先生を仮面ライダーにすれば曇らせが加速するのでは?(キュピーン)   作:一般通過ゲマトリア

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不意に思いついたので、投稿。




アビドス編第1話

 

 

ざり。

手のひらから伝わってくる砂の感触。

いつもより低い視線。

膝から伝わってくる鈍い痛み。

 

一瞬遅れ、彼女は自身が転んだことを理解した。

 

 「ッ!」

 

早く立ち上がらなければ。

そう思っているのに、一度折れた膝は体を支えることを放棄する。打ちどころが悪かったらしい。

 

どうにか這ってでも進もうとする彼女の耳に、背後からの炸裂音が突き刺さった。

 

血の気が引いて青ざめる。振り返れば、そこには崩れた廃屋と2本足のナニカが立っていた。

 

月の光が逆光となり黒い影となったそれは、紛れもない人型。しかしあまりに歪に歪んだ影はソレが人ではないことを示していた。

 

 「ウ……ゥウ」

 

視線ががゆるりと向けられる。

その動きは緩慢で、まるで隙をさらしている。

だが、確実に捉えられた。

赤く光る双眼が、彼女を、黒見セリカを射抜いた。

 

 「あぁ……あ……」

 

2つに結わえた黒髪が地面を擦る。

立ち上がれぬまま、尻もちをついたままで後ろに這い進む。

しかし、赤い光が追いついてくるほうが速かった。

 

 「ーーー」

 

よく見れば女性的な体つきをしている。

フルフェイスのヘルメットのような頭部、右の肘から先に生えているのは腕ではなくマシンガンの銃身だろうか。

生物的な見た目に反した人工物のような意匠。

そのアンバランスさが気味の悪さに拍車をかける。

 

そして何より、その尽くが返り血で真っ赤に染まっていた。

 

フラッシュバックするつい数分前の記憶。

 

バイト終わりの帰り道。

アビドスの皆がバイト先に押しかけてきたこと、それに便乗してきた未だ信用しきれない“先生”のこと。

ぐちゃぐちゃの感情と整理のつかない頭を抱えて歩いていたとき、事は起きた。

 

現れたのはカタカタヘルメット団。

アビドスに幾度となく襲撃を仕掛けてくるおじゃま虫。

きっと一人になるところを狙っていたのだろう。あっという間に包囲され、瞬く間に取り押さえられた。

 

悔しいやら情けないやら。

銃も奪われ体に縄がかけられる。

それでもなお抵抗するセリカに業を煮やし、ヘルメット団の一人が銃床で頭を殴りつけようとした。

思わず目を瞑ったその時、轟音と共に何かが崩れ落ちるような音が響いた。

 

目を開けると向かいのブロック塀が崩れている。もうもうと土煙が舞い、よく見えない。

 

何が起きた?

 

どうにか首をもたげ、背後を確認。

見えたのは腕を振り切った体勢で固まっているヘルメット団の一人。

他の面々が困惑と、そして恐怖をあらわにする。

振り切られた腕には、暗がりでもよくわかるほどに真っ赤な何かが付着していた。

 

漂う鉄の匂い。数秒の間をおいて、セリカはソレが血だと理解する。

そして同時に全身が粟立つかのような感覚に襲われた。

あの血の量、尋常ではない。人はあれだけの血を流しても生きていられるのだろうか。

何より、その血を流したのは、廃屋の壁に叩きつけられたのは、

 

恐怖が全身を駆け巡る。

今、ヘルメット団たちは自分を見ていない。

 

 ここしかない。

 

後ずさり、そして逃げ出そうとしたとき、それは起こった。

 

衝撃が体を吹き飛ばす。

2、3度体が跳ねたところで縄が解け、どうにか受け身を取って体を起こした。

 

もうもうと立ち込める高熱の蒸気。

周辺に転がり悶絶しているヘルメット団達。

獣が唸るような低い音。

そして、そこから覗く真っ赤な2つの眼光。

 

次の瞬間、2度目の衝撃。

そしてあまりにも悍ましい、生き物から発せられているとは思えないような咆哮。

 

悲鳴すら上がらない。上げられない。

目の前で起きていることがこの場の誰一人として理解できていないのだ。

 

変わり果てた仲間を呆然と見上げるヘルメット団達。

そのうちの1人に、右腕の銃身が向けられた。

 

 血しぶきが上がる。顔に降りかかった生暖かい感触に、セリカはついに走り出した。

 

 

走れ、走れ。逃げろ、逃げろ。

 

 

理解する。恐怖する。アレは自分が対峙していいものではない。

銃を持っていたとしてさして役に立ちはしないだろう。

 

 

走れ、走れ!逃げろ、逃げろ!

 

 

足音、銃声、足音、悲鳴、足音……

 

 

銃口が突きつけられる。

背中には壁。もう逃げられない。

既に身体は悲鳴を上げることすら放棄した。

 

ひどくのどが渇く。うまく息が吸えない。人間とは追い詰められればこうも脆弱な生き物に成り下がるのか、と場違いな納得をする。

 

死が迫る。

銃で撃たれようが刃物で切りつけられようが感じなかったそれが、現在進行形で眼前に突きつけられている。

 

 「ぁ……ぁ……」

 

パクパクと、声にならない空気が喉から漏れ出る。

頭がやけに冴え、過去の記憶が頭の中を勢いよく通り抜けていく。

コレが走馬灯と言うやなのだろうか。

 

 『みんな死んじゃえー!!』

 

昼間、バイト先に押しかけてきた皆に吐いてしまった言葉。

パニックになっていた上皆があることないことで盛り上がるものだから、つい……つい口にしてしまった心にもないものだった。

 

きっとわかっている。短い付き合いというわけでもない。仲間たちはきっとわかってくれているはずだ。

 

だとしても、仲間と交わした最後の言葉が自分があんなものになってしまうなど、到底認められるものではなかった。

 

先輩たち、幼なじみ。いつも頼りになる彼女たちはここには居ない。

もしあの時に意地を張らず、“先生”のことを受け入れられていたのなら、あんな言葉を吐き捨てることもなくもう少し穏やかな気分で死ねたのだろうか。

 

突きつけられたままの銃口の奥に、光が灯る。

 

 

 「たす……け……」

 

 

 

 

 

 

 ゴッ!!

 

 

 

 

 

 

銃声……ではなく打撃音。

目の前から死が消えた。

突然の出来事が多すぎる。セリカの頭はすでに限界を超えていた。それ故、自分が助かったことを悟るのは“彼”の言葉を聞き入れた後だった。

 

 「黒見さん!黒見さんっ!」

 

名前を呼ばれながら体を大きく揺さぶられ、セリカはようやく自分がまだ生きていることを理解する。

自分の肩を掴んでいる大きくガッシリとした掌、それに連なる鍛え上げられたしなやかな腕。そして、自分を心配そうにのぞき込む“彼”の瞳。

 

 「せん……せ……い?」

 

ようやくハッキリした視界に収められたのは、紛うことなき先生の姿であった。

 

セリカは思わず彼の肩に掴みかかる。

 

 「怪物……ヘルメット団の奴らがっ!私逃げてここまでーー」

 

そこまでまくし立ててふと思う。怪物、そうだ。奴はどこへ消えた?

姿が見えない脅威にまた背筋が凍りつくような感覚に襲われる。

 

 「先生っ逃げて、逃げなきゃーー「うん、知ってる。全部わかってるよ。」ーーえ」

 

優しく、諭すような声。

クシャリと頭を撫でられ、耳元で囁かれる。

 

 「黒見、一人で帰れるかい?布団に入って目を閉じるんだ。きっと悪い夢さ。目を覚ませば……全部終わってる。」

 

だから……早く。

 

 「“先生”は……?」

 

 「僕はちょっと用事があるから。話をしなくちゃいけない子がいるんだ。」

 

そう言って“彼”は立ち上がる。

視線はずっと先に向いていて、なぜだかとても悲しそうに歪んでいた。

 

 「待って!」

 

 「黒見さん……?」

 

 「死んじゃう。死んじゃうから!ヘイローもないのに!銃弾1発で死んじゃうのに!」

 

自分が受け入れられなかっただけだ。“彼”が善人であることは知っている。

認められないとして、受け入れられないとして、死んでほしいとは微塵も思わない。

 

彼の実力だって知っている。

ヘイローを持たないにも関わらず自分たちにも引けを取らない膂力、弾幕に臆せず突撃する胆力。

ヘルメット団相手に火器すら持たず無双していたのは記憶に新しい。

 

しかし、今回はわけが違う。ヘイローを持つにも関わらず死を目の当たりにした。

今までの敵とは違う。奴は殺しに来たのだ

ヘイローを持たない“先生”が対峙したとして、辿る結末は考えるまでもない。

 

 

 「僕は大丈夫。大丈夫だから……早くお帰り?」

 

 「だったら先生も!早く逃げなきゃ!」

 

 「黒見さん……」

 

しかし“彼”は困ったような、どこか焦れたような表情を浮かべるばかりで動こうとはしない。

そうなればセリカもまた同じようにその場を動くことはなかった。

 

数秒の膠着。

 

 『■■■■■■!!!!』

 

 「ッ……!」

 

聞こえた。あの咆哮。

全身が総毛立つ。

 

 「黒見さんッ!早く行くんだ!」

 

 「なら先生だって!」

 

 「僕は……!」

 

彼の声に焦りが混ざる。

諭すような声ではなく、まるで悲鳴のような声。

何故、何故彼は逃げようとしない?

セリカは理解できなかった。

先生だから?大人だから?それで死んでは意味がないだろう。

 

足音が聞こえる。

 

 「……黒見。」

 

“彼”の声が変わる。

諭すようなものでも、悲鳴でもない。

 

……コレは、そう。

 

 「いいかい?絶対ここから動いちゃダメだよ?」

 

 

覚悟だ。

 

 

 「先せーー

 

目の前にそれは迫っていた。

 

ーー先生ッ!」

 

刀のごとく振り下ろされた銃身。

彼の脳天に向けて振り下ろされたそれを防ぐ手だてはなく、セリカは次に視えるであろう光景に悲鳴をあげた。

 

だが、

 

 「大丈夫。」

 

人から発したとは思えない硬質な衝突音。

銃身を防いでいたのは……いや、防いですらいない。

肩口に直撃したはずのソレは、彼を引き裂くことも押しつぶすこともできてはいなかった。

 

彼の左手が銃身を掴む。

ギチギチと軋むような音を立てながら押し返され、ついには投げ飛ばされた。

 

 「……。」

 

何時も持ち歩いている巾着のような袋から、帯状の何かを取り出す。

 

ベルトだ。

 

やたらメカニカルな意匠に加え、バックルは何故か斜めに取り付けられている。

ファッションにしては奇抜すぎるソレを左手に構え、手慣れた様子でぐるりと腰に巻きつけた。

 

次に右手が向かったのはいつも首から下げているシャーレのライセンスカード……の、後ろに隠れていたメモリカードらしきもの。

 

 『ああ、これ?僕の命の……次くらいに大事な物。』

 

そんな訳あるか、と鼻で笑った記憶が蘇る。

高々カード1枚が命の次に大切だなんて、そんなわけがあるはずないと。

 

手のひらほどの大きさのソレをつかみ、迷いなくストラップから引きちぎる。

 

斜めを向いたバックル。そこに不自然に開いた空洞。パズルのピースを埋めるように、彼はメモリカードを差し込んだ。

 

 

「ORIGIN READY」

 

 

ベルトから発せられる重々しい声。

 

心臓の鼓動のような音が辺りに響く。

 

彼はゆるりと立ち上がり、一度、大きく息を吸い込んだ。

 

 

 「変身」

 

 

雷光

 

 

「IGNITION」

 

 

点火

 

“彼”を中心に炸裂した高熱と衝撃。

再び襲いかかってきていた怪物は、抵抗する間もなく弾き飛ばされ廃屋にめり込む。

へたり込んでいたセリカは顔を覆い隠し、どうにか吹き飛ばされぬよう地面にへばりつく。

 

 『Gulllllllll………』

 

その唸り声は、誰の喉から発せられたものだったろうか。

 

 

 The force will destroy the World.(その力は、いずれ世界を果てに導く)

 

 

再度の衝撃。

 

立ち込めた熱、蒸気が霧散する。

晴れた視界の先、既に見慣れた“先生”の姿はなく、顔を上げたセリカの目に映ったのはーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「MODEL DRAGON」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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