ベイウォル・ブラザーズ   作:言うても

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第2話

電車が川崎駅に滑り込み、六人は改札を抜けた。

夜の川崎はネオンに照らされ、駅前には人混みと雑踏が渦巻いている。

 

その中で制服警官二人が真っ直ぐに近づき、六人の前に立ちはだかった。

 

――

 

「すみません、少しよろしいですか。職務質問です」

「最近、この辺りは物騒でしてね。確認させてもらいます」

 

二人の視線は、桐原の腰の刀に注がれた。

 

「……君、それは刀か?」事務的に尋ねるのは警官A。

「訓練用の真剣だ。登録済みで、許可証もある」桐原は落ち着いた声で答え、許可証を差し出した。

 

だがAは受け取ると返さず、光に透かしてじっと眺める。

 

「……照会をかける。少し待て」

 

レオが前に出て声を荒げる。

「おいおい、登録証見れば十分だろ! なんで照会なんか――」

 

十文字が遮った。

「やめろ、レオ。騒げば長引く」

 

桐原が一歩進む。

「……確認は理解する。だが、正規の登録証がある以上、引き延ばす必要はない」

「協力はしている。それでも不足なら、どこまで求めるつもりだ」

 

Aは淡々と答える。

「念には念を。……特に君たちのような目立つ集団は」

 

Bが口の端を歪めた。

「そうそう。急いでる姿は余計に怪しく見える」

 

桐原は目を細める。

「……協力と嫌疑は違う」

 

無線から短い応答が返ってきた。だが二人の警官はすぐには動かず、視線だけを桐原に注ぎ続ける。

その沈黙は、職務というよりも“間”そのものだった。

 

――

 

「立派な剣だな。……普段から学校で帯刀しているのか?」Aが問う。

「訓練のためだ。規則に則っている」桐原は即答した。

 

「……ふむ。それで六人で一緒に行動とは、どういう関係だ?」Bが探るように言う。

レオが噛みつく。

「はぁ? 関係って……同じ学校の仲間に決まってるだろ!」

 

エリカは小さく笑い、肩をすくめる。

「……見なさい。わざと同じことを何度も聞いてる」

 

Aが手を差し出した。

「全員の身分証を。学生証で構いません」

 

六人は渋々、学生証を差し出す。

警官たちは一枚ずつ街灯にかざし、裏返し、無線に報告を入れる。

動作は遅く、あからさまに時間を潰していた。

 

「……なぁ、いつまでやる気だよ。俺たちは犯罪者じゃねぇぞ!」レオが吐き捨てる。

 

「犯罪者かどうかは、こちらが確かめる」Bが皮肉げに笑った。

 

やがてAの目が細くなる。

「……“十文字克人”。十師族の御曹司か」

 

Bも別のカードを眺め、唇を歪めた。

「“千葉エリカ”。千葉家のお嬢さんとはね。……豪華な顔ぶれだ」

 

十文字は冷ややかに返す。

「……あなたたちに答える義務はない」

 

エリカも睨みつける。

「職質に家柄を持ち出すなんて、正規の警官のすることじゃないわ!」

 

「ただの確認だ」Aは事務的に言った。

「だが――ここじゃ十師族も千葉家も特別扱いじゃない」

 

深雪は不安げに兄を見上げる。

「……お兄様……」

 

達也は低く呟いた。

「……表の職務を口実に、どこかへ情報が流れている。そう見える」

 

十文字の視線が柱の陰を捉える。

黒いスーツの一団が、無言で様子を窺っていた。

(ベイウォル・ブラザーズかどうか――断定はできない。ただ“見られている”。)

 

エリカは吐き捨てる。

「警察が表で足止め、誰かが裏で監視。……そうとしか思えないわね」

 

やがて学生証が返され、Aが作り笑いを浮かべる。

「確認できました。……ですが忠告します。港の倉庫街には行かないことです。争いを起こしたくないなら。」

 

警官たちが去ると同時に、スーツの一団も雑踏に紛れて消えた。

 

――

 

六人はしばし言葉を失ったまま立ち尽くした。

耳に入るのは客引きの声、ネオンの明滅、そしてざわめき。

街そのものが彼らを観察しているようだった。

 

十文字が短く告げる。

「……ここに長居はできない。移動するぞ」

 

六人は無言で頷き、駅前ロータリーへと向かった。

 

――

 

ロータリーに並ぶのは、昔ながらの有人タクシーばかりだった。

 

「……お兄様、無人タクシーが一台もありません。こんな大きな駅で有人だけなんて……」深雪が眉を寄せる。

「……川崎は特別だ。有人の方が“都合がいい”」達也が返す。

「運転手が目と耳になる。街全体が監視カメラってわけね」エリカが吐き捨てた。

 

「チッ……どこまで腐ってんだ、この街は」レオは唾を打つように言った。

十文字は低く言い切る。

 

「――覚悟しておけ。ここでは一つの選択も、どこかに報告される」

 

六人はタクシーに乗り込む。

 

「……行き先は?」運転手が問いかける。

「川崎港の倉庫街だ」十文字が告げた。

 

運転手は一瞬だけ眉をひそめ、作り笑いを浮かべると無線を取る。

「……駅前から港方面、六名。――ええ、“例の件”了解」

 

「……業務連絡なんかじゃねぇ」レオが低く吐いた。

 

「……誰に伝えてるかは、まだ決めつけないでおきましょ」エリカが小声で返す。

 

車は動き出したが、ルートは妙に遠回りだった。

裏通りや歓楽街を抜け、無駄に時間をかける。

 

「……港は逆だ。わざと外している」桐原が低く呟いた。

「時間稼ぎか、ただのルートか――判断はまだ早い」十文字は冷静さを崩さない。

 

「……不自然なものほど自然に見える。それが、この街の仕組みだ」達也の声は冷ややかだった。

 

やがて倉庫群が見え始めたところで、タクシーは速度を落とす。

運転手はルームミラー越しに六人を見つめ、無表情に言い放った。

 

「……ここまでだ」

 

「は? まだ距離あるだろ!」レオが食ってかかる。

 

しかし運転手は答えず、ドアを開けただけだった。

 

六人が降り立つと、タクシーは音もなく夜の街に消えていった。




ピーキー・ブラインダーズの警察を意識して、ねっちこく相手を絡め取る職質を描いてみました。
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