下拵え 休息 その6
電車が復旧したらアビドスに帰るつもりでした。カワサキのストーカーだけではなく、その手を切り落とそうとしていたという女と同じ苗字の人間がいる。それだけで百鬼夜行は危険地域だ。今後お祭運営委員会と話し合いをする時は向こうに来てもらうか、何処か別の学区で話し合おうと決めていた。
「ユカリにお聞きしました。我が勘解由小路家からご迷惑を掛けた者がいた事を心より謝罪いたします」
(なんでこうなるんですか?)
電車の復旧が終わるまで旅館で待機し、誰とも会わないつもりだった。だが勘解由小路家の現当主――ユカリの母を名乗る人物が訪ねて来たのには驚かされた。
「勘解由小路家から謝罪の品をお渡ししたいと思うのですが、是非1度勘解由小路家へお越しいただけませんか?」
「悪いが俺はアビドスに帰る」
「しかし」
「今は必要ない。それに必要ない物を謝罪として渡されても迷惑だ。こちらが勘解由小路家の力を借りたい時に伺わせて頂く、それに俺も
アビドスの復興で忙しい身。今はお気持ちだけ受け取らせて貰う」
「……分りました。お越しいただける日をユカリとお待ちしております」
「そうしてくれ、ああ。それと……本人がやりたいと願うことを握り潰すような真似をするなよ? 子供っていうのは自由に伸び伸びと育つべきだと俺は思っていてな。母親なら分るだろう?」
「……分っております。それではまた」
一礼して出て行く女性を見送ったカワサキは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「くだらん芝居だ。ああいうのは見ていて腹が立つ」
「芝居って……ユカリちゃんのお母さんじゃ?」」
「違う。あれはこっちを見に来た使用人って所だな、あとはアビドスの復興の影に俺がいるのを見て取り入ろうとした所か、俺を見極めに来たって所だな。名家ってつく古臭い連中の常套手段だ。お礼に食いついてくるか、ついてくるかでこっちを観察してたんだろうよ。そもそも宿泊場所なんて言ってないのに乗り込んできたことを考えるとこっちの情報は筒抜けだな」
あの短いやり取りの中に凄まじい政治的なやり取りと、見下しているとも受け取れる観察が行なわれていたらしい。元々鬱陶しいと感じていたが、それ以上の悪意にも似た思惑が混じっていたらしい。
「やっぱりどこでも政治って関わってくるんですね。どうぞ、カワサキさん」
「おう。ありがと」
やだやだと肩を竦めたカワサキにユメ先輩が湯呑みを差し出し、カワサキは熱いお茶を飲んで一息ついた。
「ユメ、ホシノ。カイザーと話し合う前に砂漠に埋まってるレア度の高い何か。その正体が分ったぞ、とんでもなく希少価値の高い鉱石だ」
「ほ、ほんとですか!? お宝ですか!?」
「何ですか? 金とかダイヤモンドですか?」
金とかダイヤモンドを想像したがカワサキは違うと言って笑い。お祭運営委員会から譲り受けた資料を机の上に広げる。それをユメ先輩と共に覗き込むとそこには花火が映っていた。
「あの、これ花火ですけど?」
「その花火の回りのオーロラみたいな光の帯があるだろ? それがその鉱石の粉末だ。ちなみにその花火の値段は最低500万からだ。あと当時の生徒会は余ったらそれを捨ててたみたいだな」
「「ごひゃっ!?」」
最低クラスで500万クラスの花火を作るための鉱石がアビドスに埋まっている。そしてその花火も余ったら捨てていた。とんでもないその事実に私もユメ先輩も目を白黒させる。
「その鉱脈があれば借金返済に近づきますね!」
「確かに! 戻ったら採掘に行くのもありですね!」
また1つアビドス復興の道しるべが出来たとユメ先輩と共に喜んでいるとカワサキが手を叩いた。
「と言いたい所だが問題が3つ程ある。その鉱石が熱に反応して爆発する性質があるとなると採掘手段が限られる。もしも衝撃性なら下手に採掘したら全員お陀仏になる可能性もある。あと最後に兵器として転用される可能性も頭の中に入れる必要があるな」
カワサキのいう3つの問題はどれも無視できる物ではなかった。特に兵器として転用されようものならば連邦生徒会にこっちを叩く口実を与えてしまうのは無視出来ない問題だった。
「上手い話はないですね」
「世の中そんなもんだ。とりあえず採掘する為に後回しにしてたアビドス本校舎の捜索って所だな」
砂嵐多発地域にあるアビドス本校舎……いや、シェマタの使っていた校舎の捜索が新しい急務になった。
「そういえばカワサキさん。砂嵐ってどうやって対策してるんですか?」
「ん? ストームイーターっていう風を食うモンスターと雨道(レイン・ロード)っていう雨の通り道を作るアイテムで対策してる。ストームイーターが嵐を軽減させて、雨で砂を地面に叩き落とすって感じだな」
「カワサキでしか出来ない対策っていうのが分かりました」
つまりカワサキ特有のインチキで何とかしているようだ。そのインチキでアビドスが守られ、今の私達の休養があるのなら文句を言うつもりはない。
「まぁとりあえずだ。昔のアビドスにはその鉱石を採掘する方法があった。なら俺達も出来ると思おうぜ?」
「そうですね。そう思いましょうか、少なくとも前には進んでいますしね!」
少しずつ、少しずつだけどアビドスの復興の為に前に進んでいる。前みたいに足踏みじゃないと思えば気持ちも明るくなる。
「電車も復旧したみたいですね、アビドスに帰りましょう」
丁度モモトークに電車が復旧したという連絡が入り、私達はアビドスに帰る為に駅へ向かったのだが……。
「わあああああッ!?!?」
「いやああああッ!!」
「どけどけッ!! 俺の邪魔をするなああッ!!!」
駅は悲鳴と怒号で満たされ、人を突き飛ばしてでも逃げようとする人だらけだった。
「あはッ!! あははははッ!! 俺を、俺のッ! 友達を馬鹿にしたなッ!? 百花繚乱がどれだけ偉いか知らないが死んで詫びろぉッ!!! やれッ! 我が僕よッ!!」
宙に浮いている黒いローブを纏った少女の怒号に答えるように地響きを上げながら化け物が姿を見せた。
「グルアアアア……ッ!!!!!!」
黒いボロボロの鎧に身を包み、巨大な盾と波のような刀身をした剣を持った骸骨の騎士がうなり声を上げる。
「ば、化物……? でもあれって」
「なんですか。あれは……まさかッ!?」
私とユメ先輩は知っている。アニメやゲームに出るような異形を召喚する術を持つ者を知ってる。顔を上げるとカワサキが驚いたように目を見開いていた。
「馬鹿な……デスナイト……っ! あれはやばいッ!」
「やばいって何が……」
「あいつに殺されるとゾンビにされるッ! あれはそういうもんだッ!! クソッタレッ! ホシノ! あいつの剣を何とか弾いてくれッ! 直接やり合えば押し潰されるからなッ!」
「まさかあれと戦う気ですか!? 正気じゃないですよ!」
「んなこと言ってると死人が出るッ! あいつに飛び道具なんざ殆ど効きゃしねぇッ! 「きゃあああッ!!?」ああっ! クソ最悪だッ! とにかく頼んだッ!!」
走りながら両手に篭手をつけたカワサキが飛び出して行く。その先には誰かに突き飛ばされたのか尻餅をついているユカリの姿があった。
「ユメ先輩! あそこの銃身を拾ってきてください! 私は他のパーツを取りにいきます!」
「スナイパーライフルだよ!? 使えるのホシノちゃん!」
「使える使えないじゃなくて使うしかないんですよッ!」
愛用のショットガンではピンポイント射撃なんて無理、拳銃でも威力が足りない なら誰かが落としていったスナイパーライフルを使うしかない。右手で化物の剣を受け止め、左手でユカリを抱えて吹っ飛ばされるカワサキを見て、焦りを覚えながら飛び散っているスナイパーライフルのパーツを集めるために瓦礫の中を走り出すのだった……。
幼い頃の教えだった……身共は川崎家のご子息に嫁ぐのだと言われ育ってきた。いつか帰ってくるという川崎家のご子息が帰るのを待った。そして会えた……顔を知りもしない婚約者に身共は心を躍らせ、会いたいと願ってきた相手がいることに浮かれていた。あびどすに帰られると聞いてお見送りしたいと思い家を飛び出し、そこで化物に襲われた。ボロボロのマントと鎧、骨と皮だけの身体、生きる者を憎んでいると言わんばかりの赤い眼光に身共は腰を抜かし、斬り殺される。そう思った瞬間には身共の身体は宙に浮いておりました。
「よう、ユカリ。怪我はないか?」
「か、カワサキ様……う、腕がッ!」
なんでもないように身共の無事を尋ねてくる。だがカワサキ様の右腕は化物の剣を受け止めたことで折れて明後日の方向を向いていることに気付き思わず悲鳴を上げる。
「この程度なら問題ない。それよりだ、ユカリ。お前はあの百花繚乱とかいう連中を止めてきてくれ、あいつに下手に攻撃してそっちに向かわれると不味い」
「で、ですが!? う、うでが……「これで大丈夫だ」え? え?」
身共の見ている前で緑色の液体を飲み干すカワサキ様。次の瞬間には折れている腕は元に戻っていた。
「あの化物に殺されるとあの化物と同じになる。あれはそういうもんだ。だから近づくなと、下手に撃って注目を集めさせるなと、もし攻撃するならあの剣に当てるように頼んでくれ。出来るか?」
「か、カワサキ様は大丈夫なのですか?」
「大丈夫だ。頼むぞ、ユカリ」
身共を降ろし、化物に駆けていくカワサキ様を見て、身共は集まっている百花繚乱の生徒達の下へ走りました。
「う、撃ってはなりません! あの化物を近づける事になりますわ!」
「何を言っているのですか!? あの化物と戦っている男性を援護しなければ……」
「で、ですが! あの化物を近づける事になりますわ!」
今はカワサキ様が足止めしてくれていることでなんとかなっているが、下手に攻撃して身共に注意が……と思った瞬間に銃声が響き。赤い血液が宙を舞いました。
「ぐっ!? へたくそッ!! 誰を……「ガアアアアアッ!!」 ぐうっ!?」
その銃弾は3m近い化物ではなく、カワサキ様の頬を掠める。その痛みで動きを止めたカワサキ様が盾の一撃で吹っ飛ばされ、駅の中に消える。
「何してるッ!! お前らぁッ!!!」
「ホシノちゃん! 私が行くッ!!」
カワサキ様と共にいたホシノ先輩が怒号を上げ、ユメ先輩が駅へと駆けていく。
「あ……あああ……」
銃を撃ったのは百花繚乱の部長だった。自分のせいでカワサキ様が吹っ飛ばされるのを見て膝から崩れ落ちている。
「グルアアアア」
重い足音を響かせ化物が身共達の方へ近づいてくる。恐ろしい息使いと、重い足音が近づいてくる。本能的に殺されるという事を理解してしまった。
「あ、ああ……」
「いや、ぃやあ……」
殺される。逃げても、反撃しても無駄――それほどまでにあの化物の圧力は凄まじかった。
「くっ! 撃って! 撃って足止めするのよッ! ショットガン持ちは前にッ!!」
アヤメ先輩が前に出てショットガンを撃つ様に命じ、自身も銃を放つが化物の手にしている盾と鎧に弾かれる。
「ギロリ……」
「あ……」
赤い眼光が身共とあった瞬間。化物は咆哮を上げて真っ直ぐに身共の元へ走ってくる。
「ガアアアアアッ!!!」
化物の咆哮に完全に腰を抜かし、逃げていく百花繚乱の生徒達、こっちに走ってくるアヤメ先輩とナグサ先輩、だけど間に合わない。
(殺される……身共はここで死ぬ……)
受け入れるしかない死の予感に身共は目を閉じ……。
「ウォラアアアアッ!!!」
カワサキ様の怒号に目を開くと化物が吹き飛ばされ、頬と頭から血を流したカワサキ様が身共の前に着地していた。
「邪魔だから向こう行ってろ! ホシノぉッ!! 剣の軌道を逸らせッ!!」
「カワサキはどうするんですかッ!? その怪我では長くは持ちませんよッ!?」
ホシノ先輩のいう通りカワサキ様のシャツは赤く染まっていて、怪我は頭と頬だけではないというのが一目で分かる。言葉ではなく体感してしまった死の感覚は身共の身体を完全に縛り付けておりました。
「長く持たないなら速攻で潰すだけだッ! とにかく援護は任せたッ!」
「ああっ! もうッ!! 良いですよッ!! やってやりますよッ!」
「ガアアアアアアッ!!」
「来いよぉッ! 俺が相手にやってやるぜ!!」
カワサキ様、ホシノ先輩、そして化物の怒号が駅前に響き渡り、身共はアヤメ先輩とナグサ先輩に引き摺られるようにその場から引き離される。ですが身共の目はその身体を紅く染め痛みに耐えながら、それでも全く揺らぐことの無い意志の光を宿しているカワサキ様から視線を逸らすことが出来ないのでした……。
唸り声を上げるデスナイト。レベル自体は確か30後半、攻撃性能は少し低目で20前後、防御はかなり高く40前後だった筈……。
(まぁ、分ってた事だな)
アイテムボックスに料理にバフを掛けるスキルは健在だった。だが身体は少し力の強い人間のままだ。そんな身体にデスナイトのシールドバッシュはかなり効いた。ユメにお守り変わりに渡しておいたポーションが無ければそのまま死んでいた可能性が高く、本当に危ない所だった。
(あいつは……いないか。問い詰めたかったが……それは無理か)
デスナイトを召喚した黒い少女――性別も体格もモモンガさんには程遠いのにモモンガさんを連想させる鈴木モモという生徒の姿はもうこの場にはない。一瞬だけ転移門が見えたので俺と同様にユグドラシルのスキルを使えるのは確定した。だがそれと同時に新しい疑問が生まれる。
(モモンガさんは穏やかな性格……だったよな、あんなキチガイみたいじゃなかったはずだが……)
あんな怒り任せに怒鳴り散らすような性格ではなかったはずだが……いや、モモンガさんに似ていると思う事態が間違いなのかもしれない。
(とりあえず、まずはこのデスナイトを倒す)
アイテムボックスから取り出したドーピングポーションを飲み干し、身体能力を強化し、戦士の指輪も身につけて更に身体能力を強化する。
「ガアアッ!!」
「ふっ!!」
デスナイトのフランベルジュを篭手の曲面を利用して受け流し、そのままデスナイトの懐に潜りこもうとする、だが当然ながらデスナイトのタワーシールドに防がれる。
「シャアッ!!」
「ちっ! 硬いなッ!!」
そのままシールドバッシュが叩き込まれそうになるので地面を蹴って後ろに跳んで回避する。
(ソウルイーターでも駄目か)
ソウルイーター。それが俺が今両腕に嵌めている篭手の名前だ。装備者のHPを攻撃力に転化する能力を持つ篭手はそれなりに性能の高い装備だが、デスナイトの盾を砕くのは少し骨だった。
(いや、俺が能力を使えてないだけか? 確かキーワードはウルベルトの奴が設定してたよな?)
能力発動時は赤い炎が噴出すはずだが、その炎が出ていないという事は今のこのソウルイーターはただの硬い篭手としての能力しかないのかもしれない事を思い出し、ノリノリでウルベルトが篭手の能力を引き出すキーワードを設定していた事を思い出していた。
「シャアッ!! オオオオオッ!!」
「ちっ! 少しは考えさせろッ!!」
デスナイトの攻撃は本能任せの物だ。だが毒や、ゾンビに変える能力を持つ事を考えると何度も受けて良い攻撃ではないので避ける事に専念する必要がある。となると必然的に動き回ることになるので体力の消耗が激しい。
「ったく! 俺は料理人だぞッ!」
勢いをつけた蹴りをタワーシールドに叩き込むと、デスナイトの巨体が宙に一瞬浮いた。
「ホシノ! 予定変更だッ!! 盾の1箇所に銃撃を続けてくれッ! 攻撃は気合で避けるッ!」
「なんでそうめちゃくちゃッ! 分りました! 分りましたけどッ!!」
銃声が響き、タワーシールドから火花が散る。とは言え当然ながらその1発で盾が砕けるはずも無い。
「シッ!!」
「グルルウッ!!」
気合を入れた打撃をホシノが銃弾を打ち込んだ箇所に打ち込み、バックステップでフランベルジュをかわすと再び銃声が響き、盾に命中する。
「はぁッ!!!」
そして再び打撃を叩き込む。デスナイトのタワーシールドをスナイパーライフルの銃弾を楔にして拳で破壊する――その作戦とも呼べない物が今の俺に出来る唯一の作戦だった。
「ったく! 無茶が過ぎるッ!!」
昨日の内に、いや、昨日の内に帰っていたら百鬼夜行がゾンビパニックになっていた筈だから、百鬼夜行に残ったのは不幸中の幸いかとぼやいて拳を握り締める。
(大体感じは掴んだ。これで五分五分か……)
まぁどの道クックマンの姿であっても強さ的には差異はない。後は俺自身の技術をどこまで使えるか、問題はその一点だ。何度目かの銃声の後に亀裂音が響いたのを俺は聞き逃さなかった。
「我が命を喰らえ」
金属音が響き、ソウルイーターが変形し赤い炎が噴出す。そしてそれと共に脱力感が襲ってくる。体力と生命力を攻撃力に転化とはこういう事かと1人納得し、地面を思いっきり蹴ってデスナイトとの間合いを詰める。それは先ほどのスピードとは一線を隔した速さだった。
「ギッ!?」
「遅えッ!!!」
全力で拳を突き出し、ホシノの狙撃によって入ったタワーでガードに入るデスナイト。だがソウルイーターの能力が発動している俺のスピードには反応出来ておらず、中途半端に構えられたタワーシールドをそのまま殴り砕き、今度こそ懐にもぐりこんだ。
(こいつの能力はHP1で耐える事。なら単発で終わらせないッ!)
駅前のアスファルトを踏み砕く勢いで踏み込み、潜りこんだ勢いそのままで肘打ち、そのまま身体を半回転させて裏拳、両掌底、肩、背中の打撃と繋げてデスナイトを吹っ飛ばす。
「流石に硬いなッ!!」
上位プレイヤーでも盾役として選択するモンスターだ。その防御性能は折り紙つき、渾身の力で打撃を叩き込んだのにまだHPを削りきれていないのがその硬さを証明している。
「だが……詰みだッ!!」
背中の打撃――鉄山劫で駅の壁に叩きつけられて跳ね返ってきたデスナイトを全力で蹴り上げる。
「ガッ!?」
「言っただろう……これで詰みだとなッ!!!」
空中に蹴り上げたデスナイトのがら空きの胴に両拳の乱打を叩き込む。流石に硬くて重いがここまでバフを持っていれば宙に浮かし続ける事は不可能ではない。
「これでトドメッ!!!」
気合を込めたアッパーで高く宙に打ち上げ、身体を捻って勢いをつけた飛び蹴りをデスナイトの腹に叩き込み吹き飛ばす。トドメと言い切って情けないが、倒しきれてないのが手応えで分った。
(ちいッ! これでもたりねぇかッ!!)
アイテムボックスを開き、虚空からナイフを取り出して、俺が駆け出すのとデスナイトが飛び出してくるのは同時だった。
「ホシノッ!! 撃てッ!!」
「駄目です! 下がって! ロケットランチャーを使いますッ!」
俺の言葉と共に銃声が響く。だがそれはホシノの放った物ではなく、ユカリが奪い取ったであろうスナイパーライフルを構えていた。その銃弾は俺の頬スレスレを通り、デスナイトの額に命中し、その動きを完全に止めていた。
「ギッ!?」
「ご武運をッ!!」
ロケットランチャーを手にしているホシノの下がれ、そしてユカリの武運の言葉……どちらも恐らく正しい、出血多量の上に動き回ったせいでホシノのいう通り俺はもう限界だが、デスナイトがロケットランチャーで倒せる保証もなかった……
「はっ……なら1つ……気合でも入れるかねッ!!」
手にしていたナイフをデスナイトに向かって投げ付ける。空気を裂く音が響きデスナイトに突き刺さるがそれでは力不足、ただナイフが刺さっただけ……だがそれで楔としては十分。
「打ち貫くッ!!!」
「ゴオオオオオオッ!」
轟音を響かせて踏み込み、デスナイトとの5mの間合いを一足で詰め、フランベルジュを振り下ろしてくるデスナイトに向かって全力の右拳を突き出す。俺の拳はデスナイトに突き刺さっていたナイフの柄を正確に捉え、デスナイトの上半身と下半身が両断され、重々しい音を立てて駅前に落下する。
『装着者の生命力が危険域に到達しました。機能を停止します』
「……チッ……しまらん……な……」
ソウルイーターから響いた機械合成音。その言葉のいう通り体力とHPを消耗しきった俺は膝から崩れ落ち、ユメとホシノの俺の呼ぶ声をどこか遠くに感じながら俺の意識は闇の中へ落ちていくのだった……。
崩れ落ちたカワサキに駆け寄るユメとホシノの姿を映している1機のドローン。そのドローンの映像を見ていたゲマトリアの黒服は無意識に首を撫で、マエストロは腰、ゴルゴンダは背中に手を当てていた。
「あの時本気だったら我々は殺されていたな、黒服」
「クックック……ええ、彼は私達の想定以上に強いようです。いやはや命を知らずに拾っていたようですね」
デスナイトと戦っていたカワサキの姿を見れば、自分達が以下に手加減されていたかを思い知らされた黒服は安堵の笑みを浮かべる。
「してどうする? あの鈴木モモという娘……やりようによっては崇高に届く。あの芸術は私の趣味では無いがな」
「私はあの娘には別のテクストが張られているように見える。下手に干渉するのは危険だろう」
「そういうこったぁッ!!」
あの異形を呼び出し、百鬼夜行に大騒動を起した鈴木モモをどうするかの言葉に黒服は首を縦に振った。
「私から見ても彼女は危険ですからね。暫くは観察としましょう。それよりも私は梔子ユメが気になります」
「あの娘か……小鳥遊ホシノほど気にする必要はないのではないか?」
「いいえ、暁のホルスよりも、光耀のオシリスの方が気になりますね」
梔子ユメの神秘はホシノより低い物だった。だが今はどうだと黒服は笑みを浮かべる。
「玉座なき王が玉座と国を取り戻した。それによって神秘を取り戻した? それともカワサキがなにかをした? 暁のホルスとの関係性が変わったから? それとも全て? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ? なぜ今になって梔子ユメはあれほどの神秘を手に入れたのです?」
「む、確かにそれを言われるとな……やはりスカウトに失敗したのが悔やまれる」
「彼がいれば崇高は手の届く物だったかもしれないな」
「そういうこったッ!」
神秘とはゲマトリアにとってもその全容を知りえない物だ。だが少なくとも別人のように神秘が高まることも無い、だが現にユメはホシノに匹敵するほどにその力を高めている。
「クックック……時間を見てもう1度接触して見ます」
「それは構わんが、言動に気をつけろよ?」
「今度は折られるかもしれん。私は止めておいた方が良いと思う」
「そういうこったッ!」
「誠意を示せば分ってくれると思いますよ。彼は大人ですからね」
黒服はそう笑いもう1度カワサキと接触する事を決めたのだが……。
「またてめえらかゲマトリアッ! 今度こそ死ぬかッ!!」
「う……ううう」
黒服がもう1度カワサキと出合ったのはホシノを騙そうとした時、この時は顔面に拳を叩きこまれ殴り飛ばされ話が出来ず、そして2度目に黒服がカワサキに出会ったのは、アリウススクワッドからの襲撃を切り抜け、アリウスの情勢を聞いて激怒したカワサキがアリウスに殴りこみを掛けた時だ。ベアトリーチェを叩きのめす様を見て、止めに入る為に3人でアリウスに訪れた時であり、流石の黒服も笑う事は出来ず……。
「落ち着いて、落ち着いてください。私達は貴方と事を構えるつもりはありません」
「うるせえ! てめえらになくともこっちにはあるんだよ、黒服ッ! ホシノにある事ない事を吹き込んだ事もむかついてたんだ。その時の落とし前もキッチリつけてもらうかぁッ!!!」
「お願いします、話を、話を聞いてください」
「外道と話す事はねぇなぁッ!!! 1回三途の川でも泳いでくるかぁッ!! そしたら少し位は話を聞いてやっても良いぜッ!!!」
アリウスの生徒を背中に庇いながら両腕の篭手から炎を吹き出しながら吼えるカワサキに黒服はその場に膝をつき、両手を地面に置いて頭を下げる。
「お願いします。まずは会話を、会話をしてください」
ベアトリーチェのアリウスに対する仕打ちに激怒しているカワサキに土下座による必死の命乞い外交をする羽目になるのだった……。
下拵え 休息 その7 へ続く
鈴木モモ(モモンガソウルON)。時間制限付ですがユグドラシルのスキルを使えるモードですね、なお百鬼夜行の生徒がイマジナリーフレンド乙とか馬鹿にしたことで屑がああってなって暴れておりましたが、途中で我に帰り逃亡しております。後は最後に触れたとおり黒服がカワサキに2度遭遇し、1回目はホシノにある事ないことを言って殴り倒され、2回目は命乞い外交になりました。アリウスはセリカとアヤネが入学する少し前くらいにアビドスニ移住してもらおうかなと思っております。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします。