転生カードゲーマーは知らないデッキと戦いたい 作:フロントトリガー
「ヒャハハ! 俺サマはターンエンド!」
「…?」
男の笑い声と宣言が辺りに響き渡る。
彼の盤面には、複数のカードが重なる特殊なトークンユニットと。*1
ユニゾンユニットにフレンドユニットが一枚ずつ。
通常であれば、隣に並び立ち攻め手に出ているであろうユニット達は。様子を伺うように、男の後方から対戦相手の少女を見つめていた。
「おやおやぁ〜? 先行2ターン目のクセに攻撃しなかったのが不思議って感じだなァ?」
そんな盤面に首を傾げた少女に対して、男がニヤリと笑い口を開く。
「教えてやるよォ!英雄サマのデッキは相手よりダメージを受けていれば真価を発揮する!
つ、ま、り。こっちのダメージが上な今。テメェのユニゾンユニットはただのカカシってわけぇ〜! ヒャハハハ!」
「へぇぇ──いや、馬鹿?」*2
男の言葉に感心した様に口を開いた少女。
色味の薄い茶髪をユニットの東洋鎧で覆い隠した少女は、瞬きの間にスッと目つきを鋭く変えると、呆れた様子で口を開く。
「ハ? テメェなんつった。」
「あ、いえ…すみま───。
「」
唐突に、浴びせられた暴言に愕然とし。思わず手を止めて少女を見やる特攻服の男。
その視線をどう受け取ったのか、目つきを鋭くした少女が、捲し立てるように言葉を紡ぎ始める。
「貴方のダメージは二点。こちらに潜在的な一点があったとしても、受ける必要があるのは二点なのは変わらない。 であれば、リライズチェックをする価値があった。…あぁ、よほど引きに自信があるのかしら? なら、確かに二点はあり得る、見事な作戦ね───。…???」*3
「ブッ殺す!」
長々とした講釈の後、最後に首を傾げて見せる少女。
そんな彼女の様子に、まだ幼かった頃。
感想戦と称して人のデッキへケチをつけてきた宿敵が脳裏に浮かび、二割増しの殺意をぶつける男。
「デ、デスヨネ…私のターン! 手札を捨て。《明鏡止水 ヤマトソウル》に深化! 登場時効果により、共鳴3 《再臨の勇者 ラムセル》を手札に加えます!」
ソレを受けた少女は、どこか遠くを見つめるように視線を彷徨わせると、カードを引き抜き。展開を始めた。
「そのまま、《旅の休息》を発動し、〈ヒューグルス〉〈ヤマト〉のパワー+10000」
「そして、〈ライズハルト〉をサモン、効果で〈ぱるがおん〉をスペシャルサモン!」
「〈ヤマト〉の起動効果は使いません。バトルです!」
エフェクトカードを起点とする間口の広い万能展開。
一定以上の実力者であっても構築に組み込むことが多いソレによって新たにユニットを呼び出した彼女は、一つ頷くとバトルフェイズへと移行する。
「〈ライズハルト〉で攻撃!」
「ガード!」
「〈サージ〉の援護、〈ヤマト〉で攻撃!」
「ノーガード!」
「〈ぱるがおん〉の援護、〈ヒューグルス〉で攻撃!」
「…ノーガードだ!…!!ゲットキュアリライズ!」
十分な火力の連続攻撃。
エフェクトの効果により、要求値の跳ね上がったそれを、キュアリライズ込みでどうにか凌いだ男。
その引きに目を見開き、口を開いた少女が…
「わ、良い───とこなしね?さっきリライズしていれば、最小限でこのターンを抑えられたのだから。」*4
──スッと目を細めて言葉を紡ぐ。
ネチネチとした嫌味と結果論。
カケラ程度には納得できるソレが、心に突き刺さり…沸騰したように、男が叫びを上げる。
「このガキィイ!!」
ただでさえ直情的な荒れくれ者。
コレがカードバトル中でなければ、直接ぶん殴りに行っていたところだろう。
「ァ、ツラァイ…〈がおん〉の効果で手札に加えて、ターンエンドです。」
さすがの少女もソレに思い至ったのか、顔を青くしてカードゲームに戻っていく。*5
「俺サマのターン! 《漆黒の殿堂 エクスザリオン》に深化! 効果により《ブロックトークン》を【黒金ゲージ】に置き、山札上5枚から《黒金の軍閥・武羅津苦》を加えるゥ!」*6
そこからは再び男のターン。
先程までは雌伏の時と言わんばかりに、巨大な黒竜と共鳴して、仲間を呼び出した男によって、トークンユニットが力を強め。辺りに鋭利な浮遊石が浮かび始める。
それらは、クリスタルの様に透き通った鱗を持つ竜や、深緑の竜の周囲を彩り。外付けの浮遊武装として、少女の盤面に居る騎士達へとその鋒を向けていた。*7
「〈春耀〉で援護、〈トークン〉で攻撃!」
「ノーガード、ゲット! ドローリライズです!」
「チィ! …ならユニゾンユニットからだ! 効果により、もう一枚〈冬磁〉をスペシャルサモン!」
岩の集合体の様な竜の一撃。*8
迫り来るソレを装甲で受け、その拍子に山札から、蒼炎の加護を授かる少女。
それを見て吠えた黒竜の側に新たな水晶竜が現れ、間髪入れず黒竜が襲いかかる。
「追加のユニット!? ここは───。〈守護魔導〉にリライズユニットでガード。ほら、2枚貫通よ、捲りなさい。」
「ッ! チェックだ! 一枚目…無し、二枚目…ダメージリライズ! 効果全て1体目の〈冬磁〉へ!」
「そう───。ワァ…。」*9
しかし、その攻撃も、的確な位置と強度で発生した魔導壁によって阻まれ、弾かれた黒竜は自らの援護に回っていた浮遊石に力を与えると水晶竜の元に送り込む。
「喰らいやがれダメージ3の〈冬磁〉で攻撃!」
「完全ガードです…。」
「ッ!! もう一体の〈冬磁〉で攻撃!」
「リライズユニットでガード! ───あら、一点しか喰らってないわ。おかしいわね?」
「テメェッ──。」
そうして行われた水晶竜と浮遊石による飽和攻撃。本来であればそう簡単防げる者では無いそれは、守護に特化したユニット達の強固な結界によって危なげなく防がれる。
あんまりなゲーム展開。
それを強調する少女の煽りによって怒髪天を衝かれた男は。とうとう立ちくらみを起こし、どかりと座席に背中を預けると、深呼吸代わりにタバコを噛み締めた。
「フゥー…テメェ。挑発して俺サマのプレミを誘おうって魂胆か。」
改めて冷静に、男は現実の少女に目を向ける。
肩ほどの高さで柔らかく広がる茶髪に、巨大なリボン。ややつり目がちな朱と蒼のオッドアイは図星を指された事によってか、自信なさげに明後日の方向に向けられている。
…やはりただのガキだ。いたって普通の人畜無害そうなガキ。
「あ、いや、えっと…ははは。わ、私のターン!!!」
男の視線と言葉を、笑って誤魔化す少女。
カードをユニゾンエリアに置いた彼女は、騎士装甲を見に纏うと、迷いなく展開札を起動する。
「参ります! 《再臨の勇者 ラムセル》に深化!」
「《星雲より灯す星界騎士の道》を発動! バインドして山札から《先陣の騎士 ライズハルト》をサモン! 効果で〈がおん〉をスペシャルサモン!」*10
「わざわざユニットを退かして犬だとォ? ンなことしなくとも後ろ下げりゃいいじゃねぇか」
騎士の一人を墓地に送り、一枚減少の奇妙な展開。
枚数的には損しかしていないそれに眉を顰めた男の前で、少女は余裕をもってカードを操る。
「あっ───。これでいいのよ。バトル〈ハルト〉で攻撃」*11
「チッ、〈冬磁〉の効果でガードだ。」
「続けて〈サージ〉の援護〈ラムセル〉で攻撃、効果により、〈レフィストーム〉〈ヒューグルス〉をサモンし、コスト回復。〈レフィストーム〉により、〈ラムセル〉を手札に更に前列のパワー+5000───。ゥヘェ…アタマイタ…」
「ッ!? ふざけ…! 完全ガード!」
そうして始まったのは。
バトルフェイズにも関わらず、無数に起動する効果の連続。
白金の騎士の呼び声に応え、天空からグリフィンが舞い降り。後方で魔法使いが魔力を精製、それを使って騎士の分身たるカードが手札に加わる。
最後に、先程墓地に送られていた騎士が高く槍を掲げると、支援の光が辺りに降り注ぎ、彼らの連携攻撃は始まった。
白金の凄まじい剣閃。
飛来する光の斬撃を強大な岩壁が遮り、その傷跡を蹴り破ったグリフィンの連撃が、水晶竜によって食い止められる。
その隙を縫って迫るのは、小さな青犬。
不意を突かれた黒竜が、そちらに視線を惹きつけられた間に、駆け抜けた騎士の一撃がその身体を傷つけ、反射的に放たれた力の波動が、そのまま宙を揺らし、消滅していく。
「ッ!? ダメージリライズが!」
「あーあ、勿体無いわね───。ターンエンド…です。」
「わ、か、る、か! ボケェ!!!」
呆れた様子を隠そうとしない少女の呟き。
そこに男の怒号が重なり。
戦いは新たな場面に移り変わろうとしていた。
☆
「…アレがお前の友達か……。」
廃工場の崩れたコンクリ壁。
その間からひょっこり顔だけ出して、なんとも言えない表情で口を開く青年───ユージン。
彼らの背後には、不良達が死屍累々の有様で転がっており、その激戦を感じさせるが。その光景以上に、目線の先にある少女の戦い方は衝撃的であった。
「……いや、うん。…やっぱり別人だったかも知れねー。」
「……参考になるいいファイターだな?」
「そりゃ、お前だけだぜ。ユージン。」
相手のリライズユニットすら考慮に入れた精度の高いプレイングと、それ以上に際立つ心理戦。
リライズユニットと言う。このゲームとは切っても切り離せない不確定要素を引き合いに出し、煽る事でその場の流れを掌握する手腕は、褒められた事では無いとしても、極めて有効な盤外戦術だ。
「…そうか…?」
さらに言えば、少女のその論理が、決して荒唐無稽な物では無い事を、青年は確信していた。
彼女の言葉は、確率論では語れない。
枚数の計算を行えば、そこにある可能性は極めて低く、時にノイズとなる十六枚。
通常の論理に従うのであれば、可能な限り母数を小さくし、妥協点まで確率を操作してから語るべきはなしだろう。
しかし、常に盤面が動き。
確率が変動するカードゲームでは。
時に、確率論では説明できない挙動を最適解とする者が現れる。
「…俺は、良いと思うがな…」
彼女の言葉は間違いなく、ソレに準ずるものであり。
……彼もまた、そうでありたいと願っていた。
「…。とりあえず、エスペルトの奴。手当してやらねぇと…」
「あぁ、そうするか……。だが、その前に…」
───だからこそ。青年は一歩前に踏み出す。
「へ? ユージン?」
青年は知っていた。
誰もが、始まりはそうであったことを…
ただ心のままにカードを振るい、その力に一喜一憂しながら、より良い道を探る日々を過ごしていた事を。
「ヴァーロン! 昔のお前は、もっと輝いて居たぞ!!」
──愛したカードと共に戦うこと。
ソレこそが勝利を導くのだと。
彼はそう信じていた。
「ッ!??」
「ハェ⁉︎アッ…ユージンサン…⁉︎」*12
青年の言葉に世界が揺らぐ。
度重なる蹂躙により不安定になった巨大なエナジーフィールドが暗転し、少女と男の祭壇が眩い輝きに包まれる。
そうして展開されるエナジーフィールド。
二人を囲う虹の天球が辺りに漂う力の残滓を吸収し、その内部を夜天の荒野へと描き換えた。
「…ヒャハ…ヒャハハ!! ンなこと重々承知なんだよォ! ドロー!!!」
男が引き抜いたカードを天に掲げる。
凄まじい地響き、重力に逆らう様に漆黒の鉱石が宙に浮かび上がり、暗色の光が男を中心に燃え上がる。
「百戦錬磨、一騎当千! 我ら一心同体にして金蘭なる契りの友!」
そこに焚べられる浮遊石。
月の光を反射する黒曜が巨大な結晶を作り上げ、ピシリピシリとヒビが入っていく。
「俺が…俺サマ達が最強ダァ! 共鳴4! 《黒金の豪竜 エクスザリオン》に超越深化ァアアア!!!」
轟音。そして爆発。
その場に立っていたのは、黒金を鎧の様に纏う龍人族。
人と呼ぶには強靱で、竜と呼ぶには繊細なその存在の咆哮が、辺りの浮遊石を吹き飛ばし、仮想と現実の境目に要石として突き刺さる。
「ェ…えぇえええ!?!?」
「…フ。さらばだ…」*13
「いや、ユージンあの…」
「マナ、大丈夫だ。あの子なら勝てる。」*14
「そう…か。じゃあアタシは……」
驚きを隠す事なく、悲鳴にも似た叫びを上げる少女。それを他所に、お姫様抱っこで美青年を抱えるユージン。
困惑したようにマナが口を開けば、返ってきたのは根拠のない肯定の言葉。
正直、信じるには無理があるが、他ならぬユージンの言葉。
そう納得した少女は視線を戦場に向け、声を上げる。
「勝てよ! カレン!!」
彼女たちの決着は、まだついていないのだから。
刀剣折ったら書く。
※後編からは、実在しないデッキでお送りします。