入院してから数日、俺は同じ病院に入院している小学生6年生の難波虎吉という少年と出会った。出会いのきっかけは些細な事、コーヒー買いに行くと虎吉が居た、それだけ。
虎吉は元々アメフト志望だが小学生はアメフト部が無くてアメフトが出来ず、虎吉はタッチフットを始めたというのだ。
アメフトへの熱意と俺がアメフトをしているのと、虎吉が桜庭春人のファンということでつい先日試合をした俺と意気投合して仲が良くなったって感じだ。
「双葉はん取ってや〜!」
「利き手が無理だから投げんなバカ」
病院内の中庭。
そこで俺は虎吉とアメフトボールでキャッチボールをすることに……右の鎖骨が折れて間もないのに無理矢理誘われた。
「ええから取ってや!あの桜庭とやりおうて勝ったんやろ?俺のヘロヘロボールぐらい取れんでどないやっちゅうねん!」
「どないやっちゅうねんって言われても取れても返せねぇんだよ」
「取るだけでも頼むって!」
「わかったわかった」
諦めて構えると、本当にヘロヘロボールが飛んで来た。
これぐらいなら片手で取れるので体と左腕で受け止め、虎吉の所へ向かった。
「投げんの下手だな」
「やかましいねん!しゃーないやろ!足怪我してんねんやから!」
この虎吉、交通事故が原因で足を怪我で入院して今は車椅子生活。中々苦労しているなと思い虎吉の右手にボールを持たせた。
「足が原因じゃない、腕の使い方が悪い」
「なんや?」
「山なりに投げるな、そんなボールじゃインターセプトされるぞ」
「だから…!」
「どんなに短い距離でも良い、鋭く真っ直ぐになるように投げるんだ。全身の力を使うのは当たり前だが上半身だけでも投げられるようになれば後々下半身が着いてくる」
「そうなん?」
「ボールを上下させず真っ直ぐ投げる、それを意識して投げてみろ」
「お、おう」
何度か繰り返しキャッチボールをして虎吉が疲れたと言うまで続けた。
「ところで虎吉、何で桜庭を推してんだ?」
中へ入って自販機で飲み物を奢ったついでに桜庭推しの理由を聞いてみた。
「去年のタッチフットの大会の帰りにな、たまたま通りかかったグラウンドで王城と泥門の試合やっとってん」
「去年?……あぁ、93対6でボロ負けしたやつか」
「そん時にな!桜庭がめっちゃ高く飛んでパスを取ってん!あれ見てすっげー!思ったんや!」
「背が高くて良い選手だよな」
「分かってくれるか!?」
「まぁな、今回は勝ったけど次やる時は負けるかもしれん」
「流石俺のヒーローや!悪魔の手先みたいな面してるお前なんかボッコボコにしてくれるわ!」
「口には気ぃつけな、入院期間が長くなっても俺ぁ知らねぇぞ…!」
「すんません!!よう見たら双葉はんイケメンさん!」
「今更世辞を言っても遅せぇ!」
「ギャハハ!くすぐらんといて!!死ぬ!死んでまう!」
「桜庭は春大会出られやん?うそや!なんで!?」
桜庭の状況を伝えると虎吉が驚いていた。
「俺との接触(してない)が原因でな。本人も精神的に辛くてプレイに集中出来ないんだよ」
「そんな……桜庭なら絶対に立ち上がるって!俺は信じてる!」
「そうだな、俺もそう思う」
携帯を手に取り、ボタン操作を始めた。
「そんな桜庭にメッセージを送ってやってくれ」
「?」
虎吉へ携帯を手渡した。
「?…………もしもし……え!?うそ!本物!?」
電話相手は桜庭、謝罪に来たその日に連絡先を交換したので、ファンだって言う虎吉と話をさせようと思っただけ。
これで桜庭がやる気出すならそれで良いし辞めてしまうならそれもしょうがない。わざわざ敵に塩を送る様な行為はヒル魔からすればブチ切れ案件だろうけど、俺はこっちの方がいい。
「双葉はん…桜庭と話させてくれてありがとう」
「もういいのか?」
「うん、今度ここへ見舞いに来てくれるって約束してくれた」
「そ、なら桜庭のファンやってはっきり言って元気付けてやれ。そんでもって何が凄いのか全部吐いちまえ」
「ありがとう双葉はん、ありがとう…!」
「ははっ!泣くほど嬉しいのかよ」
翌日には本当に桜庭が来たようで、虎吉はこれでもかと喜んでいたと桜庭本人と虎吉から聞いた。
数日後。
酸素カプセルに入り終えた俺は院内の廊下を歩いていると車椅子に乗った虎吉が俯いているのが見えた。
「……」
確実に何かあった。
そう察した俺はコーヒーを買って虎吉用にもジュースを買い、虎吉の頬へジュースを当てた。
「冷たっ!」
「何しょげてんだよ」
「双葉はん…」
「話してみろ」
「実はな…………」
来月、タッチフットの大会があり虎吉は最後の出場する機会だった。
だが交通事故が原因で足を負傷して未だ動かない。本人は大会に出ると意気込んでいたものの、現実は非情。歩けるようになるまで1年以上かかると医者から言われたそうだ。
6年頑張ればレギュラーになれる。タッチフットの監督に言われ、その通りに頑張り続けようやく手にしたレギュラーの座。それを不運な事故によって奪われた小学6年生の心は辛くてしょうがないものだろう。
「なんやったんや俺の6年!何のために頑張ってきたんや!!」
ボロボロと涙を流す虎吉にそっと頭に手を置いた。
「まだ先がある。タッチフットをやるのが虎吉の夢じゃねぇだろ」
「せやけど!俺は…!」
「焦んな、お前はタッチフットよりもアメフトがしたいんだろ?なら今はしっかり体を治して次に繋げろ」
「……!!」
「今ここで泣いてるだけじゃ何にもならねぇぞ」
「じゃあどないしたらええねん!」
「応援しろ」
「!」
「タッチフットの大会に行って仲間を応援するんだ。一緒に頑張って来た仲間を、一緒にキツイ練習をした仲間に虎吉の気持ちを言葉にして応援してやれ。それが仲間だろ」
「…………」
「俺だってアメフトをやりたい。だけどこの怪我じゃ無理だと分かってるから俺は早く治そうと頑張っている。お前はどうだ?ここで泣いて終わりか?」
「…………ちゃう」
「じゃあどうする」
「……応援、行く……リハビリも頑張る」
「それで良い、それでこそ虎吉だ」
「なんで双葉はんはそないに前向きにおれんの?」
「あ?俺は骨が折れても絶対に折れない心ってもんがあるからに決まってんだろ」
「折れない…心…?」
「それがあればどんなに辛い目にあっても立ち直れる、もう1回やろうって思える、やり遂げようと努力する。この折れない心が原動力だ」
虎吉の胸に人差し指を当てて伝えると、泣いていた虎吉が泣き止んだ。
「頑張れ、虎吉なら絶対に治ってアメフトで活躍出来る」
「!!」
「そんなグズグズしてたらヒーローに笑われるぞ」
虎吉から指を離し、2度頭に軽く置いてから傍を離れた。
「双葉…」
虎吉から離れてすぐの角には桜庭が立っていた。
「ヒーローの出番だ、励ましてやりな」
「……俺は、双葉みたいに折れない心を持てるだろうか」
「それは自分次第だろ、自分で考えて決断したものが正解だ」
「お、俺は…」
「焦んな、焦って答えを出しても意味が無い。まだ大会は続いているし秋大会まで時間もあるんだから焦らずに答えを出せばいい」
「……本当にごめん」
「おいおいまだ謝るつもりか?ちゃんとケジメつけて手打ちにしてんのに引き摺られてたら次やる時マジで病院送りするぞ?」
桜庭の背中を軽く叩いて虎吉の方へ送り、自分の病室へ戻った。
病室へ戻ると看護師が居て明日退院だと言われた。
酸素カプセルはここに置いているから定期的に来ても良いと言われ、虎吉への挨拶を含めて退院の準備を進めたのだった。
「お世話になりました」
「レントゲンを撮ったりするからまだ通院だし練習はまだ禁止だからね」
「はい、それでは」
入口で医者に頭を下げて礼を伝え、自動ドアを開けて外へ出ると…………何故かヒル魔と巨大なカプセルがあった。
「ようファッキンセカンド、俺から退院祝いだ」
「酸素カプセルか?随分と豪勢な祝いだ」
「王城に買わせた。治るまでずっとこの中で過ごせ」
「移動は?」
「セグウェイと合体させてっから重心移動で行ける」
「そりゃまた……デザインも無理矢理くっつけたものだし……まぁいい、入ったら良いんだろ」
渋々中へ入ると、酸素カプセルが動き出した。
「おお、中々圧巻の景色、先ずは重心移動させて前へ…………?」
おかしい、何故かヒル魔が遠のいて行く。
「おーいヒル魔ー!」
「テ、テメェ!なんで前へ移動させんのに後ろへ行くんだバカ野郎!!」
「助けてくれ!どうやって停めたらいいんだ!!?慣れないこれを扱うには俺の技量が足りねぇ!」
「前へ体重をかけろってんだこのクソ不器用が!!」
「まえ、まえ……前ってどっちだ?うおーっ!?なんで景色がグルグル回ってんだ!?」
「止まれ!動くんじゃねぇ!!」
「やべっ吐きそう…!」
「吐くな!止めてやっから外で吐け!」
何とかリバースを免れた俺は普通に歩いて行くのだった。
この移動式酸素カプセル、セグウェイと合わせるのダメ絶対。2度と乗らない。
セグウェイに乗ろうって心は折れた。
蓮次の早期退院!酸素カプセルさん万歳!
残念ながら移動式酸素カプセルさんを扱うには見取り稽古を得てないと扱えず……泣く泣くお蔵入りに。
蓮次「自分、不器用ですから…グスン」