下拵え 休息 その3
今日も息抜き兼今後のアビドスの復興の為のアイデア探しで遊びに行くつもりだったんだけど……。
「え、ゲヘナに行くんですか? 止めときましょうよカワサキさん」
「ええ、私も行かないほうが良いと思いますよ」
ゲヘナは最初から行く予定ではなかった。それくらいあそこは治安が良くないし、流れ弾も多いのでカワサキさんに当る危険性も考えれば率先していきたい場所ではない。だから私とホシノちゃんで止めとこうと言うとカワサキさんは凄く嫌そうな表情で溜息を吐いた。その顔を見れば何かあったのだと馬鹿でも分る。
「何かあったんですか?」
「昨日ゲヘナの雷帝とかいうやつがゴーレムを2体倒して侵入して来て、俺を洗脳しようとして来たんだ」
一瞬何を言われているのか分らなかったが、少し間を置いて言われた言葉がやっと理解され始める
「は? 自治区に干渉してきたんですか? しかもカワサキを洗脳? ふざけてるんですか?」
「なんでそんな人に会いに行こうなんて言うんですか!? 絶対駄目ですよ!?」
元々ゲヘナの雷帝は黒い噂しかないような危険人物だ。自分の自治区のゲヘナは勿論他校の自治区にも積極的に攻撃を仕掛けるような人物だ。そんな人物に会いに行こうなんて正気の沙汰ではないと声を思わず荒げる。
「あいつにこっちの情勢をある事ない事広げられたら不味い、それこそヴァルキューレやSRT、連邦生徒会が乗り込んでくる事態になりかねない。だから先にアビドスの生徒会長のユメと雷帝の間で取り決めをしたい」
「政治的な部分って事ですか?」
「そうなる。あいつの神秘は多分洗脳とかそういうもんだと思う。だからユメには精神干渉を無効にする指輪とかペンダントを装備して貰って、ホシノはこれを持っててくれ」
机の上にアイテムを山積みにしているカワサキさんはその山の中から木彫りの像をホシノちゃんに差し出す。
「これは?」
「俺がこっちの棒を折るとホシノがこっちに召喚されるっていうアイテムだ。武力衝突になった時にはホシノしか俺とユメには頼る相手がいない、頼めるか?」
ゲヘナの陣地の最深部から私とカワサキさんを守りながら離脱――そんなとんでもない事を頼まれているホシノちゃんはカワサキさんが差し出した木彫りの像を受け取る。
「最高の装備をお願いします。出し惜しみなしで」
「おう。任せろ、最終的に転移で離脱するとしても力は1度見せ付けたほうが良い。交渉のテーブルに着かせる為にも、アビドスの復興を邪魔させないためにもな」
アビドスの復興をゲヘナ……いや雷帝に邪魔させない為に。私達は準備を整えてからモモトークで雷帝に連絡を取ってからゲヘナへと向かったのだけど……。
「……待っていたわ。アビドス生徒会長の梔子ユメとカワサキで良いのよね? 迎えに来たわ」
「……キキキ。ようこそゲヘナへ」
死んだ目をしたホシノちゃんくらいの体格の女子生徒と殴られたのか顔にガーゼを貼り付けた目付きの悪い生徒に、駅で出迎えられた。
「大丈夫なのか? その頬」
「キキキ……なんだ? 心配してくれるのか? 雷帝の客人というからもっとあれだと思っていたが……」
「マコト。言いすぎ、また折檻されるわよ」
「……だな。こっちだ、車を用意してる」
小柄な生徒に注意され歩き出したマコトという名前の生徒の後を追って歩き出す。
(カワサキさん。空気が重い)
(ああ。俺でも分る……こりゃとんでもねえな)
確かに銃撃戦や、口論の声は聞こえて来る。だがこの区画だけは異常なほどの静寂に満ちている。歩いている生徒は見えるが、ビクビクと怯えているように見える。
(これは想像以上かも……)
雷帝がゲヘナの最高権力者になってからゲヘナは変わったという噂は生徒会長会議でも度々議題に上がっていた。その度に雷帝は平和的に話し合ってるだけと言っていたが、これはそんな物じゃない。あのマコトという生徒の頬に張られているガーゼや、怯えている生徒に冷静そうに見えてもあちこちをきょときょと見回しているもう1人の案内役の生徒を見れば雷帝が恐怖政治を行なっているのは明らかだ。
「この車で万魔殿まで案内する。乗ってくれ」
出迎えの為に用意されていたリムジンに乗り込むとリムジンはゆっくりと走り出すが、車内の空気はとんでもなく重くてそれに耐え切れなかくて、口を開こうとするとそれよりも先にカワサキさんが伝言で声をかけてきた。
(止めろ。ここの運転手も助手席の奴も全員互いに互いを監視してる。下手に近づこうとするとあの2人に危険が及ぶ)
だからここは黙って見ていろと言われ、喉元まで込み上げて来た言葉をグッと飲み込んだ。
(私は喋らないほうが良いですか?)
(すまんがそうしてくれ、俺が何とか話をつける)
生徒会長としてこの場に来ているが、私には目の前の少女を助ける術も無ければ、雷帝に丸め込まれずに交渉する術も無い。また何もかもカワサキさんに任せてしまう。
(もっと勉強しないと)
カワサキさんにおんぶに抱っこでは無く、本当の意味でアビドスの管理者になる為にもっと勉強しなければと私は強く決意を固めるのだった……。
マコトともう1人の少女――空崎ヒナに案内され、俺とユメの2人は万魔殿――ゲヘナの政治の中枢へと案内された。
「やぁ、良く来てくれたね。歓迎するよ」
にこにこと笑う雷帝自らが俺とユメを出迎える。その仕草は友好を感じさせるが、その目は冷酷などす黒い光を放っていた。それに室内にいる人間以上の気配をあちこちから感じるから間違いなく俺とユメはここに誘い込まれた形になってしまった。
「アビドス生徒会会長の梔子ユメです。今日は突然の来校にも関わらず歓迎していただき感謝します」
「アビドス相談役のカワサキだ。今日はいい話し合いが出来ることを願っている」
「はは、気にしなくて良いとも! 連邦生徒会に弓を引いた君とは仲良くしたい。私はそう思ってるんだ。ハルナ何をしている? 早く紅茶を用意しないか」
柔らかい声から一転させ冷たい口調で1人の女子生徒に命令した雷帝はまた柔らかい笑みを浮かべる。
「さぁ歩いて疲れただろう? まずは座ってゆっくり話そうじゃないか。その間に紅茶も来るだろうからね」
先に座って俺とユメに座れと促してくる雷帝。まずは俺から椅子に腰掛け、次にユメが椅子に腰を下ろす。
「まずはアビドスの復興が進んで実に喜ばしい。ゲヘナの生徒会長として、そして良き隣人になれるであろう君達に心からの賛美を送らせてもらいたい」
満面の笑みを浮かべている雷帝の言葉に嘘も偽りもないのが分る。本当にアビドスの復興が進んだ事を喜んでいるのは間違い無く本心だ。
「ありがとう。言葉だけでも嬉しい」
「言葉だけだって? まさかッ! 私はそんなに守銭奴じゃないとも! 必要ならば物資の提供も技術の提供もするとも! かつてのようにアビドスとは良き隣人でありたいんだ」
「それならこちらも安心だな。もしもの時があれば協力してもらうこともあるかも知れないな」
「いつでも頼って来てくれ。私は友人には優しいつもりだよ」
ユメがなんともいえない顔をしているが、今はこれでいい。恐らく、いや確実に事を構えることになるだろうが向こうが本題を切り出してくるまでは世間話を続ける。
「あの巨大な商業施設にプール。何時頃オープンするのかな?」
「近い内にはオープンする。そうだ、プールのチケットをプレゼントしよう。良ければ遊びに来てくれ、オープンの時にはまたモモトークで連絡しよう」
「楽しみに待っているよ。ああ、部下が愚図ですまない。やっと紅茶が来たようだ」
ハルナと呼ばれた少女が運んできてくれた紅茶に視線を向ける。
「アッサムか」
「お気に召さないかな? 私はこの紅茶が好きでね。まるで血のような色をしているだろう?」
くっくっくと笑いながらストレートで飲む雷帝。そんな雷帝を真似したのかストレートで飲もうとするユメを止める。
「すまないがミルクをくれ、アッサムはストレートよりミルクティーが美味い」
「っ! 今ご用意しますわ」
我が意を得たりと嬉しそうな様子のハルナはすぐに温めたミルクを用意してくれた。
「ストレートの方が美味いと私は思うんだがね?」
「人それぞれさ」
「あ、美味しい」
のほほんとしているユメの言葉にやれやれと肩を竦め、雷帝はストレートでアッサムティーを口にし、俺とユメはミルクティーにして紅茶を嗜みながら世間話をしていると雷帝が纏う気配を変えて話を切り出してきた。
「世間話も悪くないが、そろそろ本題に入ろうか?……今日君達が訪ねて来たのは連邦生徒会と戦う為の戦力の譲渡についてかな?」
「いや、俺達に連邦生徒会と武力で戦う意志はない。勿論連邦生徒会とゲヘナの戦いに与する予定も無い。その事を伝えに来たんだ」
俺の言葉に雷帝の眉が不機嫌そうに歪められ、周囲にいた生徒が小さい悲鳴を上げる。
「うるさいぞ、黙っていろッ!」
不機嫌を隠すつもりもないのか、八つ当たり染みた怒号を上げた雷帝は、昨晩見たように白目と黒目を反転させ、俺を睨みつけた。
「あそこまでやって戦うつもりがない? 冗談だろう?」
「もう世論は今の連邦生徒会長を降ろす方向で固まってる。死体蹴りは趣味じゃない」
DUでのヴァルキューレ警察学校を使った強攻策で、今の連邦生徒会長に辞任を迫る声があちこちから上がっている。だからこれ以上やるつもりはないのだと言うと、雷帝は不機嫌そうに指で机を叩いた。
「敵は完膚なきまでに潰すべきだろう?」
「今はアビドスの復興に忙しくてな、俺もユメも、まずはアビドスを磐石にしたいのさ。向こうからしかけてこないのならばこちらも事をかまえるつもりはない」
仕掛けてくるなら戦うが、あくまでこっちの目的はアビドスの復興であってキヴォトスの支配ではない。その点からしてまず雷帝が望む同盟は結べないのは確実だ。
「それならなおの事連邦生徒会は潰すべきだろう。まだあいつらはそっちに攻撃を仕掛けてくるぞ」
そんな事は言われなくても分っている。勝てば官軍とは良く言った物で和解ではなく攻撃を仕掛けてくる辺りにキヴォトスの民度の低さが分る。特に傲慢で驕っている連邦生徒会なら攻撃を仕掛けてくるのは分かっているが、自分達から仕掛けるつもりはない。
「だから何もしない。正当防衛を主張するためにな」
「正当防衛? そんな物を守るつもりなのか?」
「世論は最後まで味方にしておきたいんだ。アビドスにはそれだけの大規模戦闘に耐えるだけの余力がないんでね。なんせ住民が1280名、生徒が2人と料理人が1人だ。とてもじゃないが、ヴァルキューレとSRTと戦う力なんて無いからな」
「料理人? 君は魔法使いだろう?」
「戦闘向きじゃないんだよ俺はな。俺はどちらかと言うとサポート型だ」
俺の言葉が虚偽か真実か迷う素振りを見せながら、雷帝は少し考え込む素振りを見せた後に口を開いた。
「戦う気はないと?」
「状況次第だ。こちらから率先して仕掛ける事はないだから同盟は組まない。だが手を取り合うことは出来るぞ?」
「戦闘ではない方法ならということか……ふうむ……まぁ今はここら辺が妥協点かな」
交渉が上手くいったと思ったのかユメが笑みを浮かべるが、俺は眉を細め足を振り上げ机を蹴り飛ばし、唖然としているユメを抱えて大きく後ずさる。
「早いね。私が指示を出す前に動くか」
「お前は自分の思い通りにならないと盤面をひっくり返すタイプだろ? 目を見れば分る」
あいつが欲しかったのは魔法使いとしての俺の力。それを出すつもりはない、あるいは使うつもりはないと言った段階で、雷帝が実力行使に入るのは目に見えていた。
「戦闘者じゃない? 冗談を言わないで欲しい、君は戦闘に秀でている筈だ。そんな相手の見え透いた嘘を信じるほど私は馬鹿じゃない。だからここは実力行使を取らせてもらおうかな?」
俺とユメをここまで連れて来てくれたマコトとヒナが嫌そうに銃を構え、扉が開いて武装した生徒達が雪崩込んでくる。
「予定通りに交渉決裂だ。頼んだホシノ、ここからは実力行使だ」
言葉だけでの交渉は失敗、なら次は力で叩き伏せてこっちが有利な条件で交渉を結ばせる事だ。俺としては交渉で終わりたかったが、向こうが銃を抜いた以上交渉は終わり、実力行使に移行するしかない。
「無茶振りが過ぎますね。まぁ……やりますけど」
ポケットに入れていた木の棒を圧し折りホシノを呼び出す。ユメがプレゼントしたと言うボディアーマーに加えて、ミスリルの盾を2つ懸架しているバックパックを背負い、両手にショットガンを構えたホシノは獰猛な笑みを浮かべ、バックパックから伸びた腕に持たせたマシンガンと自身が持っているショットガン――計4つの銃口をマコト達に向ける。
「先に仕掛けたのはそっちだ。ユメ先輩とカワサキに銃を向けたことを悔いろゲヘナ」
「待て! フルバーストは駄目って言っただろ!? ちいっ! ユメこっちだッ!」
「は、はいいいいッ!!!!」
ハイライトがさよならばいばいしているホシノは迷いなくフルバーストを選択した、室内であれははやばいと判断し、俺は慌てて防御用のアイテムを片っ端から使いながらユメにこっちに来いと叫ぶ。ホシノは俺とユメが防御姿勢に入るまで待つくらいの理性はあったようだ――。
「死ね」
訂正、冷静さは残っていない様子のホシノは躊躇うことなく、全弾発射のトリガーを引き……万魔殿は物理的に揺れるのだった……。
軽い挑発のつもりだったが、カワサキの魔法で呼び出されたであろう小鳥遊ホシノ。彼女の堪忍袋の緒は私の想像以上に短かったようだ。
「うう……」
「いっ……いっつう……」
「盾の任務ご苦労様」
盾にした天雨アコと鬼方カヨコを後に放り投げ、姿勢を低くしてカワサキが何らかの手段で呼び出した小鳥遊ホシノに視線を向ける。
「きゃあッ!?」
「つうっ!?」
ちょっとした脅しのつもりだったので3年生は投入していないのもあるが、光る物を持つ1~2年生で固めたがそれでも小鳥遊ホシノには届いていない。装備だけではなく、単純に小鳥遊ホシノが強い。
「くうっ! このっ!」
「言ったでしょう。ユメ先輩達に銃を向けたことを悔いろって」
背中に懸架している盾で反撃を防ぎ、自由な両手の武装を次々とスイッチする小鳥遊ホシノに誰も反応しきれていない。私が特に目に掛けているヒナも防戦一方だが、防戦一方とはいえ戦えているのが奇跡的だ。それにモチベーションが違うのも大きいだろう、私が無理矢理命令しているヒナ達と違って、小鳥遊ホシノはユメとカワサキを守るということをモチベーションにしているのでこちらよりも勢いがある。
(最初の全弾発射で陣形を崩された。このままだと押し負けるな……これは良くない)
ゲヘナが敗れるのは良いが、私が破れるのは良くない。恐怖ではあるが、私がやっとの思いで構築したゲヘナの秩序が壊される。それを阻止する為にも相打ちに持ち込み双方痛み分けで終わりたい。小鳥遊ホシノがリロードするために動きを止めた隙に地面を蹴ってカワサキへと飛び掛り……。
「そうくると思ってた」
「は?」
私は万魔殿の床に押さえつけられていた。ヘイローを持たない人間相手なのに全く押し返す事が出来ない事に本気で困惑し、思わず間抜けな声が出た。
「キヴォトス人は力は強いが体重は見た目通りの少女だ。上手く押さえ込めば無力化できる」
「それは無理があると思うのだが?」
無理なはずだが、完全に押さえつけられているので無理ではない。だがありえない現象に私は目を白黒させるしかない。
「突発的な戦闘に入った際の演習をやりたいというから引き受けたが、やりすぎじゃないか?」
あくまで私の依頼という形での戦闘だったという風に持って行こうとするカワサキ。これは借りを作る行為だが私の権威が崩れるよりかはいいと寝転んだまま両手を上げる。小鳥遊ホシノは私を睨みつけているが、カワサキが手を上げて黙っていろとハンドサインを出した事で黙り込んだ。かなり無理ではあるが、それでも私が敗れたという情報を流すよりかはマシだと判断した。
「……そうだな。やれやれ、まだまだ1.2年生には無理があったようだ」
カワサキの善意を受け入れ、これはあくまで演習だったと無理な設定を押し通した。
「ああ。ちょっと待ってくれ、これを1つずつ持って行ってくれ。演習お疲れ様」
「それは?」
カワサキがガラスの瓶を差し出し、ヒナが若干の警戒の色を見せながら尋ねる。
「傷薬だ。演習にしてはホシノがやりすぎたからな」
凄い不満そうな小鳥遊ホシノを見れば文句しかないのは分るが、カワサキに任せているらしく、視線だけで不満を訴えるに留まっている。
「この通り何の害もない傷薬だ。持っていってくれ」
カワサキも爆風に巻き込まれ少し怪我をしていたが、ガラスの瓶を傾けて傷に掛けると一瞬で傷が塞がった。
「……凄いわね。貰っていくわ」
「ああ。持っていってくれ」
カワサキがヒナに箱に入ったままの傷薬を渡し、ヒナ達が出て行った後に改めて、ゲヘナとアビドスの会談の場が設けられた。
「こちらからの要求は1つ。トリニティとは組まないで欲しい。仮に組むとしてもこちらに先に話を通して欲しいそれだけだ」
負傷したこちらの手勢はカワサキが取り出した薬瓶の薬を飲ませることで回復させた後に、改めて交渉のテーブルについたが、当然ながらこちらが要求を呑む事になった。
「トリニティは個人的には好感が持てないからそれはいい。ではこちらからの要求は争いにアビドスを巻き込まない事、それとシェマタの時代の資料の可能な限りの譲渡。それとこちらの商売のPRにも協力して貰いたい」
「心得た。近い内に必ず送り届けよう。それにPRにも協力する事を約束しよう。他には?」
「後はそうだな。時間があるときでいい、アビドスと協同で行なったという「それは断る。あれは私にとって忌むべき出来事だ。今も正直言って思い出したくもないことだ。それに関して私が言えるのは連邦生徒会が関わっている。それだけだ」
シェマタと共に行なったアビドス砂漠の調査は私に取ってはトラウマの1つだ。大事な部下も友人であるシェマタも失い、命からがらたった1人で逃げおせた忌まわしき事件――その根底には連邦生徒会が関わっていると私は踏んでいる。
(とは言え、失敗したが)
私が連邦生徒会を潰したいのは調査の邪魔をさせない為。アビドスを押さえ込もうとしたのは私が主導になって調査を行うのと、アビドスをゲヘナの下に置きたかったからだが全て失敗だった。とは言えここまでの力があるなら昔のように手を取り合い、肩を並べて歩く道もあるかもしれない。そう思ったからこそ席を立って帰ろうとするカワサキを呼び止めた。
「だが悪い事はいわない。万全の準備と人員を確保出来ないならアビドス砂漠の調査は止めておけ、あそこは魔窟だ。底なしの悪意と敵意だけが眠っている。好奇心などで踏み込めば痛い目を会うのはそちらだぞ」
帰り支度をし出て行こうとするカワサキ達の背中に本当に善意で警告を口にするが、カワサキは振り返る事無くひらひらと手を振り、ユメとホシノを連れて出て行ってしまった。
「……お疲れ様。疲れただろう彼の相手は?」
「聞いていたより化物だった。だがキヴォトスでは見ない大人だな」
私しかいない執務室に鈴を転がすような少女の声が響き、影が盛り上がるように人影が私の前に現れる。翡翠のように輝く長髪に対して光を宿していない黄金の瞳をした小柄な少女は楽しそうにくすくすと笑う。
「勿論だとも、私の同類だ。普通な訳がないだろう?」
「自分が普通じゃないという自覚があるのならもう少し普通に振舞ってくれないか? ヴァイン」
私の言葉にヴァインは返事をせず、鼻歌を歌いながら現れた時のように影の中に潜るように消えていく。
(相変わらずの化け物だな。まぁそれでこそだが……)
ずっと万魔殿にいる正体不明の少女。ゲヘナにいるが、ゲヘナ生ではなく、だがキヴォトス生でもない。ゲヘナの生徒会長の前にだけ現れる怪人――それがヴァインだ。
「でも今回はいただけないな、戦いとは始まる前に勝利してなければならない。それが鉄則だよ」
そう言い残し闇の中に消えて行った少女の姿を見送り、私はカワサキに譲渡すると約束した資料を纏める作業を始める。ゲヘナである以上私は勝手にアビドスには踏み込めない。そして移転を繰り返したのでアビドスの生徒会に連絡する方法も失った。私に残ったのは連邦生徒会への怒りと親友を失った痛みだけだった。
「……シェマタ……君は何処に消えてしまったんだい? 私の大事な……親友」
覚えているのは砂漠の地下にあった近代的な施設――そして謎の機械に囚われたシェマタの姿と、凄まじい爆発だけ……気がついたら私はボロボロの状態でゲヘナまで帰って来たようだが……私は文字通り全てを失った。手首につけていたブレスレットを外し、窓の近くの本棚に向かい、強固なガラスで守られている写真立てを持ち上げる。
「シェマタ……君に会いたいよ」
白銀に輝く長髪の生徒と肩を並べて笑う私の写真。こうして写真でしか会えない親友とまだ穢れも邪悪も知らなかった頃の私の頭上に浮かぶヘイロー。だけど窓に映る私のヘイローは罅割れ、一部が砕け散っている。それはゲマトリア達が反転と呼ぶ現象であり、一般の生徒とは隔絶した能力を与えるテラー化と呼ばれる状態なのだった……。
各学園の生徒会長との会議から3日――たった3日で連邦生徒会の活動は休止にまで追い込まれた。
生徒会長達との話し合いの場での暴言。
DU地区への特定の学園の生徒の立ち入り禁止。
クロノススクールの生徒を強引に検挙し、矯正局送り。
アビドス自治区への不法侵入。
例を挙げれば切りがないほどに連邦生徒会は失態に失態を重ねていた。
それは各学園からの現在の連邦生徒会への不信任案が出されるほどだ。
特にゲヘナとトリニテイからの突き上げは激しく、彼女はもう家に帰らずにずっと連邦生徒会本部に籠城を続けていた。
「まだだ……まだ逆転できる」
だがそんな中でも連邦生徒会長は諦めない、彼女は諦めるつもりも自らの非を認めるつもりもない。
「ずっとこうしてきた、先輩達はずっとこうしてきたんだ」
連邦生徒会が上であり、他の学園はその下。
シェマタの時代を除いて不変のルールだった。
だから彼女はそれを覆せない。
自分の代でルールを変えるわけには行かない。
「カイザーグループがいる。アビドス、アビドスさえ潰せば終わるんだ」
自分達に逆らったアビドスさえ潰せば終わる――事態はもうそんな話で終わる段階では無いが、彼女は本気でそう信じていた。
何年も手を結んできたカイザーが自分達を裏切る筈がない。
カイザーの横暴を何年も目を瞑ってきた。
今度は自分達が助けられる番だと信じて疑わなかった。
『我々カイザーグループはアビドスへの復興支援として4億円の譲渡を行ないます。更に連邦生徒会からの指示でアビドスに圧力を掛けていたことをこの場を借りて謝罪いたします』
「は?」
翌朝カイザープレジデントの公式発表によって、自分達が裏切られたことを知るのだった……。
下拵え 休息 その4へ続く
シェマタと雷帝は友人同士、そして雷帝は友人であるシェマタを失い、彼女の痕跡を何一つ見つけられなかった事で反転した生徒というオリ設定で行きます、詳しく出てきたら修正すると思いますが、とりあえず明らかになるまではそれで行きます。予定では原作3年生組との話も考えていましたが、今回は顔合わせだけなのでまたシナリオが動けば今度こそでそこで話を広げたいですね。次回はかなり早いですが、1度百鬼夜行をはさんで見たいと思います。ただまだキキョウとかとのエンカウントは無くアヤメとかを見る感じですかね。それとクズノハと会うとかも面白いかもですね。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
PS ゲヘナの生徒会長の前にだけ現れる怪人少女はギルメンソウルのみです。依り代生徒がいないので魂だけのギルメンとなっておりますのであしからず
ブルアカのガチャは
リオ・ヒマリ・アリス・ケイとお迎え成功。今は臨戦おじさんの天井まで20連なので、それまでにホシノが来て、交換でクロコを貰いたいなぁとか思ってます。