飯食え・アーカイブ   作:混沌の魔法使い

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メニュー6 そば洋食

メニュー6 そば洋食

 

カワサキから預かっていた金貨でクランの能力を発動し街を飲み込んでいた砂を取り除き、建設現場を設置する。預かっていた金貨は1万枚、その内の7000枚を消費する事になってしまった。伝言で何度も確認を取ったが、カワサキはやってくれと意見を変えなかったので実行したのですが……。

 

「……こんな風だったんですね、アビドスの街並みは……」

 

ガラスの割れた窓が見えるビルや、潰れた車に曲がった街灯など、砂に隠れていたかつて繁栄していたアビドスの残骸が校舎の窓から見える。それは私の知らないアビドスの姿だった。

 

「な、なんだこれ!?」

 

「ど、どうなってるの!?」

 

「いったーいッ!?」

 

「なんで急に砂が消えたのッ!?」

 

「と、とりあえず撤退ッ!!!」

 

砂が消えたことで強かにアスファルトに身体を打ちつけたであろうヘルメット団が撤退していく姿を見ていい気味と笑っているとモモトークの通知が入る。

 

『予定を早めたのか? どうする? 何人か人を送るか?』

 

『お願いします柴大将。多分ユメ先輩もカワサキも予定変更せざるを得なかったと思うので』

 

『分った。とりあえず内装が出来る職人にアビドスに行って貰う』

 

『それとは別に店を経営している人がいたらそっちもお願いします』

 

『店主だな。了解。30分以内には向かわせる』

 

『よろしくお願いします』

 

予定では砂を取り除くのは1週間後だった、それまでに協力してくれるアビドスの住民と話し合う予定だったんですけど……どうもユメ先輩とカワサキは相当予定を前倒ししたようだ。

 

「とりあえず帰ってきたら話を聞きましょうかね」

 

遠くから聞こえて来るバイクのエンジン音を聞き、もうすぐ帰ってくるだろうと家庭科室へ向かい冷たい飲み物の準備をしているとユメ先輩とカワサキと鉢合わせた。

 

「お疲れ様です。ユメ先輩、カワサキ。冷たいレモネード用意してますよ」

 

「わぁ! ありがとうホシノちゃん」

 

「大急ぎで帰ってきたからな助かる。ありがとうなホシノ」

 

2人に感謝されむず痒い気持ちになりながら生徒会室へ向かい。議会で何があったのかを聞いたのですが……。

 

「は? 連邦生徒会はふざけてるんですか?」

 

弱小高は連邦生徒会に従がえとか、転校しろとか、諦めろとか、ふざけているとしか思えない。あいつらなんか権力に胡坐を書いているだけの無能なのにと怒りが込み上げてくる。

 

「汚職議員その物だが、その方がかえって都合がいい」

 

「都合が良いって連邦生徒会がですか? 何故ですかッ! どう考えても邪魔をしてきますよ」

 

間違いなく邪魔をしてくると私は考えていたが、カワサキは違うようでレモネードを飲み干しグラスを机の上においた。

 

「奴らが怖いのは契約の踏み倒しを邪魔される事とカイザーとの癒着がばれる事だ。だから各地区の生徒会長がいるとこでユメにカードを切ってもらった。これで連邦生徒会がアビドスに圧力をかければ事実だと認めた事になる。そうなれば不信任案が出されて今の連邦生徒会は解散に追い込まれる。だから連邦生徒会は動きたくとも動けない。だから今の内にカイザーを抱き込んで徹底的に利用する」

 

「は? カイザーグループと協力するんですか!?」

 

「協力じゃない利用するんだ。カイザーグループはどこまでいっても商売人だ。利益を与えれば黙る。そしてカイザーが黙れば連邦生徒会も黙るしかない。SRT特殊学校やヴァルキューレ警察学校もこっちが犯罪を行なってないから動けない。ユメとホシノが真っ当にやっていたから出来る一手だ。後は利益を与え続けてあいつらがユメとホシノに頭を下げる状況を作るってのはどうだ? ただ潰すよりよっぽど胸がすくんじゃないか」

 

想像してみる。私達を散々見下していたカイザーの連中がこちらに頭を下げる光景を……。

 

「悪く……ないですね」

 

「ちょっと良いのかなーって思うけど、それはそれで良いと思います」

 

「だろ? とりあえずカイザーとのやり取りはこっちでやる。ユメとホシノはこれを持って建設現場の方に行ってくれ」

 

カワサキが差し出してきたのはいくつか×印が打たれた地図とずしりと重い金貨の袋だった。

 

「それで協力してくれる店を持ってる人の店を準備してくれ。カイザーを連れて来た時に開業がもう少しと思わせて焦らせるためにな。その金貨をチャージして行ってくれ」

 

「それは良いんですけど、維持費は大丈夫ですか? カワサキさん」

 

私も気になっていた事を尋ねるとカワサキはからからと笑った。

 

「俺の所持金は300億近いぞ?」

 

「「はい?」」

 

「なんかあるんだよ。多分10年は持つと思うが、維持費は別口である方が安心だろ?」

 

確かにその通りですけど……300億もあるなら先に言って欲しかったと思いジト目で睨む。

 

「悪い悪い。だがこれだけあるから大丈夫って思われても困る。維持費は状況によって変わるし、もしも馬鹿共が暴れてたら修理費は馬鹿にならんだろうし、俺も予測が付かない。だから維持費を集めるのは急務って言ったんだよ」

 

不測の事態に備えての事だと説明されれば文句を言えるわけも無く。クランの本部である生徒会室のコンピューターに1千万の金貨を再び入金する。

 

「飯はそっちで作るからちょっと腹空いてると思うけど、もうちょっと頑張って仕事してくれ」

 

俺もすぐ行くっというカワサキに見送られ、柴大将の伝で来て貰った人達の店を配置し始めたのですが……。

 

「あばばばば……」

 

「わーあたらしいみせきれー」

 

「え、これ貰っていいんですかッ!? 本当ですか!? やったぁああああああああッ!!!!!!!!!!」

 

「神様がいる……いや、女神様……?」

 

「わうわう」

 

「みゃー」

 

「ね、ホシノちゃん。私達ってなんか異常に馴れちゃった見たい。あれが普通の反応なんだよね?」

 

「そうですね、私もそう思います」

 

言語を失ったり、泡を吹いたり、幼児退行をする人達を見て、あれが普通の反応で私達もこの異常な現象に慣れてきてしまったなあと苦笑するのでした……。

 

 

 

 

カイザー理事の名刺の番号に電話を掛ける。1コール、2コール、3回目で不機嫌そうなカイザー理事の声が聞こえた。

 

「ニュースは見てくれたかな? 理事」

 

『……ああ。見させて貰ったとも、まさかあんなことが出来るとは想定外だ』

 

不機嫌を隠そうともしない理事にやれやれと内心溜息を吐く、ビジネスにおいてポーカーフェイスは必須だ。顔に出るようではまだまだと言わざるを得ない。

 

「そっちが勉強してくれたおかげで格安でアビドスが手に入ったありがとう。アビドス生徒会も俺の部下になる事を了承してくれた」

 

『なんだと? どんな手品を使った』

 

「手品もなにも、誠実に対応しただけだとも、アビドス生徒会がこちらの部下になることを条件に、土地を共有名義にし、アビドス自治区を復活させた。それだけだ、まぁそんな事はどうでもいい、アビドス生徒会はこちらの邪魔をしない。勿論そちらが何をしても邪魔をしない。そこで儲け話があるんだが1口乗らないか? 絶対に損はさせない」

 

『絶対だと? 砂嵐が襲ってくる土地に……いや、待てよ。貴様は』

 

「ご察しの通り俺は砂嵐を無力化出来る。だから砂嵐については何の問題もない、その上での話だ。クロノスのニュースで見ただろ? 巨大な建設現場。1つは複合商業施設、もう1つは巨大プールを作る予定なんだが……一等地で商売をしないか?」

 

『アビドスのような交通の便の悪いところでそんな経営が「アビドスの住民1270名もスカウトしたし、ハイランダーの砂漠横断鉄道の利用権もこちらの手元にある。1270人もいればバスやタクシーの運転手もいるもんでな、交通の便は解決してるのさ」……なるほど、それで場所はこちらが選んでいいのかね?』

 

利益が出ると判断して乗ってきた理事に勿論と返事を返す。

 

「複数ある一等地から選んでくれて構わない。それに今後だがプールだけではなく、遊園地も作る予定なんだがこちらにはホテル経営などのノウハウがなくてな。そちらもやってみないか?」

 

『ほう。それは良い話だが、上手い話には裏があるものだろう? 例えば梔子ユメが連邦生徒会に牙を剥いたらしいが、裏で手を引いていたのはそちらではないのかな?』

 

「さてどうだろう。ただ大事な書類はきっちりと処分しておくべきだったな。自然災害で飲み込まれたから大丈夫と思うのは些か無用心だ」

 

理事が沈黙するが、敵意と殺意が凄まじい勢いで膨れあがっていくのが電話越しでも分かる。

 

「本来連邦生徒会が支援するはずだった金額がアビドスの借金になっている筈だ。それを何割か軽減し、書類の不備だったと認めて、少し借金の総額を減らしてくれればいい。カイザーは連邦生徒会と関係ないと、連邦生徒会の生徒が就職したのは偶然だと言い張ってくれればいい。俺が邪魔なのは連邦生徒会でカイザーグループじゃない」

 

『最初から連邦生徒会が狙いか、あくどいな』

 

「そっちも似たようなもんだろ? 同じ穴の狢でなに言ってる。武力決起と世論を味方にしたの違いだ。俺は暴力は余り趣味ではなくてな」

 

頭に血が上り冷静な発言が出来なかった連邦生徒会は今大炎上中でまともに動けない状況だ。更にそれを雷帝や、トリニテイが煽って更に炎上しているのだ。連邦生徒会は消火に駆け回り事になっている。恐るべきスマホ社会という所だろう。

 

「だから先手で動かないとそちらも引きずり込まれるぞ? 理事。連邦生徒会は今や泥舟だ。こちらも豪華客船とまでは言わんが、あちらよりは上等だぞ?」

 

『……まぁ良いだろう、そちらの思惑に乗ってやろうじゃないか』

 

「それは何より。詳しく話を煮詰めたいから明日1度建設現場へ来てくれないか? 出来ればそちらのトップもな。そこでアビドス砂漠に埋まる物の場所も伝えよう」

 

『時間は?』

 

「そうだな、12時ごろでどうだ?」

 

『分った。プレジデントと共に向かおう。良い取引が出来る事を期待している』

 

「こちらこそ、呼び出したのだからお持て成しには期待していてくれ」

 

理事とプレジデントをこっちに引き寄せる事が出来た。これで作戦の3割は達成出来たなと人化の指輪を指先で弄びながら立ち上がる。

 

「ユメとホシノも待ってるだろうし、さっさと行くか」

 

家庭科室により使う調味料と食材をクーラーボックスに詰め込み建設現場へと向かう。

 

「俺達の手でアビドスを復興とか最高だな!」

 

「やってやるぜーッ!!!」

 

「今まで悪かったな! 土地の件でカイザーの連中に言われててよ! 自治区が復活したなら俺達もやるぜ!!」

 

「「「「おおおおおおッ!!!」」」

 

職人達の気合の入った声は良いもんだなと思いながら俺も昼食の準備を始めるとユメが俺に気付いたのか駆け寄ってくる。

 

「カワサキさん。鉄板でなに作るんですか?」

 

「ちょっと珍しい料理を作るつもりだから楽しみにしていてくれ」

 

「分りました! 楽しみにしてますね!」

 

「ああ。ご期待に答えれる品を提供しよう」

 

アイテムボックスから取り出した机と使い捨ての皿や割り箸を準備し、ガスバーナーと五徳と鉄板を用意し、ちらりと背後を確認するとヘルメットが建物の影に隠れるのが見えた。

 

「つう……」

 

軽い頭痛と共に嫌な物を思い出した。忘れていたい事は覚えているのに、思い出したい事は思い出せないんだなと苦笑する。

 

(ホシノともめるか……? いや、でも駄目だな)

 

ホシノと間違いなくもめるし、またホシノと喧嘩するかもしれないが……それでもやるともう決めてしまった。後でホシノに謝るかと小さく呟いて俺は料理を始めるのだった……。

 

 

 

柴大将が集めてくれた獣人の協力者の人達とこれからの事を話し合う。

 

「バスか……タマ。お前確かバスを運転できたよな?」

 

「出来るよー? バスさえあるなら送迎は全然OK-ッ!」

 

「後はタクシーも数台動かせるといいと思うんですけど……」

 

キヴォトスでは学生でも車の免許を取れれば運転は出来る。私とホシノちゃんで免許を取りに行っても良いけど、雇用という面を考えれば私達ではなく、私達に協力してくれる人から選びたい。

 

「俺は車の免許持ってるぜ」

 

「私も。流石に大型車は無理だけどタクシーならいけるよ」

 

「ぼ、僕も大丈夫」

 

「昔バスの運転はしてたが、ワシも年だ。遠い距離は自信がないが、一応バスは動かせるぞ」

 

「わぁ、ありがとうございます!」

 

これでバスの運転手が2人とタクシーの運転手が3人。完全とは言えないけど……ここまでの送迎問題は解決の糸口が見えた。

 

「それでお店のほうですが、どれくらいで営業出来そうですか?」

 

「商品を運び込んで、陳列する事を考えて3日って所だね」

 

「こっちは機材を運び込みたいからもうちょっと掛かると思う」

 

「私の所は明日でも大丈夫だよー」

 

ホシノちゃんはモールでお店を営業してくれる人達の話を聞き、手帳に細かくメモをしている。

 

(忙しいけど……なんか、楽しい)

 

私の夢が少しずつ形になる感じがする。夢物語だったアビドスの復刻が現実味を帯びてくるのが分かるのだ。疲れはある、不安もある。だけどそれ以上に希望があった。

 

(これも全部カワサキさんのおかげだよね)

 

カワサキさんがいなければきっとこうはならなかった。私とホシノちゃんだけでは絶対に辿り着けなかった景色が目の前に広がっている。もしもあの時アビドス砂漠で出会えなければこうはなっていなかった、騙されたのは悔しいが騙された事でカワサキさんに出会えたのでネフティスに感謝してもいいかもと思っているとソースのこげる香りが鼻をくすぐり、お腹が音を立てる。

 

「あは、お腹空きましたし1回休憩にしましょうか?」

 

お腹が鳴ったのは恥ずかしいが、丁度良い区切りになったと思い料理をしてるカワサキさんの所へ向かう。

 

「やっぱり焼きそばですね! 良い匂いです」

 

「はは、残念ながら違う。これはここからが仕上げだ」

 

鉄板で焼きそばを焼いていたカワサキさんは鉄板の上に何かの生地を流し、それをお玉で綺麗に広げるとその上に焼きそばをたっぷりと乗せる。

 

「え、え……何を作っているんですか?」

 

「そば洋食。知らないか? そば洋食」

 

「知らないです。お好み焼きとかじゃなくて?」

 

「似てるけどちょっと違うな。まぁ見てろもう完成する」

 

生地の上に焼きそば、そして焼きそばの上に半熟の目玉焼きとケチャップソースとかつお節、青海苔をたっぷりと振りかけるとカワサキさんは生地を半分に折りたたんだ。

 

「え……え!? 折っちゃうんですか!?」

 

「これはこういう料理だよ。ほれ、出来たぞユメ」

 

紙皿の上にそば洋食が乗せられ、割り箸と共に差し出される。焼きそばでも、お好み焼きでもない、お好み焼きの生地で焼きそばを包むというかなりのインパクトのある料理だが、カワサキさんの作る料理に外れはない筈だ。

 

「いただきます」

 

「はい、召し上がれ。ほい、次出来たぞホシノ」

 

「ありがとうございます」

 

ホシノちゃんもそば洋食を受け取ったので、2人で並んで座って昼食にする。

 

「なんかこう珍しい料理だね?」

 

「そうですね、私もそう思います」

 

薄い生地の上に焼きそばを乗せて半分に折っている。なんとも変わった形の料理だと思いながら割り箸で小さく切る。

 

「んー良い匂い」

 

こげたソースの香りというのはどうしてもこうも食欲を誘うのだろうか? 13時を過ぎているので空腹もあるけど、仮にもう少しお腹が空いていても美味しそうと思うんだろうなあと思いながら小さく切ったそば洋食を口に運ぶ。

 

「美味しいッ」

 

「確かにこれは美味しいですね」

 

生地は薄めでモチモチとしていて、焼きそばはしっかり目に焼いてあるので少しカリカリとしているが、それがモチモチの生地と良く合う。

 

(甘くないクレープ? んー焼きそばパン?……なんか違うかな? ケバブとか)

 

薄く焼かれた生地は見た目は頼りないが、食べてみるとモチモチとしていて、出汁の風味も効いていて思ったよりも食べ応えがある。そして食べ応えのある生地に具材がたっぷりの焼きそばが包まれているのだから不味い訳がない。

 

「んー具材も美味しい~」

 

焼きそばの具材の歯応えのいいキャベツに、豚バラ肉にもやしと焼きそばの一般的な具材だが、これがモチモチの生地と焼きそばと実に良く合う。

 

「卵の黄身の所まで食べるともっと美味しいですよ、ユメ先輩」

 

ホシノちゃんは私よりも食べ進めていて、お皿に黄身が広がっているのを見て私も食べ進め、箸の先で黄身を潰すと黄身が焼きそばと生地に絡まる。

 

「本当だ! これ普通に食べるよりずっと美味しい」

 

黄身が焼きそばに絡まり、濃い目のソースの味がまろやかになり、生地にも染み込んでそのまま食べるよりずっと味が良くなっていた。

 

「かなり見た目のインパクトがありますけど、これは結構いいですね。お祭りにあるといいかもしれないです」

 

最後に半分に折るのでこれがなんなのかと一瞬困惑するけど食べてみると思った以上に美味しい。それにソースの焦げる香りにケチャップソースの酸味と甘みもバランスも絶妙だった。

 

「ご飯のおかずにも合いそうだね」

 

「炭水化物と炭水化物で太ると思いますよ?」

 

「ひぃんっ! でも……美味しいと思うんだ」

 

炭水化物と炭水化物の組み合わせは絶対に太るけど絶対美味しい組み合わせだ。しっかり食べると危ないけど小さいおにぎりなんかと一緒に食べるなら大丈夫じゃないかな? と太ることは怖いけど食べたいなーっていう気持ちになる。

 

「もう少し小さめにして、具材も少なめにしたら食べ歩きにも丁度良いかも知れないですね」

 

「だよね! 私もそう思う」

 

お祭りと言えばやっぱり屋台のご飯も大事だ。それで考えればこのそば洋食はお好み焼きや焼きそば、烏賊焼きなんかと一緒にあるといいと思う。

 

「ご馳走様でした。これ1個で結構お腹に溜まるね」

 

「そうです……あいつらッ!」

 

カワサキさんの所に視線を向けたホシノちゃんが鬼の形相で立ち上がる。私もつられて視線を向けるとヘルメット団がカワサキさんからそば洋食を受け取っている姿が見えた。

 

「お前ら何してるッ!!」

 

ホシノちゃんの怒号にヘルメット団が蜘蛛の子を散らすように逃げていき、ホシノちゃんが手にしてるショットガンをヘルメット団に向けようとするとカワサキさんが逃げるヘルメット団とホシノちゃんの間に割って入る。

 

「どうどう。落ち着け、ホシノ」

 

「何が落ち着けですか!? 何でヘルメット団にまで渡しているんですか! あいつらが何をしてるか見てない訳じゃないでしょう!」

 

「ほ、ホシノちゃん。落ち着いて」

 

私とカワサキさんでホシノちゃんを落ち着けようとするが、ホシノちゃんは怒りのあまりかふーふーっと肩で息をして、逃げて行ったヘルメット団を今も睨んでいる。

 

「ヘルメット団がユメとホシノにした事は分かってるつもりだ。だが……悪い。これは止めない」

 

「何故ですか! 何故ヘルメット団にまで……」

 

「ホシノ。お前は目の前で餓死する奴を見た事があるか?」

 

餓死する人を見た事があるか? というカワサキさんの言葉にホシノちゃんが動きを止める。

 

「……それはッ!? いえ、それとこれとは」

 

「違わないんだよ。ホシノ、俺にとってはな。たった1食、そのたった1食で救えるかも知れない命がある。そのたった1食の為に俺を襲って、そいつを唆した奴に殺された子供を見た。善人だろうが、悪人だろうが、皆等しく腹が減るんだ。腹が空いたって言ってる奴を俺は見過ごせないんだよ。今も、そしてこれからもな」

 

「思い出したんですか? カワサキさん」

 

「……おう。もっと大事な事を思い出したい所だけどな……ホシノの怒りも分る。俺もこれがやって良い事じゃないって事は分ってる。だけど別にアビドスに迎え入れてくれとか、そういう事じゃない。ただ飯を食わせてやりたいだけなんだよ、ホシノ」

 

「……納得は出来ないですけど……理解はします。だけどヘルメット団は必ず裏切りますよ」

 

ホシノちゃんはそういうとパトロールをしてくると言ってヘルメット団が逃げていったほうへ歩いていく。

 

「悪いな、ユメ」

 

「いえ、私も確かに納得は出来ないですけど……でも良い事だと思いますよ、カワサキさん」

 

カワサキさんが優しい人なのは私も分かってる。ホシノちゃんだって分ってる筈だ。だけどそれでも私達をアビドスを苦しめて来たヘルメット団にまでその優しさを向けるのは正直に言って嫌だった。

 

(……嫌だな)

 

何か胸にチクリと刺さるものを感じる。それが良くないものだって……嫉妬だって分ってる。だけどそれでも……カワサキさんの優しさをヘルメット団にまで向けて欲しくないというのは私も、きっとホシノちゃんも同じ想いだ。

 

「……はぁ……悪い」

 

「いえ、良いんですよ。ホシノちゃんもたぶんピリピリしてるんです、明日の事で。でもカワサキさんも悪いんですよ?」

 

明日のカイザーとの交渉、そこは無理に納得したがそれとこれとは違う。私とホシノちゃんにとってヘルメット団との和解はカイザーとの和解以上にずっとありえない事だ。カワサキさんが何を言おうと、何をしてくれても、きっと私もホシノちゃんもヘルメット団を許すことは出来ないのだから。

 

「それは分るんだけどな、どうも腹を空かせてる奴を見ると……な」

 

カワサキさんは苦笑しながら頬を掻いた。カワサキさんも分かっている……私達アビドスの生徒がヘルメット団とどれだけ戦ってきたかって分ってる。分かっていても空腹の人をカワサキさんは見捨てられないのだろう。

 

(優しいのは分ってる……だけど……やっぱり……嫌だな)

 

カワサキさんの優しさがヘルメット団に向けられるのが嫌だと思ってしまう。その優しさを私とホシノちゃんだけに向けて欲しい、私達を苦しめて来たヘルメット団に向けないで欲しい。

 

「あのか「ユメ。明日のカイザーとの交渉が終わったらどこか出かけてみるか?」へ……?」

 

意図して無いだろうけど私の言葉を遮り、カワサキさんが出かけようかと声をかけてきた。

 

「明日で1度ユメとホシノが借金の事を忘れられるように俺が何とか話を持っていく。だから1度気分転換で遊びに行くのはどうだ?」

 

「良いんですか?」

 

「良いに決まってるだろ? ユメ達は今までずっと頑張ってきた。だから1回羽休みをしても罰は当たらないと思う」

 

何の不安も無くお出かけなんて考えた事も、出来るなんて思ったこともなかったけど……それはとても魅力的に思えた。カワサキさんが話題をすり替えようとしていると分かっていてもだ。

 

「分りました。優しくてずるい大人に騙されるとしましょう」

 

話をすり替えようとしていると分っても、それと同じ位カワサキさんが私達を案じてくれているのも分っている。だけどヘルメット団の事はやっぱりまだ完全に割り切る事は出来ず少し嫌味っぽい感じで返事を返したが、それに怒るでもなく、呆れるでもなく、困ったような表情をし、どうすれば機嫌を直してくれると尋ねてくるカワサキさんに向かって私はさぁと言って笑いかけ、ホシノちゃんを追いかけるのだった……。

 

「……面白くない、面白くないです」

 

パトロールと言ってカワサキとユメから離れたホシノは面白くないと呟きながら周囲を警戒していた。

 

「……もういないですかね」

 

血相変えて逃げていくヘルメット団を追いかけたが、ホシノの目視できる範囲にその姿は無く変わりに銃のマガジンなどが落ちていた。

 

「……食い意地張ってるようですね」

 

だがそば洋食のパックは1つも落ちておらず、銃よりも食べ物を選んだのだと一目で分かったホシノは落ちているマガジンやスコープと言ったカスタムパーツを拾い自身のバッグに詰め込んでから立ち上がろうとしてその動きを止めた……。

 

「……酷い顔」

 

割れたガラスに映る自分の顔を見てホシノは自嘲気味に笑い、ガラスを踏み砕いて立ち上がる。

 

「……嫌な奴ですね、私」

 

つい先日まで嫌っていたのに、大人だからと警戒していたのに、今では自分とユメ以外がカワサキに近づくのを嫌がってる。怒りは怒りだが、嫉妬に近い表情を浮かべている自分に軽い自己嫌悪を抱きながらホシノは遠くから聞こえるユメの声の元へと歩き出すのだった……。

 

 

メニュー7 ビールと焼肉 その1へ続く

 

 




カワサキさんがヘルメット団の世話をしている、おや? ユメとホシノの様子が……。

ユメパイセン BBBB 

ホシノはアビドスシツドホルスへ進化した。

見たいな感じになりました。ユメパイセンもシツドになりかけましたが、カワサキさんのおでかけの誘いでキャンセル。ホシノは割れたガラスに映る嫉妬塗れの自分を見て進化しました。ヤミホルスへの第1歩がヘルメット団。やっぱりヘルメット団は天敵ってハッキリ分りますね。次回とその次はプレジデントと理事メイン、奴らには腹ペコ属性に進化してもらおうと思いますのでどうなるのかご期待ください。
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