ラブライブ!~胸(ポケット)にはいつも転学届~ 作:カゲショウ
コメディタッチな作品を目指しているのになかなかどうして、笑えない。
そろそろコメディを思いっきり入れてみようかなと思っています。
それと今回から後書きの部分が次回予告になります。
翌日の日曜日。俺の重く暗い気持ちとは裏腹に、桜並木の桜は全て綺麗に咲き誇っていた。
「足が重い……」
現在俺は音ノ木坂学院へと続く道を歩いていた。日曜日なのに制服を着ているという違和感になかなか慣れない。
もちろん足が重いというのは物理的にではなく、気持ちの問題だ。……誰だって怒られるために学校に行きたくはないだろ。
俺が音ノ木坂へ向かっている理由は、昨日行われた豊丘高生対象の学校説明会を欠席したため、俺限定で再度説明を受けに行くためだ。
本当は行きたくはないのだが、謝罪の電話を入れて簡単に来れなかった訳を説明すると、電話に出た女性が『なら、明日の十時に校門に来てもらえるかしら?』と言ったので、そう言われた以上断ることもできない。
元はと言えば田嶋の野郎の連絡不足、及び地図の改竄工作によるものなので正直に話せば俺が怒られることはないだろう。だが、それは相手がこの話を信じてくれるというのが大前提なのであまり期待できない。
教師は生徒を正しい道へ導く存在であり、目標となるべき存在だ。この常識に囚われている人達にとっては、どんなに弁解もただの言い訳になる。故に俺は黙って説教を喰らうしかないのだ。
いつか絶対復讐してやる。そう自分に言い聞かせながら音ノ木坂への道を歩く。
「地図によるとここら辺だったが……ああ、あれか」
昨日コンビニで手に入れた地図をもとに探していると、階段の先に少しだけ見える校舎らしき建物を捉える。
地図と位置を確認してみると、ほぼ同じ位置に記されているのでその建物が音ノ木坂学院の校舎だと判断する。
音ノ木坂に続くであろう階段を一段ずつ踏みしめて登りきると、目の前にいかにも歴史がありそうな校舎と桜並木の芸術的な風景がそこにはあった。
「…………」
何も言えない。いや、何も言えなかった。
よく人間は本当に感動すると言葉が出なくなると聞いていたが、まさか本当に……それも自分がそうなるとは思ってもいなかった。
正門を過ぎてすぐの所に花でアーチを作り出しているかのように咲き乱れる桜。それが春の暖かい風に撫でられて空に舞う。
煉瓦壁の校舎の茶色の壁は桜の幹を彷彿させ、空に舞い上がった桜の花弁と相まってまるで一つの大きな桜の木の様だった。
その景色を呆然と眺めていると、視界の端に青い光があるのに気付きハッと我に返る。
「……凄いな、ここは」
無意識に漏れたらしくない自分の台詞に苦笑を浮かべながら、青になった信号を確認して横断歩道を渡る。不思議とさっきまでの足の重さはなくなっていた。
現在時刻九時五十分。指定された校門に到着してから数分後、校舎から一人の女性がこちらに向かって歩いてきた。その女性は俺の存在に気付くと少し歩調を早める。
「ごめんなさい。少し待ったかしら?」
そう言って申し訳なさそうな笑みを浮かべながら謝ってくる。恐らくこの女性は俺を迎えにきたここの教師だろう。
本当は少し待つことになってしまったのだが、横断歩道を渡った後も桜を眺めていたので待っているという感覚が俺には無かった。
「いえ、全然待ってません」
とりあえず初対面だし機嫌を損ねないようにしとこう。必殺の優等生モード発動。
「そうよかったわ。えっと、貴方が豊丘高校の西原雅也君でいいのかしら?」
「はい。豊丘高校二年十四組の西原雅也です」
ちょっと堅苦しく簡単に自己紹介すると、女性はクスクスと手を口に当てて笑う。……別段笑い方とは関係なのだが、この女性の頭の上に鶏冠のようになっている部分がどうなっているのか気になる。
しかし若いな。俺を知っていて迎えに来たという事はこの学院の教師なのだろうが、パッと見二十代半ば位の容姿をしており、新任教師の様にも思えるが、女性用のスーツを違和感なく着こなしている。
それにこの女性から余裕を感じられるあたり、新任教師ではないかもしれないと俺の頭の中を混乱させる。
「…………」
この女性教師が新任なのか否かで頭を悩ませていると、ふとこの女性からじっと見られているのに気が付く。
「どうしたんですか? 人の顔をじっと見て……」
「え? ああ、ごめんなさい。貴方があまりにも田嶋君に似ていてつい……」
「はぁ、そうですか……。って、はい?」
今何か不穏な言葉が聞こえた気がする。しかも凄く不名誉な言葉と共に。
目を見開いて困惑する俺を見てか、女性が「そういえば」と思い出したように話す。
「自己紹介がまだだったわね。私はこの学院の理事長を務めている南です。貴方の担任の田嶋君は私が大学生の時の教育実習で行った先の生徒だったの」
「…………」
まさか一日二回も驚きで言葉が出なくなるとは思わなかった。
…………何か、もう考えるの疲れた。だってこの人が四十代で、理事長直々に迎えに来てくれて、田嶋先生の知り合いで、俺がここに来ることになった元凶で……。いちいち問いただしてたらきりがない。
だが……いや、だからこそこれだけは言わせてもらおう。
「……俺は生徒を騙すのを生業とする詐欺師とは違います」
「そう? でもこの三白眼のところとか無愛想なところとか、あと年上に対しても物怖じしない態度とか喋り方までそっくりだと思うけど」
「…………」
言い返せなかった。似ていないと言い返すことができなかった。
薄々自覚はあったが、改めて誰かに言われると結構へこむ……。あの詐欺師め、こんな所でまで俺を苦しめるというのか……っ!!
二日前に田嶋先生に対して芽生えた『憎しみ』という感情が再び俺の中で芽吹き、俺の両手に拳を作らせる。
しかし目頭が少し熱くなっているのは気のせいだろうか?
「ふふっ。それじゃあ着いて来て頂戴。校内を案内しながらこの学院の説明するわ」
理事長は身を翻して校舎の方へと歩いていく。悲しみとか困惑とか憎しみなどの感情がミックスされた、最初とは違う重苦しい気分のまま理事長の後に着いていく。
……何故だろう、始まってもいないここでの生活に不安しか感じない。
「ここが講堂よ。ここは主に文化祭等のイベントとかで使用するわ」
校内の案内が始まってから数十分。職員室、生徒会室など様々な特別教室を案内された俺は、現在講堂に案内されている。そこはかなり大きく、音を反射するので理事長の声が講堂内に響く。
「因みにここは許可さえ下りれば一般生徒も使えるのよ」
「そうなんですか」
理事長の説明をそっけなく流す。正直こんな日常的に使いそうに無い所より、教室とかそういう日常的に使う場所を早く知りたいと言うのが本音の一部で、大部分は日常的に使う場所の逃走経路を確保で占められている。
しかしさっきからそっけなく対応しているのにも関わらず、苛立つどころか何故か理事長は微笑ましいモノを見る目で俺を見ていた。
凄く理由が気になるが、正門前での事もあるので聞いたら立ち直れなくなりそうだからでやめておこう。
「他にも案内したい所はあるんだけど……西原君が飽きてきたみたいだから教室棟の方を案内するわね」
「……お願いします」
どうも俺の心の中は見透かされていたようで、理事長は笑顔でそう提案してきた。
頷いて理事長と共に講堂を出て教室までの廊下を並んで歩く。
その途中で何度か部活のため学校に来ている生徒と遭遇し不信がられたが、理事長と一緒にいる事でだいたいの状況を理解したのか挨拶をされた。
理事長はそれに笑顔で返し、俺は「どうも」とそっけなく返すという事を数回繰り返した。
もちろんそんなこれから同じ学び舎で同じ時間を共有する仲間にそんな態度は良くない事は分かっているが、にこやかに挨拶する事に慣れていないのでしょうがない。
「そういえば」
階段を上っている途中で、理事長がふと思い出したように話題を切り出してきた。
「理由は昨日電話で粗方聞いたけれど、どうして昨日は来れなかったのか詳しく聞かせてもらえるかしら?」
まさかその話題を持ち出してくるとは思わなかった。というか昨日電話に出たのって理事長だったのか……。なんか少し聞き覚えのある声だと思った。
しかしこれは困った事になったな。俺は右手を口を覆い隠すように当てて考えを巡らせる。
普通の教師なら本当の事を話しても嘘だと一蹴するだろうが、この南理事長は田嶋先生の知り合いだという。ならば田嶋先生の本性も知っている可能性があるので本当の事を話しても大丈夫なのでは?
だがここは話さないことが吉だろう。もし知らなかった場合俺が御小言を頂戴する事になる。それは面倒くさいのでどうしても避けたいし、なにより説明するのが面倒くさい。
「信じてもらえそうにないので言わなくてもいいですか?」
「駄目よ♪」
俺の提案は笑顔と共にあっさりと却下されてしまった。というか何故理事長は楽しそうにしておられるのだ? Sか、Sなのか?
俺はもう一回頼みこもうと思ったが、きっとそれは説明するより面倒くさくなるだろうという結論に至り大人しく説明することにする。
「実は昨日十時にこっちに着いたんですけど、田嶋先生の策略で改竄された地図をもとに下宿先まで歩いていたら迷ってしまいまして……。近くにいた人に聞いて何とかたどり着けたんですが、苦情の電話掛けた時に説明会のことを聞かされたんですよ」
だから説明会に来れなかったんです。そう小さく付け加えた。
…………うっわ恥ずかしい。道に迷ったから来れませんでした、までならまだしも騙されてましたっていうのが凄く恥ずかしいわ。
この場から今すぐにでも逃げ出したい気持ちを何とか抑えて、先程から黙っている理事長の様子を窺うために横を覗きこむ。
「……くっ。……っ、ふふっ……!」
全力で笑いを堪えてやがりました。意地でも黙ってれば良かったと今更激しく後悔する。
……朱に交われば赤くなると言うが、田嶋先生の知り合いだけあってなんかこう……面倒くさい。いや、こういう場合は類は友を呼ぶが正しいのか?
とりあえず理事長を脳内のブラックリストに書き連ねている間に、呼吸を整えた理事長が佇まいを正す。
「ふー……。ごめんなさい、笑うつもりはなかったんだけど……」
「けど?」
「昔の田嶋君にそっくりだったな、って思うとつい笑いがこみあげてきて」
「短い間でしたがありがとうございました」
今すぐ来た道を引き返そう。これ以上ここに居たら心が壊されてしまう。
「ああ、待って待って!」
が、理事長の横を通り抜けようとするが酷く慌てた様子の理事長に腕を掴まれて引き止められる。何ですか? 貴女はまだ俺の心を壊したいのですか?
「ほ、ほら、教室に案内するから! ね!?」
「はあ……」
どうしてそんな言葉で俺の機嫌が直ると思ったんだよ。いや教室には行ってあげるけどさ、機嫌損ねて帰ろうってしてる人へのなだめ方じゃないよな?
しかし、俺が帰らなかった事に安堵したのか、理事長はホッと胸をなでおろすと「行きましょう」と言ってゆったりとしたペースで歩いていく。俺は渋々理事長の半歩後ろを歩きながらその後ろ姿を眺める。
理事長の背中は立派だった。別に変な意味ではないのだが、『頼れる背中』という表現が一番しっくりくるかもしれない。個人的な会見だが、最近頼りの無いくせに権力だけを振りかざしている他の教師達より『教師』と感じられるのは珍しい。
少し歩調を速めて横顔を覗き見ると、その頼れそうな感じが何処へ行ったのやらその顔には微笑が浮かんでおりどこか母性を感じさせる。
しかし俺を引き止める理事長からは自分の失態で焦っていたというよりももっと別の……それも一瞬でもこの人から余裕を奪う程焦らなければならない事を隠しているようにも見える。
――――あの場所を守ってやってくれ
不意にあの時の田嶋先生の言葉が脳裏をよぎる。田嶋先生が言っていたあの場所ってもしかしてここの事なのか? もし仮にそうだったとしても、俺は何から守って、何を守ればいいんだ?
そもそもアイツは何で俺をこの学校に送り込むように仕組んだんだ? 本人は焼肉が報酬だと言っていたがどうしても裏がある様に思えてならない。
恐らくその答えはこの理事長のさっきの焦り、そしてアイツの言う俺の中の可能性……。この二つが鍵を握っているような気がする。
「さ、着いたわ。ここが貴方がこれから一年過ごす事になる二年生の教室よ」
理事長の柔らかな声で思考の海から引きずり出される。気が付くと俺は二年教室前の廊下に立っていた。
軽く見渡してみるが各教室のドアや掲示板、窓など特に特別な所も見当たらず、一般的な学校といった印象を受ける。ただ気になることを一つ挙げるとすればクラスのプレートが一組から三組までしかなく、空き教室が多くあることだ。
空き教室……。恐らく鍵が掛かってるだろうから逃走ルートからは外しておくべきだろう。となるとコースが限定されてくるな……。
「理事長、一つ質問してもいいですか?」
「ええ。何かしら?」
「校則に窓からの出入りは禁止、て項目はありますか?」
「え? い、いえ。そんな校則は無いけれど……」
「そうですか」
ならば明日から鞄にはロープを忍ばせておくとしよう。この学院に変人が居ない事がベストだが、警戒しておくに越すことはないからな。俺の質問に首を傾げている理事長をよそに俺はそう心に決めた。
「ほ、他に質問とかないの?」
「他に、ですか……」
正直今日ここに来た目的は果たせたようなものだからな、分からないことがあれば追々聞けばいいだろう。
となると今のうちに聞いておいた方がいい事に絞られる訳だが……これと言ってぱっと思いつくものでもない。
「ふむ……」
「あ、無理に聞こうとしなくても別にないならいいのよ」
「そうですね……。あ、一つだけありました」
「何?」
「この学校って制服の上にパーカーっていいですか?」
そう言うと理事長は一瞬驚くが、すぐに「そうねぇ……」と言って腕を組んで考え込む。
「理由を聞いてもいいかしら」
「理由ですか……。そうですね、しいて言えばブレザーより動きやすいからです」
豊丘高校はブレザー型の制服を採用してはいるが服装に関してそれほど強く縛るような校則はなく、生徒たちは様々な着方をしていた。
そんな生活の中で俺はパーカーの有用性に気づかされた。ブレザーとは違って硬い素材でできていないので機能性に優れているのはもちろん、フードを被れば顔を隠せるし改造すれば隠しポケットを付けられる。これほど俺にぴったりの服は無かった。
試しに学校に着て登校したが何か言われることもなく、その日から俺はワイシャツにパーカーというのが制服になった。
「うーん、別に問題があるってわけでもないし、私は構わないんだけど……」
「他に問題でも?」
「生徒会長の子が真面目な子なの。だからあまりお勧めはできないわ」
「問題がないならいいです。生徒会長とは出会わないような生活するんで」
「そう。なら止めはしないわ」
そう言って理事長はクスクスと笑う。……どうせ心の中では田嶋先生とそっくりだなって思ってるんだろ。この女どうしてくれよう、いやどうすることもできない。だって理事長だから。
人類は平等で在るべきだと何処かの偉い人が言ってた気がするが、平等を唱えるならまず年功序列とか階級制度をなくすべきだと思うのは俺だけだろうか。
そもそも人間が文明を持って社会を形成した時点で平等という言葉は意味をなさないし、生まれ持った才能によって優遇されたりされなかったりするので平等などこの世に存在しない事になる。
……思考が少し脱線したな。結局は俺は理事長に何もし返してやる事が出来ないという事だ。世の中とは世知辛いな……。
「……因みにその生徒会長の特徴とか教えてくれます?」
「ええ、もちろん」
頷くと理事長は階段に向かって歩き出した。どうやら次の場所へ案内しながら話すつもりらしいので、それに俺もついて行く。
「生徒会長の子は成績優秀ですっごく真面目で学校の事を第一に考えてくれてる良い生徒よ。だけどちょっと性格がきついのねぇ……」
苦笑を漏らす理事長。これは俺の予想でしかないが、恐らく生徒会長の性格はすごく頑固で融通の利かない頑固者だ。俺がパーカーを着るのを勧めないのもそのせいだろう。
「見た目は特徴的だからすぐわかると思うわ。三年生のリボンをしててスタイルのいい金髪の美人な生徒が居たらほぼ間違いなく生徒会長よ」
「金髪ですか……。この学校は染髪を許可してるんですか?」
「彼女のは地毛よ。確かロシア人とのクオーターって言ってたかしら」
成績優秀、生徒会長、金髪、美人、クオーター……まさに絵に描いたような人だな。一度会ってみたい気もするが、会ったら会ったで面倒くさいことになりそうだから遠慮しておこう。
だが、自慢の生徒を語っているはずの理事長の顔はどこか影が差していて悲しそうだった。
漫画とかの主人公だとここで何を悲しんでいるのか聞いたりするのだろうが俺はしない。何故なら話を聞いてあげるという事は解決に協力することを示すのだが、生憎俺にはそんな甲斐性も力もない。
きっと誰かがやってくれるだろう、俺はそう思いつつ階段を上る。
そして暫く会話もなく黙々と階段を登り続けていると、階段が消えて目の前に鉄の扉が現れた。
「……此処は?」
「この学院の中で私の一番のお気に入りの場所よ」
そう言って微笑むと、理事長は鉄の扉の鍵を開錠し開く。
視界が急激に眩しい光を受けたせいで一瞬塞がれるが、それは俺の顔を撫でる爽やかな風と共に消え去った。
コンクリートの床に周りをフェンスが囲っているだけの殺風景な場所。しかしそんな先入観は数歩進んだところで消え去る。
「…………」
フェンス越しに眼下に広がる景色は言葉にするのが難しかった。
人工芝のとトラックの緑と茶色の心落ち着くようなグラデーション、その先にある桜並木の桃色、そしてその更に先にある街の様々な色。統一性もなくバラバラで、自己主張の強い奴もいればその逆もいる。
だけどそれら全てが見事に調和している、そんな不思議な景色。
「どう? 綺麗でしょう?」
いつの間にか横に立っていた理事長が視線を前に向けたまま問いかける。
「音ノ木坂学院が建ってる所はちょっとした丘の途中なの。だから屋上からはこうやって綺麗な景色が見れるのよ」
「丘の途中に、ですか」
そういえば此処に来るまでの道は上り坂が多かった気がしたがそういう事だったのか。自転車通学の人とか登校するのが大変そうだ。
「ええ。夜になると街明りでもっと綺麗になるから、遅くなって疲れた時とかはよく此処に来て元気を貰ってるわ」
「それが見れる時間まで学校に残る事は無いと思うので、その情報は意味ないですよ」
「あら、部活とかに入らないの?」
「どうでしょうね。面白そうな部活があったらもしかしたら入るかもしれませんね」
「なら沢山兼部するのね」
「まさか。するとしても二つ三つ位ですよ」
互いに軽い冗談を飛ばしあう。
屋上で理事長と生徒が屋上からの景色を眺めながら冗談を言っている光景は、はたから見ればとても奇妙に映るだろう。少なくとも俺はそう思っている。
だから、きっと心のどこかで楽しいと感じているのは気のせいだ。
ちらりと隣にいる理事長の顔を窺うと、とても穏やかな表情で眼前の景色を眺めていた。
俺と理事長の身長は殆ど変わらない。だから見える景色は変わらないはずなのに……変わらないはずなのに理事長の見ている景色は俺が見ている景色とは違っているように見えた。
ただそれだけの事なのに俺の心に悔しさに似た何かが湧きあがってきた。
――きっと俺はこの人と同じ景色は見れない
――この人の様にこの景色を綺麗だと表現する事が出来ない
――この景色を見て穏やかな表情はできない
そんな言葉が頭の中をぐるぐると駆け回る。
ああ、また出た。これは自分の悪い癖だ。
直感でしかないのだが、自分より能力が上の人を見てしまうと、すぐにこうやって相手を自分より上に捉えてまるで天上に住んでいる人の様に思ってしまう。
そんな事は無いのに。そんな事は無いない筈なのに、勝手にそう思ってしまう自分に嫌悪する。
俺は大きくため息を一つ吐いて身体ごと理事長の方に向け、真剣な声音で話す。
「理事長、実は理事長にお渡ししたいものがあるんです」
「渡したいもの?」
小首をかしげる理事長。俺はそんな理事長にブレザーの胸ポケットにしまっておいた『あれ』を取り出して渡す。
白くて細長い紙封筒の真ん中には、俺が全身全霊を込めて書いた黒い三文字がどっしりと構えている。
「転学届です」
次回予告
理事長に転学届を出した雅也。しかし世界は非情な答えしか返さなかった。
「だが俺は諦めない。絶対にだ!」
空に誓いを立て、舞台は秋葉原へ……
しかしジャンクフード店に並ぶ雅也に待ち受けていたのは『行列』という魔物だった!
「A-RISEの限定盤CD一枚ですね。お会計六千五百円になります」
「あ、はい」
「一万円お預かりします。お釣りの三千五百円です。ありがとうございました」
「…………」
そして何故か雅也の手にはA-RISEの限定盤CDが……。
本人さえ予測不能な事態の数々に翻弄される雅也
『やっとの思いでCDが買えたのにチケットをなくすなんて……』
『し、しっかりするにゃ! 風で飛ばされたけどまだ近くにあるかも知れないよ!』
そこで出会う二人の少女
この少女たちとの出会いは彼にとって吉と出るのか、それとも凶と出るのか……
「……侑希よ、俺に力を貸してくれっ」
次回「05話 Afternoon in AKIHABARA」
「……また会えるかな」