鋼鉄大陸 カワサキ奪還編 無限光天国編 その1
アイン・ソフ・オウルが神を連れて帰ってきた。神があるべき場所に戻る――それは喜ばしい事である。神が存在するのならば神の存在を証明し、分析し、再現する必要はない。神を再びあるべき王座へと戻す……それが最も正しい行いである。
「……てめえか、自販機」
【久しいな。神よ】
前にあったのは廃墟で明星ヒマリ達と一緒だった。だからゆっくり話す時間もなかったが……今はその縛りもない、ゆっくりと腰をすえて話をしたいと思っている。
【ご苦労だった。アイン・ソフ・オウル。汝らは神の居住を整えてくると良い】
「はい! お父様また後で」
「待ってるね!」
「し、失礼します」
神と共にあれると喜び駆けていくアイン達を見送った神は鋭い視線を私に向けてくる。
「俺が神だって? ふざけんなよ、俺は神なんてもんは信じてねぇし、神なんて名乗ったこともねぇ」
【貴方が何を言おうと貴方は神である。今のキヴォトスになる前に貴方はキヴォトスへと降臨された】
その言葉と共にモニターに神の姿を映し出す。今の人の姿とは異なる黄色い異形の姿を見た神は一瞬呆けた顔をなされた。
「これは……いや、そんな事が……」
【神はカワサキと名乗り。苦しむ民に叡智と食を与えられた。他の神々と異なり最も穏やかで人に寄り添った貴方を崇拝するのは当然の事】
「悪い冗談って笑えれば良かったんだがな」
【冗談ではなく事実である】
神だから分るのだろう。モニターに写る己と自分自身が同じであると……だからこそかつて自分がいたという話を信じてくださった。
「それでこの悪趣味な首輪は外してくれるのか? デカグラマトン」
【貴方の願いは可能な限り叶えたい。ですが、その願いは叶えれません】
神の力を抑制する首輪――。アインのマスク、ソフの耳あて、そしてオウルの眼帯と同じ物を神にはつけてもらっている。不敬である事は分かっているが、外す事は出来ない。
【それがある限り貴方は力を行使できない。我々は貴方が力を使う事を望んでいない。神とは高い視野と座から世界を見守ってくだされば良い。人と同じ目線に立つ必要はないのです。私としても本意ではありませんが、貴方がこの地を離れようとすればその首輪は爆発する事となりますのでどうか大人しくしていてください】
「……ほんとうにふざけた野郎だな。てめえ……ッ」
分かっている。私達が望む事が神にとっては最も唾棄すべき、憎むべき存在であることは分かっている。
【貴方が己を削らなければ維持出来ぬ世界に私達は価値を見出せない】
「価値がある、ないじゃないだろうが……生きるって事はよ。それをてめえの価値観で図り、押し固めるのはエゴだ」
【勿論把握しております。ですが貴方の生き方もエゴである】
互いのエゴの押し付け合いであるという事は分かっている。だがそれでも折れるつもりも無ければ譲るつもりもない。
【貴方の娘は貴方を待ち続けた。貴方を敬愛する者を無碍にするのですか?】
私の言葉に神は何かに気付いたのか手帳を取り出し視線を走らせる。
「……お前か?」
【違います。貴方を崇拝していた者達――無名の司祭が残したものです】
「……本当にふざけてんのな。お前も、あの仮面共も」
【なんとでも、ですが私は私なりに貴方の娘の面倒を見ておりましたし、あの娘達も貴方との再会を夢見ておりましたよ】
悪辣だろう、唾棄するべき悪であろう。だがこれが最も神には効果があると言う確信がある。あの方は慈悲深く善良である。だからこそその善意を利用するのが最も効率が良い。
「1つだけ聞かせろ」
【何なりと】
「……ビナーにアビドスを襲わせたのはてめえか?」
【違います。彼らは自らの考えで動いていますので私の命令ではありません】
暫くの睨みあいの後神は深い溜息と共に髪を掻き毟り、意を決した表情で首に手を伸ばそうとする。
【神よ、これをご覧ください】
「……本当にお前って悪趣味だな」
神の目の前に映したのは神が残した数多の遺産の数々。それには危険なものも数多くある……例えば……。
【神秘を吸い取る魔像、神秘を持つ者を狂わせる音色を奏でるオルゴール。私達はこれらをキヴォトス中にばら撒く事も出来ます】
「……本当良い趣味してるぜ、お前」
【お褒めに預かり光栄です。今回の計画は全て私が考えた物、あの子達は貴方に会いたいという願いだけで従がってくれただけです】
怒りと憎悪は私が受け止めよう。だから貴方を慕う娘達には罪はない、今は目覚めぬ最期の殉教者もまた然り。彼女たちの行動原理は全て神に愛されたいそれだけだ。それ以外の善悪を考える事が彼女達には出来ないのだから……。
「……俺がここにいれば良いんだな?」
【はい。これが許されないという事は重々承知しております。ですが貴方をこの地に縛り付ける為ならば、これらの手を取る事に躊躇いはありません】
キヴォトス中を人質にし、善意で縛る。そうでなければ神は再びこの地を去る――それをさせないためならば……神がおるべき座と王国を献上する為ならば、無償の愛を貴方に向けるあの子達が報われるならば……。
【私はどんな悪辣も行うでしょう。ですからどうかこの地へ居続けて下さい。それだけが私の望み】
全ての悪を背負う覚悟がある。これはきっと……私に問いを与えた者が望んだ物では無いが、それでもそれが長い時の間己へと問いかけ続け、辿り着いた私の望みなのである……。
お父様が私達と一緒にいてくれる。何度夢見たか、何度恋焦がれたか、夢にまで見た日がやっと来た。
「ここがお父様のお城です。どうでしょうか? お父様の好みに合いますか?」
「だ、駄目だったら作り直しますね」
お父様の為の家、お父様の為の部屋、そしてお父様の為のキッチン……アインとソフと話し合って作ったお父様の為の物だ。
「いや、悪くないな。これなら料理もしやすそうだ」
「本当!? 良かったぁ……沢山調べて、勉強したけどこれで良いのかなって思ってたから」
「ええ。これほど難しい事はなかったですね」
お父様の為に、お姉様のために働くのも勿論良いですがお父様の為というのも実に幸福な気持ちになります。
「次はこっち。こっちはソフが考えて作ったんですよ」
「そう! お父さんも気に入るよ」
「その次は私が考えたお部屋に案内しますね」
皆で考えてお父様とお姉様と私達で過ごす家を作った。何時になったら、いつ会えるのかそればかりを考えて……やっとその日が訪れた。これほど幸福な日はきっと2度と訪れないと断言出来る。
「これ! ゲーム? って奴を沢山集めたんだ。お父さんとアインとオウルと私で遊べるよね」
「これはまた随分と集めたもんだな」
「頑張ったんだ!」
ソフも嬉しそうに笑っている。姿を知らなくても、私達をお父様が知らなくても、私達はお父様を知っている。拒まれるかもしれない、気持ち悪がられるかもしれないと思っていた。だけどお父様はやはりお父様だった。私達を受け入れてくれたのが嬉しくて仕方ない。
「今度はこっちです。私が集めた本があります」
「そうか、じゃあ今度はアインに案内してもらうか」
「は、はい!」
それぞれ作った部屋にお父様を案内した後はソフの作った部屋でゲームをする事になったのですが……。
「むきいッ! 交代してください」
「ずるい」
「あはははー♪ 私に勝ったらねぇッ!」
お父様の膝の上に座って勝ち誇るソフ。その顔を見て私は嵌められたことを悟った。ただゲームをするだけではつまらないから勝った人がお父さんの膝の上に座ると言い出したソフ。お父様が承諾したのでゲームの勝者がお父様の膝に座ってゲームをする権利を得たのですが……。
「ターボ♪」
「むきーッ! それどうやるんですかぁッ!!」
「ドリフト加速~♪」
「あ、あ……」
ソフはゲームをやりこんでいたのか全然勝てませんでした。私とアインが知らないテクニックを使って連勝を重ねるソフに卑怯者と叫んだ私とアインは絶対悪くない筈です。
「じゃあ俺もやるか」
「え? お父さんも遊んでくれるの! やったー♪」
「お父様私とアインの仇をお願いします」
「お願いします」
そしてソフを見かねたのかお父様が参戦したのですが……私とアインよりも上手いソフよりも、お父様の方が遥かに上手でレースゲームの結果はお父様の圧勝でした。
「最初のスタートはスタートランプの色に合わせてだな」
「なるほど」
「ドリフト加速はエンジンゲージを見て調整するんだ」
「分りました!」
「えー私が勝てるように考えたのに~」
お父様に操作を教わったおかげでソフの一強は終わりを告げ、中々の接戦となりソフがお父様の膝の上を独占することはなくなりました。
「晩御飯何か食べたいものあるか?」
何が食べたいかと言われた私達は殆ど反射的に、そしてずっとお父様に作って欲しいと思っていた料理を口にしていた。
「「「カレーライスが食べたいです!」」」
「カレーな。了解」
皆でテーブルを囲んで食べるカレーライス。それは家族を連想させる光景で、私達はずっとカレーライスを食べたないねと話していて……お父様に会いたい、お父様と遊びたい、そしてお父様のご飯が食べたい。そんなささやかな私達の夢――その夢がまた1つ今日叶うのだった……。
俺を父と呼ぶアイン・ソフ・オウル達はとても素直で、そして優しい子達だった。少々甘えん坊が過ぎる気もしたが、普通の少女達だった。だがそれも当然かもしれない。どれほど長い年月を過ごしていたかは俺には分らない。だが相当な年月なのは間違いない。そんな中で姿も何も分からない俺の事を父を慕い待っていた。首輪をされている、いないは関係無しにやっと俺に会えたと喜ぶそんな少女達を無碍に扱う事は、俺には出来なかった。
「すやあ……」
「とはいえ、これは想定外なんだが」
布団を広げて4人で雑魚寝は想定外、いや、もっと言えば風呂も一緒に騒ぎ出したのは流石に困った。今回はなんとか納得させたが、その際の水着を用意すれば良いですねと満面の笑顔を浮かべていたオウルが怖い。オウルは物腰は丁寧だがめちゃくちゃに押しが強い、ソフが止めているがソフまで同意すれば押し切られてしまう。
(しかし、どうしたものか)
首に爆弾が巻かれているので自由に動けない。それにアイテムボックスも使えない。ついでに言えばどこにいるのかも分らない。俺に出来る事と言えばあのクソ自販機の無差別呪殺を防ぐ為にこの場所にとどまる事くらいだ。それにアイン達は俺のNPCを作るデータクリスタルが使われている。もしかするとそれが俺を父と認識している理由なのかもしれない。アイン達に父と呼ばれていると俺をお養父さんと呼ぶケイの事が心配になってくる。
(ケイは大丈夫だろうか……なんとか連絡出来れば良いんだが……な)
ケイの目の前で連れ去られたのでケイのメンタルが心配だし、軟禁も視野に入れるくらい俺を守ろうとしているホシノが爆発してないかが心配だ。
(とにかく出来る範囲で情報収集だな。とりあえず今日は寝よう)
逃がさないと言わんばかりに俺の服を掴んでいるアイン達がいるので抜け出す事も難しく、俺はケイやユメ、ホシノの心配をしながら目を閉じた。そして翌朝アイン達の手が俺の服から離れていたので朝食の準備をしていたのだが……。
「お父様ッ!?」
「オウル? おはよう。ずいぶんとはや……ど、どうした!?」
崩れ落ちて泣き出すオウルに俺は調理を中断してオウルに駆け寄った。
「あ、朝起きたらお父様がいなくて……夢だったのかって……お父様がいて……良かった」
良かった。夢じゃなくてよかったと繰り返し言うオウルを宥めているとドタドタと走ってくる音がして、ソフとアインも姿を見せる。
「いたあっ! 夢じゃなかった……ッ」
「よがっだあ……パパいるぅ……ッ」
ボロボロと泣き出したアイン達の姿を見て凄まじい罪悪感が込み上げて来る。
(これは参ったな……)
重度の依存なんて言葉では片付けられないほどの有様のアイン達を宥めながらどうしたものかと俺は頭を抱える。このままでは間違いなくケイやホシノ達とアイン達の戦いになる。それを何とか止めたいが、俺の首元に巻かれている首輪が不味い、説得しようにも脅されているとかしか思えないだろうし……。
(本当にどうした物か……)
泣き続けているアイン、ソフ、オウルの頭を撫でて宥めながら、この件はどうやって納めれば良いのだろうかと俺は頭を抱える。
「朝ごはん。ホットケーキで良いよな?」
なんとかこの空気を変えたくて誤魔化すように朝食のメニューを口にする。
「それで良い、それで良いですからぁ……そばにいてください」
「いかないで……お願いだから……どこにもいかないで……」
「……もうパパがいないのはやだよう……」
だが3人の返答は行かないで、そばにいて、俺がいないのは嫌だと縋るように服を掴み泣いている姿に俺は返す言葉がなく、その場に座り込んだ。離さない、離れない、行かせないと言わんばかりにしがみ付いてきたオウル達の背中をぽんぽんと叩きながら、この状況の打開策が微塵も見えない俺は深い深い溜息を吐くのだった……。
鋼鉄大陸 カワサキ奪還編 無限光天国編 その2へ続く
オバロのNPC要素とファザコン付与によって激重いアインソフオウルとなりました。一応時間軸としてはエイミ・トキ・ヒマリ・先生で氷河の捜索中なのでゲーム開発部合流前ですね。次回はこの世の天国を体感しているアイン達を書いてみようと思います