マジックザギャザリング:多元宇宙の守り手   作:ナタタク

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第6話 pause

白鷺市、午後4:47。

秋の夕暮れが街をオレンジ色に染める中、pauseは静かに営業中だった。

天音はカウンターで注文をさばきながら、ふと息をつく。

「慧ちゃん、最近は遅く帰るけど、カフェの手伝いくらいは頼みたいわね」

慧はデッキケースをポケットに忍ばせつつ、テーブルを拭きながら苦笑い。

「ごめん、姉さん。ちょっと用事があって…。今日くらいは手伝うよ」

今日は茜が部活でバイトに参加できず、もう1人いるアルバイトも今日は歯医者のため、手伝えるのは慧だけだ。

念のためにカードケースとスマホは懐に入れている状態だ。

「どんな用事なの?」

「そういうのじゃないよ、ただ…友達に呼ばれることが最近多くてさ」

苦し紛れな言い訳だ、テーブルを拭く慧は我ながらそう思わずにはいられない。

友人といっても、学校にはそんなにおらず、遊びに誘うような友人と言えば茜くらいだ。

怪しまれているなという感じがあり、別の言い訳を考えようとする中、店のドアが勢いよく開き、騒がしい笑い声が響く。

入ってきたのは、派手な服を着た若者3人組。スマホを手に持ち、カメラを回しながら大声で喋っている。

「はーい、みなさーん、こんにちはー!今回うかがうのはこのカフェpauseでーす」

「人少ないでーす!そして、ここにひょろい奴と…すっごい美人なお姉さんがいまーす!」

リーダー格の男が慧を指差して笑い、天音の方にカメラを向けながら近づく。

「ねえ、お姉さん! ウチらが店で動画撮ってもいい? バズったら宣伝してあげるよ!」

天音は眉をひそめ、毅然と応じる。

「申し訳ありませんが、撮影はご遠慮ください。お客様が不快になる可能性があります」

「えー、堅いねえ! じゃあ、これ飲むわ!」

男はカウンターに置いてあったコーヒーカップを勝手に手に取り、一口飲む。残りの2人も店内を歩き回り、椅子を引っ張ったり、飾られた観葉植物を揺らしたりと好き勝手始める。

店内にいた数少ない客が困惑した表情で席を立ち、早々に退店。

天音は我慢の限界に達し、声を張る。

「もうやめてください! これは商売です、出て行って頂戴!」

「ははっ、怒る顔もいいネタだね! 最高のリアクションゲットだぜ!」

男はスマホを天音に突きつけ、笑いものにするように撮影を続ける。

「へえー、近くで見ると色っぽい、ねえねえお姉さんっていくつ?」

「やめて…」

「ウブな感じいいねーこれは…」

「やめて、ください!!」

慧の大声によって、店内が静まりかえる。

そして、撮影者たちの目が天音から慧に向けられる。

明らかに不快な表情を見せる彼らに動揺をしながら、慧が声を振り絞る。

「やめてください。姉さんに迷惑かけてるのは分かりますよね? 出ていってください」

男のリーダーがニヤリと笑い、慧に近づく。

「お前、生意気だな。ガキが何だよ、黙って見てろって」

慧は一瞬たじろぐが、ポケットのデッキケースに触れ、力を得るように深呼吸する。

「姉さんが困ってるのに、黙ってられない。…お願いだから、出てってください。」

もう一人の男が椅子をバンと叩き、威圧的に言う。

「何!? 店員だろうが、客に文句言える立場かよ!」

天音がカウンターから飛び出し、慧を庇うように立つ。

「慧ちゃんは関係ない! 私が店長としてお願いします。もう帰ってください!」

リーダーが天音の肩に手を置き、カメラを再び回す。

「ほら、感動のシーンだぜ! 美人店長と弟の絆、最高のネタじゃん!」

店内が再び騒然とする中、慧の心臓が早鐘を打つ。

そんな中、カウンターに置かれている天音のスマホが鳴り始める。

鳴り続けるスマホに彼らの注意が向く中、あけっぱなしのドアから人の声が聞こえてくる。

いつもとは違うざわつきの中、撮影者のリーダー格の男が舌打ちをする。

「いくぞ、お前ら!」

リーダーの後に続いて2人も店の出口へ向かう。

途中、リーダーの男が慧と天音を睨みつけたが、何も言わずに去っていった。

慧は肩で息をしながら、天音に近づく。

「姉さん、大丈夫?」

「うん…危なかったわね」

天音はスマホを見ると、着信は食材の仕入れ先のものだった。

 

「そんなことがあったんですね、天音さん、大丈夫でしたか?」

「ええ…私も弟も、大丈夫です。心配してくれてありがとうございます、東山さん」

カウンター席で天音の出したコーヒーを飲む青いジャケットと白いシャツとズボンで30代前半くらいのこの男性は常連客の一人である東山琢磨。

メガネをかけた優男の彼は白鷺市の警察官で、週に何回もここに通うが目的はMTGではなく、天音なのは天音以外全員がわかっていることだ。

何度もアプローチをかけているが、これまで一度も成功しておらず、それでもあきらめずにこうして通い詰めている。

彼にサービスの焼き立てパンを出す慧も、もうあきらめればいいのにと思っているのと同時に、あきらめずに何度もたちあがる様子にちょっとだけ好感を抱いている。

「もしかしてですが、そいつって金髪で赤い派手なジャケットをした男がリーダー…ではないですか?」

「そんな感じでしたけど…東山さん、知ってるんですか?」

「ええ、最近この町でよく報告されている…いわゆる迷惑系というやつですよ」

動画投稿サイトが生まれてから存在するといわれる迷惑系の動画投稿者。

非常識な行為や犯罪まがいな行動を行って再生数を稼ごうとする人間はいつまでたっても、対策を行ったとしても必ず存在する。

黎明期と比較すると現在はだいぶ落ち着いているようには見えるが、それでもまだまだいるということを慧達も先ほどの出来事で経験済みだ。

「でも、どうしてそんなことをしてまで…動画を作りたいんでしょうか?よく、わからないです」

「まぁ…それをもてはやすような連中もいるということさ。また連中が来るかもしれない。念のために、俺も当分この店で警戒しておきますよ」

「ありがとうございます、東山さんがいてくれたら、安心します」

「いえいえ、ハハ…」

「あ、慧ちゃん。食器を洗ってきてくれるかしら?」

「わかったよ、姉ちゃん」

厨房に入り、食器を洗いながら慧は先ほどの金髪の男のことを思い出す。

(あの人…どこかで見たことがあるような、ないような…)

 

「あなたから受け取った情報、そして現在こちらが把握している今のこの世界の状況…あなたのいう女性がこの世界にいることは間違いありません」

「そうか…」

船長室でタブレット端末を操作しながら情報整理をする船長の言葉を壁にもたれ、腕を組んだ状態のディリータが静かに聞く。

タブレットに表示されているのはファイレクシアンと思われるクリーチャーと行動を共にしている女性の姿。

目がうつろになっているが、その女性の姿をディリータが見間違うはずがなかった。

「既に奴らの手に落ちているのは間違いありません。あなたの言葉が正しければ、まだ奴らの手に落ちてから時間は経っていないでしょう」

「一つ、気になることがある。オーランのこともそうだが、なぜ奴らはオーラン…そして、オヴェリアを狙う?」

「…ファイレクシアとはどういうものか…それは、あなたはどこまでご存じでしょうか?」

何か含みのある質問返し。

それに対してディリータは口を開かなかった。

「外見的な統一性は何一つ一致しないファイレクシアですが、一つだけ共通しているのは血の代わりにファイレクシアの油が流れていること、そして寿命という概念がないことです。それ故に自らの力で増やすことができない。他者をファイレクシアン化しなければ、増えることができないのです」

「それで俺たちを狙うとしても、魂だけだ。このプリマビスタにいるときも、この肉体は仮初。手にしたとしても、意味がないはずだ」

「もしくは、魂だけでもいいということでしょう。肉体はあくまでも入れ物、と考えればの話ですが…」

「…そのようなことはありえるのか?」

「ありえないことは、ありえない。実際にあなたの親友も、似たようなことを知っているはずです」

「…ルカヴィか」

ドラクロワ枢機卿やウィーグラフ、エルムドア侯爵、ダイスダーグ、ヴォルマルフ。

いずれもルカヴィに乗っ取られ、ラムザによって討ち取られた者たちで、彼らの顛末はラムザとオーランから聞いている。

彼らは聖石の力で異世界からルカヴィの魂を宿し、彼らによって肉体を作り替えられて異形の悪魔の姿となった。

船長の言うことに違いがあるとしたら、憑依した肉体にまだ生きている魂が存在することと、ルカヴィの魂と一体化していることだろう。

皆、ルカヴィ化した上で己の人格を強く残しており、それぞれ人間からルカヴィとなった理由やルカヴィ化して尚、その力で成したいと思っている人間時代から抱いていた野望を口にしていたという。

最も長くルカヴィに乗っ取られていたヴォルマルフですら。

「ファイレクシアンが魂なき肉体を一から生み出すということは聞いたことがありません。最も、ファイレクシアンになった時点で、既に魂はないと言ってもいい」

「魂がない…?なぜ、そう断言できる」

「魂がない存在が灯をともすことはない。ファイレクシアンはプレインズウォーカーになれず、自力で次元を超えることができない…不完全な生命体です」

ヨーグモスを崇め讃えるファイレクシアの臣民へと生まれ変わった時点で彼の操り人形となり、魂が死んだという表現が正しいかもしれない。

だが、もし彼らが魂を手に入れたとしたらどうなるか?

それがどんな結果を生むのかは船長もはっきりとは言えない。

だが、自力で次元を超えられない彼らがこうして白鷺市に現れているということは、裏には必ず何かがある。

オーランやオヴェリアといった魂を集める理由も。

「…邪魔をしたな」

これ以上は聞くことがなくなったディリータが出入り口へ向かい、ドアが開くと出る前に口を開く。

「船長…貴様は何を隠している?」

「何を、といいますと?」

「お前を見ていると、無性に腹が立つ」

そう言い残して部屋を出るディリータを見送った船長はタブレット端末を机において背もたれに身を任せる。

「ふふふ…英雄王といわれても、まだまだ青い、ということですか」

 

翌日のpause。

午前10時頃に子供や大人が数多く店内に集まっていた。

「皆さん、お待たせいたしました。これから毎週恒例のMTG大会をはじめまーす」

「「オオオオオ!!」」

pauseで毎週日曜日に開催されるこの大会は小規模ではあるが、大人も子供もみんなが集まってMTGをプレイできることから細々と行っている。

ただ、今回違いがあるとすれば、参加者の中に東山の姿もあることだ。

今の彼はラフな私服姿だ。

「すみません、東山さん。せっかくのお休みなのに…」

「やりたいからやっているだけさ、慧君。それに…これ以上、迷惑行為をして罪を重ねさせる前に、やり直させてやらないとな」

「おいおいおいおい、何ポイント稼ぎをしようとしてるんですかぁ?駅前交番の東山巡査ー」

扉が開き、入ってきた男に東山はウワァ、と嫌な表情を浮かべる。

メガネをかけ、はねた髪にエスニックな服装をした青年、西野浩平。

彼もまた、pauseの常連客であり、東山のライバルだ。

「西野さん、いらっしゃい、ませ…」

「やぁ、慧君。今日も来たよー!まぁ、デッキは持っていないけど」

「持ってないなら帰れよー、今日は大事な日なんだからよ!」

「嫌なこった!ここはMTGを遊んでいても遊んでなくても、誰でもOKだろー!」

東山の言う通り、西野はMTGを遊んだことがない。

一応、ルールは一通りわかっているということで、たまに毎週の大会では天音に頼まれて審判をすることもある。

無償で引き受けてくれる彼だが、目的が天音だということは天音以外誰もが知っていることだ。

なお、天音の誕生日には2人は彼女のためにプレゼントも用意して贈っている。

最も、2人以外にも彼女にのぼせる常連客は多く、手渡すというよりも席に置いて帰る形で渡しているというべきだろう。

結果としてそれらは天音からはプレゼントと認識されておらず、忘れ物と思われている始末だ。

それでもあきらめずにアタックをかける常連客はさすがというべきだろう。

なお、どうでもいい話ではあるが、慧と茜のいる白鷺高校にも、天音のファンが存在する。

慧に友人が少ない理由にはそれも含まれており、天音への窓口にされかねないと思い、彼自身あまりそういう彼女に熱を上げる生徒との接触を避けている。

「今日は茜も参加するんだね」

「もちろんよ!せっかくデッキがいい感じだし!」

「慧ちゃんはいいの?今日はバイトの人も来てるから、参加しても大丈夫よ?」

「僕は外を見て回るから…また今度で」

店を出て、フゥと息を整えた慧はひとまず、あの金髪の男たちがやってこないか警戒することにした。

そんな中、小学生くらいの子供たちが店に入らずに窓から中の様子を見ている姿があった。

3人組の男の子たちで、いつも大会に来る常連の子供たちで、慧とも顔見知りだ。

いつもなら店に入って参加するはずだが、今日はいつもと様子が違う。

窓際で縮こまり、怯えたような表情で中を覗いている。

「どうしたの? みんな、今日は参加しないの?」

慧が外に出て声をかけると、子供たちはびくっと肩を震わせ、互いに顔を見合わせる。

「慧兄ちゃん…」

慧の名前を呼んだ少年は不安げな表情を浮かべつつ、首を縦に振る。

「どうして…?先週来たときはとても…」

「なぁ、兄ちゃんになら、話していいんじゃないか?気にする人じゃないから…」

「気にする…?」

「兄ちゃん、これを…」

少年の仲間がスマホを出して、慧にある動画を見せる。

その動画を見た慧は表情を固める。

「これって…!」

公園でいきなり始まった動画、そこにはあの金髪の男が少年にゲームを強要し、何度も勝利してはもう1度やれと繰り返し続けるもので、男は少年に勝利するたびにあざ笑っていた。

丁寧なことに、どういう負け方かの解説まで入れる徹底ぶりだ。

「動画撮られて、弱虫、雑魚って言われて…でも、何もできなくて…」

「…つらい思いを、したんだね」

泣き出しそうになった少年の頭を慧は優しくなでる。

我慢できなくなるのを必死に耐えながら、少年は鼻をすする。

「そ、それで…昨日、見たんだ!あいつが…今度は、pauseをめちゃくちゃにするって!」

「めちゃくちゃに…それって!」

この時、慧は大きなミスをしていた。

外で見張りをするためにここにいたのに、彼らをあやすことに集中してしまい、その間に男たちが入ってしまっていた。

 

「よし…《エドガー・マルコフ》で攻撃!」

「ああ、ちくしょう!負けたぁ…」

「ハハハ、楽勝だぁ!」

敗北した高校生が席を外し、勝利した東山が笑いながらデッキをシャッフルする。

その様子を見る茜の目がジトッとしていた。

「東山さん、目的分かってるの?」

「こりゃ…もうゲームに夢中だなぁ、東山のアホは」

「アホって…西野さん、さすがに…」

大会が佳境に入る中、pauseの裏口が静かに開いた。

スニーカー音を忍ばせながら、派手な黒いフード付きパーカーを着た若者が2人の仲間とともに忍び込む。

顔はフードで隠れているが、時折見える金のネックレスが光を反射する。

この男は、先日の迷惑系動画投稿者の一味で、大会を荒らす計画を立てていた。ポケットからデッキケースを取り出し、ニヤリと笑う。

「あいつのデッキ、完璧に読んでやったぜ。アンチデッキでボコボコにしてやれ…」

仲間の男がうなずき、観客の隙間を縫うように進み、参加者の席に潜り込む。

東山の次の対戦相手として名を連ね、静かに席に着く。

東山は対戦相手の登場に気づかず、勝利の余韻に浸っていた。

「次は誰だ? やる気ある奴、来いよ!」

仲間の男がゆっくりと立ち上がり、デッキをテーブルに置く。

「俺が相手だよ、巡査さん。覚悟しな」

(巡査…だと?)

東山は一瞬怪訝な顔をするが、ゲームを楽しむ姿勢を崩さずデッキをシャッフル開始。

「へえ、自信ありそうだな。来いよ!」

ゲームが始まり、フードの男は驚異的なスピードで手札を展開。東山の《エドガー・マルコフ》をはじめとした吸血鬼デッキを狙ったカウンターと除去の連鎖で、盤面を掌握していく。

「何!? こいつ、俺のデッキの癖読んでる…!」

観客がざわつき、茜が目を細める。

「何かおかしい…東山さん、負けてる?」

西野も首をかしげ、審判として近づく。

「ちょっと待て、このデッキ…明らかに東山対策だぞ。どういうことだ?」

仲間の男は無言でカードをプレイし続け、東山のライフを0に追い込む。

「くっそ…こいつは…!」

「ゲームセット。弱いね、巡査さん」

東山が敗北を喫した瞬間、観客の集まりの中で一層の騒ぎが響き渡る。

金髪に赤い派手なジャケットを羽織った男—先日のリーダー格—が乱入してきた。

手に持ったスマホを高く掲げ、カメラを回しながら大声で叫ぶ。

「よっしゃー! みなさーん、待たせたな! 今回はカフェのMTG大会をぶち壊しに来たぜ! 再生数100万超え確定だ!」

店内にいた参加者や観客が一斉に振り返り、ざわめきが広がる。

天音がカウンターから飛び出し、店に戻ってきた慧と共に男に近づく。

「またあなた! ここで何をする気!?」

「何ってさ、美人店長! お前の店を有名にしてやるんだよ! ほら、さっきのフード男、俺の仲間だ。東山巡査をボコったの見ただろ?」

フードの男がニヤリと笑い、仲間と共に観客の間を歩き回り始める。リーダーがスマホを天音に突きつけ、煽る。

「さてと、誰か俺とゲームして勝負だ! もしかして、今回の大会って、あのおっさんが最強ってことは、俺たちが最強か?アハハハハハ!!」

「くそ…すまねえ、天音さん」

「おっと、うまそうなホットケーキ!いただきまーす!」

さっそく我が物顔で男たちが勝手にほかの客の料理を食べたり、観客やほかの参加者たちからカードを奪うなどの行動に出始める。

「やめろ、お前ら!警察がいるのを分かったうえでやっているのか!!」

ゲームで負けたとはいえ、それでも東山は警察として彼らを止めないわけにはいかない。

そこで、男はニヤリと撮影を止めずにしゃべり始める。

「あー、皆さん。この巡査さん。言いがかりをつけて俺たちの撮影を妨害しようとしています!公の権力が自由を侵害する!これは許される行為でしょうかぁ!!」

「公の権力が自由を侵害? ふざけんな! お前らの行動が問題なんだよ!」

東山が一歩踏み出そうとした瞬間、観客の一人が立ち上がり、男に抗議する。

「やめろよ! 俺のカード、返せ!」

だが、リーダーはそれを無視し、奪ったカードを床に投げ捨てる。

「うるせえな、雑魚! ほら、次はお前が泣き喚く番だ!」

騒ぎがピークに達したその時、茜が前に出る。

「いい加減にしなさいよ!!あんた達!!」

茜の声は怒りに震え、目が鋭くリーダーを捉える。

慧は驚いて彼女を制止しようとするが、茜はすでに限界を超えていた。

「慧の姉ちゃんを何度も困らせて、カードまで奪うなんて最低! あんた達、出てけ!」

リーダーは一瞬面食らうが、すぐに笑いものとばかりにスマホを茜に向ける。

「へえ、かわいい子がキレてる! いいね、最高のネタだ! じゃあ、ゲームしようぜ。勝ったら、おとなしく出ていってやる。だが、負けたらお前のカードを全部いただいて、今度の動画の題材になってもらうぜ!」

「負けるわけないよ! 準備しろ、すぐ始める!」

茜はデッキケースを手に取り、テーブルにバンと置く。

観客や参加者が一斉にその場に集まり、緊張感が走る。ケイが心配そうに声を上げる。

「茜、無理しないで…」

「大丈夫、慧! あいつらを叩きのめしてやる!」

「「ゲームスタート!!」」

 

動画配信者

手札7

LP20

 

手札7

LP20

 

「僕のせいだ…。僕が、ちゃんと見てなかったから、せっかくの大会が…」

茜がゲームをする中、慧は今の事態が起こったことに肩を落とす。

そんな彼に天音がそっと近づいてきた。

「慧ちゃん…落ち込まないで。あなたが悪いわけじゃないわ」

「でも、姉さん…僕が見張ってれば、あいつらが入ってくる前に…」

天音は優しく慧の肩に手を置き、微笑む。

「そんなことないよ。あなたが外であの子たちを励ましてたのを聞いたわ、立派だった。姉ちゃん、誇りに思うわ」

その時、西野が気さくな声で割り込む。

「おいおい、慧君! そんな暗い顔してないで、ちゃんと見なよ! 茜ちゃんが頑張ってるんだから、応援くらいしなきゃだろ?」

「でも…僕がミスって…」

「ミス? ハハ、そんな大げさに考えるなよ。東山が負けたのはあいつの読みが甘かっただけ。でも、あの子は違うかもしれないだろう?」

 

茜の5ターン目開始前

 

動画配信者

手札4

LP20

場 スカークの探鉱者 1/1(クリーチャー-ゴブリン) タップ

  ゴブリンの戦長 2/2(クリーチャー・ゴブリン)  タップ

  土地(赤5) 赤3使用済み

 

手札6

LP15

場 モックス・ジャスパー(伝説のアーティファクト)

  ドラゴンの嵐の球(アーティファクト)

  土地(赤2、緑2)

 

「今の茜ちゃんのフィールドにはクリーチャーがいない。相手は速攻のゴブリンデッキ、といったところか…」

「私のターン、ドロー!」

 

手札5→6

 

「私は土地カードを1枚置いて、《龍へと昇る者、サルカン》を召喚!」

 

龍へと昇る者、サルカン 2/2(伝説のクリーチャー-人間・ドルイド)①・赤

 

「《サルカン》が召喚されたとき、手札かフィールドにいる私のドラゴン1体を相手に見せることで、宝物トークンを1つ生み出せる!私は手札の《新星のヘルカイト》を見せるわ!」

 

宝物・トークン(トークン・アーティファクト-宝物)

 

「更に、私はワープコストで赤1マナを含めた3マナを使って、《新星のヘルカイト》を召喚!」

 

新星のヘルカイト 4/5→5/6(クリーチャー-ドラゴン)飛行・速攻 ③・赤・赤(ワープ召喚)

 

「《ヘルカイト》が召喚されたとき、相手のクリーチャー1体に1のダメージを与えるわ!私は《スカークの探鉱者》に1のダメージを与えて、破壊するわ!」

「ちぃ…!」

《新星のヘルカイト》を墓地へ送る動画配信者が舌打ちをしつつ、そのカードを眺める。

(だが、ワープ召喚なら、ターン終了で追放される。また召喚される可能性はあるが、その程度は…)

「さらに《サルカン》は私のコントロールしているドラゴンがフィールドに現れたとき、+1/+1カウンターを1つ置く。そして、ターン終了時までドラゴンが種族に追加されて、さらに飛行も得る!」

 

龍へと昇る者、サルカン 2/2→3/3(伝説のクリーチャー-人間・ドルイド→伝説のクリーチャー-人間・ドルイド・ドラゴン)+1/+1カウンター0→1 なし→飛行

 

「そして、《新星のヘルカイト》は速攻を持っているわ!そのまま攻撃よ!」

 

動画配信者

LP20→14

 

「これでターン終了。同時に、ワープ召喚した《新星のヘルカイト》は追放されるわ」

 

動画配信者

手札4

LP14

場 ゴブリンの戦長 2/2(クリーチャー・ゴブリン) タップ

  土地(赤5) 赤3使用済み

 

手札7→4(追放中《新星のヘルカイト》)

LP15

場 龍へと昇る者、サルカン 3/3(伝説のクリーチャー-人間・ドルイド)+1/+1カウンター1

  宝物トークン(アーティファクト-宝物)

  モックス・ジャスパー(伝説のアーティファクト)

  ドラゴンの嵐の球(アーティファクト)

  土地(赤3、緑2) すべて使用済み

 

「へっかわいい顔してワイルドなカードを持ってるじゃねえか!俺のターン!」

 

動画配信者

手札4→5

 

「俺は土地カードを1枚おき、《ランドヴェルトの大群率い》を赤1マナで召喚!」

 

ランドヴェルトの大群率い 1/1(クリーチャー-ゴブリン・戦士)なし→速攻 ①・赤

 

「1マナで召喚!?どうして??」

「慧君、《ゴブリンの戦長》は自分が発動するゴブリンの呪文のコストを1下げるんだ、おまけに、仲間のゴブリンに速攻の効果まで与える…茜ちゃんにとってはまずいカードの1枚だ」

「《ランドヴェルトの大群率い》は自分以外の俺のゴブリンのパワーとタフネスを1アップさせる」

 

ゴブリンの戦長 2/2→3/3(クリーチャー・ゴブリン)①・赤・赤

 

「でも、ワープ召喚の影響で追放された《新星のヘルカイト》は本来のマナを支払うことで召喚できるわ。もう1度召喚して《ランドヴェルトの大軍率い》を破壊すれば…」

「それは無理な相談だなぁ。俺は土地カード《山》にエンチャントカード《ゴブリンの洞窟》を発動!エンチャントされている土地カードが基本の《山》である限り、俺のゴブリンのタフネスが2アップする!」

 

ランドヴェルトの大群率い 1/1→1/3(クリーチャー-ゴブリン・戦士)なし→速攻 ①・赤

ゴブリンの戦長 3/3→3/5(クリーチャー・ゴブリン)①・赤・赤

 

「これだと、《新星のヘルカイト》の効果では破壊できない!!」

「さらに、俺は《ゴブリンの王》を2マナで召喚!!」

 

ゴブリンの王 2/2→3/3→3/5(クリーチャー-ゴブリン)なし→速攻 ①・赤・赤

 

「《ゴブリンの王》が存在する限り、他のゴブリンたちのパワーとタフネスが1上がり、さらに山渡りを得る。山渡りを得たクリーチャーは防御プレイヤーが山をコントロールしている場合、ブロックされない!!」

 

ランドヴェルトの大群率い 1/3→2/4(クリーチャー-ゴブリン・戦士)速攻→速攻・山渡り ①・赤

ゴブリンの戦長 3/5→4/6(クリーチャー・ゴブリン)なし→山渡り ①・赤・赤

 

「そんな…!!」

茜のフィールドには山のカードがあり、その時点で山渡りの影響を受けることになる。

今の彼女にゴブリンたちの一斉攻撃を回避する手段がない。

《ゴブリンの王》をブロックすることも一瞬考えたが、すぐに選択肢から捨てた。

「バトル!!3体のゴブリンで攻撃!!」

 

LP15→13→9→6

 

「茜のライフが一気に…!」

「せっかくのドラゴンもコストがデカイとゴブリンの群れの餌食という奴さ!俺はこれでターンエンド!」

 

動画配信者

手札5→1

LP14

場 ランドヴェルトの大群率い 2/4(クリーチャー-ゴブリン・戦士)速攻・山渡り

  ゴブリンの戦長 4/6(クリーチャー・ゴブリン)山渡り

  ゴブリンの王 3/5(クリーチャー-ゴブリン)速攻 

  土地(赤6) すべて使用済み、うち1枚《ゴブリンの洞窟》をエンチャント)

 

手札4(追放中《新星のヘルカイト》)

LP6

場 龍へと昇る者、サルカン 3/3(伝説のクリーチャー-人間・ドルイド)+1/+1カウンター1

  宝物トークン(アーティファクト-宝物)

  モックス・ジャスパー(伝説のアーティファクト)

  ドラゴンの嵐の球(アーティファクト)

  土地(赤3、緑2) すべて使用済み

 

「茜…」

茜のフィールドからは実質7マナを生み出す準備がある。

だが、このターンで少なくとも《ゴブリンの王》を倒さなければ、茜の敗北が決まる。

(このままだと…私が負けちゃう。そんなこと…)

客席から自分を見守っている慧と天音。

2人が見守っている中で、こんな奴に負けることは絶対にあってはいけない。

デッキトップに指をかけ、じっと見つめる。

「(お願い…届いて、私の想い!)ドロー!!」

 

手札4→5

 

ドローしたカードを見た茜の目が大きく開き。

「来たわ!私の切り札!!まずは私は土地カードを1枚置いて、手札から《太陽王の指輪》を発動!このカードは発動したターン終了時に生贄になり、タップしたターンはドラゴン以外は攻撃できないけれど、無色の2マナを生み出してくれるアーティファクトよ!そして、それが生み出す2マナと赤3マナを含めた合計7マナを使って、私の切り札、《天空の王者リオレウス》を召喚!」

 

天空の王者リオレウス 7/7→8/8(伝説のクリーチャー-ドラゴン) 飛行 +1/+1カウンター0→1 ④・赤・赤・赤

龍へと昇る者、サルカン 3/3→4/4(伝説のクリーチャー-人間・ドルイド→伝説のクリーチャー-人間・ドルイド・ドラゴン)+1/+1カウンター1→2 なし→飛行

 

「だが、速攻がないこいつに止めるすべはない!!それに、山渡りで…」

「さらに、私は手札から《龍の踊り子、アリシア》を召喚!」

赤とオレンジのツインテールが炎のように揺れ、情熱的な赤いドレスを翻したかわいらしい人間の女性ダンサーのクリーチャー。

上は黒のタンクトップに袖をまくった赤い短めジャケットで、下は黒のホットパンツ+赤いミニスカート風の腰布、腰にドラゴンの尻尾みたいな飾りをつけてるこのクリーチャーが茜を逆転に導く。

 

龍の踊り子、アリシア 2/2(伝説のクリーチャー-人間・パフォーマー) ②・赤

 

「くっ…《リオレウス》が存在することで、《モックス・ジャスパー》の効果が使えたか!!」

「《アリシア》がフィールドにいるとき、私のドラゴンは速攻を得るわ!そして、《アリシア》も私のコントロールしているドラゴンの数だけパワーとタフネスがアップする!」

 

天空の王者リオレウス 8/8(伝説のクリーチャー-ドラゴン) 飛行→飛行・速攻 +1/+1カウンター1 ④・赤・赤・赤

龍へと昇る者、サルカン 4/4(伝説のクリーチャー-人間・ドルイド→伝説のクリーチャー-人間・ドルイド・ドラゴン)+1/+1カウンター2 飛行→飛行・速攻

龍の踊り子、アリシア 2/2→4/4(伝説のクリーチャー-人間・パフォーマー) ②・赤

 

「バトルよ!《リオレウス》と《サルカン》で攻撃!」

「無駄だ!この攻撃が通っても、ライフは2残る!お前の敗北は…」

「甘いわ!《アリシア》は私のドラゴンが攻撃するとき、そのドラゴンに+1/+1カウンターを1つ置くわ!」

 

天空の王者リオレウス 8/8→9/9(伝説のクリーチャー-ドラゴン) 飛行→飛行・速攻 +1/+1カウンター1→2 ④・赤・赤・赤

龍へと昇る者、サルカン 4/4→5/5(伝説のクリーチャー-人間・ドルイド→伝説のクリーチャー-人間・ドルイド・ドラゴン)+1/+1カウンター2→3 飛行・速攻

 

「な、なにぃ!!」

「さらに、《リオレウス》は攻撃するとき、対象一つに4のダメージ、さらにそれ以外の対象最大2つの3のダメージを与えるわ!みんなの楽しい場所を台無しにした報い…うけなさい!ダイレクト、アターーーク!!」

「くそがあああああ!!」

 

LP14→5→0

 

太陽王の指輪 ①

伝説のアーティファクト

このカードは戦場に出たターンの終了時に生贄となる。

(T):(◇)(◇)を加える。このターン、自分のドラゴン以外のクリーチャーは攻撃できない。

 

 

龍の踊り手、アリシア ②・赤

伝説のクリーチャー-人間・パフォーマー

あなたがコントロールしているドラゴンは速攻を持つ。

あなたがコントロールしているドラゴン1体につき、アリシアは+1/+1の修整を受ける。

龍の舞-あなたのドラゴンが攻撃するとき、そのドラゴン1体の上に+1/+1カウンターを1個置く。この能力が解決されたのがこのターン内の3回目なら、これを変身させる。

 

2/2

「えへへ、今日も一緒に暴れちゃおー!」(龍の踊り手、アリシア)

 

 

動画配信者のライフが0になる瞬間、店内が静まり返る。

撮影していた男はスマホを落とし、膝から崩れ落ちた。

仲間たちも呆然として立ち尽くし、観客の子どもたちから歓声が上がる。

「茜ちゃん、すげえ!!」

「やったー! 勝ったー!!」

「茜さん、カッコよかった…!」

茜は肩で息をしながら、男を見下ろす。

「約束、守ってよね。もう二度と来ないで」

リーダーは悔しそうに歯噛みし、立ち上がろうとするが――

ガチャリ。

店のドアが開き、制服姿の警察官が3人、ドカドカと入ってきた。

「遅くなりました、東山巡査!」

「ようやくか…お前たち、やりすぎたな。公務執行妨害、器物損壊、恐喝未遂で現行犯逮捕する!」

「え…ちょ、待てよ! 俺たちはただ動画を――」

「動画? それが犯罪の言い訳になると思ってんのか?」

警察官たちが素早く男たちを取り押さえ、手錠をかける。

子どもたちや参加者から拍手と歓声が沸き起こる。

天音が深く頭を下げる。

「東山さん、本当にありがとうございました…」

「いや、俺はただ職務を果たしただけさ。それに…茜ちゃんの逆転劇がなければ、ここまでスムーズにいかなかったよ。」

茜は照れくさそうに頬を赤らめ、慧を見てニッと笑う。

「慧、見てた? 私、勝ったよ!」

「うん…茜、すごかった。本当に、ありがとう」

 

大会は中断されたものの、みんなで片付けをし直し、残りの時間はフリー対戦に切り替えて楽しんだ。

子どもたちは茜をヒーロー扱いし、東山は「次は俺がリベンジだ!」と悔しがり、西野はいつもの調子で天音に絡み続ける。

夕方、店が閉まる頃。

天音が慧と茜に微笑みかける。

「今日は本当にありがとう。2人がいてくれてよかった…」

茜は得意げに胸を張る。

「任せてよ、天音さん! これからも何かあったら呼んでね!」

慧は静かに頷き、姉の手をそっと握る。

「姉さん…今度は、ちゃんと守るよ」

3人で並んで夕陽に染まる街並みを眺めながら、穏やかな時間が流れる。

――しかし。

その夜、プリマビスタのモニターに映る倉庫街の映像。

休眠していたファイレクシアンたちの赤い目が開く。

船長の黄色い瞳が静かに光る。

「…始まったか。慧君、明日は休めないぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

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