さとか、言い方が悪いけど裕福さがあんまり感じられなかった。それにあのマンションを見て唖然としてたから、多分ああいう物とはあまり縁がない生活をしてたんじゃないかなって思う。

 

「あれ? だとしたらなんか違和感が……」

 

 縁がなかったのに高級マンションに引っ越し。これだけならまだ色々と想像がつくけど、マンションを見て唖然としてたっていうのはおかしくない? だって引っ越す前に普通見に行くものじゃない?

 

「……ホント、あの人なんなんだろう」

 

 ポケットから帰り際に渡されたシャーペンを取り出す。

 あの時間抜けなお兄さんはお礼だと言ってこれを渡してくれた。それを貰った私が暫く黙ってシャーペンを見ていると、申し訳なさそうに謝ってきた。

 もちろん少しはお礼の品物に使用済みのシャーペンなんてーって思ってたけど、私はそんな事で黙ってたわけじゃない。

 間抜けなお兄さんから渡されたシャーペンは、字を書けば芯が回って字が太くならないというのが売りのシャーペンで、色も青色と何の変哲もないシャーペンだった。

 でもそれがあの時私を黙らせた。

 このタイプのシャーペンはずっと使い続けてるとだんだん塗装が剥げてきて中の構造が見えてくるもので、一年も使ってると塗装が剥げて全体的に白く霞んでくる。

 私が使ってたシャーペンも同タイプだったので分かるが、つまるところだんだん見栄えが悪くなるのだ。まぁ、私は機能重視だったから気にしなかったんだけど。にもかかわらず、間抜けなお兄さんのシャーペンは手で持っていたと思われるところは完全に塗装が剥げていたけど、それ以外の部分は元の色が分かるくらいはっきりしていた。

 極端に言えば、間抜けなお兄さんからもらったシャーペンは手で持っていたところ以外がほぼ新品の状態になっている。

 いったいどんな使い方をしたらこんな風になるのだろう? これを渡された時そう思っていた。

 

「…………毎日一日中ずっと勉強してたらこうなるのかな?」

 

 それが私が出した答え。でもそれがかなり馬鹿げている事位自分でも理解している。

 それにコレの持ち主はあの間抜けなお兄さんだ。そんな事は絶対していないだろう。

 

「新しいシャーペン、買って帰ろっと」

 

 でもきっとそれだけ勉強すれば私が目指してるUTX学園には絶対に受かるだろう。

 新しく買うシャーペンを、間抜けなお兄さんに貰ったものと同じにする事を目標に帰ってから勉強頑張ろう。

 そう心に決めた。

 

 

 

『はい、田嶋です』

 

「西原雅也だ。お前に聞きたいことがある」

 

『お前か……。なんだよいきなり。ま、聞いてやる』

 

「何故、改竄した地図を俺に渡した」

 

『面白そうだったから』

 

「喧嘩の特売か? いいぜ、全部買ってやるよ」

 

『落ち着けよ。それに改竄するのだって大変だったんだぞ? 違和感ないようにブロックごとに切ったり繋げたり道を新たに付け足したりだな……』

 

「そんなことする暇があるなら、もっとましな事に労力を割け詐欺師が」

 

『面白い事に全力で』

 

「俺は面白くない」

 

『そうか。まったく興味がないな』

 

「……もう一つ聞きたい事がある」

 

『よかろう、聞いてやる』

 

「俺は安い下宿を紹介して欲しかったんだが、何をどう聞き間違えたら高級マンションに一人暮らしになるんだよ」

 

『あー、それな。……俺も一応は他の生徒と同じ場所を教頭に進言したんだが特待生の階級ごとに住む場所が違うらしい』

 

「家にはここの部屋代払えるだけの金はないんだが」

 

『そこは問題ない。なんでも学校側が光熱費とかそういうのも含めて全額支払ってくれるってよ』

 

「……見返りは?」

 

『独りで自立した生活を送ることと、今の成績をキープすることが条件だ。簡単だろ?』

 

「そうだな。簡単だな」

 

『そう僻むなよ。新しい生活の始まりなんだ、笑顔でいこうぜ』

 

「失笑しかできねぇよ。ま、お前の仕業じゃなくて良かったよ」

 

『あ、そうそう言い忘れてた事が一つあった』

 

「なんだよ」

 

『今日の午前十一時から豊丘高生全員、音ノ木坂で説明会がありました』

 

「それは言い忘れんなよ!!」

 

 ここで電話は切られた。

 

 




最初に出てきたのはまさかの雪穂でした
本当は姉の方を出そうと思ったのですが、こっちの方が面白いかなと思ってやりました。反省はあんまりしてません。

色々と謎設定が出てきて混乱されると思いますが、物語の中でじっくり紐解いてくのでどうか御付き合い下さい。

次回は音ノ木坂学院です! 名前を言ってはいけないあの人が登場しますよ?
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