ベイウォル・ブラザーズ   作:言うても

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ピーキー・ブラインダーズ観てたら、
「これ魔法科に混ぜたいな」と思って勢いで書きました。

原作とちょっと違う部分もありますが、
暗い雰囲気とか裏社会っぽさを出せたらいいなって感じです。

肩の力抜いて、もしもとして楽しんでもらえたら嬉しいです!

※作中に出てくる地名はフィクション上の舞台として使っています。
実際の場所や団体・人物とは関係ありません。




夕暮れの保健室。

 

窓の外では赤黒い陽が沈みかけ、茜と群青が混ざった光が机の上に長い影を落としていた。

 

机の中央に広げられたのは川崎港の地図。

そこに突き刺された赤いピンが複数、倉庫街一帯を覆い尽くすように並んでいる。

 

誰もすぐには口を開かない。

保健室の古い掛け時計の秒針が「カチ、カチ」と刻む音だけが、沈黙の中でやけに大きく響いた。

 

やがて、十文字克人が低く息を吐き、重々しく告げた。

 

「――ブランシュの残党が、“ベイウォル・ブラザーズ”に捕らえられている。場所は川崎港の倉庫街だ」

 

その言葉に反応したのはレオだった。

彼は椅子から勢いよく身を乗り出し、机を叩く。

 

「捕らわれてる奴らを助けるだけだろ? 俺たちなら楽勝じゃないか!

チンピラ相手だぜ? 魔法で一撃で――」

 

彼の言葉は最後まで続かなかった。

 

「……やっぱりバカね、レオ」

 

冷ややかな声で遮ったのはエリカだった。

 

「だ、誰がバカだ!」

 

レオは顔を赤くし、椅子を軋ませて立ち上がる。

しかし、その勢いを正面から受け止めたのは桐原だった。

 

彼は落ち着いた声で、しかし鋭く切り捨てる。

 

「本気で言っているのか、レオ。相手はただのチンピラじゃない」

 

「な、なんだよ先輩まで!」

 

レオは狼狽し、声を荒げた。

だがその声は、先ほどより弱々しかった。

 

エリカは椅子の背に身を預け、肩をすくめる。

 

「いい? “ベイウォル・ブラザーズ”は普通のチンピラじゃないの。

 

表の顔は貿易会社。

さらに競馬場と競輪場まで合法的に運営して、地元経済に金を流してる“優良企業”よ。

 

だから政治家や役人は頭が上がらない」

 

「……ギャンブルまでやってんのかよ」

 

レオは目を丸くして呟いた。

その声には先ほどまでの強気はなかった。

 

エリカは冷たい眼差しのまま言葉を続ける。

 

「裏の顔はもっと酷い。

 

戦争帰りの兵士を雇って傭兵として貸し出す。

歓楽街のケツ持ち、クラブ運営。

武器も人も川崎港を通して流れていく。

 

気に入らない相手は力でねじ伏せる。

交渉なんてしない。

掴まった時点で終わり――それが奴らのやり方よ」

 

保健室の空気がさらに冷えた。

 

桐原は無意識に腰の刀へと視線を落とし、呟く。

 

「……つまり、剣でどうにかなる相手じゃない、ということか」

 

「脅してるだけだろ……」

 

レオはなおも食い下がろうとしたが、その声は震えていた。

 

「現実よ」

 

エリカは吐き捨てるように言い切った。

 

「うちの家は警察と深く繋がってる。

普通のチンピラなら一声で潰せる。

 

でも、あそこは腐りすぎてるの。

警察ごと、丸ごと賄賂で買われてるから」

 

レオは愕然とした顔で口をつぐんだ。

 

「……警察まで……」

 

十文字が再び口を開いた。

その表情は険しく、声はさらに低く落ちていた。

 

「それだけじゃない。

 

政治家とも癒着している。

ある議員の息子が、ブラザーズの幹部に加わっている。

 

表の権威と裏の暴力が一本化しているんだ。

正面から行けば、敵に回すのは組織だけじゃない。“街そのもの”だ」

 

机の上に置かれた地図を見下ろす一同。

赤いピンは冷酷に突き刺さり、その数の多さが敵の巨大さを無言で示していた。

 

エリカが腕を組み、苛立ちを隠さず吐き捨てる。

 

「地元のマスコミも全部傘下よ。

 

テレビも新聞も、事件は揉み消される。

 

“地域の守り手”“川崎経済の救世主”なんて美談ばかり並べられる。

真実は全部、闇に沈むの」

 

「そんな……」

 

深雪が小さく声を震わせた。

 

「それじゃあ、私たち以外、誰も動けない――」

 

桐原は深雪に視線を向け、頷く。

 

「つまり……俺たちがやるしかない、ということだな」

 

「そうだ」

 

ここまで沈黙を守っていた達也が、ようやく口を開いた。

その声音は冷たく、まるで鋼を叩き締めたような硬さを帯びていた。

 

「法も、権力も、メディアも……この街ではすべて奴らの味方だ。

俺たちは孤立無援。

 

だが――それでも動くしかない」

 

一瞬の沈黙。

誰も反論しない。

 

達也は机上の地図に手を伸ばし、倉庫街の一角を指で押さえた。

 

「――覚えておけ。これから向かうのは、“ベイウォル・ブラザーズの島”だ」

 

その言葉と同時に、窓の外の夕陽が完全に沈んだ。

 

保健室は薄暗さを増し、照明がわずかに落ちる。

 

六人の影が床に長く伸びた。

誰も言葉を発しないまま、椅子がきしむ音だけが響く。

 

彼らは静かに立ち上がり、出口へと歩み出す。

 

重い足取りの背中に、赤いピンの刺さった地図だけが取り残される。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます!
ブランシュの終わりくらいから急に始めた形になりましたが、
勢いで書きたかったのでこうなりました。

文才はありませんが、少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。
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