飯食え・アーカイブ   作:混沌の魔法使い

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下拵え 休息 その1

下拵え 休息 その1

 

1週間の羽休めということでアビドス復興の為にあちこちの学区を見て回るという事を決めたのは良いんだけど……。

 

「ひぃん……立ち入り規制が入ってる……」

 

「もう形振り構ってられないって事ですね」

 

District of Utnapishtim(ウトナピシュティム地区)略してD.U.地区と呼ばれるキヴォトスの首都とも呼べる学区は立ち入り規制が掛かっていた。

 

「学生証の提示をお願いします」

 

「クロノスジャーリストスクール……申し訳ありませんが連邦生徒会より立ち入りが禁止されております、引き返しを」

 

「報道の自由を侵害するのですか!? 我々はゲヘナがモモトークで発信した情報が事実なのかを」

 

「お引取りください」

 

「強攻策に出るって事は事実だと認めるんですねッ!」

 

「十分な資金を連邦生徒会に納めていない学校の権利はないの発言はどうやら事実のようです!」

 

「これが中立であり、他の学園のまとめ役である連邦生徒会の実態のようですッ!!」

 

「取り押さえろッ! カメラもスマホも取り上げて、矯正局に入れろッ!」

 

ヴァルキューレ警察学校の生徒が検問を張っていてD.U.地区に入るのはどう見ても無理だった。ヴァルキューレに取り押さえられながらも叫んでいるクロノスの生徒には正直感心する。取り押さえられる最後の瞬間まで報道を止めないのは彼女達の本気を感じさせた。

 

「ひぃん……任意の事情聴取対象って書かれてますよ」

 

しかし関心もしてられない、私とホシノちゃんの顔つきの写真が張られていた。任意と書かれているがどう見ても指名手配と同じ扱いだ。

 

「どうします? この認識阻害の指輪とかで入れますかね?」

 

「止めとけ。拘束でもされたら面倒だ、それにこんな強攻策に出れば事実と認めているような物だからな。勝手に沼に沈んでいくのを見ていれば良いさ」

 

カワサキさんはそう言うと踵を返して歩き出すが、その時ぼそっと何かを呟いた。すると私達の背後に奇妙な気配が現れた。

 

(動くな、味方だ)

 

咄嗟にホルスターに手を伸ばしかけたが、カワサキさんに止められた。

 

「行け。目的地は連邦生徒会、それとヴァルキューレ警察学校上層部だ。もし発見されたら即時離脱だ」

 

『御意。お任せくださいませ、カワサキ様』

 

人間の声は思えない金きり音のような声と共にその気配は完全に消えた。

 

「あれは?」

 

「召喚モンスターだ。クランの機能で召喚出来るコストはかなり割高だが、防衛用のゴーレムもそれで出したんだぞ?」

 

西洋の騎士にしか思えないゴーレムを思い出し、あれと似たような物だろうかと考えているとカワサキさんが苦笑いした。

 

「馬鹿でかい虫だ。八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)というが紹介するか?」

 

「止めときます……」

 

だろうなと笑ったカワサキさんは背伸びをし……駅のホームの張り紙を見て眉を細めた。

 

「ああ。指名手配の、どうかしましたか?」

 

「カワサキさん? どうしました?」

 

ホシノちゃんの言葉に返事もせず、じっと一点を見つめているカワサキさんにどうかしたのか? と再度尋ねる。

 

「あのゲヘナだったな。ゲヘナのアレインって知ってるか?」

 

カワサキさんが指差したのはゲヘナ1年生でありながら、既に広域指名手配になっているテロリストだった。白と黒の翼を持ち、血の様な紅い瞳と男装をした胸の大きな女子生徒の写真をジッとカワサキさんは見つめていた。

 

「なんですか? カワサキはああいう娘が好みとでも?」

 

ギロリと音が聞こえそうな眼光に、重い声色のホシノちゃんにカワサキさんはきっぱりと違うと言って、アレインの写真の胸元のブローチを指差した。

 

「あのブローチの柄。俺の紋章に似てる」

 

「「え?」」

 

紋章という聞き覚えない言葉に声を上げるとカワサキさんは上着から手帳を取り出した。

 

「これだ。これが俺の紋章、俺の仲間連中は全員で確か……40人くらいいる。1人1人がこういう紋章を持ってるんだよ」

 

複雑な幾何学模様が幾重にも組み重なった紋章が手帳に記されているが、その中の1つが確かにアレインの胸元のブローチの柄に良く似ていた。ちなみにカワサキさんの紋章は中華鍋に包丁とお玉をアレンジした物で、良く見ると調理器具に見えるがしっかりと見ないと何処かの貴族の紋章にも見える柄だった。

 

「勘違いではないでしょうか? 大体カワサキは外から来たじゃないですか、だからキヴォトスにあるわけがない」

 

「……そうだな、そうだよな。気のせいだよな」

 

「そうですよ、気のせいです。行きましょう。もうすぐミレニアム行きの電車が出ますから!」

 

「ええ。絶対気のせいです、いきましょう」

 

気になると言って振り返ろうとするカワサキさんの背中をホシノちゃんと一緒に押して、ミレニアム行きの改札へ向かおうとしたのだが……遠目だがアレインが電車から降りてくるのが見えた。

 

「急ごう! 行きたい所色々あるし!」

 

カワサキさんとアレインを会わせてはいけない、何故かそんな気がした。カワサキさんの記憶は戻って欲しいが、アレインと会わせたくない。それが嫉妬に似た感情だと分っていたが、それでも嫌だという気持ちには逆らえず私はカワサキさんの背中をミレニアム行きのリニアに向かって押して歩き出すのだった。

 

「ん?」

 

「どうかなさいましたか? アレイン様」

 

「……いや、何か懐かしい気がしてな、まぁ良い。気のせいだろう、それよりもだ。キングを落とす」

 

「はっ!」

 

「雷帝は忌々しいが、この騒動を利用しない手はないからな! 行くぞッ! 弱者から搾取する愚か者に制裁をッ!」

 

「「「「おおおおおお――ッ!!!」」」

 

ゲヘナ、トリニテイ、中にはSRT特殊学園や、ヴァルキューレ警察学校までありとあらゆる学園の制服を黒く染めた改造制服を身に纏った生徒を引き連れアレインは真っ直ぐにサンクトゥムタワーへ歩き出す。圧倒的なカリスマと卓越した射撃技術、そして指揮能力を持ち、トリニティからゲヘナに転校という異例の経歴、そしてただの一度も捕らえられた事のない女。後に黒翼の堕天使と呼ばれ始めるアレイン・オードルの代名詞でもあるサンクトゥムタワー襲撃。アレイン・オードルの名をキヴォトスに知らしめたその最初の事件がカワサキがミレニアムに到着したのと同時刻に発生した。それによって連邦生徒会は大打撃を更に受け、ゴーレムによって捉えられたヴァルキューレ警察学校の生徒と、連邦生徒会役員によるアビドスの不法侵入をクロノスへ報じられ、連邦生徒会への不満が更に爆発し連邦生徒会はアビドスに手を回す余力を完全に失うのだった……。

 

 

 

 

 

 

ユメ先輩の手前知らない振りをしたが、アレインの事を私は知っていた。ユメ先輩がアルバイトに行き、私が校舎に待機している時にやってきたからだ。私の力が欲しいとか、キヴォトスを正すには悪を成して正義を成すしかないとか凄いご高説を垂れていたが、犯罪者になるつもりはないので追い返したのだ。

 

(なんであんなやつにカワサキのと似た紋章が……)

 

カワサキのいう仲間の証の紋章――その1つとアレインのブローチの柄は酷似していた。ただの偶然だと思うが、アレインとカワサキを接触させるのは避けるべきだというユメ先輩の判断は間違ってない……。

 

「っと、すいません。どうしました?」

 

アレインの事を考えていたせいか立ち止まっていたカワサキの背中にぶつかってしまった。

 

「ん? すまんすまん。あれゲームセンターか?」

 

「ええ、ミレニアムでも有名なゲームセンターですがどうかしました?」

 

ゲームセンターときいてカワサキは興味深そうに視線を向ける。

 

「ゲーム好きなんですか?」

 

「多分好きだと思う。見ても良いか?」

 

ゲームセンターに行きたいと言うカワサキ。本来はD.U.地区でショッピングの予定だったのでミレニアムで何をするのかは正直決まってなかった。ぶらぶらとウィンドウショッピングでもしようかと思っていましたが、ゲームセンターというのはそう悪くないかもしれない。

 

「ゲームセンターってやっぱり遊ぶ所にあると良いよね? ホシノちゃん」

 

「ですね、取材を兼ねて見にいくとしましょうか」

 

「悪いな」

 

悪いと言いつつも楽しそうなカワサキと共にゲームセンターの中に足を踏み入れる。

 

「こういうのはあんまり変わらないと思ったんだが……想像を超えてるな」

 

「ミレニアムですからね! 最先端のゲーム機揃いですよ!」

 

3Dは当たり前、VRのゲーム機とミレニアムらしい技術が盛り沢山のゲーム機の中から1つを選ぶ。

 

「カワサキ。勝負しませんか?」

 

私が指差したのはシューティングゲーム。カワサキの料理の腕前は知っているが、戦闘能力は未知数だ。ゲームではあるが、1度カワサキの銃の腕前を見てみたかった。

 

「良いが、先にホシノがやってくれるか? 先にやってるのを見てどんな感じか見てみたい」

 

「良いですよ。じゃあユメ先輩、私、カワサキの順番で」

 

「え!? 私もやるの?」

 

「良いじゃないですか、ユメ先輩。良いところ見せてくださいよ」

 

プレッシャーと言いながらユメ先輩はゲーム機の筐体に立ち、ゴーグルと銃型コントローラーを手にする。

 

「駄目でも笑わないでくださいね」

 

そう前置きしてからユメ先輩のプレイが始まったのだが……。

 

「なぁ? ユメのやつ結構上手くないか?」

 

「ユメ先輩の射撃の腕前はかなり高いですよ? ただ本人の気質が攻めより守りに向いてるだけで」

 

私が入学するまではユメ先輩は1人でアビドスを守っていたのだ。そんじょそこらの生徒では相手にならないくらいユメ先輩の射撃の腕前は高い……のだがやはり普段の焦り癖とドジ癖が出てしまい、ミスショットからずるずると調子を崩してしまった。

 

「ひぃん……途中までは良い感じだったんだけどなー」

 

「お疲れ様です、ユメ先輩。じゃあ次は私ですね」

 

ユメ先輩と変わってゴーグルを身に付け、コントローラーを手にする。

 

「シッ!」

 

ゴーグルに一瞬だけ映る敵の出現前のマーカーが現れると同時に撃ち抜き、同時にクリーチャーが出て来ても近いほうから処理する。

 

「ショットガン……良いですね、使い慣れた獲物です」

 

武器をハンドガンからショットガンに交換し、次々とクリーチャーを撃破し、筐体に記録されているハイスコアを更新する。

 

「まぁこんな感じで、じゃあ次はカワサキの番ですよ」

 

「期待に答えれるといいがな」

 

そう笑ってカワサキはゴーグルをコントローラーを手にしゲームを始める。

 

「悪くない、悪くないですけど……」

 

「初等部クラスかなあ?」

 

「ですね、でも堅実で良いと思いますよ」

 

両手でコントローラーを持ち、確実に照準を合わせて打つ。派手なプレイや魅せプレイはないが、教科書のような基本的な動きだ。そんなプレイだからかカワサキのスコアは高くも無く、低くもない丁度中間くらいだった。

 

「可も無く不可も無くって所だな」

 

「でも訓練すればもっと良い線いくと思いますよ? カワサキも練習しますか?」

 

「いや、良い。俺は戦いは好きじゃない、護身程度で十分だ」

 

カワサキにも銃の扱いになれて欲しかったが、本人にやる気がなさそうなのでしょうがないと諦める。カワサキは前線に出ることはないから、無理強いすることも出来ない。

 

「他のゲームでも遊びましょうよ! あ、そうだ! カワサキさんってクレーンゲームって得意ですか?」

 

「まぁ出来ると思うが、なんだ?」

 

「ゆ、ユメ先輩!? まさか」

 

「リベンジだよ! ホシノちゃん!」

 

ずっと前、私が入学した頃に一度だけ来て、私のお金を5000円も飲み込んでくれたクレーンゲームの景品。

 

「この鯨のぬいぐるみを取ってください! ホシノちゃんが欲しがってるんです!」

 

「ゆ、ユメ先輩! そういうのは……ってカワサキ何をしてるんですか?」

 

「角度とかを見てる。んー多分……6手くらいだな。どれ」

 

カワサキは100クレジットを入れ、巨大な鯨のぬいぐるみに向かってアームを動かす。

 

「こういうのは大体1回じゃ取れない。丁寧に少しずつ動かして……」

 

小刻みなアーム操作を繰り返し、1回、2回、3回と回数を重ねて

 

「嘘……」

 

「こんなもんよ」

 

6回目に欲しかった巨大な鯨のぬいぐるみをカワサキは獲得して見せてくれた。

 

「私も! 私あのイルカが良いです!」

 

「またでかいのを……こいつは800円くらいか? まぁやってみるか」

 

「はい! お願いします!」

 

ユメ先輩が欲しがっているイルカのぬいぐるみを取ろうとしているカワサキの背中に一瞬視線を向け、こっちを見てないのを確認してからクジラのぬいぐるみに顔を埋める。

 

「うへ~♪」

 

サイフを使い切るまで挑戦し、それでも取れなかった。それほどまでに欲しかったぬいぐるみが自分の手の中にある。それが嬉しくて嬉しくてしょうがなくて、カワサキが2つ目のぬいぐるみを取るまで私はずっとそうしているのでした……。

 

 

 

ミレニアムサイエンススクールのお膝元だけあってゲームセンターのクオリティは桁外れだった。

 

「流石に俺でもこのレベルのゲームセンターは用意出来ないな」

 

「ここが特別なだけで他のゲームセンターはもっと普通ですよ?」

 

「そうなのか? それなら良いが……流石にミレニアムの技術者を誘致する余裕はないからなぁ」

 

カイザーから譲渡された4億円、それと2000万ちょい。それが今の俺達の資産なのでそれを投資するなら確実に勝てる勝負に使いたい。

 

「む。ユメ先輩あれを見てください」

 

「なにホシノちゃん。へー……良いねあれ」

 

クジラのぬいぐるみを抱えているホシノの目がギラリと光り、ユメも興味深そうな表情をしている。

 

「ゲームセンターのイベントか。商品は……水族館のチケット? ホシノ。お前水族館が好きなのか?」

 

「え、ええ……魚とか鯨とかも好きですし、クラゲとかも好きですよ」

 

意外だなと思いながらもホシノが目を輝かせているのを見れば、何とかして手にしてやりたいと思う。買おうと思えば買えるが、ホシノの性格なら間違いなく断るのは分りきっているからだ。

 

「3人1組でダンスゲームですけどカワサキは出来ますか?」

 

「出来ると思うが……俺はキヴォトスの音楽を知らんからなあ……ユメとホシノが先にやって音楽を聞かせてくれれば出来ると思う」

 

「なら決まりですね! よーしっ! がんばろーッ!!」

 

とユメは気合を入れてイベントにエントリーしたのだが……。

 

「ひぃん……ホシノちゃんごめんね……」

 

「だ、大丈夫ですよ。ユメ先輩! 私とカワサキで頑張ります!」

 

音感は悪くなかったが何時もの悪い癖が出た上に、ギャラリーからのくすくす声に焦ったのか、ミスにミスが重なり最初の滑り出しが良かったからギリギリボーダーラインはクリアしていたが中々厳しいスコアだ。

 

「頑張れホシノちゃん!」

 

「はい!」

 

気合を入れた様子のホシノのプレイを見ながら筐体から流れる音楽に耳を傾ける。

 

(足だけじゃなく、手も使うタイプ。それと……なるほど本格的なダンスゲームって所か)

 

全身を使うタイプの音楽ゲームだ。リズム感と反射神経が物を言う中々難易度の高いものだ。

 

「……」

 

となると手足の短いホシノには不利な点があり、所々コンボが途切れてボーダーを越えはしたが上位には届かない微妙な点数だった。それが分かっているから無言で降りてくるホシノの頭に手をおいた。

 

「心配ない。トップをもぎ取ってくる」

 

トップを取るには俺がパーフェクトを取る必要がある。正直子供の遊びに本気を出すのはどうかと思うが……今回は特別だ。

 

「え? 男の人だ」

 

「しかも大人……」

 

「え、え!? な、なんで……キヴォトスに?」

 

「アビドスの校章がついてる」

 

ざわざわとざわめくギャラリーを無視して、ユメとホシノが選んだ曲と同じ物を選択する。

 

「カワサキさん。ダンスは出来るんですか?」

 

「ダンスも音楽も出来る大人の嗜みだ。趣味じゃねぇがな」

 

幼い頃の教育の賜物ではあるが、正直言って忌々しい物ではあるが……使えるものは何でも使えばいいのだからそこに文句はない。流れてくる矢印型のノーツを見つめ、スピーカーから流れてくる音楽に集中する。筐体から聞こえて来るエクセレントの声とカメラの音を完全に無視してプレイに集中する。

 

「フ、フルコン……オールエクセレント……」

 

「う、うそお……」

 

「は、初めて見た」

 

2位と30万以上の大差をつけて1位に躍りでる。筐体から降りて唖然としてるゲームセンターの店員であろうオートマタに視線を向け、水族館のチケットを手に取る。

 

「これ貰って行っても良いだろ?」

 

「ど、どうぞ! おめでとうございます! あ、お名前を」

 

「アビドス生徒会で頼む。行くぞ、ユメ、ホシノ」

 

まだ呆然としているうちにユメとホシノを連れてゲームセンターを出る。背後で聞こえて来る爆発にも似た歓声に顔を歪める。

 

「これで明日の予定も決まりだな」

 

「え、あ。そ、そうですね。カ、カワサキは本当に何でも出来るんですね」

 

「何でもじゃない、俺は俺に出来る事しか出来ないぞ」

 

「いや、それでも凄いですよ! 水族館かー、楽しみですね! あ、アビドスに水族館は」

 

「流石にそれは無理だな。クランアイテムはあるが維持費がプールの比じゃないからこっちが干乾びる」

 

ですよねーと笑うユメに俺もホシノもつられて笑いながらミレニアムを後にするのだが、その道中で大きな車椅子を押している黒髪の少女が遠目に見えた。

 

「……舞子?」

 

殆ど無意識に俺は女性の名前を呟いていた。ユメとホシノが凄い勢いで振り返った。

 

「カワサキ。今なんて?」

 

「カワサキさん? どうかしました?」

 

「あ。あ……何か言っていたか? 俺」

 

惚けている訳ではない、だがどうしても自分が口にしたはずなのに何を言ったのか思い出せなかった。

 

「……疲れたのかもしれませんね。早く帰りましょう」

 

「だね。今日も柴関ラーメンに行きましょうよ」

 

「そうだな、大将のラーメンは美味いしな」

 

後髪を引かれるような気がしたが、名前も思い出せない、知り合いでもないはずの少女に近づくのは悪いと思い俺はユメとホシノの後を着いてアビドス行きのリニアに乗る為にバス停に向かって歩き出すのだった……。

 

「どうかしましたか? 舞子」

 

「んー? いや誰かに呼ばれた気がしてね。ヒマリ」

 

「ふふ、私達のような美少女には誰もが目を奪われるという物ですね!」

 

「はいはい、そうだね」

 

「軽くありませんか!?」

 

「早く行かないとリオが待ってるでしょ? それに映画のナイトショーにも遅れるし後で聞くよ」

 

「貴女と出掛けるのはいいですが、何でリオまで」

 

「同級生なんだから仲良くしようよ、ヒマリ」

 

車椅子の少女の言葉を右から左に聞き流しながらも、舞子――ミレニアム1年生の山瀬舞子は風に乗って聞こえて来た知らないのにどこか懐かしい声は何だっただろうかと首を傾げながら、明星ヒマリの車椅子を押して待ち合わせ場所へ急ぐのだった……。

 

「なぁ? なんでモモッターで俺のダンスが拡散してるんだよ」

 

「あははー……刺激が強すぎたんですかね……」

 

「カワサキは目立ちすぎますからね」

 

「納得いかん」

 

謎のダンスマン。ダンスゲームでオールエクセレントフルコンボで水族館チケットを受け取る等のタイトルで拡散されているのを見て、本当にキヴォトスの民度はどうなってると俺は頭を抱えるのだった……。

 

 

 

「何故情報規制が出来ないッ! お前らは何をしているッ!」

 

「連邦生徒会の権威を守る事も出来ないのかこの無能共がッ!」

 

ドアの隙間から聞こえて来る連邦生徒会長と副会長の怒号を聞いていた1人の生徒はくすりと笑い。監視カメラの死角を鼻歌交じりで潜り抜け、サンクトゥムタワーの地下へ向かう。

 

「無能はそっちですよ、会長さん」

 

地位と金に目が眩み大局を見据える能力を失った。本当なら後1年は生徒会長の地位についていてもらうつもりでしたが……。

 

「そっちが悪いんですよ。大人しくしていれば強攻策になんて私も出なかったのに……」

 

無能なのは知っていた。何度も何度も繰り返してあの女が何の役にも立たない無能というのは嫌というほど知っている。

 

だからそれを隠れ蓑にして準備を進めていた。今回もそれをするつもりでしたが……。

 

「許さない、貴女達を私は許さない」

 

よりにもよってアビドスへのSRTとヴァルキューレの派遣――そこはまだ許せる。

 

旧校舎などに埋まっているかつてのシェマタと連邦生徒会とのやり取りの抹消も許せる。

 

「カワサキさんを殺すなんて許しません。優しいあの人を害するなんて認めません」

 

アビドスの復興の裏にいるカワサキさんの抹殺命令を出した。

 

それは超えてはいけないラインだ。それを越えた以上……容赦はしない。追詰めて追詰めて徹底的に苦しめて消す……予定なんていくらでも早められる。だけど取り返しの付かないことになる前に動く必要が出て来てしまった。

 

「カワサキさんと敵対するなんて耐えられない……ッ」

 

カワサキさんがアビドスにいるのは良い――いやだ。私のそばにいて欲しい

 

カワサキさんがユメとホシノの側にいるのは良い――いやだ。どうして私の側にいてくれないのだけど……カワサキさんと敵対する事だけには耐えられない――やっと会えたあの人に見限られるなんて耐えられない。

 

それを阻止する為に、連邦生徒会とアビドスの関係を良好にする為に私が出来る事は1つだけだ。

 

「私が生徒会長になる」

 

その為には今の連邦生徒会には徹底的に潰れて貰う。屋台骨まで腐った連邦生徒会を立て直し、予定を1年以上早めて私は連邦生徒会長に戻る事を決めた……。

 

 

下拵え 休息 その2 へ続く

 

 




というわけでギルメンソウル持ちその3で「ウルベルト」のソウル持ちの生徒「アレイン・オードル(偽名)」のエントリーです。彼女の経歴はトリニティ→ゲヘナ→無所属で現テロリスト。トリニティのネームドの姉妹とかにしようかなとかは現在思案中です。あとミレニアムで美少女ハッカーの車椅子を押す「やまいこさん」とのすれ違いです。休息ではこんな感じでギルメンソウル持ちのオリ生徒とすれ違いや遠目で見るっていうイベントをやりたいと思います。カワサキさんはユグドラシルプレイヤーなのでゲーム好きって感じですのでゲームセンターで無双してもらいました。次回はトリニティのギルメンソウル持ちにエントリーして貰いつつ水族館の話を書いて見たいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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