スマホを届けたら、ギャルに付きまとわれるらしい   作:匿名希望

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第2話 謎の写真

 

 

 

 そんな新田目さんは小さくうなり声をもらし、地面をじっと見つめていた。眉間に皺を寄せ、ため息をひとつ。何かを探しているような仕草に、切実さと子どもっぽさが同居していて――気がつけば、俺の足は止めらていた。

 

「……まぁ、だからと言って、話しかけたりはしないんだけど」

 

 同じ学部生だからと言って、話す仲でもなし。

 むしろ同じ学部生ということだけが、俺と彼女の接点のようなものだ。

 向こうだって、俺のことなんて記憶しているかも怪しい。そんなヤツに声をかけられたら、どう思うかなんて想像に易いだろう。

 

 そんなことを考えていると、おもむろに彼女が立ち上がるのが見えた。

 

「どっかに落ちてないかなぁ~……」

 

 結局、最後まで訳も分からないまま、彼女はどこかへと立ち去っていった。

 

「なんだったんだ、あれ?」

 

 やはり、陽キャだとかギャルの生態は、俺には一生理解できないのかもしれない。

 

「ま、どうでもいいか」

 

 今すぐあれらの謎を解き明かさなければ、生活に支障があるわけでもなし。俺は、本来の目的地である学生用のバス乗り場へと再び歩き出す。

 

「それにしても、なにか探してたのか?」

 

 もし彼女がなにか探し物で困っていたのなら、少しは気にかけて、声をかけてやるべきだったのかもしれない。

 しかし、いくら後悔しても後の祭り。

 俺は彼女に声をかけなかったし、あの時点で彼女が困っているとは考えてもいなかった。

 だからこそ、仕方ない。

 ちょっぴり、残念に思ってしまうのも、仕方ない。

 そうして俺が、さっきまで彼女が座っていたベンチを横切ろうとした時だ。

 ベンチの影で隠れていたものが目に映った。

 

「……? なにか落ちてる?」

 

 拾い上げてみると、それは一台のスマホだった。

 裏面には、キラキラのシールやプリクラが重ね貼りされている。どう見ても女子の持ち物だ。

 

 その中の一枚に、俺の視線が釘づけになる。

 ――さっきまでここに座っていた新田目さんと、見知らぬ女の子が笑って写っていた。

 

「……やっぱり、あの子のか」

 

 さっき聞いた声が頭に蘇る。

 ――『どっかに落ちてないかなぁ~……』

 間違いない。新田目さんはこのスマホを探していたのだ。

 

 そう確信したとき、不意に手の中の画面がぱっと点灯し震出した。

 

「えっ……」

 

 着信だ。画面に表示された名前には『リサ』と書かれている。

 新田目さんの友達か?

 

「ちょ、うお、どうする、どうするべきだ、これ……!?」

 

 思わず固まる。出るべきか、出ないべきか。指先は画面の上で宙ぶらりんに止まったまま。

 いきなり電話出て男の声で返事したら、さすがに怪しまれるだろう。さっきこのベンチの下で拾いましたとか、相手が信じてくれるかも怪しいところだ。

 

 というか、そもそも新田目さんが電話を無くしたと思って電話してきている相手なのだろうか? 事情も知らない人が友達に電話をしたら、見ず知らずの男が出るなんて恐怖体験以外のなにものでもない。

 

 しかし、そんな杞憂はどこへやら。

 俺が逡巡している間に、コールは唐突に途切れた。

 

「ふぅ、助かった……のか? いや、助かったっていうのも変な話だろうけど……」

 

 ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。電話画面が閉じ、ロックもかかっていなかったのか、ディスプレイがそのまま立ち上がる。

 

 まずいっ。

 

 瞬時にそう確信し、おもわず目を逸らそうとするも時すでに遅し。

 映し出されたのは、二人の少女が肩を寄せ合う写真だった。

 ひとりは、さっき見た新田目さんとよく似た茶髪の女の子。笑顔がはじけるように明るくて、年齢も大学生というよりもだいぶ下に見える。

 そんな少女の横にいるもうひとりは、控えめに笑う黒髪でメガネをしている地味めな女性だった。年齢は高校生か中学生か。地味な服装で、確実に言えることは茶髪の子より年上に見えるということだ。

 こちらの女性も、顔立ちだけでいえば、さっきの新田目さんと瓜二つだった。

 

「……お姉さん……なのか?」

 

 そう勝手に納得する。

 茶髪の子は妹分のように甘えていて、黒髪の女性は優しく見守っている構図。

 どう見ても姉妹。俺の頭の中で、疑問はすんなり片づいてしまった。

 

 けれど同時に、胸の奥に小さなざらつきが残った。

 

「あーもう、覗くつもりなんてなかったのに……なにやってんだよ、俺」

 

 女性のプライベートを勝手に覗き見るなど、人間として言語道断だ。

 このまま落とし物として事務局に届けてしまうのは簡単だが、いかんせん勝手にスマホを覗いた罪悪感が半端じゃない。

 

 俺は自暴機に蹲っていた膝を伸ばし、立ち上がる。

 

「……よし、届けに行こう」

 

 今ならまだ間に合うかもしれない。

 俺は小さく息をつき、スマホをポケットにしまう。

 

「……さっき声をかけなかった分、今度はちゃんと届けてあげないと」

 

 自嘲気味に呟いて、俺は彼女の行方を追うため、少し駆け足気味に学生用のバス乗り場とは真逆の方向へと踵を返した。

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