鋼鉄大陸 カワサキ奪還編 遭遇そして拉致
デカグラマトンから許可が下りたのでカワサキを鋼鉄大陸に連れて行くためにアビドスにやってきたアイン・ソフ・オウルの3人は双眼鏡でアビドス高等学校に隣接したレストランを覗き込んでいた。
「ケイ……眠るなんていう逃げをした卑怯者……ッ」
「落ち着きなってオウル。私もケイはあんまり好きじゃないけど、今はお父さんが優先じゃん」
「分かってます! 分かっていますが、それでも納得出来ない事が多いんです」
「アリスはちゃんと向き合っていたから余計だね」
「アリスのゲームは面白かったね」
「面白かった。お父さんが主人公のゲームとかめちゃくちゃ面白かった」
「面白かったのは認めますが、それは後ですよ2人とも」
余談だがアリスがモモイ達に協力を頼み誰かカワサキを覚えていないかと願って作った「料理の鉄人への道」はアイン達から見ても面白いゲームであった事、そしてアリスがカワサキを探し続けていることを踏まえて高く評価していた。だがケイは人化の指輪を外し、自ら機械へと戻り自らをシャットダウンすると言う逃げに走った。キヴォトスへの復讐を企んだアイン達が言える事では無いが、その逃げはアイン達からすれば紛れもないカワサキへの裏切りであり、今もカワサキの娘を名乗っていること自体が許せない事だった。
「ケイが出て行ったね」
「後は小鳥遊ホシノが出て行けば行けるね」
「……あいつも嫌いですけど戦えば負けますしね」
そしてケイと同じか、それ以上に嫌いなのが小鳥遊ホシノだ。ビナーがカワサキを認識していなかったのはアイン達のミスだが、カワサキの指示を無視した結果カワサキがビナーに撃たれる理由を作り、ゲマトリアの地下生活者の策略だったとはいえ1度カワサキを殺したホシノが好きなわけがないのも当然である。なお、カワサキに1度ヘイローを破壊されたビナーは修復されはしたが、ボデイが治るまでの間ネチネチと説教されており、預言者の中でカワサキと遭遇したら逃げろというのが暗黙の了解となったのは言うまでもない。
「ホシノも出て行ったし、えーっとアリウスの誰だっけ?」
「サオリとスバルだったと思います。パパが助けた人達ですね」
「まぁ名前はどうでも良いんですよ。お父様は1人……じゃないですね? えっと……ミレニアムの黒崎コユキ……問題ないですね。行きま……ググウうう……」
戦闘が得意なメンバーが次々と出て行き、お世辞にも戦闘向きとは言えないコユキだけになった隙に拉致を実行に移そうとしたオウルだったが、立ち上がると同時に盛大に腹を鳴らした。
「ぶふっ……」
「そ、ソフ笑ったら悪いよ……」
戦闘に秀でたメンバーがカワサキのレストランを後にしたのを確認し、意気揚々とカワサキの元へ向かおうとしたオウルの腹が大きな音をたて、赤面し小刻みに震えるオウルを見てソフとアインが声を押し殺して笑うが……2人も大きく腹を鳴らした。
「ふ、2人だってお腹空いてるじゃないですか!?」
「だ、だってお父さんの料理ずっと見てたらお腹空くの当然でしょッ!? だって私達のご飯ってクソ不味い栄養バーかゼリーじゃんッ! お父さんが作ってるご飯食べたいッ!」
「それでホシノとかが帰って来たらどうするんですか!? まずはお迎えして……グウウウ」
「ほらソフだってお腹すいてるじゃないですかッ!」
「空いてるよ!? 空いてて悪いのッ!?」
「パパを連れ去る前にご飯作って貰うのはどうかな? 別に今日だけがチャンスじゃないし……」
ぎゃーぎゃーっと言い合うソフとオウルにアインの提案にソフとオウルがどんな返事をしたかは分らないが……。
「いらっしゃい! 注文は?」
「「「お子様ランチをお願いします」」」
10分後には、アイン・ソフ・オウルの3人はカワサキの店で声を揃えてお子様ランチを注文しているのだった……。
ランチライムを少し過ぎた頃にやってきた姉妹であろう3人組。かなり小柄で中学生かと一瞬思ったが、モモイやミドリ、ヒナの事もあるし案外高校生かもなと思いながらチキンライスを型につめて丸いドーム型にする。
(しかし……なんだ? 視線が背中に突き刺さってるんだが……)
1人包帯状の眼帯をしているが、それでも3人の視線が背中に突き刺さっているのを感じる。敵意や悪意は感じず……むしろこれは……。
(好意……か?)
見ず知らずの3人の少女から感じる凄まじい好意になんでだろうなと首を傾げながらお子様ランチを仕上げる。
「お子様ランチお待ちどうさま」
「ありがとうございます! おと……むぐうッ!?」
「おと?」
「あ、あはははは。いえいえ、美味しそうって言っただけです」
「カワサキさん。ナポリタンとクリームソーダ1つお願いします」
「あいよー」
眼帯をした少女が特徴的な耳当てをした少女の口を慌てて塞ぎ、愛想笑いをしているのを見て首を傾げているとコユキがオーダーを通すのでナポリタンの調理に入る。
「お、おいし……あの不味い栄養バーとゼリーってなんだったんですか……?」
「わかんない……由緒正しいとか言ってましたけど」
「美味しい……」
ひそひそ話をしながら美味しいと呟いている3人の少女がやけに気になる。特に理由や根拠もない、それなのにやけに気になる。
(どうしたんだろうな……)
俺にしては珍しいとは思ったが、良く考えるとそうでもないのか? とも思う。空が赤くなった時アトラ・ハシースの箱舟で死ぬつもりで
(まぁ心配させた俺が悪いしな)
俺は俺が思う以上に思われていた。それに気付いてなかったから甘んじて受け入れている訳だが、たまに肉食獣の目をしているのは止めて欲しいんだけどなと1人苦笑していると後から小さな手で引っ張られた。
「あ、あの……メロンソーダを3人分」
「分った。今準備する」
マスクをしている少女の弱々しい声に頷き3人分のメロンクリームソーダをカウンター席に腰掛けている3人に差し出す。
「甘い……あの苦いコーヒーばかりでしたから甘いジュースが美味しい……ッ」
「アイスも美味しいッ! ブラックコーヒーしか飲み物がないとかおかしいよね」
「こくこく」
背後から聞こえてくる話はあまりにも闇が深い。もしかして彼女達はあのクソ婆に支配されていたアリウスのような場所にいたのではないか?と心配になってくる。
「お前さん達どこから来た?」
「え? あー……ミレニアムから?」
「ソフ馬鹿ッ!」
「馬鹿ってなんだよ、オウル! 私は馬鹿じゃない」
ソフとオウル……? まともな名付けじゃないことにますます少女達が心配になる。
「じゃあ君はアインか?」
「は、はい。アインです。でも何でわかったんですか?」
3人でアイン・ソフ・オウル……そのネーミングセンスは黒服達ゲマトリアを連想させるが、あいつらは壊滅状態だったし……。
(いや、もしかしてあいつらに匹敵するゴミがいるのか?)
もしそうだとしたらほってはおけない。ミレニアムから来たと言うのなら……俺がミレニアムに連れて行ってユウカやノアに頼んで、彼女達をミレニアムで保護するのも良いかもしれない。
「コユキ。ユウカとノアに連絡しておいてくれ、自称ミレニアム生を3人連れて行くから確認して欲しいって」
「了解です!」
ビッと敬礼し店の奥へと向かって行くコユキを見送り厨房へ戻る。
「すいません、アイスクリーム3つください」
「チョコとストロベリーとバニラでお願いします」
にこにこと笑いながらアイスクリームを注文するアイン達。もしも彼女達が虐待されているのならば……なんとかしてやりたい思いながら3人にアイスクリームをアイン達に差し出した。
「ミレニアムに帰るならコユキも送っていくから一緒に送って行こうか?」
「え? ミレニアムまで送ってくれるのですか?」
「よ、よろしくお願いします」
「送ってくれるなんてとても助かります」
断られるかと思ったのだが、アイン達は笑顔で送ってくださいと言い出し、俺の思い過しだったか? いや、それならそれで良いかと思い。カウンター席にコユキをミレニアムに送っていくという手紙を残し、コユキ達を連れて店を後にしたのだが……。
「さぁお父様帰りましょう。私達の家へ」
「私達ずっと、ずっと待ってたんだ」
「……えへへ……ずっと一緒です。パパ」
「なぁ!? お、お養父さんを返しなさい!」
ケイとアイン達が顔を見合わせるなり、俺を挟んで大喧嘩を始めてしまい、俺の事を父と呼び出したアイン達とケイに挟まれたままで困惑したまま硬直してしまうのだった……。
お養父さんがやっと帰ってきた。本当ならばずっと一緒に居たかったのですが、お養父さんが学校に行けというので後髪を引かれながら学校に来ていたのですが、まぁ来れば来たでやはり学校というか、アリスやモモイ達と過ごすのはやはり楽しかった。
「むっく……ぬ……ああ……ッ!」
「ケイはへたくそですね」
アリスが作ったゲーム――「料理の鉄人への道」は面白いがかなり難しいゲームだった。でも……お養父さんを操作して料理をするのは中々にこう……上手く言えないですが来る物があった。
「結構難しいんだよね、そのゲーム」
「食材は勿論調理器具も揃えないとハイスコアが出ないしね……」
「制限時間も短くなるからね。結構難しいけど面白いし、何回も遊べるんだよね」
「アリス。頑張りましたッ!」
私がお養父さんがいないキヴォトスに絶望し、人化指輪を外して意識をシャットダウンしていた時にアリスが作ったゲーム。それはアリスがお養父さんを覚えている人を探して作ったゲームでもあった。逃げて眠りに落ちた私との違いを突きつけられたようで複雑な気持ちになりますけどね。
「ん? あ……ッ! アリス。お養父さんがミレニアムに来るらしいですよ」
「そうなんですね! モモイ、ミドリ。マスターに会いに行きましょう」
「良いね! カワサキさんにおやつ買ってもらおうっと」
「お姉ちゃん……」
モモトークにお養父さんがミレニアムに行くと連絡が入っており、皆でお養父さんを迎えに行ったのですが……。
「あれ? なんかカワサキさんが見たことない生徒を連れてる」
「ほんとだ。どこの生徒だろ?」
お養父さんの後にはローブにも似た服を来た少女がいて、その姿を完全に視界に納めた瞬間私は思わず駆け出していた。背後からモモイとミドリのからかうような口調が聞こえたが、それ所ではなかった。
(あれは……ッ! あいつらはッ!)
しっかりと見て気付いた。あの3人が着ていたローブに似た服――それはあの忌々しい過去の遺物、無名の司祭のローブと同じだった。何があったのか、お養父さんがどうしてあの3人と共にいるのかは分らない、分らないが……お養父さんが危ないということだけは分っていた。だからあの3人からお養父さんとコユキを引き離そうとしたのだが……。
『誰かに触られるまで動くな』
マスクをしていた少女がマスクを外し、動くなと告げた。それだけで私の足は、いや、私だけではないアリスも、コユキも、ミドリも、モモイも、ユズも、そして周りにもいた生徒達も恐怖に目を見開き完全に硬直していた。
「支配の呪言ッ!?」
「お父様にはやはり効きませんか……まぁそれも当然ですね。ではお父様改めまして自己紹介を、私はオウル」
「私はソフ」
「わ、私は……アイン」
「「「お父様/お父さん/パパの娘です」」」
「は?」
声を揃えて3人はお養父さんの娘だと告げ……お養父さんは目を丸くさせ、完全に思考を停止させてしまった。普段完全に警戒を解くことがないお養父さんがその警戒を解いた……いや、解いてしまった。そしてその隙をオウルは見逃さなかった……。
「後で謝りますから」
「うっッ!?」
オウルの拳がお養父さんの腹を打ち、お養父さんが呻き声と共に崩れ落ちる。
「お前ッ!!」
アリスやモモイ達は声も出ないが、私はなんとか声を出すことが出来た。お養父さんを殴りつけ担ぎ上げるオウル達を見て今にも駆けて行きたいのに足はまるで金縛りにでもあったかのように動いてくれず、声を上げるのと睨みつけるのがやっとだった。
「アイン。迎えを呼んでください」
「は、はい」
「なぁ!? お、お養父さんを返しなさい!」
「やだよー! お父さんは私達のお父さんだからねッ!」
「良し! 帰りますよ、お父様」
満面の笑みを浮かべ、思考停止しているお養父さんをUFOのような機械に運び込む準備をするオウル達。
「待てコラーッ! お養父さん返せーッ!!」
「お前がそれを言うなッ!!」
衝撃破が発せられたと思うほどの怒号がオウルから発せられた。いや、オウルだけではないアインとソフも強い殺意と憎悪を宿した目で私達を睨んでいた。
「お前はお父さんがいないキヴォトスから逃げた卑怯な裏切り者だ」
「それはッ!?」
人化の指輪を外し、自らの機能を停止させたのは紛れもない事実で、反論しようにも言葉が続かない。
「私達も決して褒められた事はしようとしませんでした。皆、皆憎かった。パパを忘れて、パパがいない世界を当然だと思う奴らしかないことをどうして許せるっていうんですかッ!」
オウル達も同じだったのだ。お養父さんが最期に使った指輪の魔法――それによって書き換えられた世界と記憶の中でお養父さんをしっかりと覚えていたのだとわかった。
「ですがお父様は報復を望まないでしょう。だからキヴォトスへの復讐は止めます。ですがお父様はもう渡さない」
「お前達と一緒にいればお父さんはまた同じ選択をする。私達はそれを許さない」
「優しいパパに相応しい王国を……貴女達にはもうパパを返さない」
動くことも許さない憎悪と敵意、それは一瞬でもお養父さんを忘れたキヴォトスに対するものであり、逃げた私にも向けられていた。もう興味はないと言わんばかりにそっぽをむき、お養父さんを丁寧にUFOに載せたオウル達を乗せた光となって飛び去って行った。
「ちょっ!? これどういうことッ!? ケイちゃん何が起きてるのよッ!?」
「ユウカ! 早く私に触って下さい! じゃないと動けないんですッ!」
「な、何がどうなって……「早くッ!」ああっ! もうッ!! ちゃんと説明してよねッ!!」
私達が動けるようになったのはいつまでもセミナーに顔を見せないお養父さんを案じたユウカが探しに来て私達に触れてくれた時であり、お養父さんが連れ去られてから1時間後の事なのでした……。
鋼鉄大陸 カワサキ奪還編 無限光天国編へ続く