飯食え・アーカイブ   作:混沌の魔法使い

8 / 23
下拵え 宝探し/取引

下拵え 宝探し/取引 

 

朝食を終え、宝探しに出発する為にカワサキが何時ものように虚空から取り出したのはジープだった。

 

「割といいジープですね。荷台もありますし、武装がないのはいただけませんが……確か車両用の機関銃があったはずですし、それで武装しましょう」

 

「普通のジープには武装はないんだよ。ホシノ」

 

「キヴォトスでは武装しているのが当たり前なんですよ」

 

当たり前だが武装はなかったので保管されている機関銃を取り付ける。

 

「でもカワサキさん。私達がいなくて学校大丈夫ですか? いない間にヘルメット団が来るかもしれないですけど」

 

「それは大丈夫だ。この巻物を使う」

 

カワサキがそう言って取り出したのは2本の巻物だった。それを広げると学校が淡い光に包まれた。

 

「バリアですか?」

 

「似たようなもんだ。1つは「生命拒否の繭(アンティライフ・コクーン)」。これは指定されてない生物を拒絶する半径3mほどだが、それでもそれ以上は絶対に近づけない、次に「矢守りの障壁(ウォール・オブ・プロテクションフロムアローズ)」飛び道具から拠点を守るもんだ。これを展開しておけば問題ないだろう」

 

「それはいいですね。それで継続時間は?」

 

「2日は楽勝だ。後は移動用の拠点もあるから、キャンプの心配もない」

 

「なるほど、それはますますいいですね。ユメ先輩――今回は都心部のほうまで行きましょうか?」

 

本館は都心部だったので何か金目の物があるなら本館の近くはかなり期待値が高い。だが遠いのと、装備の都合で避けていたがカワサキがいるならそこまで行くのは十分ありだ。

 

「うん、それで行こうか。じゃあ私が地図を見るから「コンパス持ってます? 後地図それ古すぎませんか?」ひぃん……荷台でガンナーしてるよぉ」

 

ユメ先輩がナビゲートしては遭難する確率が高いので、ユメ先輩を荷台に乗せ、私は助手席に乗り込む。

 

「それじゃあ安全運転でよろしくお願いします」

 

「ユメとホシノが乗ってるのに危ない運転なんかするか。うっし行くぞ」

 

荷台で元気よくしゅっぱーつと笑うユメ先輩の号令でジープは都心部の方に向かって走り出した。

 

「それで宝探しと言っていたが普段はどんなものを売ってるんだ?」

 

「そうですね。廃墟の中に残されてるまだ動きそうな電化製品とか、高級寝具とかを綺麗に掃除したり」

 

「後はやっぱり銃ですね! 昔のアビドスの製品はプレミアがついてて高いんですよ」

 

私とユメ先輩の説明を聞いたカワサキはなるほどと小さく頷いた。

 

「ユメ、ホシノでもいい。車のディーラーか、キャバレーとか、ホストクラブの場所を知らないか?」

 

「車? 知ってますけど、どうするんですか? そんな物……あ」

 

「気付いたか。アイテムボックスに格納して片っ端から持ち出すぞ、それと良い酒は高い。ちまちま稼ぐよりでっかく行くぞ」

 

「じゃあまずはあの遠くの黄色い看板を目指してください。その近くにディーラーがあります」

 

「了解、ナビは任せるぞ。ホシノ」

 

カワサキのいう通り上手く行くだろうかと一抹の不安を抱きながら、私はカワサキをナビしディーラーまで案内する。

 

「それで埋まってますけどどうするんですか? っとこれは?」

 

「戦士の指輪と疲労軽減の腕輪。これで掘り進めるぞ、店内に入れば格納出来る」

 

「分りました! 頑張ろうホシノちゃん!」

 

「はぁ、分りました」

 

こんな指輪で何がと思いながらスコップを振るうと1回で地形が変わるくらい砂を掘れた。

 

「いいもんだろ?」

 

「ええ。理屈は分りませんが気に入りました」

 

もうカワサキの持ってる道具については気にしない事にして、ディーラーの入り口を目指して掘り進める。

 

「けほけほ……埃が酷いね」

 

「埃だけならいいですけど、肝心の車が……」

 

2時間ほどで店内に入れたが、肝心の車は崩落した天井などで完全に潰れていた。

 

「時間の無駄でしたね」

 

「まぁ待て、良し。これならいける修復(リペアー)。どうだ? ホシノ。これでも無駄か?」

 

「もう驚くのも疲れました」

 

廃車は数秒で新車同然の姿に戻り、虚空に吸い込まれていく姿を見て驚くよりも先に呆れてしまうのだった。

 

「わぁ! 見て見てホシノちゃん! これコレクターの間で人気で2000万は下らないって!」

 

「それをいうならこれ5000万でも取引されてますよ?」

 

「嘘!? ほんとだ……」

 

3時間弱で利息の分は確保出来た。ディーラーから回収した車は全部で8台――そのどれもが1000万を越える高級車ばかりだった。

 

「良し、これなら行けるか」

 

「何をするつもりです?」

 

「外から来た企業家を装ってカイザーを騙すのさ。相手は商売人だ、こういうのは実利で殴るに限る。そうだな、後10台は確保したい。次に行くぞ、ユメ。それが終われば利用権を探そう」

 

「了解です! 行こ! ホシノちゃん」

 

「……はい。分りました」

 

確かにカワサキは良い人だと思う。私達も助けてくれているし、知ってる大人とは違うと思う。だけど……。

 

(これだけの大金を得ても私達の味方でいてくれる保証はないんですよ、ユメ先輩)

 

金は容易く人を狂わせる。カワサキが私達の知る大人とは違うと分かっていても……どうしても心のどこかでカワサキを信じきれない私がいた。

 

「カワサキさん。なくした道具を探すものとかないんですか?」

 

「ある。道具回収(アイテム・サルベージ)ってやつだ。とりあえず試してみるか。その腕輪をつけて横のボタンを押してくれ」

 

「はい、分りました」

 

自分が嫌になるくらい私がカワサキを信じられない中。カワサキとユメ先輩がアイテムによる利用権の回収を試みて……。

 

「きゃああッ! カワサキさん! 駄目! 駄目です! こっちみないでくださいッ!!!」

 

「……分ってる。悪い、俺も想定外だった」

 

ここはユメ先輩が中学の頃に暮らしていた場所の近くだったので、砂に埋もれた家に残された私物が無くしたアイテムと判断され、空を飛んでくる昔の制服や下着を真っ赤になって回収してるユメ先輩と無罪だと言わんばかりに両手を上げて目を閉じているカワサキ。その姿は悪巧みをしているようには見えないのに、どうしても信じ切れない自分がいる。

 

(嫌な奴ですね、私)

 

「ユメ先輩。手伝います」

 

「ううーホシノちゃんお願い」

 

なんで私はこんなに性格悪いんだろうと思いながら、ユメ先輩の私物の回収を手伝い。それからは場所を変えつつ道具回収(アイテム・サルベージ)を利用して利用権の捜索を行い。

 

「あ、あったー!!! やったーッ!! あった! ありましたよ!」

 

「これで一歩前進ですね。ユメ先輩」

 

「本当だよ! 良かったーッ!」

 

昼過ぎに捜し求めていた砂漠横断鉄道の利用権を発見し、最悪キャンプを覚悟していましたが必要な物は全部集まったので学校へと帰るとすぐにカワサキは出かける準備を始める。

 

「もう行くんですか?」

 

「こういうのは早い方が良い。夕食の時間には戻る」

 

「はい、気をつけて~」

 

スーツに着替えて車に乗って出て行くカワサキをユメ先輩と揃って見送り。私とユメ先輩はカワサキが戻ってくるまで日課の校舎の掃除を始めるのでした。

 

 

「スマホの写真で査定出来ると聞いてきたんだが、車の買取は頼めるか?」

 

「はい。かしこまりました。それではスマホの確認を……は?」

 

高級車専門のカイザー・ディーラーの社員は目を丸くした。スマホに映し出されているのはかつてアビドスで販売されていた高級車ばかり……コレクターからの人気も高くオークション形式ならば買取額の何倍もの利益を得れるであろう宝の山。

 

「外から来たんだが、カイザーグループなら信用出来ると聞いてきたんだが、もしかして高額すぎて買い取り拒否か……?」

 

「し、失礼しました! こちらへどうぞ」

 

超がつく上客を緊張した面持ちで店の奥へ案内しようとするロボット社員にカワサキはにやりと笑い、ロボット社員の後を追って店の奥へと足を向けた。

 

「画像での査定ですのでこのくらいで……状態が良ければもう1度査定しなおします」

 

「それは助かる。実は最近キヴォトスに来てな、商売を始めようと思ってコレクションを手放すことにしたんだ」

 

「商売ですか、どのような?」

 

「特にまだ決めてはないんだが、まずは元手、それと土地が欲しいと思ってる。そういえばカイザーグループは土地の売買もしてるそうだな?」

 

「はい。私共は手広く会社を経営しておりますので」

 

「なるほど、土地の売買でも世話になるかもしれないな。まぁまずは車の取引からだな、近くにガレージを借りてる。今から査定してくれるか?」

 

「勿論ですとも、では参りましょうか」

 

「悪いな、手間を掛けさせる」

 

「いえいえ、お客様は神様ですから」

 

 

「では車8台で2億4400万クレジットでお買取させていただきますが……大変申し訳ありませんがクレジットの引渡しは後日になりますがよろしいでしょうか?」

 

「それで構わない、あと15台ほどあるんだが、そっちも査定して貰おうかな。思ったよりも高額だったから他の車もこっちで買い取ってもらおうと思う。いや、やはり取引先をカイザーグループにしたのは正解だった。セイント・ネフティスよりこっちがいいと聞いたが正解だった」

 

「じゅ、じゅうごッ!? お、お客様。暫くお待ちください、上司に相談してまいりますので、君! このお方を応接間まで案内してくれ!」

 

「は、はい! こちらへどうぞ」

 

「ああ。よろしく頼む」

 

完全に主導権をとったカワサキはこれでカイザーも自分を無視出来なくなったと確信し、カイザーを利用し、アビドスを復興する為にカワサキは無意識に1度は捨てたはずの富裕層の川崎としての仮面を無意識に被るのだった……。

 

 

 

 

カイザーからの反応は思ったよりも早かった。ユメとホシノに夕飯を食わせて、帰宅する2人を見送った後にアビドスの記録を調べていると連絡があり、明日クレジットの引渡しを行ないたいという旨の電話があったが、引渡し場所はカイザーディーラーではなく、カイザーPMCで落ち合うことになった。当然ながら敵の本拠地な訳だが、俺とユメとホシノの繋がりは分っていない筈だ。

 

(認識阻害とフェイクは発動してる。問題はない)

 

自分を誤認させるアイテムは両方機能している。だからばれる事はないと堂々とカイザーPMCに足を踏み入れる。

 

「良く来てくれた。昨日はとても良い取引をさせて貰って私としても嬉しいよ。私はカイザーPMCの理事だ。よろしく頼むよ」

 

すぐに最上階の応接間へと案内され、そこで俺を待っていたのはスーツ姿の大柄なロボットだった。シルバーのマスクに4つのスリットとマフラーと趣味の悪い黒いスーツのロボットはカイザーPMC理事と名乗り、右手を差し出してきたのでその手を握り返す。

 

「カワサキだ。俺としても良い取引が出来て感謝してる」

 

「これが代金だ。2億4400万クレジット確認してくれ、残りの15台は現在査定中なのでもう少し待ってくれ」

 

「構わない、そうぽんっと出せる額じゃないのは分かってるからな。まずは先に査定して貰った分で十分だ」

 

そう言って差し出されたアタッシュケースを開く。見た所問題は無いのを確認してから持って来たアタッシュケースに2400万を移し、アタッシュケースを閉じて足元に置いた。

 

「それだけで良いのかね?」

 

「残りはすぐあんたの懐に戻るんだ。未練がましく数えるのはしょうじゃない」

 

俺の言葉に理事は小さく喉を鳴らし、俺を4つの目で見据えた後に机の上に様々な土地のパンフレットをおくが、当然ながらその中にアビドスの物はなかった。売りたくないのか、それとも金にならないから省いたのか、はたまた両方か……今確実なのはカイザーがアビドスの土地を売るつもりはないという事。

 

「確かに時間の無駄だな。ではここからはビジネスの話だ。部下に聞いたのだが土地を欲しているそうだな? 勿論我々カイザーグループは不動産もやっている。ミレニアム、トリニテイ、ゲヘナにレッドウィンター、少々物価は高くなるが山海経にも土地を所有している。良い取引をさせてもらった礼だ。こちらとしても勉強をさせてもらおう」

 

「ではアビドスの土地が欲しい」

 

「何?」

 

「アビドスの土地が欲しいんだ。アビドスの土地は安い、態々高い土地を買うのは無駄だからな」

 

さてどう出てくると理事を見つめると理事はふむっと頷いた。

 

「確かにアビドスの土地は安い。だが利便性はなく、砂嵐が酷い。勿論売るのを拒否しているわけではないぞ? だがもっと良い土地を買えば良いだろう?」

 

「周りにあれやこれやと考えるのは面倒でな。ほぼ廃墟なら気を使う必要もない。好きに開拓も出来るだろう?」

 

「カワサキは外から来たのだろう? 君が思う以上に砂嵐は激しいぞ? 悪い事は言わん、止めておけ」

 

善意か、それとも何かの目的か止めておけという理事の言葉に俺は首を左右に振った。

 

「最初からそれを知って俺はアビドスに来た。ゲヘナやトリニティで他の会社に睨まれながら事業をするのは好きじゃない。アビドスなら俺に口を挟んでくるとしたらカイザーグループくらいだろ? なんせアビドス自治区はもうないんだからな」

 

その言葉に理事の肩がピクリと動いた。そして喜びの反応が混じる、それは同じ穴の狢とでも言いたげな反応だった。

 

「ゲヘナは論外。雷帝は勿論そうだが、万魔殿に頭を下げるのは面倒だし、なによりあの治安の悪さで起業なんて冗談じゃない。トリニティは最悪だ。見た目は華やかでも陰湿で、ティーパーティや、救護騎士団、シスターフッドの権力闘争に巻き込まれるのはうんざりだ。ミレニアムは悪くはないが、お堅いセミナーが絶対に口を挟んでくると考えれば面倒なことこの上ない。余所者を嫌う山海経は論外中の論外だ、あんな所で起業するのは罰ゲーム以外の何でもない。雪だらけで校舎付近レッドウィンターは商売がまず成立しない。その点アビドスならば現在土地の9割を所有しているカイザーと折り合いさえつけば自由に動ける。ここが最適だと俺は考えている」

 

付け焼き刃だが、キヴォトスの地域の特徴は頭に叩き込んで来た。だからこそ最もな理由を口にする事が出来る。

 

「確かに私達が土地を売ればお前が自由に出来るだろう。だがたった2人だがアビドス生徒会が邪魔をしてくる」

 

「2人なんてどうとでも出来るだろう? 子供を騙すのは簡単だ。あんただってそうして来た違うか?」

 

俺と理事の間に沈黙が落ちる。商売人として考えているのだろう、だから俺は更に札を切る。

 

「良い部屋だ。調度品にも拘っているのが良く分る」

 

「急にどうした?」

 

「だが床下と天井、それとあのカイザーグループのロゴの下はいただけんな。脱税ならばもっと上手くやるべきだ」

 

「……何のことだ?」

 

「その間がなによりも雄弁だろ? ちょいと俺は特殊な能力があってな。宝探しは得意なんだ……アビドスの土地をくれればあんた達が探してる物の場所を探してやってもいい」

 

これは半分ハッタリだが、理事長室に隠し金庫があるのは間違いない。そしてカイザーがアビドスの土地を探しているのは何かが砂漠に埋まっていて、それを欲していると俺は踏んだ。だからとレジャーサーチのスキルを実際に使って見せたのだ。

 

「……良いだろう。お前が本当に私達の探し物を見つけてくれるというのならば土地は譲ろう。見つけるのが先だ」

 

「おいおいおい。その後に約束を反故にされちゃあ困る。そっちが先に俺に土地を売る、全てはその後だ。俺はあんたに恩を売った筈だ。確かに2億はあんた達が出した。だがオークションに出せばその倍、いや5倍は取り返せるはずだ。これだけ先払いしてるのに何が不満だ?カイザーPMC理事」

 

俺と理事の間に嫌な沈黙が広がり、睨みつけているであろう理事の視線を真っ向からにらみ返していると理事が折れた。

 

「確かにそうだな。分った土地を売ろう。どこからどこまでだ」

 

「アビドス砂漠を除く全てだ。あと2億じゃ足りないだろうから、これも渡す。好きに使ってくれ」

 

アビドス高等学校とまだ人が住んでいる地域と駅などの近くの土地、そして砂嵐が酷い地域を指差した後にアイテムボックスから取り出しておいた、500円玉サイズのダイヤも3個追加する。

 

「売る予定だった車も15台全部。そちらに譲渡しよう、それでアビドスの土地を売ってくれ」

 

これで単純計算で20億は確実だ。カイザーグループの力を使えば車はもっと高額で売れるだろうから相場の倍以上の値段になっているのは間違いない。

 

「な、な……正気か!? 相場の倍近く上の値段を出すような土地ではないぞッ!?」

 

「正気も正気だとも、それともこれでもまだ足りないか? カイザー理事」

 

軽く試算しても1億に迫るダイヤが3つ。それとオークションに掛ければ1億近い値段がつくであろう車が15台。今俺が出せる札を全て切った。これには理事もその顔色を変えた。これだけあれば何が出来るか、そしてカイザーグループに貢献した事で自分の地位が上がることを確信したのだろう、売りたくは無いが、売らざるを得ないという反応を見せながら頷いた。

 

「ッ!? 分った。その範囲を売るが、砂嵐の被害が出たと文句を言われても知らんぞ」

 

「自分で指定して文句を言う訳ないだろう? これで土地に関しては交渉成立だな。あんた達の探し物については別途で契約書を作らせて貰うぞ」

 

「何の契約書だ?」

 

「分ってるだろ? あんた達が探してる宝物が兵器だったとして、それをこっちに向けられたら叶わん。それについての取り決めだ」

 

「……分った。今部下を呼ぼう」

 

「そうしてくれ、何損はさせないさ。損はな」

 

カイザーに商売上は損はさせない。だが商売以外は俺の知ったことじゃないがなと内心笑い、不可侵の契約書、それと土地の権利書を手にカイザーのビルを後にする。

 

「キヴォトスではこれが普通なのか、それともカイザーが異常なのか……まぁいいがな」

 

数ヶ月はかかると思っていたが、夕方まで掛かりはしたがその日の内に土地の売買の手続きが終わった事に驚きながら振り返る。

 

「じゃあまた良い取引をしようか、カイザー理事?」

 

指を鳴らし転移門を発動させ、俺はその黒い渦の中に飲み込まれるようにしてカイザーPMCのビルを後にした……。

 

「黒い渦の中に消えた……か、ご苦労。それで黒服、あの男はお前達ゲマトリアなのか?」

 

「いえ、残念ながら彼には振られてしまいましてね。彼はゲマトリアではないですが、私達以上にゲマトリアの人間と言えるでしょう」

 

「あの男を見ればお前がらみだと思ったのだが、まぁ良い。土地は売ったがヘルメット団でも使って手放すように仕向けてやればいい、それよりもだ。あの男が船の場所を探せるそうだ。お前達にも手伝ってもらうぞ」

 

「クックック。勿論ですとも」

 

カワサキがカイザー理事を利用しようとしたように、カイザー理事もまた即座に黒服と共に次の一手を打っていた。

 

「所でその首のコルセットはどうした?」

 

「勧誘に失敗して強烈なラリアットを叩き込まれましてね。ムチ打ちなのですよ」

 

「それはご愁傷様だな」

 

「ええ、全くですよ。クックック……」

 

なお黒服の首にはガッチリとコルセットが巻かれており、どこか締まらないのだった……。

 

 

 

 

カワサキさんは夕暮れに帰ってこず、私とホシノちゃんは食べなれた栄養バーを食べていた。

 

「美味しくないね」

 

「……ですね」

 

カワサキさんのご飯に慣れたからか、この栄養バーも思ったよりも入っていかずもそもそと半分ほど食べた所で袋の中に戻した。

 

「ユメ先輩は不安じゃないですか?」

 

「え? 何が?」

 

「だってお金が入ればカワサキがアビドスにいる理由はないじゃないですか。このまま別の所にいっちゃうんじゃないかって」

 

確かにその可能性はあると思う。いや普通に考えればそう考えるのが普通だけど……。

 

「大丈夫だよ。カワサキさんは帰ってくるよ」

 

正直に言えば私も不安だ。だけどそれでも私達の為に骨身を折ってくれているカワサキさんを信じたかった。

 

「ただいま」

 

夕暮れを見つめながら不安に思っているとカワサキさんの声が聞こえて振り返る。スーツ姿のカワサキさんはネクタイを解きながら疲れたとぼやいていた。

 

「おかえりなさい、大丈夫でしたか?」

 

「おう。大丈夫だった。全部とはいかんが最低限必要な達は確保した。後はこれをユメに譲渡すれば土地はユメ達アビドスの物……だが」

 

だがと付け加えたカワサキさんに不安そうに揺れていたホシノちゃんの目が見開かれた。

 

「俺もそれ相応に骨を折ったからな。流石に無償で譲るわけには行かないな」

 

「「え?」」

 

思わず私とホシノちゃんの声が重なる。カワサキさんの顔は何時もの笑顔と違って無表情でその顔が不安を煽る。

 

「まずは駅の回りと住宅街、それとアビドスの校舎の回り。〆て2億2000万と500円玉サイズのダイヤが3つ、それに車も全部手放す必要があったからな。これを譲るとして……ユメとホシノにも何かしてもらわないとな」

 

声が出ない、裏切られた? カワサキさんも私達を苦しめた大人と一緒だったのかと、今まで優しかったのは嘘なのかと目の前が揺らぐ。ギリッと奥歯を噛み締める音がホシノちゃんの方から聞こえ、ホルスターに手を伸ばすのが見えた。

 

「クランアイテムの設置とカイザーとの交渉の代理と、アビドス復興の草案と土地代。後は俺を雇用する費用で……そうだな。用務員の部屋を掃除の手伝いでちょうどだな、土地の権利書をやるから掃除手伝うか、もうちょっとまともな家を教えてくれよ。流石にあそこじゃ寝泊り無理だし」

 

「「へ?」」

 

無表情を一転させて悪戯っぽく笑うカワサキさんにホシノちゃんと一緒に間抜けな声が出た。

 

「だから掃除の手伝いだよ。別にあそこの小屋に拘ってるわけじゃないが、俺がいつかないようにだとしてもあの小屋は酷いだろうよ、ホシノ。いくら俺を信用してないとしてもあれはあんまりだ。ありゃ人の住む家じゃない」

 

「な、何を……だって全然つりあわないじゃないですか!? さっきまでの設置とか、交渉の代理とかの話はなんだったんですか!?」

 

ホルスターの銃に伸ばしかけていた手をカワサキさんに向け、怒鳴るホシノちゃんにカワサキさんは悪戯成功と言わんばかりに笑っていた。

 

「俺にとってはユメとホシノが掃除を手伝ってくれれば十分吊りあうんだよ。華の女子高生が手伝ってくれるんだぞ? 俺としては現金よりもそっちの方が価値があるな、人によって物の価値は違うんだよホシノ。俺にとっては2人が手伝って俺の住む所を整えてくれるならそれはどんな大金より価値があるんだよ」

 

何を言ってるのか分らない、だけどカワサキさんのからかうような口調に笑ってしまった。

 

「高い、めちゃくちゃ高いじゃないですか!」

 

「だろ? 高すぎてユメとホシノしか買えないんだよ。この権利は、それでどうだ? 買うか? 買わないか?」

 

ただの悪ふざけ、カワサキさんのお遊びにだったのだ。私とホシノちゃんじゃないと買えないのだと悪戯っぽく笑った。

 

「高い、高すぎるじゃないですか……そんな……そんなの」

 

やっぱりカワサキさんは私達の知る大人じゃない、優しくて、どこか子供っぽくて、でも私達を助けてくれる大人だった。

 

「なら止めとくか? なんだったら準備が出来るまで契約を保留でもいいぞ」

 

「いえ、買いますッ! アビドス生徒会の梔子ユメが貴方の土地を買いますッ!」

 

「売った!」

 

これはただの遊び。だけど遊びじゃない、私達が一歩前に進んだ証拠であり、何よりもカワサキさんが本当に私達の味方だと確信出来るやり取りだった。

 

「さ、さっきのはなんだったんですか!? 何がしたかったんですか!?」

 

「ん? なんだ。騙されたとでも思ったか? 悪い大人ならそうしただろうが、俺は悪い大人ではないからな。ちょっとした悪ふざけだ」

 

「悪ふざけの趣味が悪いです!」

 

「はははは。悪い悪い。さて、不安にさせたわけだし、今から飯でも作るかね。それで許してもらえると俺としてもありがたいんだが?」

 

力なく、ぽこぽことカワサキさんを叩いているホシノちゃんと、そんなホシノちゃんに悪いと笑いながら料理を作ろうかというカワサキさんに待ったと声を掛ける。

 

「いや、今日はご飯を食べに行きましょう! 一歩進んだ記念です! 柴大将の所でラーメンです!」

 

カワサキさんも疲れているだろうし、それに私達の味方をしてくれていた柴大将にもこの喜びを分け合いたいと思い。柴関ラーメンに行こうとカワサキさんとホシノちゃんに提案するのだった。

 

「ラーメンか。良いな、俺はラーメン好きだぞ」

 

「そうですね、久しぶりに顔を出すのもいいですね」

 

カワサキさんもホシノちゃんも了承してくれたので早速柴関ラーメンに行く準備を始める。だけどその前に……。

 

「カワサキさんは私達の味方ですよね? さっきのは嘘っぱちの演技ですよね?」

 

分ってる。あれが悪ふざけって分ってる……だけどカワサキさんの口から違うって言う言葉が欲しかった。

 

「悪い大人の見本だよ、俺は悪い大人じゃないが、悪い大人は山ほどいるんだ。騙されないようにって言う教訓だな……だがまぁ不安にさせたのは俺が悪かったな。すまん」

 

カワサキさんは自分の非を認め、頭を下げて謝ってくれた。言い訳するでもなく、勘違いしたと私達に非があるというでも無く、本当に私達に寄り添おうとしてくれているのだと分かった。

 

「だから約束する。ユメとホシノが俺が必要ないっていうまでは俺はお前達の味方だ。絶対に裏切らない」

 

「分りました。ホシノちゃん、私は許そうと思うけど……ホシノちゃんは?」

 

「私もいいです。でも裏切ったら許しませんから……」

 

ギロリと音が聞こえてきそうな顔で睨むホシノちゃん。その威圧感にカワサキさんは両手を上に上げ降参の意を示す。

 

「それじゃあこれで仲直りってことで、じゃあ柴大将の所に行きましょう!」

 

今日はアビドス復興の為の大きな第1歩。その一歩を私達は今日踏み出す事が出来たのだった……。

 

 

メニュー4 柴関ラーメン へ続く

 

 




今回は原作と異なり、土地を確保する話となりました。まずクランアイテムの為に土地がないと駄目ですからね。後土地売買に関しては私の知識がないのでふわっとしているのはお許しください。そして次回は柴大将を出してみようと思いますので、次回の更新もどうかよろしくお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。