ラブライブ!~胸(ポケット)にはいつも転学届~   作:カゲショウ

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どうもお久しぶりです、カゲショウです。
今回からは今まで少なかったギャグ要素を取り入れたりしてみました。
そしたら文章が拙い処の話ではなくなったので、どうかご容赦ください。


05話 Afternoon in AKIHABARA

「はぁ、やっぱり駄目だったか……」

 

 音ノ木坂学院の理事長による学校説明会の帰り道。俺は近くに転がっていた小石を蹴りながら歩いていた。軽くしか蹴っていないのだが、下り坂のため思った以上に石が転がっていく。

 若干やさぐれて見えるのは先程理事長に俺渾身の転学届を受理してもらえなかったからだ。なんでも音ノ木坂に通うことになっても、学籍は豊丘高校にもあるらしいのでここの理事長の一存では決められないらしい。

 もっとも、ほぼノータイムで「受理できません」って言われた時点で学籍がどうこう以前に受け取る気はなかったっぽいけどな。

 

「だが俺は諦めない。絶対にだ!」

 

 拳を固く握り青空に向かって叫ぶ。幸い周りに人影がないので俺の奇行を見たものはいなかった。……本当に誰もいないよな?

 ま、気にしても仕方ないか。そもそも俺の奇行を見たところで知り合いでもない限り弄ることもかなわないわけだしな。

 

「しっかしこれからどうしようか……」

 

 腕時計で現在時刻を確認する。現在午前十一時五十分、昼飯を食べるにはちょうど良い位の時間帯だ。

 ポケットを探って財布を取り出す。中身を確認すると中古のゲームのハードが二個買えるほど入っており、十分外食できるレベルだった。

 何故こんなに入っているのか一瞬疑問に思ったが、夕飯の材料を買うために音ノ木坂に行く前にお金をおろした事を思い出す。

 

「……夕飯の買い出しついでに秋葉を見回ってみるか」

 

 結局、昨日も和菓子屋の少女に安価なスーパーに案内してもらった後にマンションに案内されただけだからここら辺の地理をあまり把握できていない。

 本来なら今日は荷物を整理した後の予定はなかったので、そう考えるといい機会かもしれない。

 

「そうと決まれば秋葉原に行くとするか」

 

 財布をポケットにしまって秋葉原に向かって歩き出す。

 どうか面倒事に巻き込まれませんように。そう祈るばかりだった。

 

 

 

 

「さて、秋葉原に着いたわけだが……人多いな」

 

 ざっと見ただけでもかなりの人数が行き来していた。別に人ごみが苦手というわけではないがこれは歩きにくそうだ。

 人の多さに少し嘆息しながらも、昼食を取るべく手ごろな店を探して歩き出す。

 

「秋葉原と言ったら電化製品を中心に取り扱ってると思ってたが……ここら辺は意外とそうじゃないんだな」

 

 周りにある店を眺めながら歩いていく。そこには飲食店やスーパーマーケットなどが多く立ち並んでおり、俺の今までの秋葉原のイメージが塗り替わっていく。因みに俺の今までのイメージは電化製品を扱っている店が所狭しと並んでいて、俗にいう機械オタクと呼ばれる人達が闊歩しているイメージだった。

 歩き出して数分もすると、遠くに有名なジャンクフード店の看板が見えてきた。

 安い、早い、普通が売りのこの店なら夕飯の材料代をあまり使わなくて済む。別にファミレスでも良かったが、一人暮らしをするからにはなるべく無駄な出費は避けたいところだ。

 さっそく看板の下まで足を運んで、初めて行列が出来ていたことに気が付く。それも店の外に出るくらい長い列に、だ。

 『最後尾はこちら』と言うプレートを手した男が必死に乱れそうな列を正しているのに、他のスタッフを呼べばいいのにと同情しつつその男の下に足を運ぶ。

 そして並ぶのが面倒くさいなと心の中でため息を吐きつつアホ毛が特徴的な黒髪ショートの女の後ろに並んだ。

 

『押さないで! ちゃんと順番に並んでください!』

 

『限定盤のCDはお一人様一枚までです!』

 

『握手会は一時に始まりますので二階でお待ちくださーい!』

 

「……なんの騒ぎだ?」

 

 チラリと隣を見るとこっちに並んでいるより多くの人が店の前に群がっていた。……いや、マジで何の騒ぎだよ。

 人で店の奥が見えないので少し背伸びをして行列の先頭の方を見ると何かのCDが段ボールの中に入っており、それが結構な量積んであった。

 CDショップか? と思っていたが段ボールの奥の方、店内にはアイドルのような風貌をした人のポスターやグッズがあるのでCDショップではないことが分かった。

 視線を少し上にあげると『スクールアイドル専門ショップ』と書かれていた。

 

 

――――スクールアイドル。それは端的に言えば学校で結成されたアイドルだ。

 

 

 スクールアイドルは全国にたくさん存在し、結成の目的は様々だが、その多くは『ラブライブ』と呼ばれる全国のトップクラスのスクールアイドルが集う大会を夢見ている。

 俺はそこまでスクールアイドルについて知らないが、これが結構人気らしい。

 

「最近じゃスクールアイドルと言うよりローカルアイドルっぽいけどな……」

 

 その地域で有名になれば地方のテレビ局で大々的に紹介されることもあるし、更に有名になれば「○○県のスクールアイドル」と言われることもある。

 そうすればそのアイドルのファンの人達が訪れるようになり、町おこしの一環になる。スクールアイドルが全国に広まっているのはそのせいかもしれない。

 しかし俺はスクールアイドルに全然興味がないので、視線をショップから前に並ぶ少女の後頭部に戻す。因みにこれは待っている間手持無沙汰で特に見るところもないからであって他意は無い。

 というかこの列さっきから全く進んでないな。あれから五分は経ったと思うのにまだ並んだ場所から三歩しか動いてな、い……ぞ……。

 目の前の眼を疑うような光景に硬直する。

 

「アホ毛が動いてる……だと……っ!?」

 

 目の前に並ぶ少女の頭頂部からぴょこんと伸びているアホ毛がピコピコと動いているのだ。驚かないはずがない。

 一瞬風でも吹いているのかと思ったが、生憎街中は髪が揺れるかどうかという位弱い風しか吹いていない。というか微かに吹いている風とは関係ない上下に動いているので風は関係ないだろう。

 目の前でぴっこぴっこと揺れるアホ毛。髪の毛なのに神経でも通っているのかとツッコみたい気持ちと、この面白いアホ毛をもっと見たいという気持ちがこの少女のアホ毛の様に揺れている。

 そういえば理事長のあの鶏冠みたいな髪もアホ毛の仲間なのだろうか? もしそうならこの少女の髪みたいに動くのか? できるのなら是非とも見てみたい気がしないでもないな。

 するとアホ毛がいきなりピーンと直立したかと思うと僅かに前進した。

 アホ毛は移動する事もできるのかと眼を疑ったが、ただ単純に列が前進しただけだと気が付く。その事実に何故か少しがっかりした気分になりつつ一歩前へ進む。

 

「なんでこんなにも心が惹かれるんだろうな……」

 

 思わず苦笑を漏らしてしまう。

 未知との遭遇に久しぶりに心が躍る。結局俺は暇つぶしに、頭の中でアホ毛レポートを作りながら並んで待つ事にした。

 

 

 

 

 並び始めてどれくらいの時間が過ぎたのだろうか。徐々に列は前進し、ようやくアホ毛少女まで回ってきたところで――異変に気が付いた。

 目の前にはジャンクフード店のカウンターではなくCDが平積みされているカウンター。その奥に目を向けるとメニュー表ではなくアイドルのポスターらしき物が貼られている。

 左右を見渡すが、華美な装飾が施されている店内には所狭しとアイドル関連のグッズが並んでいるだけで、ハンバーガーが売られている気配は微塵もない。

 

「……どういう事だ?」

 

 俺がアホ毛に夢中になっている内にいったい何が起こったというのだ。

 しかし情報量が圧倒的に不足している今の状況で頭をフル稼働させてみても現状把握は勿論、解決策も浮かんでこないわけで、アホ毛少女が俺の横を通り過ぎて行くのと同時に店員から「次のお客様―」と呼ばれる。

 

「いらっしゃいませ。A-RISEの限定盤CD一枚ですね?」

 

「え? あ、はい」

 

「有難うございます。お会計三千五百円になります」

 

「はぁ」

 

「一万円お預かりします。お釣りの六千五百円です。ありがとうございました」

 

「…………」

 

 そしてまるで川の流れの様にスムーズに俺の財布から諭吉が消えて、聞いたことのないアイドルのCDが帰って来た。

 …………何故だ。何故ハンバーガーを買いに来たはずの俺の手に『A-RISE』の限定盤CDがあるんだ。

 そんな中々答えが出ない疑問は、店の外に出た瞬間に解けた。

 俺の左手側にはジャンクフード店の入り口から続く行列が左方向に続いていた。まぁ端的に言えば、俺は並ぶ列を間違えたのだ。

 俺が並んでいた列はどうやらスクールアイドル専門ショップの列だったらしく、本来ならぶはずだったジャンクフード店の列は俺が並んだ反対方向が最後尾となっていた。そして俺はそのことに気付かず何十分も列に並び、買う気もなかったCDを買ったという訳だ。

 …………という訳だじゃなねぇよ。どうすんだよこのCD。

 

「…………マジでどうしよう、このCD」

 

 深いため息をつきながらCDに視線を落とす。

 そこには三人の少女がそれぞれポーズをとっているジャケットの下の方に「中に握手会の参加チケットが入ってるよ♪」と書かれていた。ファンの人ならばほっこりした気持ちになっていた所なのだろうが、午前中に精神力削られて長時間行列に並んだ挙句、名前も知らないアイドルの売り上げに貢献してしまった俺は怒りで今すぐこのCDを地面に叩き付けたくなった。

 握手会の参加チケット? いらねぇよそんなの。なんで好き好んで知らないアイドルと握手せにゃならんのだ。だったらまだ田嶋先生と……は嫌だから南理事長とした方が友好関係結べそうでましだ。

 俺の中では殆どごみと同列の位まで落ちたCDを見て、再度深い溜息をつく。

 割と本当にどうしよう、このCD。

 欲しくて買ったわけでもないのに、CD本体だけならまだしもチケットまでついていたせいで、通常の限定盤より少し高めな額で購入したので使わないと凄く損した気分になる。

 まさかチケット一枚ついてるだけでこんなにも処理が面倒くさい物になるとは思わなかった。

 

「どうしたものか……」

 

『うぅ……』

 

『かよちん、元気出すにゃー……』

 

 CDをどうしようか悩んでいると前方に二人の少女が暗い顔をして立っていた。

 独りはメガネをかけていてる茶髪のショートカットで、その瞳にはうっすらと涙が滲んでいる。もう一人の少女はさらに短い髪の活発そうな少女で、泣きそうになってるメガネの少女を励ましていた。

 何かトラブルでもあったのかと思い、二人には悪いが聞き耳を立て二人の会話を聞く。

 

『やっとの思いでCDが買えたのにチケットをなくすなんて……』

 

『かよちん……』

 

『一人一枚までしか買えないから買い直しもできないし……。うぅ……っ』

 

『し、しっかりするにゃ! 風で飛ばされたけどまだ近くにあるかも知れないよ!』

 

『凛ちゃん……』

 

『凛も一緒に探すからもうちょっと頑張ってみるにゃ!』

 

『……うん』

 

 ……ふむ、状況がだいたい理解できた。どうやらメガネの少女が握手会のチケットを風に飛ばされてなくしてしまったらしい。

 別に俺はファンじゃないので、その悲しみがどれほどか分からない。だからいつもなら俺は同情の視線を投げかけつつ立ち去るのだが、今の俺はそうはしなかった。

 

「何この都合の良い展開。漫画かよ」

 

 片やチケットをどうしようか悩む俺、片やチケットをなくして悲しむ少女。俺がこのCDの中に入ってるチケットを少女にあげればwin-winの関係が成り立つじゃないか。

 見知らぬ誰かを助けようとか、女に涙は似合わないといったヒロイズムからでは決してない。というかそんなものは生憎持ち合わせてない。だがこちらに多少なりともメリットが在るというのなら使う手は無いだろう。

 そうと決まると俺はCDの封を開けて中のチケットを取り出す。チケットには何かごちゃごちゃと書いてあったが関係ない。

 

「あの、すみま――――」

 

 チケットを片手に少女に話しかけようとして、一度動きを止める。

 

「普通に話しかけたら確実に警戒されるよな……」

 

 前回の和菓子屋の少女がそうだったように、俺は初対面の人には結構怖く見える。

 さっきから語尾に「にゃ」とつけてる少女(以下ねこ)は大丈夫だろうが、メガネの少女は見るからに気が弱そうで現在進行形でブルーな気分になっているので最悪逃げ出してしまうかもしれない。そうなるとこっちはチケットの処理が出来ないし、最悪融通の聞かない警察官が出動する可能性もある。前に一度警察に無罪でご厄介になった時も中々話を聞いてもらえずに、野次馬の一人が証言してくれるまで解放されなかったのはまだ記憶に新しい。

 ならば何か策を考じる必要があると感じた俺は、何かいい方法がないかと思考を巡らせる。ポケットの中を探ってみるがのど飴とハンカチ、そして財布くらいしか入っておらず、周りの店には顔――主に三白眼――を隠せそうなものもない。

 

「くそっ、どうすれば良いんだ……」

 

 せめてサングラスでもあれば良かったんだが……残念ながら見当たらない。

 それから暫く腕を組んで考えつつ周りに視線を動かしていると視界の隅に一つの看板を捉えた。

 

『可愛いは作れる!』

 

 ……コスメショップの看板なのだろうがその宣伝文句はどうだろうか。

 可愛いは作れるという事は作る前は可愛くないという事だぞ。その宣伝文句で売られてる商品を買いに来た客は「自分は可愛くないから可愛くなるためにこれ買います♪」と宣言してるようなものなので、必然的に客は避けるだろう。

 だがその宣伝文句のおかげでいい案が浮かんだ。

 要はこの三白眼は今更どうしようもないので、この無愛想な顔を誤魔化せれば問題ないわけだ。親しみやすい表情で話しかければ多少なりとも警戒心も緩むだろう。素顔のまま話しかけるより数倍ましなはずだ。

 

「……侑希よ、俺に力を貸してくれっ」

 

 イメージするのは侑希のような爽やかな笑顔、表情……。声のトーンも少し上げて口角を少し上げれば……!

 普段あまり使わない表情筋を手で軽くほぐしつつ、知り合いの後輩から教わった表情を作る方法に沿って表情を変えていく。そして顔を手で触って表情を確認し、まぁ通報はされないだろうというレベルと判断すると止めた足を前に出す。

 

「あの、ちょっとすみません」

 

「へ? は、はい。なんでしょう……」

 

 メガネの少女は急に声を掛けられたからか、それとも俺の顔がアウト判定だったのかは分からないが若干怯えつつも逃げ出さずにいてくれた。

 警戒をされてはいるものの取り合えず掴みはオッケーだ。寧ろいきなり声を掛けてきた見知らぬ男に警戒しないというのも可笑しな話だが、後はさっさとこのチケットを適当に理由つけて渡してしまおう。

 

「御二人には悪いと思いながら先ほどの話を聞かせてもらったのですが……貴女はA-RISEの握手会の参加チケットをなくされたんですよね?」

 

「は、はぃ……」

 

 ズズズッとすり足で少しずつ後退していくメガネ少女。それに少しばかり心の中で苦笑する。

 

「あの、どういう要件ですか?」

 

 ねこがメガネ少女を庇うように俺との間に入ってくる。語調も強いところから察するにねこはメガネ少女より俺を警戒しているのだろう。まぁ、さっきの台詞聞いたら普通警戒するよな。だってぶっちゃけて言えば盗み聞きだし。

 俺は表情を崩さないように軽く苦笑するとチケットを二人の前に差し出す。

 

「実はこれがさっき風に飛ばされてきたのでもしかして貴女のかと思いまして……」

 

「え? こ、これは握手会の参加チケット!?」

 

 メガネ少女が自信を庇ってくれていたねこの背後から身を乗り出してチケットを凝視する。しかし中々受け取ろうとしないので俺が「どうぞ」と促すと何度か俺とチケットを交互に見た後に恐る恐るチケットを受け取った。

 

「かよちん良かったにゃー」

 

「う、うん!」

 

 これ以上ない位の安堵の表情を浮かべるメガネ少女。それにつられてか、ねこがその隣で笑顔を浮かべる。

 アー、ヤッパリオンナノコニハエガオガニアウナー、などとふざけた感想を抱いていると口角がビクッと跳ね上がった。

 

「……そろそろ限界か」

 

 慣れないことをしたせいか表情筋がひくひくと痙攣し始めた。正直今の状態が一番危ない人に見えるので俺はさっさと退散するとしますか。

 

「それじゃ、俺はこれで」

 

「あ、あの!」

 

 身を翻してこの場から去ろうとすると後ろから呼び止められる。

 

「あの……あ、ありがとうございます!」

 

 メガネ少女が頭を深く下げてお礼を言う。正直ここまで感謝されるとは思っていなかったので若干面喰ってしまった。

 

「……どういたしまして」

 

 爽やか(自称)モードが切れたためいつものトーンで俺はそう言った。しかしまぁ、もう会うこともないだろう。二人とも達者でな。

 ……その後改めてジャンクフード店に並んでお茶目心を出してポテトとドリンクとチーズバーガーのチーズ抜きを注文したところ、何故かチーズバーガーの組立前を出された。

 冗談のつもりだったのに店員さんが心なしかキレてたように見えた日曜日だった。

 

 

 

 

「あの……あ、ありがとうございます!」

 

 わたしはありったけの感謝の気持ちを込めて私にチケットを渡してくれた人にお礼を言うと、自分でもビックリするくらいの声が口から出た。

 するとさっきの人は軽くこちらを向いて、

 

「……どういたしまして」

 

 と、さっきわたしたちに話しかけた時より低い声でそう返して、人ごみの中に消えてしまった。

 …………不思議な人だなぁ。それがわたしが感じた恩人に対する印象だった。

 眼はちょっと怖かったけど、爽やかな笑みを浮かべて明るく親しみやすい声色で話しかけてくれた人。顔は良く見えなかったけど爽やかな笑みは無く、関心のなさそうな声色で話しかけてくれた人。同じ人のはずなのにまったくの別人のように思えて、気付けばどっちが本当の顔なんだろうって考えていた。

 

「かーよちん!」

 

「わ、凛ちゃん!」

 

 凛ちゃんがわたしに抱き着いてくる。昔からよく抱き着いてくるけど恥ずかしいから人前ではちょっとやめてほしいな……。

 

「チケット、見つかってよかったね」

 

「うん。さっきの人には本当に感謝して、る……」

 

 さっき渡されたチケットを見て言葉を失ってしまった。

 何故ならこのチケットはプレミアムチケットだったからだ。

 因みにプレミアムチケットと言うのは今日発売されたA-RISEのCDに着いている握手会の参加チケットとは違い、一般の握手会が終わった後にA-RISEのメンバーとの握手はもちろん、そのほかにサインや写真撮影ができるという特別なチケット。

 しかしその発行枚数はきわめて少なく、CD発売の告知では十枚だけしかないと言われていた。

 そのチケットが今、わたしの手の中にあるのだ。A-RISEのファンなら言葉を失ってもおかしくはない。

 それともう一つ、わたしが驚いたのはこれはわたしがなくしたチケットではないからだ。

 つまり、これは風に飛ばされてしまったわたしのチケットじゃなくて、あの人がCDを買って手に入れたチケットという事だ。

 どうして? そんな疑問が頭の中を埋め尽くす。

 このプレミアムチケットはこの場でオークションを開けばかなりの高額になるほどで、ファンの人なら手に入れた瞬間泣いて喜ぶ物なのに……。なのにあの人はこれを手渡す時にそんな素振りは全く見せずに、寧ろ早く受け取ってくれと言っているようですらあった。

 もしかしてファンじゃなかったのかな? でもファンの人じゃなかったらこんな行列に並んでまで限定盤のCDを買ったりしなよね?

 色んな疑問が泡のように浮かんでは消えていって、わたしはチケットを見つめたまま暫くピクリとも動けなかった。

 

「かよちん?」

 

 急に黙り込んだわたしが心配になったのか、凛ちゃんが覗き込むようにわたしの顔を見る。わたしは「大丈夫だよ」と言ってさっきの人が消えた人ごみを見る。

 その人はもう完全に見えなくなっておりこのチケットを返すことができなかった。

 

「……また会えるかな」

 

 わたしは小さくそう呟く。

 そして次会えたなら何かお礼をしよう。そう心に決めた。

 

 




次回予告
「今日から音ノ木坂での生活か……」

ついに始まる音ノ木坂学院での生活に不安と不満を胸に、雅也は制服に袖を通す

それぞれ目的の場所へ行き交う人々の群れ

都会の中でも失われていない自然に彼の心は癒されていく

「新天地ってのも悪くないな」

しかし世界は彼には優しくなかった

「理事長直々にお出迎えとは……。随分とお暇なんですね?」

「そうね。でも返答次第ではダメな生徒を更生させるという仕事ができるかもしれないわね」

「冗談ですすみませんでした」

理事長直々の出迎え(説教)

「ごめんなさい、教室の収容人数の関係で君は女子のクラスに一人で入ってもらうわ」

予想だにしていなかった事態に翻弄される雅也

身も心も疲弊していく(顔には出さない)中、ローレライが彼をとある部屋へ誘う

次回「始まりの日、彼は―― 前編」

「何それ、イミワカンナイ」
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