下拵え 歪な世界/投じられた波紋
砂嵐が運んで来た砂をスコップで掬い三輪車の上に乗せる。なんでもない、何時もの日常だが……いつも違って校舎は静寂に包まれている。それもそのはず、ユメ先輩は連邦生徒会主催の生徒会会議に参加しているし、カワサキはカワサキで土地の利権の書類や、営業許可証、それに料理人であるカワサキの技能を生かす為のレストランを経営する為に必要な複数の書類の準備をするためにDU地区へいっており、今校舎には私しかいないので静かなのも当然だ。
「ふう……」
首に下げたタオルで汗を拭い、先ほど襲撃を仕掛けてきたヘルメット団から取り上げた銃器も三輪車に乗せる。
「返せよー!」
「あたしらんのだぞーッ!!」
「この壁なんだよーッ! 卑怯だぞーッ!!」
生命拒否の繭とやらのバリアはヘルメット団を通さず、私は出入り自由。しかも向こうの銃弾は弾かれこっちの攻撃は素通りと、戦いというよりかは作業に近い感じで15名のヘルメット団の鎮圧は完了した。
「襲撃を仕掛けてきて返して貰えると思っているんですか? これはアビドスが回収したので生徒会である私達が有効活用します。まぁ二束三文ですが……ないよりはマシでしょう」
「待って冗談だよな?」
「嘘ですよね?」
「あのー返していただけないでしょうか?」
キヴォトスでは銃を持ち歩かないのは自殺行為だ。だが今回は生命拒否の繭のせいで回収したくても回収出来ない状況に陥ってしまっているヘルメット団にアビドスに保管されているハンドガンを投げ渡す。
「これと交換してあげますよ」
「ばっ!? こんなの中学生が使うもんだろッ!?」
「私のアサルトライフルを返してくださいーッ!」
「そのマシンガンカスタムしたばっかなんだよーッ!? 返してくれよーッ!!!」
返せーと叫ぶヘルメット団を無視し私は三輪車を押し、鬼ッ! 悪魔ーっ! と叫ぶ声を背に体育館へと向かう。
「さてさて、いくらくらいになりますかね」
カワサキが配置してくれたエクスチェンジボックスにヘルメット団から取り上げた銃器を全て入れる。ゴトゴトと音を立てて下の排出口から吐き出される金貨の山。
「……単位が全然分らないんですが……?」
少なくない額ではないと思うが単位が分らないのでとりあえず種類で分けてみる。
「金貨が20枚、銀貨が……ひーふーみ……40枚と銅貨が数枚ですか。えっと……これですか」
クランの機能を使う為の本を開き、何が出来るのかをザッと確認する。
「ふむふむ……下位ランダムアイテム生成に銀貨4枚と、エリア整備くらいですかね。設備の設置が大体1000単位……維持費がそれの十分の一くらいだから……完全に赤字って所ですか」
まぁボロボロの中が殆どで、一部だけ新しい銃だったのでこれくらいだろう。カワサキのいう通り施設を維持する為の維持費の捻出が肝となりそうだ。
「後はカワサキの予想通りか、試させて貰いましょうか」
本当はカワサキと一緒に実験する予定だったが、書類の準備が思ったよりも多くこうして1人でやる事になったが、先に実験しておいても問題は無いだろうとエクスチェンジボックス似た箱型の機械に視線を向ける。
「クロスチェンジボックスでしたっけ?」
素材アイテムを一定数入れると別のアイテムに変換してくれるらしい、外れアイテムは銅貨になるらしいので、アビドスを襲う砂嵐に神秘が宿っているか、それを確かめる実験だ。箱の中に外から集めて来た砂を入れる。それくらいに1人でも出来るので問題はない。問題があるとすれば……カワサキの予想が当った場合だ。
「……どうせ当るんでしょうけど、外れて欲しいですね」
カワサキの根拠はない、証拠はないはほぼ当って来ている。だから今回も当りなんだと分かっているが、それでも外れて欲しいと願いながら青い区画から取ってきた砂をクロスチェンジボックスに入れるとガタガタと揺れ、何かが凄まじい勢いで吐き出されそれが額に命中した。
「……こいつっ」
ぶっ壊してやろうかと思ったがこれが無ければクランは運用出来ない。馬鹿にするように煙を吐くクロスチェンジボックスを睨みながら吐き出された1枚の銅貨を拾う。
「最低保障でしたか。まぁこれは予想通り」
どんなガラクタを入れても銅貨は1枚は排出されると聞いていたのでこの砂はゴミ・ガラクタと判断された。だから砂はゴミと判別される筈だ。
「……外れてくださいよ」
そう呟いて赤い区画――即ち砂嵐が運んで来た砂をクロスチェンジボックスへ流し入れ、音を立ててクロスチェンジボックスから何かが吐き出される。
「……当りですか、分っていましたが最悪ですね」
吐き出されたのは通貨でも道具でもない、黒い菱形の結晶が2個吐き出された。それは見るからに禍々しく一目で禄でもないものだと分る。写真を撮り、モモトークでカワサキへと写真を送った後にカワサキが用意していた箱の中に黒い結晶をしまいキッチリと蓋を閉めた。
「敵はアビドス砂漠にですか……」
敵の神秘が砂に宿っており、それがクロスチェンジボックスによって結晶化した事で明確な形となった。カワサキの危惧していた通り、そして昔からアビドスにあった都市伝説砂漠の大蛇の存在が現実味を帯びた瞬間でもあり、連邦生徒会、カイザー、セイント・ネフティス……ユメ先輩の夢を阻む多くの壁……その壁がもう1つ明らかになった瞬間なのだった……。
ユメとホシノが用意してくれたアビドスの校章が刻まれたブルーのシャツとスラックス姿で俺はDU地区を歩いていた。
(良い気分ではないな)
あちこちから向けられる好奇の視線と遠くでスマホを構える女子高生の姿にモラルはないのかと文句も言いたくなる。とは言え、これも覚悟の上だ。キヴォトスでは少数しかいない男がアビドスの校章を身につけている。こうしてアピールするのも計画の1つだったが、こうまでとは想像していなかった。
「まぁ想定していなかったのはこれもだが……キヴォトスではこんな物なのか?」
プールとレストランの営業許可を取るには通常ならば許可申請書、プール平面図、断面図、給排水系配管系統図、空調系統図。それに安全管理や衛生管理なども徹底する必要があるし、監視員の配置も必要不可欠だ。レストランならばまずは食品衛生責任者の資格の持ち主は必要不可欠だ。それに飲食店の営業許可証、登記事項証明書、水質検査成績書、開業届け……もう馬鹿になるくらいな書類が必要なのだが……。
『お店の経営ですか~いいですね~。はい、これでOKですよ~」
『アビドスでお店をですか、まぁ好みは人それぞれですしね。はい、どうぞ』
正気なのか? と叫びたくなるくらいにキヴォトスの常識はめちゃくちゃだった。確かに書類の種類は同じだが余りにも緩い、後日検査に窺いますでOKというのはどうなんだと心配になる。
「だからあのクソ不味いコーヒーに繋がる訳か……」
キヴォトスは子供が政治をしているからか、言い方は悪いが子供の遊びの延長に近い部分が多い。自分達に害が無ければスルーすることも多いし、後先考えない者も多い。確かに警察の役割をしてるヴァルキューレ警察学校や、SRT特殊学園などの治安を守る組織もある。だがそれも子供が運営しているのでは限界はある。特にさっきのカフェのコーヒーなんて、コーヒーを名乗る事もおこがましい泥水だった。
(何故子供しかいない、いや何故「大人」が干渉しない?」
大人は人とは呼べないがそれでも確かに存在している。気に食わないがカイザーグループも大人の集団ではあるし、獣人達も大人だ。だが彼らは干渉しない、子供が権力を持つ事を不満にしつつも容認している。それは忌々しいあれを思い出させる……俺が忌み嫌う物……人としての尊厳を奪い、破壊し尽くすもの……。
(キヴォトスはアーコロジーなのか?)
富裕層だけが人権を認められ、富裕層に入れない者は劣悪な環境で暮らす。権力者と金持ちの為だけの箱庭をどうしても連想してしまう。無論そこまでは悪辣では無いが、キヴォトスは意図的に情報を遮断しているように思える。学園都市……では学園を卒業したあとはどうなる? 大学への進学や就職等は? 中学などもあるそうだが、少なくとも俺は見ていないし、ユメやホシノも自分の両親の事はうろ覚えだという。そんな馬鹿なと思いながら子供の時の写真はないのか? と尋ねると確かに写真はあったがそこに親の姿はない。写っているのは子供の時のユメとホシノの姿だけ……余りにも歪、そして余りにも違和感しかないのに、2人はそれが当然という反応をしていた。踏み込むべきか、踏み込まざるべきかを悩み俺は踏み込まなかった。何か直感で踏み込んではいけないと感じたのだ。踏み込んでしまえばなにか致命的な何かが起きると思ったので手を引いたのだ。
「なんなんだ。この街……いや、この世界は……」
知れば知るほどにキヴォトスは理解出来なくなる。この街の異常さを知っていてもそれに踏み込んではいけないのだろう。いや、もっと言えば大人は舞台に上がってはいけないのだろう、この街は子供が主役……本来大人が舞台に立つのは許されていないのではないだろうか? そんな馬鹿げた事を考えてしまうくらいにはキヴォトスは異常な街だった。
「ん。ホシノから連絡か……さてカフェか……大丈夫か?」
書類の準備が終わり、会議が始まるまで待つつもりで入ったカフェで飲んだのは酸化している上に焙煎不足のコーヒーだった。不味いとかそういうレベルではなく、これで金を取るつもりかと怒鳴りたくレベルのコーヒーだった……それを飲んだからカフェに入るのは警戒していたが、ホシノからの連絡があったとなれば腰を据える必要があった。
「さっきみたいなコーヒーは勘弁してくれよ」
清潔なオープンカフェが視界に入り、あそこならと期待を持って入店した。
「お待たせしました。ブレンドコーヒーです」
「ああ、ありがとう」
ごゆっくりと頭を下げて店内に戻っていく犬人の店員を見送り、少し不安を感じながらコーヒーを口にする。
「……美味い」
雑味やエグミがない、それに柔らかい酸味にビターチョコのようなほのかな甘みと深いコクがあった、最初に飲んだコーヒーはなんだったんだと思うレベルで別物のコーヒーを飲みながらユメが用意してくれたスマホを開き、モモトークを確認すると黒い結晶体が写されていた。
「当りか、外れて欲しい物ばかり当るな」
アビドス砂漠から飛んでくる砂をクロスチェンジボックスに入れてこれが出た。恐らく砂がドロップ品と判断され一定以上の砂が入れられたことで1つ上のドロップアイテムに変化したのだろう。
『それ以上砂を入れるな。何がおきるか分らん』
『了解です。私も凄く嫌な感じがしました』
ドロップ品なのは間違いないが、それ以上に禄でもない物の可能性も高い。これ以上アビドス砂漠の砂を入れるなとホシノに警告してから、ユメとホシノと俺で1つずつコピーしたクランの管理の本を開き、クランアイテムの種類や、廃墟となったビルを資材として解体し何処に何を配置するかと考える。
「相席いいですか?」
席はいくらでも空いている。それにオープンカフェで相席なんてそんな馬鹿な話はない。本から視線を外し顔を上げると白い服に身を包んだ青とピンクの髪をした少女がまるでお化けでも見るような、だけどどこか嬉しそうな表情をして俺を見つめていた。
「構わないが……席はいくらでもあるぞ?」
「いえ、ここが良いんです。すいません、不躾なお願いを」
そう謝罪しながら少女は隣に席に腰掛ける。何を話すでもない、俺はコーヒーを、彼女はココアを飲み、俺は本を読み、彼女はスマホを見る。
「何か?」
「ああ。いや、そのすいません……その知り合いの人にとても似ていて、失礼ですが貴方にお兄さんはいませんか?」
チラチラと視線を向けられるので思わずそう尋ねると逆に兄はいないか? と尋ねられた。
「いや、いないが」
「……そう……ですか、すいません。私の知ってる人は40代前半くらいだったので……でも本当に良く似てます。その目付きが悪いところとか、そのちょっと無愛想な所とか」
酷い言われようだが俺も目付きは悪いのは自覚しているので苦笑する事しかできない。だがその少女の目が俺の肩のアビドスの校章に向けられるとその整った表情が崩れた。不愉快そうに、どす黒い感情が込められた視線がアビドスの校章に向けられているのを感じた。
「貴方はアビドスの関係者なのですか?」
「ああ。アビドスで暮らしているがどうかしたか?」
ちょっと不機嫌そうな少女の問いかけに何か問題があるのかと思いながら返事を返す。
「いえ、別に問題はないですよ。人違いみたいでしたし……それと相席ありがとうございました。それじゃあ」
悲しそうに目を伏せ、長い髪を翻し歩いていこうとするその姿に……俺は強烈な既視感を感じた。もっと髪が短かったし、酷く消耗しているように見えたし、今着ている服と同じデザインの服は薄汚れていたが……知らない筈なのに見た記憶があった。
「……なぁ」
人違い、勘違いで済ませることも出来た。だが問わずに入られなかった。だから歩き去ろうとした少女を呼び止めた。
「はい? なんですか?」
「……お前さん。前俺の店に来なかったか? プリン……食べてたよな?」
変化は劇的だった。悲しそうな顔をしていた少女は満面の笑みを浮かべた。それは嬉しそうにプリンを食べていた少女の笑顔と重なった。
「川崎さん。貴方から見て、貴方が暮らしていた箱庭よりもキヴォトスは綺麗ですか?」
「お前……何をッ!?」
咄嗟に席を立ち、その肩を掴もうとするが少女は髪を翻してトントンっとスキップするように俺から距離を取り、後ろ手に手を組み俺の顔を下から見上げるように小首を傾げた。
「私はキヴォトスを、この世界をもっと良くしたいんです。だからその時はまたプリンを作ってくださいね? 約束ですよ」
「待てッ! くっ……間が悪いッ!?」
髪とスカートを翻し人ごみの中へ消えていった少女を追う事は出来たが、ユメからの伝言で会議が始まると言われれば俺に追う事は出来なかった。ユメからの伝言とアイテムを使って会議を覗き見する予定だったのでここであの少女を追うという選択肢は俺にはなかった。だが……1つだけ確かな事があった。あの少女はキヴォトスに来る前の俺を知っていて、あの地獄のような世界を知っているという事だった……。
「あは……あはははッ!」
それは偶然だった。会議に出る為にサンクトゥムタワーに向かう途中のカフェに視線が止まり、そこにいたのは若かったがそれでも少女の知る人物だった。何度やり直したか、何度間違えたか、忘れてしまったけどもう疲れて歩き出せなくなった時に偶然に辿り着いた優しい場所、何も聞かずに寄り添ってくれた人だった。なんでここにいるのかは分らなかった……だけど……。
「また会えたッ」
もう会えないはずの人物に会えた。そして覚えていないはずなのに覚えていてくれた。それだけで良かった。いや、本音を言えばアビドスの校章を身につけているのを見てそれを引きちぎりたい衝動に駆られた。だけどそれをすれば川崎さんと敵対関係になるのは目に見えていた。
(あの人は優しい人だから)
誰もよりも優しい人だから、アビドスの為に動くと決めたのならばもうてこでも動かないだろう。本当は嫌だった、醜い感情が込み上げてくるのを感じた。何故、なんで、どうして、私じゃないのか、何故よりにもよってアビドスにいるのか……何故私の知る川崎さんよりもずっと若いのか、全てが分らない。だけど川崎さんと敵対するようなことはしたくなかった。
(……あの人が動くなら全部変わる。あの人がジッとしている訳がない……なら乗らしてもらいます。その波に)
間違いなく川崎さんはキヴォトスに大きな波紋を生み出す。その波紋は間違いなくキヴォトスを変える……ならそれに乗って前倒しして計画を進める事を決めた。
(そうか……こうすればいいんですね)
キヴォトスの住人だけでは、箱庭の忘れられた神だけではきっと終焉は避けられないのだ。何度やっても絶対に死ぬ梔子ユメが生きている――それが彼女の仮説を補強する。「外」から招かれた人間がいれば定められていた運命を覆せるという仮説を……。
(招くのですね、外からキヴォトスを変える人を「先生」を招けばいいんですね)
川崎さんのように外から招けば良い。キヴォトスを救い、導いてくれる存在を……「先生」を……そして私はその先生を助ければ良い。そうすればアビドスのように、梔子ユメのように……定められた結末を覆せる。
(大丈夫走れる……私はまだ走り出せる)
また会えた、僅かでも覚えていてくれた……それだけでも嬉しいのに、川崎は袋小路に陥った彼女に道を指し示した。それによって彼女は走り出すことが出来た。例えそれが外から招く「先生」を不幸に導くことだとしてももう彼女は止まれなかった。これから1年の間に頭角を現し、汚職や癒着していた連邦生徒会議員を蹴り出し、自らが連邦生徒会長へ至る少女はその再会を持って再び走り出す事が出来るのだから……。
心の中でひぃんっと鳴きたくなる。針のむしろとまでは言わないが、連邦生徒会の会議で私に振られる、アビドスが絡む話題はない。各学園の政治的なやり取り、連邦生徒会の自分達が上、お前達が下と言わんばかりの高圧的な態度に弱小高は身を縮めるしかない。本当なら私もそうだが、耳元……いや頭の中で声がする。
(胸を張れ、前を見ろ。弱い姿を見せるな、大丈夫。ユメには俺とホシノそれにお前に賛同してくれたアビドスの皆がついてる。だから大丈夫だ。お前の前にいる奴の名前なんか気にするな、取るに足らない有象無象と思え)
励ます声が何度も聞こえる。だから前を見ていられる、私で無ければ出来ない事がある。だから蔑むような視線を向けられても、馬鹿にするような視線を向けられても私はそれを真っ向から見つめることが出来る。
「ああ。そうだ、アビドス生徒会長梔子ユメ。前の申請だが今回も却下だ。いい加減無駄な事は止める事だ、連邦生徒会がアビドスを支援することはない。これは決定事項だ。転校するというのならば力を貸さんでもないが、復興に力を貸すことはない、良い加減に諦めたらどうだ? 弱小高は弱小らしく連邦生徒会の指示に従がっていれば良いのだ」
その目が私を蔑んでいるのが分る。今までは会議の後に私だけを呼び出して言っていた生徒会長が他の生徒会長達の前で告げる。
(うわーカワサキさんの言った通りになったぁ……)
ゲヘナの雷帝がにやにやとこっちを見ているし、トリニティのティーパーティのホストが馬鹿にするような視線を向けてくる。他の学校も似たような物か、次は自分達かと恐れ身を小さくしているのが見える。周りに人がいる所で転校を進めてきたら圧力が強くなる。もしもそれが言われたら予定を前倒しにすると言われていた。まさかこんなに早いとは思っていなかったが……どの道遅かれ早かれだと思い私も覚悟を決めた。
「転校はしませんし。私はアビドスの復興を諦めませんよ」
「無駄なことを「そこまでアビドスを廃校にしたいのはサンクトゥムタワーの建設費用の踏み倒しの為にですか?」………何の事だ」
凄い間があったし、生徒会長の目が凄まじく泳いでいる。これは掘り起こした校舎にあった情報だが、シェマタの時代にアビドスがサンクトゥムタワーの建設費用の6割を出している。それが返されていれば今のアビドスに借金はないので、連邦生徒会がこうも圧力をかけているのはその建設費用の返済を踏み倒すつもりだからだ。確実な証拠は無いが、アビドスの校舎を探していればアビドスと連邦生徒会でかわした借用書が見つかるはず……それを見つければ勝ちだが、今は手元にないので揺さぶりとはったりとしてその話を切り出した。
「いえいえ、ちょっとした世間話ですよ。実は最近アビドスの復興に力を貸してくれるという方がいまして、その人のおかげで砂に埋もれたアビドスの昔の校舎を掘り起こせたんですよ。そしたら結構面白い資料が沢山あって」
(真実を匂わせろ、証拠は殆どない、あいつらに、他の学園にハッタリをかけろ。揺らぐな、不安を見せるな、堂々としていろ。お前らの後ろ暗い取引は知っているぞという顔をしろ)
ぴくりと肩を動かす連邦生徒会長を見ていると会議室の扉が開いた。
「会議中だぞ!」
「会長これをッ」
連邦生徒会長に駆け寄る下っ端役員を見ていると会議の終了の鐘が鳴り、私はそのまま席を立った。正直心臓が口から飛び出しそうなくらい脈打っているが、それをぐっと堪える。
「なっ!? 梔子ユメ! 貴様何をしたッ!?」
「何をとは? そんなに怒鳴られる事はしていませんが?」
「何故アビドスの土地がアビドス生徒会に戻っている!? それに1270名の住民票までッ!? お前何をしたッ!?」
会議の前に提出しておいた私とカワサキさんとホシノちゃん3人での土地の共有名義書、それとアビドスが好きで、私達を助けてくれていた人達の正式な住民票。会議が始まる30分前に提出した書類の情報が、2時間経った今頃手元に来て慌てている様子にくすりと笑った。
「おかしい事を言いますね。アビドス生徒会がアビドスの土地を所有しているのは当然じゃないですか」
「10億の借金はどうしたッ!? 土地をどうやって買い戻したッ!?」
「だから言ったでしょう? 私達に協力してくれる人がいるって。別に犯罪行為に手を染めてるわけじゃないですし、そこまで怒鳴られる筋合はないですよ」
口をパクパクとさせている連邦生徒会長に、面白い物を見たという表情をしている雷帝や、訝しげな表情をしているティーパーティの視線を背に受けながら歩き出し、会議室の出入り口でゆっくりと振り返る。
「ああ。そうだ、7年前にカイザーローンに就職した会計さんはお元気ですか? 1度も連邦生徒会からの復興支援金が振り込まれてないんですけど……もしかして7年間ずっと横領でもしてます?」
これで本当に最後、待てと叫ぶ声を無視して会議室を飛び出し、スカートを翻しながら階段を駆け下りる。
(やっちゃった。これで今の連邦生徒会とは完全に敵対したよね)
もう引き返せない、このまま進むしかない。後戻りは出来ないし、恐らくこれから連邦生徒会からカイザーグループに情報が入るだろうから、ここからが本番だ。アビドスと連邦生徒会とカイザーグループの武力ではない戦いはこれから始まるのだ。
「あははッ!!」
足がガクガクと震えているし、とんでもない事をしたという恐怖もあるのに笑いが零れた。頭の中にはカワサキさんのよくやったという声が聞こえている。カワサキさんがいなければこんな大それた事はしなかった筈だ、他の学校みたいに身を潜めて嵐が過ぎ去るのを待っていただろう。だけど私は戦う事を選んだ、ならもう後戻りはしない。夢に向かって走るだけだ。
「ユメ乗れッ!」
サンクトゥムタワーを飛び出すとバイクに跨っていたカワサキさんがヘルメットを投げ渡してくるのでそれを受け取って被る。背後からは追いかけてくる気配と待てという怒号が聞こえているが、犯罪行為はしていないから捕まる理由も、ビクビクする必要もない。
「私やりました! やりましたよッ! やってやりましたッ!!」
カワサキに向かってそう叫びながらバイクに飛び乗り、昨日教えて貰ったとおりにステップに足を乗せ、ベルトで体を固定してスカートが捲れないように足の下に挟みこむとバイクが走り出す。
「あはははッ! 頑張りましたよ! 私」
「ああ、良くやった。だが気を緩めるなよ、ここからだ。ここからは綱渡りの勝負だ。お前、ホシノ、俺の誰かが倒れても終わりだ」
「はい、分ってます」
念入りに準備をしている時間はない、それだけカイザーグループと連邦生徒会の力は強い。なら相手がこっちを警戒する前に、相手がこっちを攻撃する手段を得る前に攻める必要があった。
『クロノススクールから速報です! なんとアビドスの都市部を覆っていた砂が突如消え。複数の何らかの施設の建設現場がアビドスに建てられています! 皆さん見えますでしょうか!? これは一体どんな手品、それとも魔法、いやそれとも蜃気楼なのかーッ!!!』
DU地区の上空を飛んでいる飛行船から聞こえて来るニュースに思わず笑い出す。私がカワサキさんと合流する前にホシノちゃんにカワサキさんが指示を出していたのだろう、アナウンサーのいう通り正しくこれは魔法だろう。
「凄いですね、魔法使いですって、アビドスに来てくれないですかね?」
「そうだな。魔法使いがいればもっと楽かもな。こんな風に逃げるようにアビドスに帰らなくてもいいからな、それよりも誰がこれをクロノスにリークしたのか気になるな」
「きっとそれはずるくて優しい大人ですね」
「それは怖いな、俺のような善人は騙されてしまうかもしれん」
「ですね! 私みたいな子供も騙されてしまうかもしれないですね!」
バイクの風切り音の中、私とカワサキさんは大声で笑いあい。サンクトゥムタワーの入り口から呆然とした様子で見ている連邦生徒会の視線を背中に感じながら、DU地区を後にするのだった……。
メニュー6 そばようしょく へ続く
今作では連邦生徒会長周回説と男先生で行こうと思います。何処かの周回でカワサキさんと連邦生徒会長に縁があり、カワサキさんと連邦生徒会長が出会っているという因果が発生したので、ゲマトリアの儀式で原作前のキヴォトスにカワサキさんが呼ばれました。なお連邦生徒会長の矢印は重力場が出来るほど重くなってるのであしからず、ここから本格的に原作破壊を進めるので次回の更新もどうかよろしくお願いします。
どこかの世界の川崎さん 享年41歳
異世界にも、過去、忘れられた世界にも行くこと無く、キチガイお嬢様に遭遇することもなくアーコロジーで暮らし、少しずつ自分が住むアーコロジーを作り変えた。ほんの少しだけ他人に優しく、ほんの少しだけ他人に寄り添うことで貧民層を変えた。善でも悪でもない、自分が信じる正道を進み続けた。例えその先が闇に続いていたとしても、自分の生き方を変える事はなく、己の意志を貫いた。川崎を危険視する富裕層に殺されるまで自分の信じる道を進み続けた。だがその信じた先に待っていたのは富裕層と貧民層の全面戦争であり、幼馴染であり婚約者はその手を紅く染めた復讐鬼と成り果てた。
???週目の生徒会長
何百回も同じ世界を繰り返し、精神が磨耗とした時に川崎さんに遭遇した生徒会長。
川崎さんの店で居候をしているうちに精神は回復し、再びキヴォトスへと戻って行った。なお居候している間に脳を破壊され、年上男性にバブりたいという性癖に捻じ曲げられた。