飯食え・アーカイブ   作:混沌の魔法使い

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下拵え 休息 その5

下拵え 休息 その5

 

百鬼夜行でも有名な温泉宿。以前ならば宿泊なんて夢のまた夢という高級宿での1泊はとても楽しい物だった。露天風呂に天ぷらや茶碗蒸しといった百鬼夜行特有の食事を楽しみ、ユメ先輩と同じ部屋で眠る。学校に泊まり込む事はあったけど襲撃に備えて常に気を張っていたし、リラックスとは程遠い環境だったので身体も精神も休まる事はなかった。だからこうしてリラックスして心から休めるというのは本当に久しぶりの事だった。

 

「では後日時間を作って訪問する。それで良いか?」

 

朝食はカワサキと一緒に食べようと思いユメ先輩と一緒にカワサキの部屋へ向かったが、襖越しに聞こえて来る会話に思わず眉を細める。

 

(私達に休めって言っておきながらそれですか)

 

私達に休めという割に自分は全く休んでいないカワサキに大分イラっとしたが、ここで感情任せで部屋に乗り込むことも出来ないので電話が終わるのを待ってから襖を開ける。

 

「ユメとホシノか、おはよう」

 

「おはようじゃないですよ、おはようじゃ。何をしていたんですか?」

 

私がジト目で睨みつけるとカワサキはスマホを机の上において深い溜息を吐いた。

 

「カイザーからだ。何処かからの傭兵をPMCで食い止めたから謝礼を求められたんだよ」

 

「はぁ? マッチポンプじゃないんですか?」

 

カイザーが襲撃者を防いだなんて信じられないし、何よりカワサキのゴーレムがいるので防衛は問題ない。だからそんな物に金を払う必要はない筈だ。

 

「ネフティスがきな臭いっていう情報を流してくれてるからな、それも込みでやっぱり会う必要はあるな」

 

「政治的やり取りって奴ですか……すみません。カワサキさん任せ切りにしてしまって」

 

「かまやしねぇ。ユメ達が出来ない事をするために俺はいるんだからな」

 

そうは言ってくれるがそれでもカワサキに任せ切りというのは申し訳ない気持ちになる。

 

「俺には俺の出来る事をする。ユメとホシノは2人に出来る事をする。それでいいだろ?」

 

私達の知る大人とは違う大人であるカワサキ。大人にはずっと騙されてきた。大人はやっぱり今でも好きではない、だけど不思議とカワサキには心を許す事が出来ていた……そう思っていたのですが……。

 

「昨日の! 偶然ですの! 昨日は本当にありがとうございました」

 

「……ああ、うん。良かったな」

 

黒い制服に身を包んだ少女が犬のように駆け寄ってくる姿を見て、私は思わず眉だけではなく目も細めてカワサキの背中を見つめました。そしてそれはユメ先輩も同じでした。昨日夕食の前に焼き鳥を摘んできたとカワサキは言ってましたがその時に出会ったのでしょうが、懐きようが尋常じゃない少女を見て胸の中がざわめくのを感じる。

 

「昨日はお名前をお聞き出来ませんでしたが、今日はお時間大丈夫ですよね? お名前をお聞かせ願えますか?」

 

にこにこと笑いながらも品の良さというか、育ちの善さが見える。多分だけどこの百鬼夜行のお偉いさんの娘なのだろう。こういう押しの強さは大体そういう連中に多いから多分間違いではない。

 

「カワサキだ。「川崎家の方ですかッ! キヴォトスに戻られたのですか?」

 

「……何の話分らないんだが……?」

 

「違うのですか? 川崎家の方々は数十年前に必ず戻ると言ってキヴォトスを後にしたと家の者に聞いておりますが……?」

 

「俺は25だが、そんな話は知らないな。気のせいだろう」

 

「ですがキヴォトスにはほかに川崎という方はおりませんし……うーむむ……そうだ! 1度勘解由小路家にお見えになっていただけませんか?」

 

自分の家に来いと言い出した少女にムッとして、その少女とカワサキの間に割り込む。

 

「私達は忙しいのです。ですから貴女の家に言ってる時間はありません、これからお祭運営委員会の「貴女達があびどすの方なのですね! お迎えに来た勘解由小路ユカリと申します。今日はよろしくお願いいたします」……は?」

 

追い払おうとしたのにまさかのお祭運営委員会からの迎えだった少女に私は心底困惑した声を零すことになるのでした……。

 

 

 

迎えに来てくれたという勘解由小路ユカリ――ユカリちゃんを交えて私達は改めてお祭運営委員会の元へ向かっていた。

 

「身共は百鬼夜行連合学院に入学したら百花繚乱紛争調停委員会に入りますの! なのでえりーとな身共はいろいろな場所のお手伝いをしているのですわ!」

 

後2年で進学なのですぐに百花繚乱紛争調停委員会に入れるように実績作りですの! と満面の笑みを浮かべるユカリちゃんに対してホシノちゃんはずっとムッとしてる。

 

「何故ホシノ先輩は身共を睨んでおりますの?」

 

「先輩じゃないです、後睨んでもないです」

 

それは無理があるという言葉をグッと飲み込んだ。不機嫌なホシノちゃんは良く見るけど、今日のホシノちゃんは更に機嫌が悪いのが一目で分る。

 

「でもユカリちゃんって百鬼夜行で有名な家の人なんだよね? そんな事して良いの?」

 

「うっ……実を言うと家の者には反対されておりますが……アヤメ先輩達が格好良くて、身共も百花繚乱紛争調停委員会に入りたいと思い家の者を説得し、勉学にも励むことを条件に許されておりますの」

 

 

明るくころころと笑うユカリちゃんは聞けば色々と答えてくれる。素直で良い子だなと思う。私も良く騙されるので人の事は言えないが、大丈夫かなと心配になってしまう。

 

「それでカワサキ様は外からキヴォトスに来られたのでしょう? やはり川崎家の方なのでは?」

 

「それは違う。少なくともユカリのいう川崎家と俺には何の関係もない」

 

「でもカワサキ様がご存じないだけ「違うと言ってるでしょう。しつこいですよ」……む、むむう……申し訳ありませんの」

 

ホシノちゃんが割り込んだのでユカリちゃんは1度引き下がったが、それでもカワサキさんの後姿をジッと見つめている。

 

(昨日聞いたけど何か関係ありそうなんだよね)

 

川崎家と勘解由小路家に何か関係がありそうだし、もしかしたらカワサキさんが無くした記憶に関係があるかもと思った。カワサキさんの記憶を取り戻して上げたいという善意だったが、その善意が私とホシノちゃんの心に無視出来ない楔を打ち込む事になってしまった。

 

「なんでユカリちゃんはそんなにカワサキさんを気にするの?」

 

「はい! 身共は幼い時から川崎家に嫁ぐのだと言われておりました! ですので迎えに来てくださったのかと……」

 

「「「は?」」」

 

私とホシノちゃんとカワサキさんの心底困惑した声が重なり、ユカリちゃんは頬を両手で押さえて身を捩っていた。

 

「カワサキ。どういうことですか?」

 

「いや、マジで知らん」

 

「本当ですか?」

 

「本当だ。そもそも俺の知ってる勘解由小路の奴はしつこいストーカーで俺の手足を切り落として監禁しようとするやばい奴だった」

 

「「は?」」

 

「え? 嘘ですわよね!?」

 

ユカリちゃんが婚約者だった以上の爆弾発言に私達の間の空気が完全に固まった。

 

「いやマジだ。俺の腕を少し切って血を舐めてうっとりしてたぞ。あのやばい女」

 

それを思い出したのか身震いするカワサキさんを見て、ホシノちゃんが無言でカワサキさんとユカリちゃんの間に割りこんだ。

 

「ち、違いますの! それは身共とは違う勘解由小路ですの!?」

 

「じゃあ俺もユカリが言う川崎家とは違うカワサキだ」

 

自分の苗字と同じ苗字を持つ者がカワサキさんを襲ったと言われ、それを違うと言えばカワサキさんも川崎家とは違うという。

 

「ちょっと家の者に聞いてきます! あ、お祭運営委員会の方々が待ってるのはそこの百夜堂ですの! それではッ!!」

 

下駄を鳴らして駆けていくユカリちゃんを見送り、ホッと溜息を吐いた。

 

「今の嘘ですか?」

 

「いや、マジ。ほれ、ここに跡が残ってる」

 

カワサキさんが腕捲りをすると左の二の腕の辺りに明らかに刃物の跡があった。しかもかなり深い傷で、骨に達するかどうかの深い傷だった。

 

「話が終わったらすぐにアビドスに帰りましょう。それともう百鬼夜行には来ない方がいいと思います」

 

「私もそう思います! もう昼の電車で帰りましょう! それが絶対良いです!」

 

ユカリちゃんと関係なくてもそんな危険人物がいるかもしれない場所にストーカー被害者であるカワサキさんをおいておくのは危険すぎる。早くお祭運営委員会との話し合いを終えてアビドスに帰るべきだ。

 

「ようこそアビドスの皆さん! 砂祭りの復活に協力させて貰えるなんて感無量です! 今回はよろしくお願いしますね」

 

早く帰ろうと思っていたんだけど、お祭運営委員会の人が凄く良い人達で、アビドスに無かった砂祭りの資料も全部保管してあり、それの譲渡やそれを見ての話し合いが思ったよりも盛り上がってしまい、昼前に帰ろうと思っていたのに勧められるままに昼食も食べ、資料を手に駅へと向かったのだが……。

 

「乱闘により駅は封鎖です! 申し訳ありませんが引き返してください!」

 

「旅行に見えられた方は陰陽部が代金を持つのでもう一泊してください!」

 

「うわああんッ!! 新車、新車だったのにぃいいいいッ!」

 

「ひいん……嘘でしょ」

 

「なんて間の悪いッ!」

 

駅はボロボロに破壊されており、ハイランダーの生徒が泣き叫び、百花繚乱と陰陽部の生徒が駅前の封鎖をしている光景を見て私とホシノちゃんは絶句してしまうのだった……。

 

 

 

 

1泊2日が2泊3日と意図しない形で増えてしまった。ユメとホシノは俺と勘解由小路家の関係を知り、昨晩泊まった旅館ではなく、百花繚乱の本部が近い旅館へと宿を変えた。

 

「ふー……」

 

夕食を終え満月が照らす部屋で俺は口に煙草を咥えて窓の外を見つめていた。

 

(ユカリとあの女は似ても似つかんが、早い内に百鬼夜行を出たかったんだけどな)

 

あのドロドロとした粘着質な目を思い出すと身体が震える。絶望と失望と落胆が混ざり合った闇の瞳、僅かに残った人間性さえも飲み込む深い闇の色を思い出すだけで左腕が痛んでくる。無意識に左腕を摩っていると夜道でも栄える金髪が見えた。

 

「……あれは確か……」

 

百花繚乱のアヤメが疲れ果てた表情で歩いているのを見て、俺は吸っていた煙草を消して立ち上がり、旅館を後にした。

 

「よう、アヤメだったよな? こんな夜道を1人で歩くのは関心しないぞ?」

 

「……貴方は確か先日の……」

 

疲れ果てたどんよりとした暗い瞳をしているアヤメの声は昨日の明るい声とは程遠い重い物だった。だがハッとした表情になり、まるで仮面でも被ったかのように明るい表情と声を出した。

 

「あはは! そうですね! すいません、心配を掛けまして……ちょっと今日は忙しくて疲れちゃったんですよ」

 

笑っている。笑ってはいるが目が笑っていない、それに表情が死んでいる。それなのに明るく振舞っている姿は俺には痛ましく見える。

 

「お疲れ様。俺は観光客だがあちこち走り回ってるのを見たよ」

 

「はい! 百花繚乱の一員として頑張っています」

 

だとしても東西南北走り回っているのは行き過ぎだ。それにほかの人間が余りに動いているようには俺には見えず、アヤメ1人に押し付けているように見えた。特に一緒にいるナグサという白い少女はひたすらアヤメを褒め称え、酷使している様にしか見えなかった。

 

(……無理か)

 

無理をするなと言いたいが、恐らく彼女に俺の言葉は届かないだろう。付き合いが長いならまだしも、観光客が無責任に何か言ってるくらいにしか思われないだろう。

 

「これ差し入れだ。良かったら食べてくれ」

 

「わぁ! ありがとうございます! いただきます」

 

アイテムボックスから出しておいたケーキをアヤメに手渡す。

 

「それではまた。ケーキありがとうございます!」

 

手を振り歩いていくアヤメの後姿を見送りながら俺は危うい子だなと心配になった。あの子はなんというか、ユメのいないホシノみたいだなと感じた。寄りかかる所のない自分で何もかもやらなければならないと背負わなくても良い重荷を背負っているように見えた。

 

「なんで誰も止めないんだ」

 

どうしてこうもキヴォトスっていう世界は、誰か1人に何もかも押し付けるんだとぼやいていると、首筋にピリッとした感覚が走り、俺は百鬼夜行の街並みとはまるで違うおかしな空間に立っていた。

 

「こんばんわじゃな」

 

「ああ。こんばんわ」

 

完全に後をとられてる、警戒用のアイテムは装備していたんだが……キヴォトスの上位層っていうのは自然とユグドラシルのアイテムを抜けてくるから厄介だと内心溜息を吐きながら振り返ると複数の尾を持つ狐耳の少女がキセルを咥えていた。

 

「子供が煙草というのは感心しないな」

 

「戯け、妾は見た目通りの歳ではないわ」

 

「なら婆か」

 

「断じて違……ちっ、其方は厄介じゃな」

 

挑発して相手のペースを奪おうとしたが、それに気付かれた。見た目通りの歳ではないというのもあながち嘘ではないようだ。

 

「俺は観光に来ただけだが、何故敵意を向けるんだ?」

 

「其方が黄昏に準ずる力を有しておるからな。だが態々こうして見に来たが、悪意があるわけではないようだな」

 

こちらを品定めするようににらみつけてきた少女はキセルを俺の心臓に突きつけた。

 

「早々にこの地を去れ。良いかこれは警告だ。其方がこの地にいれば黄昏が活性化する、それは妾の望むものではない」

 

何を言ってるのかは分らないが、俺の存在はこの少女にとっては都合が悪いのだろう。

 

「分った、分った。明日にはアビドスに帰る」

 

「その言葉違えるなよ」

 

ギロリと俺を睨みつけた少女は瞬きの間に消えており、狐耳と尻尾から見て文字通り狐に摘まれた気分だ。

 

「黄昏……ね」

 

何の事か分らないがその言葉は忘れてはいけないような気がした。胸の奥で何かが心臓とは何かが脈打ったようなそんな気がした……。

 

「ふうー……善良、善良ではあるが……それ故にあやつの存在は許されん。今は特にな」

 

狐耳の少女――クズノハから見てもカワサキは善良な人間だった。だが善良である事が良いことではない事をクズノハは知っている。善良だからこそ人を狂わせる事もある、悪意よりも善意の方が厄介な事をクズノハは知っている。

 

「何故あの男の中に……それも知る必要があるやも知れん」

 

神秘を反転させる恐ろしき存在――黄昏を宿したカワサキの背中をもう1度睨みつけたクズノハの姿は今度こそ完全に消えていた……。

 

 

下拵え 休息 その6へ続く

 

 




ユカリ、アヤメ、クズノハと出会いカワサキは百鬼夜行を去ることになります。次に訪れるのはノノミとシロコ加入後になりそうです。

後カワサキさんがこの世界に来る時に触手で捕まえていたのは「色彩」や「黄昏」に準ずる存在なので、キヴォトス人はカワサキに近いほど反転するか、感情が重くなるかの二択になりますね、連邦生徒会長? 彼女は脳を焼かれて性癖を破壊されたので無関係ですね! ただカワサキさんのスパダリムーブが効きすぎた感じです。次回は百鬼夜行での戦闘を書いて見たいと思います。ここにはモモンガソウルの転生者がいますからね。ここでオーバーロード風味を入れて見たいと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。
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