飯食え・アーカイブ   作:混沌の魔法使い

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メニュー7 ビールと焼肉 その1

メニュー7 ビールと焼肉 その1

 

カイザーとの会談を正午に控えた今日。私達はアビドス生徒会室に展開されてるモニターの映像に頭を抱えていた。

 

「この馬鹿でかい建造物がカイザーが欲しがってるもんなんだが、ユメとホシノはどう思う? 俺には戦艦に見える」

 

3Dで表現されているそれはカワサキさんのいう通り戦艦にしか見えない。なぜ海も無い場所に沈んでいるのか分らないが、間違いなくあれは戦艦だと思う。

 

「こんなものカイザーに渡したらキヴォトスが滅びますよ」

 

「だよな、俺もそう思う。あとこんなのもあった馬鹿でかい列車」

 

戦艦の次に映し出されたのは巨大な列車。しかも明らかに武装されており禄でもないものだと一目で分る。

 

「ひぃん……アビドス砂漠ってどうなってるの……?」

 

「それもそうですけど、これアビドスとゲヘナの校章が刻まれてますよ。ユメ先輩」

 

ホシノちゃんに言われて見ると確かにアビドスとゲヘナの校章が車体に刻まれていた。

 

「……雷帝かな?」

 

「でしょうね、ゲヘナが大人しい理由なのは間違いないですけど……詳しい事は分かりませんね」

 

雷帝――現ゲヘナのトップ。自由と混沌を愛するゲヘナを形だけとはいえ大人しくさせている敏腕なのは間違いないが、黒い噂が後を絶たず、凄い発明家とは聞いているが、下手に踏み込むと碌な事にならない気がする。

 

「あと何か分らんけど、凄いレアだと思う物の反応がある。地面の中だから鉱石とかかもしれん」

 

「レアメタルって奴ですか?」

 

「多分。これも採掘しても良いかもな、とは言え簡易ソナーだからそこまで精度は高くないが、もうちょいしっかりしたもんで調べてみるか?」

 

「止めて下さい、なんかお腹痛くなってきたんで……」

 

「私も止めた方がいいと思います。どこから情報が漏れるかわかりませんから」

 

アビドス砂漠――私達を苦しめている砂嵐の大本。そこにとんでもない兵器がいくつも埋まっているというのはかなり衝撃的だった。しかもゲヘナが関わっているとなるとカイザーと連邦生徒会だけでなく、ゲヘナまで敵に回ると流石に勝ち目が無くなるのでこれには触れない方向で行こうと思う。

 

「でもカワサキ。この兵器の場所を教えるのがアビドスの土地を買う条件だったんですよね? 契約を反故にされるのでは?」

 

「それは問題ない。馬鹿でかい何かが動き回ってる場所のど真ん中だ。確実に戦艦を発掘しようとすればあの馬鹿でかい何かが邪魔をしてくるはず。俺は場所を教えると言っただけだから回収するまでは俺の責任じゃないから関係ない、勿論その話はするが、発掘に出るかどうかはあいつら次第だ。俺には関係ないな」

 

カワサキさんはからからと笑いながらモニターを操作して映像を消した。

 

「ユメ先輩。これがずるい大人みたいですよ」

 

「だねー、私とホシノちゃんなんか簡単に騙されちゃいそうで怖いなー……」

 

自分でも凄い棒読みだったと思うけど、ホシノちゃんと一緒にカワサキさんに視線を向ける。

 

「俺はユメとホシノには嘘もつかないし、騙すつもりもないが「1回騙したじゃないですか」……それを言われると返す言葉がないな」

 

昨日のヘルメット団の事もあり、ホシノちゃんにいつもより切れがあるなとぼんやりと思う。

 

「だからちゃんと信じて待ってますから、それで昨日の事は無かった事にしますから……でも今度騙したり裏切ったりしたら許しませんから」

 

わーホシノちゃんの眼力がいつもの比じゃない、なんか凄い圧力を感じてなんか怖い。

 

「分ってる。まぁ朗報を待っててくれ、我に秘策ありだ」

 

だけどカワサキさんはなんでもないように笑って秘策があると言った。

 

「秘策……魔法ですか? 洗脳とか?」

 

「俺には出来ねえよ。俺はあくまで料理人だから俺の武器は料理だ」

 

確かにカワサキさんの料理は美味しいけれど……今回はその武器は使えないと思った。

 

「でも相手はオートマタですよ? 料理は食べれないんじゃ?」

 

「それを何とか出来るんだな、これが。まぁ信じて待ってろ、それと何処に行きたいかとか決めとけよ?」

 

じゃあ行ってくると言って手をひらひらと振りながら歩いていくカワサキさんはいつも通り自然体だ。

 

「んーじゃあカワサキさんも言ってたし、何処に行きたいか決めようか?」

 

「そうですね、優しくてずるい大人に騙されてますしね」

 

「そうそう。私はこことか良いな、DU地区のショッピングモール。参考にもなると思うんだ」

 

「いいですね。それならゲームセンターも見てみるといいかもしれないですね」

 

「だね! あーでもトリニテイはちょっと嫌かなあ」

 

「ゲヘナも嫌ですけどね」

 

「あとカワサキさんも案内したいね」

 

「カワサキにもキヴォトスを知って欲しいですね」

 

この会談が終わった後にカワサキさんが遊びに連れて行ってくれると約束している。借金の返済や、融資してくれてる銀行を探してではなく、遊びの為にDUに行くのは本当に久しぶりで、私とホシノちゃんは自分達が遊ぶだけではなく、カワサキさんにキヴォトスを案内するのも目的にして何処にいこうか、何をしようか、何を食べようか、と本当にただの学生のように出掛けることに楽しみにしながら、カワサキさんとカイザーの会談が上手く行く事を祈るのだった……。

 

 

 

豪華なリムジンに腰掛ける1体のオートマタ――赤のシャツに黒のベスト姿に杖を手にしたこのオートマタの名前はプレジデント。カイザーグループのトップの真向かいにはその巨体を小さくさせている理事の姿がある。

 

「ご足労を掛けさせて申し訳ありません、プレジデント」

 

「構わん。我々の宿願が叶うのかも知れんのだ。お前では少々手に余るだろう、それに噂の魔法使いを見てみるのも悪くない」

 

砂に埋まったアビドスを一瞬で戻した男――カワサキに興味があったのも事実。クロノスジャーナリストスクールは魔法のような手腕と騒いでいたが、何らかのオーパーツの所持者という可能性もあり、部下ではなく自分の目で確かめてみようと思ったのだ。

 

「お怒りではないのですか?」

 

「アビドス砂漠を手放していないのならば構わん。自治区などアビドス砂漠と比べれば何の旨味もない」

 

数多の遺産が眠るアビドス砂漠さえこちらの手中にあれば、子供が運営している自治区など何の意味もない。舟さえ手に入れてしまえばすべてが覆せるのだ。それまでは子供のママゴトに付き合うくらいの余裕はある。

 

「ようこそ、プレジデント。待っていた」

 

アビドスに作られている複合商業施設の前で待っていた男を見て、私は内心その警戒心を上げた。

 

(只者ではない、生粋の上に立つ人間か。なるほど、理事では手に余る訳だ)

 

私と理事を出迎えた男を見て私が抱いた感想はこちらが死ぬか、相手が死ぬかの二択だった。かつてのアビドスの高級車を何十台と持ってきた男にアビドスの土地を売ったという報告を理事から受けた。それはいい、アビドス砂漠だけが手中にあれば良いのだからアビドス自治区をアビドスに返す事は大した問題ではない。だがこの男と敵対するのは避けた方が良い、ゲマトリア同様。お互いに利用し、利用される関係であるのがベストだと一目で理解した。

 

「お前がカワサキか、とんでもない手品の持ち主のようだな?」

 

ゲマトリアにスカウトされたが、それを蹴ってアビドスについた。黒服と同等か、それ以上の脅威の可能性がある。そんな相手に護衛もなしに私と理事だけ出会うのは当然ながらリスクしかない。だが私の直感が出向くべきだと訴えていた。そしてこうして顔を見合わせてそれは間違いでは無かったと確信した。

 

「お褒めに預かり光栄だ。まずはそちらに譲渡する土地を見てもらおう。こっちだ」

 

1夜の間にアビドスの砂が消え、その変わりに現れた巨大な商業施設を見上げながらカワサキの案内で施設内に足を踏み入れる。

 

「ふむ……悪くないな」

 

アビドスの職人が開店の準備を急いでいるのを見ながら施設内を見て周る。遠くから見ていても思ったが、内部に入れば無償でこの商売に1枚噛めるなら悪くない所か良い条件過ぎた。

 

(5階建ての巨大複合商業施設……これを我々に感じ取らせずに建設した。本当に魔法かもしれんな)

 

これだけの物を建設しようとすればこちらでも情報を掴めるが、一夜で現れたと考えると本当に魔法使いかという考えが脳裏を過ぎる。

 

「気に入ってもらえて何よりだ。それで理事、どんな店をやる予定だ?」

 

「そうだな。やはり高級志向のブティックなんか「こんな感じか?」……は?」

 

理事の言葉を遮りカワサキが指を鳴らすと何も無かった区画に店が突然現れる。

 

「ほう……クロノスの言う魔法使いというのは嘘偽りではないか」

 

「俺は俺に出来る事しかできないけどな、それでこんな感じでどうだ?」

 

「……あ、ああ。悪くない」

 

搾り出すように悪くないという理事は目の前の現実を受け入れる事が出来ないのか動揺を隠せないでいる。だがゲマトリアと付き合うのならばこの程度は受け入れなくてはならない。

 

「商品までおまけしてくれるのか、これではこちらが貰いすぎになるな」

 

店の中には入りショーケースに飾られている装飾品に視線を向ける。どれもが1級品の品ばかりだ、金持ちで真実を見極める眼力のないトリニティの金蔓にそのまま売ってもいいと思えるほどだ。

 

「いや、これは迷惑料も兼ねている。アビドスの土地を買う条件のアビドス砂漠に埋まる物、その場所を把握したのは良いんだが……そちらが手に入れられない可能性が出てきたからな」

 

「何!? それでは契約が「黙れ、理事。これは私とカワサキの話だ、お前は黙っていろ」……し、失礼しましたプレジデント」

 

理事を睨んで黙らせ、杖を突いたままカワサキに視線を向ける。

 

「契約では場所を教えるとあった。だがそれを我々が手に入れられるとまで手伝うとは書いていなかったからな、仕方あるまいよ。我々が損をするから先手で利益を出る条件を出されてはこちらも不満はあるが引かざるを得ない」

 

好事家が欲して止まないアビドスの高級車が23台、商業施設の一等地、これから繁栄するであろうアビドスでセイント・ネフティスよりも先にカイザーグループが根付くことが出来る。個人としては不満ではあるが、カイザーグループのトップとして考えればこれだけの利益を先に提示されては折れるしかない。

 

「して我々が手に入れらないとはどういう意味かね?」

 

「アビドス砂漠巨大な機械の蛇がいるだろ? 舟の埋まっている区画があいつの縄張りだと思う。となると間違いなく発掘はかなり面倒な事になると思ってな。一応地図は用意してある。これはそちらに預けよう」

 

渡された地図は我々のほうでも把握していたビナーの出現頻度が高い区域だった。その区域の最深部に印が打たれており、確かにこの位置ではビナーに捕捉される前に発掘するのは無理だと納得した。

 

「なるほどデカグラマトン関係か……」

 

ゲマトリアから提供されている情報であるデカグラマトン――その1柱であるビナーの縄張りと考えれば手に入らない可能性がある。

 

「デカグラマトン……確か黒服も言っていたな。何なんだ? そのデカグラマトンというのは」

 

デカグラマトンを知らない、いや情報を提供される前にゲマトリアと決別したであろうカワサキがなんなのかと尋ねてくるが、それに答える義理はこちらにはない。

 

「知りたければそちらから黒服にコンタクトをとれば良かろう? なんならその魔法で我々に協力するというのなら情報提供も吝かでは無いが……」

 

「期待されて申し訳ないが、俺は戦闘に使えるような魔法は使えないんだよ。こちらが出来るとすれば一部の武器の提供くらいだが……デカグラマトンの情報ではなく、別の物と交換ではどうだ?」

 

「別の物……アビドスの借金かね?」

 

「話が早くて助かる。ユメもホシノも学生なんでね。それなりに学生らしいことをさしてやりたいっていうのが大人ってもんだろ? それにこれからこの施設の準備もある。半年ほど借金の返済を停止して貰えないか? 勿論借金の10億近い金はちゃんと返済する」

 

この施設が稼働すれば確かに10億の返済は容易いだろう。その上かつてのアビドス以上の繁栄の可能性があるのならば、一時返済が滞るのは問題ない。

 

「私とは考えが違うようだ。子供に甘いその考えには同意はしないが、金の卵を産む鵞鳥を殺す事もあるまい。そういうことなら3億だ。お前が3億の価値があると思う武器を提供してもらおうか」

 

私の言葉にカワサキは少し考え込む素振りを見せた後に虚空に手を突っ込んだ。

 

「それがお前の魔法か?」

 

「持ち歩けない物を異世界に収納してるんだ……これならどうだろうか?」

 

カワサキが虚空から引きずり出したのは2mほどの銃身を持つ巨大な銃だった。

 

「ほう? 見たことのない物だな? これはなんだ?」

 

「パラケルススの魔剣という。持ち運び可能なレールガンだ。電力のチャージ量で威力が変わる代物でな、最大火力で放てば周囲の地形を変えるくらいの威力は出る」

 

その反動に耐えられればだがとカワサキは付け加える。携行可能なレールガン――それは我々カイザーグループでもまだ実用化されていない武器だ。

 

「良いだろう。これを3億で買い取り、アビドスの借金は半年の間の返済を待つとしよう。良いな? 理事」

 

「分りました。プレジデント」

 

理事は不服そうだが……どの道プールと商業施設が軌道に乗ればすぐに返済してくるだろうから借金が札として役立つ内に使わせて貰うとしよう。その後も商業施設を見て周り、5階建ての商業施設内に4箇所カイザーグループの店を持つことになったので非常に有意義な時間だった。

 

「さてと、そろそろ良い時間だ。取引も済んだので私はこれで失礼するとしよう」

 

求めていた舟の入手は困難だと分ったが、カワサキから提供されたパラケルススの魔剣と商業施設の一等地と店が手に入っただけで今回は良しとしよう。

 

「待ってくれ、態々手間を掛けさせたんだ。詫びをさせてくれないか?」

 

「ふむ。こちらとしては気にしていないが?」

 

「そうもいかない、そちらが欲しがっている物を提供出来なかったんだ。取引をする相手とはイーブンでいたいんだ」

 

律儀な男だ。こういう手合いは利用しやすいと思う反面個人的には好感が持てる事もあり、カワサキの申し入れを聞いたのだが……この時の判断は間違いであったと私は後に後悔するのだった。

 

 

 

侘びをしたいと言うカワサキがプレジデントと私を案内したのはまだ営業準備が出来ていない飲食店だった。

 

「オートマタを飲食店に招待するとは変わった男だ」

 

「まぁ普通はそうだろうが、俺は普通じゃないんでね」

 

カワサキはそう言うとプレジデントと私に指輪を1つずつ差し出してきた。

 

「なんだこれは」

 

「あんた達を驚かせた手品の1つさ理事。まぁ騙されたと思って嵌めてみてくれ、あんた達に害はないさ」

 

「だそうだ、理事嵌めてみろ」

 

プレジデントの命令には逆らえないので指輪を嵌め……目の前に広がる光景に言葉を失った。

 

「これは!? こ、声がッ!? それになんだこれはッ!?」

 

機械の身体が人間の物に変わっていた。声も機械音声では無く、人間の物と同じになっていた。

 

「人化の指輪。人なざる者を人にする魔道具だ」

 

「ほう……これは面白い」

 

プレジデントも指輪をつけては外しを繰り返し、老齢の紳士と機械の身体に変わる自分を興味深そうに見ていた。

 

「所で喉が渇いていないか?」

 

「喉? なにを……いや、これは……」

 

「ふむ、これが喉が渇くという感覚か、実に面白いな」

 

言われて気づいたが奇妙な渇きを感じる。これが人間が喉が渇くという感覚か……人間が喉が渇いて死ぬというのは知っていたが、こんなにも乾くものとは思っていなかった。

 

「今飲み物を持ってこよう。2人とも酒は大丈夫だよな?」

 

「昼間から酒か、まぁたまには良いだろう。お前のお薦めを貰おう、理事は?」

 

「では私も同じ物を」

 

とにかく今はこの渇きを癒したかった。あれやこれやと考えるよりもプレジデントと同じ物を頼めば問題無いと思い同じ物を頼む。

 

「暑い時は冷たいビール。これに限る」

 

大きめのジョッキに注がれて出されたのはビールであり、それを見て内心ガッカリした。オートマタの嗜好品である味覚データ。それを読み込めばその味を体感できるという物だが……その中でも不評なビールを出されるとは馬鹿にしているのかと言いたくなったが、まずはのどの渇きを癒すのが先だとジョッキに手を伸ばし……。

 

「っつう!? なんだこれはッ!?」

 

ジョッキに触れた指先が痛み、思わず手を引っ込めてカワサキに怒鳴る。だがカワサキはきょとんとした表情をしていた。

 

「そりゃ冷たいジョッキだから冷たいに決まってるだろ?」

 

「冷たい……これが冷たいという感覚か……ふふふ、はははははッ!! 良いぞ、お前に俄然興味が沸いてきたぞカワサキッ!」

 

オートマタの身体では感じなかった物。それが人間の身体になって感じることに上機嫌な様子のプレジデントはジョッキを持ち上げてビールを口にし、目を見開き一瞬硬直したが、すぐに喉を鳴らしながら凄まじい勢いでビールを飲み干しジョッキを机の上に叩きつけた。

 

「ぷはぁッ!!! ははははははッ!! 美味い! 美味いぞッ!!! ビールとはこんなにも美味いものだったかッ!!! 味覚データも当てにならんなッ!!! ははははははははッ!!! 何をしている理事、お前も飲め」

 

「は、はぁ……いただきます」

 

上機嫌すぎるプレジデントに少し恐怖を抱きながらジョッキを持ち上げる、その冷たさが手から全身に伝わってくる。

 

(だが所詮ビールだろう?)

 

二束三文で買える味覚データのビール。生身で飲んだ所で変わらないと内心思いながらジョッキに口をつけ、次の一口からは夢中で飲み始める。

 

(な、なんだこれはッ!? こ、これがビールなのかッ!?)

 

冷たい、ジョッキを掴んだ段階で分かっていたがビールがキンキンに冷えている。その冷たさが身体中に染み渡って行く、雑味が無く、スッキリとした感覚とほのかな苦味、口の中で弾ける炭酸。ビールと馬鹿にしていたが、生身で味わうのと味覚データで味わうのでは雲泥の差があった。喉を鳴らしながら一気に飲むビールは味覚データとは別物だった。

 

「ぷはぁッ! はぁッ……はぁ……う、美味い……美味過ぎるぞッ!?」

 

かなりの量だったので飲むのに夢中になって息継ぎを忘れていた。ジョッキを机の上に叩きつけ口元を腕で拭う。

 

「気に入ってもらえて何より、どうだ? もう一杯いくか?」

 

「貰おう、だがこれでは量が足りんな」

 

「じゃあ大ジョッキで行くか、理事は?」

 

「私も大ジョッキで頼む」

 

さっきの量ではまるで足りん、もっと大きなジョッキでビールを頼み、準備に向かったカワサキを見送り残っているビールを口に含む。

 

「これがビール。味覚データとは比べ物にならないほどに美味い物ですね、プレジデント」

 

「データだから劣化しているのは当然だが、生身で味わうとまるで別物だな。安酒と馬鹿にしていたが、これは確かに美味い」

 

味覚データ。それが我々オートマタが食事を楽しむ為の物で、当たり前だと思っていたが……生身で味わうとこうも違うとはと驚かされる。

 

「待たせたな、ビールの大ジョッキだ。それと腹も空いてると思ってな、昼食を食べて行ってくれよ。ビールには焼肉って昔から相場が決まっている」

 

先ほどのジョッキよりも大きなジョッキが机の上に置かれるが、私の目はビールよりもカワサキが持ってきた肉に向けられていた。腹に穴が空いたような、奇妙な感じ……これが空腹かと喉の渇きに続き、空腹から齎される飢餓感に驚かされていた。

 

「焼くのは馴れていないだろうからな、今日は俺が焼こう」

 

朗らかに笑い肉を焼き始めるカワサキ。その姿に悪意などは無く、純粋に私達を持て成そうとしているのが分る。だが……ビールでもあれだったのに、焼肉なんて食べて大丈夫なのだろうか? という不安はあった。だがそれを上回る初めて味わう空腹と食欲に抗う事は出来ず……ビールをちびちびと飲みながら無意識にカワサキが肉を焼く姿をジッと見つめているのだった……。

 

 

メニュー8 ビールと焼肉 その2へ続く

 

 




生身で味わうビールに驚愕するプレジデントと理事。カワサキさんの胃袋を掴む作戦は効果は抜群のようです、次回は焼肉を前に陥落するプレジデントと理事を書いてみようと思います。食事が出来ない異形系にビールと焼肉を叩き込む悪辣な戦略です。ブルアカ版はシナリオが結構多かったですけど、ここからは飯食えクオリティを出せるように話を進めて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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