飯食え・アーカイブ   作:混沌の魔法使い

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AIは養父の夢を見るか

AIは養父の夢を見るか

 

最初は嫌いだった――それは間違い無い事です。王女の従者たる私を不可思議な術で人間にして王女から引き離したカワサキが嫌いでした。

 

人の身に押し込まれた事で王女を導く事も出来ず、睡眠・食事・休息といった物をとらなければならない存在にされた事を憎んでいた。

 

王女から引き離され、鍵としての役目も果せない、不必要な物を押し付けられる。どれも不満しかなかっただけど……カワサキには勝てない。人ではない者を人にする能力を持ち、デカグラマトンの預言者を単独で撃破する能力を持った相手に戦いを挑むのは無謀を通り越して自殺行為だ。

 

『美味いか?』

 

『……分りません。ですが……悪くないです』

 

『じゃあそれは美味いって事だな、もう少し食べるか?』

 

『……貰います』

 

私にとってカワサキは敵でした。だけどカワサキは私を敵として見ていなかった……だから私は従順な振りをすることをした。油断する時を待っていようと思った。

 

『私はカワサキと違う。貴女がカワサキに危害を加えるなら……それ相応の覚悟をしてもらう』

 

カワサキだけではない、アビドスの人間も私を警戒していた。特にホシノの警戒は尋常ではなく、実際にショットガンを顔に突きつけられたこともあった。

 

だから大人しくしていた、悪意も悪巧みもしていないと従順な大人しい娘を装った。

 

『アリスの所に行くか?』

 

それが功を奏したのかカワサキは私を王女の所へ連れて行ってくれた。だけど人の身では「プロトコルATRAHASIS」を起動させることは出来ない。

 

『アリスとそっくりです! アリスはモモイとミドリと同じだったのですね! アリスの妹ですか、お姉ちゃんですか?』

 

私を姉妹として受け入れようとしてくれた王女に私は何も言えなかった。どう返事をすれば良いのか分からなかった。

 

『ゲームをしましょう! 貴女の名前はなんですか?』

 

『私は……私は……ケイ……です』

 

鍵と名乗れば変な顔をされる。だからケイと名乗った……私の中で何かが崩れた気がした。

 

「……朝ですか」

 

目覚ましの音で目を覚ましベッドから起き上がる。何か夢を見ていた気がしましたが……なんだったろうか? と首を傾げながらパジャマを脱いで、ハンガーに掛けてあるミレニアムの制服に袖を通し、姿見を見ながら髪を整えて部屋を出る。

 

「おはようケイ。珍しく寝坊したな?」

 

「すいません。朝のお手伝いが出来ませんでした。お養父さん」

 

私は王女を導く鍵であり、修行者であった。だけど今の私はカワサキ ケイだ。役目も使命も捨て、それ以上に大事な物を手にいれた者です。

 

「今日はホットケーキですか。珍しいですね?」

 

机の上に並べられている朝食は珍しくホットケーキだったので珍しいと言うとお養父さんは小さく笑った。

 

「だって昨日TVをジッと見てただろ?」

 

「見てないです」

 

た、確かにアリスと一緒に見てましたけども、見られていたと思うと恥ずかしくて否定する。

 

「見てれば分る。温かいうちに食べな」

 

「う……は、はい。いただきます」

 

だがそんな様子すらお養父さんには笑われてしまう。いただきますと言ってからナイフとフォークを手にしてホットケーキを切って頬張る。

 

「美味しいです。モモイの焼くのはもっと固いんですけど、お養父さんのは柔らかいですね」

 

「それは混ぜすぎだな。混ぜすぎるとグルテンが発生して固くなるんだよ」

 

「そういうものですか……今度モモイに言っておきます。おやつにカチカチのホットケーキは良くないですから」

 

モモイが気合を入れて焼いてくれたホットケーキは固かったので、今度はもっと柔らかくなるように教えようと思いました。

 

「でも不味くはなかったんじゃないか?」

 

「……お養父さんのと比べると美味しくはなかったですよ」

 

固かったが、不思議と不味いと思わなかったが、それでも固い物は固かった。これは変わらない事実です。

 

「まぁ仲良くな。お弁当も作っておいたから遅刻しないように」

 

「はい。分かっています」

 

アビドスに通うことも出来ましたが、ホシノが苦手なのと、アリスの側にいたいのでミレニアムに通う事にしたので早く食べないとバスに乗り遅れると味わうのもそこそこにし、ヨーグルトサラダとオレンジジュースを飲み干して立ち上がる。

 

「行って来ます」

 

「行ってらっしゃい。気をつけてな」

 

「はい!」

 

お養父さんの作ってくれたお弁当箱を鞄に詰め、私はミレニアムに向かうバス亭に駆け出した。

 

「おはようございますケイ! 今日は少し遅かったですね?」

 

「珍しく寝坊してしまったのですアリス」

 

「それは珍しい事もありますね」

 

「きっと夜更かししてゲームしてたんでしょ? ケイ」

 

「モモイ。カワサキの家にゲームはありません」

 

「嘘でしょ? カワサキさんゲーム上手なのに?」

 

「遊んでる時間がないのと、置いてあるとやりたくなるから買わないらしいですよ。まぁ1つだけ持っているのでそれを借りてきましたけどね」

 

「それで私と同じ位強いって反則だと思うけど……」

 

お養父さんはゲームがわりと好きだ。実際に格闘ゲームではユズと同等の実力だし、TPSに至ってはユズ以上かもしれない。

 

「じゃあカワサキさんに弟子入りしたらゲーム大会でも良い線いくかな」

 

「お養父さんに迷惑を掛けるのは許しませんよ、モモイ」

 

「うっ!? そんなに睨まなくても良いじゃん……」

 

「睨んでません。お養父さんは忙しいのです、もしも行くとしても休憩時間の15時ごろにしてください。まぁ色んな人がいるのでゲームを教えてくれるとは思いませんが」

 

休憩時間なのに押し寄せてくる人達には本当に腹が立ちますが、お養父さんが受け入れているのでそれを私がいう事でもないですし……でも休憩はちゃんとして欲しいですし……。

 

「ケイは本当にカワサキさん大好きだよね。ファザコンレベル100だよ。あれ」

 

「シッ! それを言うと話が長くなるからやめよう? ケイちゃんがカワサキさんが好きなのは今に始まったことじゃないし」

 

「アリスはマスター好きですよ?」

 

「そこ、うるさいですよ!」

 

何かとても不名誉な称号をつけられそうだったのでミドリとユズに静かにと怒鳴りつけてから鞄を机の上におく。

 

「もしかして頼んでいたの持って来てくれたの!?」

 

「ええ。友達とは仲良くしろと言って貸してくれました。あと言っておきますがこれを丸パクリして自分達の開発したゲームと言えばアリスと私はアビドスに転入するのでお忘れなく」

 

ぎくうっと口で言うモモイをジト目で睨みながらお養父さんが貸してくれたVRのゲーム機を机の上に準備する。

 

「これがカワサキさんが昔遊んでいたという……ミレニアムの技術を凌駕するゲーム機ッ」

 

「魔法使いが遊んでいたゲーム……」

 

「マスターが遊んでいたゲーム楽しみです!」

 

お養父さんが遊んでいたゲーム……果たしてどんなものか私も正直ワクワクしている。マイク付きのゴーグルを被り、椅子に座って両手に持つスティック状のコントローラーを握り締める。

 

「まずはこのロボットを操るTPSから始めましょう。ユズ、パートナーをお願いします」

 

「う、うん」

 

「アリス達はモニターを見ていてください。私達が見ている画像が映し出されるので」

 

「はい! ちゃんとモニターしています!」

 

アリスの返事を聞いてゲームをスタートし……。

 

「は……は?」

 

「ぜ、全然反応出来なかった……どこから狙われたの?」

 

スタートと同時にロックオンされミサイルで撃破された。本当に何がなんだか分からなかった。

 

「……いきなり協力プレイが失敗でしたね、チュートリアルから始めましょう」

 

「うん。それが良いと思う」

 

まずは操作感覚を覚えてからストーリーをやろうという話になり、チュートリアルを始めたのですが……。

 

「ケイ! いい加減に交代してください!」

 

「そうだよユズ! 私もやりたいッ!」

 

「独り占めは良くないよ!」

 

余りにも夢中になりすぎてしまいました。お養父さんがやっていたゲーム……面白すぎでした。

 

「いや、凄すぎるってこれ……」

 

「インスピレーションとかいうレベルじゃなかった……」

 

「う、うん……」

 

「これで勉強したのでもっといいゲームが作れますね! モモイ、ミドリ、ユズ!」

 

「いや、あのレベルは……いや、ううん。出来る! 皆で協力すれば出来るよね! あ、あれ? ケイ。何でゲーム片付けてるの?」

 

「これはお養父さんの私物なので持って帰りますよ? 当たり前じゃないですか」

 

「ええー! おいて行ってよ!? 参考の為に!」

 

「それで時間を忘れて開発する時間を無くすつもりですか? これはちゃんと持ち帰ります。それじゃあ始めましょう」

 

ゲーム機を片付け、変わりに大学ノートを机の上に並べる。

 

「分りました! ゲームの感想を書くんですね!」

 

「その通りですアリス。後はこんなゲームを作りたいって言うプロット作りですね。お養父さんに協力して貰ったのですから生半可な物は認めません」

 

「やっぱりケイってファザコンだよね」

 

「しかも重度の」

 

「そこ! うるさいです! 大体娘がお養父さんを好きで何が悪いって言うんですか!」

 

残念な物を見る目で見ているモモイ達を怒鳴りつけることになりましたが、ファザーコンプレックスなんて失礼な事を……。

 

「そうですか、分りました。ではモモイとミドリはお弁当はいらないのですね。これはユウカとノアに差し上げることにしましょう」

 

「わーわーッ! それはずるいって! 謝るからぁッ!」

 

「カワサキさんのお弁当を人質にするのは卑怯だよ!」

 

お養父さんのお弁当は基本的にアビドスで消費されるので、他の学区の生徒が入手するのは極めて困難だ。あくまで私がミレニアムに通っていて、ゲーム開発部だからモモイ達の分もついでに準備して貰っているだけだ。なので失礼な事を言う2人に渡す必要はないのですが……。

 

「発言に気をつけるように。ではどうぞ」

 

とは言え謝ってくれたのならば腹を立て続けるのも子供だ。なので私はしっかりと注意してからモモイとミドリの分のお弁当を2人に手渡しました。

 

 

「もうこんな時間ですか、では私はそろそろ帰ります」

 

「分りました! また来てくださいねケイ」

 

「勿論明日も来ますよ」

 

お養父さんのお手伝いもあるので16時にミレニアムを出て、16時45分ごろにアビドスに戻ったのですか……。

 

「ひ、ひいいッ! 注文が途切れませんッ!」

 

「流石はアカリだな。やれやれ、ん? ケイか。おかえり」

 

「はい、ただいま帰りました。コユキ私も手伝います」

 

「ありがとうケイ! 「カツ丼と味噌汁のおかわりを」早く手伝ってくださいいい……ッ」

 

美食研が店にやってきており戦争状態のお養父さんの店を見て、私もすぐエプロンをつけてフロアに出る。

 

「あら、ケイさん。おかえりなさいですわ。エビフライとクリームシチューをお願いします」

 

「私はバッテラに餡子とマヨネーズのトッピングで!」

 

「私は海老ピラフね!」

 

「はい、分りました」

 

怒涛の注文ですが、お養父さんを拉致しようとしないのならば目くじらを立てる必要は無く、普通の客として対応しました……が。

 

「ご馳走様でした。お会計をお願いします」

 

「はい、35万4780円です」

 

「ではカードで。ではカワサキさんまた参ります」

 

「来る時は連絡しろ。急に来られると店がパンクする」

 

お養父さんの言葉にフフっと笑って帰っていく美食研を見送り、まかないを食べて元気を取り戻したコユキを見送る。

 

「では改めてただいま帰りました」

 

「おかえり。学校は楽しかったか?」

 

「はい。ゲームもありがとうございました」

 

ミレニアムに通い、お養父さんの手伝いをして、一緒に夕ご飯を食べて、お風呂に入って寝る。そんな人間のような生活は最初は嫌いだったが、今はそれなりに気に入っている。

 

「おやすみなさい。お養父さんも早く寝てくださいね?」

 

「分ってる。お休みケイ」

 

「はい、おやすみなさい」

 

アビドスの復興に、元アリウスの生徒に生活するための知恵を授けたりとお養父さんは忙しい、寝てくださいと言っても寝てくれないんだろうなという予感があり、私は自室に帰るとスマホを取り出した。

 

【またお養父さんが夜遅くまで仕事をしています】

 

【了解。すぐに行きます】

 

【すぐに行くねー】

 

返事は一瞬だ。お養父さんは基本的に我を通すが、ユメとホシノに言われると割と折れる。

 

(私も怖いですし、寝ましょう)

 

光が抜け落ちた闇の目を2人はする時がある。いや、シロコやノノミもしている時があるが、ユメとホシノの目はそれよりも暗くて怖い。

 

「分った! 今日は寝る! 寝るからッ!」

 

お養父さんの降伏の声が聞こえて来たので私もベッドに横になり眠りに落ちた。

 

『遊園地は嫌いか?』

 

『良く分りません』

 

『そうか、だけど顔が笑ってるぞ?』

 

『……そうでしょうか?』

 

お養父さんはいろんなところに連れて行ってくれた。様々事を経験させてくれた、それはきっと楽しい幸福な時間だった。だから私は苦しかった。

 

『……私は……私はアリスと違う……ッ』

 

楽しかった。幸せだった。満たされていた。だが人化の術が解けると私の思考は鍵であることだけに向けられた。

 

楽しかった事が無意味に思えた。

 

幸せだった事が下らなくなっていた。

 

満たされていたのに使命を果すことだけを渇望した。

 

だから願った。私はアリスにはなれない、アリスのように人の中に混ざれない。私はどこまで行っても化け物なのだと……。

 

だから消え去りたかった……鍵としての使命を果たしたくなかった。

 

与えられた物を踏み躙る前に、使命を果そうとする意思に飲み込まれないうちに壊れたかった。

 

だから振りをした。鍵であることを演じ、リオの作っていたエリドゥを乗っ取り作る気もないアトラハシースの箱舟を作る振りをした。

 

冷酷な仮面を被った。大事な者を壊す前に壊れたかったのに……私の仮面も演技もお養父さんには通用しなかった

 

『使命? その為に生み出された? 冗談じゃねぇッ! んなくだらないものに縛られる必要なんてねえんだよッ!! アリスも、ケイも! なりたい物になればいいッ! 縛られる必要なんてないッ!』

 

私の使命も、アリスの作られた意味も、そんな物は関係ないのだと、私もアリスもなりたい自分になれば良いのだと教えてくれた。

 

『顔も知らない奴の命令に従う必要はない! アリス、ケイッ! お前達はお前達の願いにッ! 意志に従えばいいッ! 魔王がなんだッ! 全てを壊す魔王? なら全てを救えるだろうがッ! 壊せるなら守れるッ! それに力になんか意味はねぇッ! その力をどう使うかだッ!』

 

私とアリスの全てを否定した。鍵である私も、名もなき神々の王女である必要もないのだとお養父さんは教えてくれました。ただ全力の拳骨はめちゃくちゃ痛かったですが……。

 

『アリスはミレニアムに戻ったが、お前はどうする? 天童ケイとしてミレニアムへ行くか?』

 

『私は……カワサキが良いです』

 

『んん? どういう意味だ?』

 

『カワサキケイが良いです。お養父さん』

 

『……俺の養女になるってか? それは『なりたい私になれば良いんですよね? 私はカワサキケイが良いです』

 

アリス風にいうのならば……心優しき賢者によって魔王の従者に掛けられた呪いは解かれ、1人の娘になることが出来たのです。

 

『駄目とは言いませんよね? お養父さん?』

 

困ったように笑いながら両手を上げるお養父さん。この時から私はもう鍵には戻らない、そう心に誓ったのです。 

 

「ケーキ……何かの記念日ですか?」

 

「ケイと暮らし始めて1ヶ月目の記念だ。いやか?」

 

「いえ、いただきます。ありがとうございます」

 

些細な事でも覚えていてくれ、私を慈しみ愛してくれるお養父さん……いえ、カワサキは私の中でアリスと同じ位とても大切な存在になっていました。

 

「どこか行きたいなら連れて行ってやるぞ?」

 

「では一緒にゲームをしましょう」

 

「良いのか? 映画とか遊園地とかは?」

 

「いえ、2人でゲームをするのが良いです。駄目ですか?」

 

「ケイがそれでいいならそうしようか」

 

「はい、私はそれが良いです」

 

カワサキが与えてくれる無償の愛は確かに私を変えてくれました。それに応えたいから私も学びました。

 

だけど私がカワサキに抱いている愛が親愛なのか、友愛なのか、それとも……異性に対する愛なのかは分りません。

 

だけど確かに私は……お養父さんを……カワサキをAI(あい)しているのです。AIだって愛を抱いてもいい、それもまたなりたい私の1つの形なのですから……

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