退院した俺は大体1週間ぶりの登校、もちろん徒歩でだ。
移動式酸素カプセル?あれは俺が使うには勿体ない(上手く移動出来ないから)。
休憩時間になると入って使うけど普段からずっとは無理だ。
当然まだ骨は治って無いので練習禁止、試合なんて以ての外。
今はギプスというかなんか背中で縛られるみたいなギプスを付けられて腕を布で釣って鎖骨に負担がかからないようにされている。
折れた鎖骨は右、俺の利き手は右……それだけでこれからの日常が不便になると思うと気が重かった。
気が重いが部室に行こう。
「なんだこれー!!?」
部室の上にはでかでかとネオンライトで照らされた泥門デビルバッツのイメージキャラクター”デビルバット”が飾られている。
「いつから部室がカジノになった!?春大会2回戦負けだからとうとうアメフト部が解体されたか?!嘘だろおい!校長がついにやけになってヒル魔に反抗してきたか!?」
「落ち着け蓮次」
「あ!?」
頭にタオルを巻いてタバコを吸っている職人の同級生が話しかけてきた。
「ムサシ!俺達の部室がエライ事になってんぞ!誰が頼んだ?!」
「ヒル魔がこれ作れってよ、うちとしては儲けに繋がるから受けたがまさかな…アメフト部はちゃんとやってるから安心しろ」
「どこがだ?!どう見てもカジノだろ!」
「カジノじゃねぇどう見てもアメ…………カジノだな、いや…アメフ…カジノだろこれ……アメフト部だ間違いねぇ」
「俺の目を見て言えムサシィ…!」
「それよりも、お前それ」
武蔵が俺の右肩を見て聞いてきた。
「あぁ折れた、しばらく練習禁止だ」
「試合でか?」
「事故だ、プレイ中じゃねぇ」
「治ってもやんのか?」
「当たり前だ」
「さすがだな」
「つーか聞いてくれよムサシ〜この前の試合せっかく良いとこまで王城を追い詰めたのに俺が抜けてからあっさり逆転されたんだぜ?」
武蔵に軽く当たって愚痴を言うと、タバコを消した武蔵が黙って話を聞いてくれた。
「しかも3点差、どうよこれ。トライフォーポイントでキックを確実に入れてりゃ同点だったし勝ってる場面でキックで3点入れてりゃ俺達が勝ってたんだぜ?ヒル魔の貧弱キックじゃ入らねぇしどうしたらいいと思う?キッカー不在はでかいんだよ」
「……お前がやれよ」
「俺よりもキックが上手いやつがいるんだからポジション奪うわけねぇだろ。あーあ早く戻って来ないかなー」
「あてがあるのか?」
「居るんだよなー」
白々しいやつめ。
「戻って来いよ」
「悪いがそれは出来ねぇ」
「俺がやるんだって視野狭めてねぇか?」
「……」
「俺が知ってる大人ってのはガキの犠牲で飯を食う奴じゃねぇ、逆にガキに飯を食わせてやりたいことをやらせるのが大人だ。ムサシが抱えてる工務店の職人は……」
「お前に何がわかる」
最後まで言う前にムサシが俺の言葉を止めて静かにキレた。
「俺が
「好きなものを辞めてまでか?」
「あぁそうだ」
「理解出来ねぇ……ならなんでお前ここへ来てんだ」
「だからヒル魔に頼まれたからだって言っただろ、仕事だ仕事」
「違う、ここはお前が来なくても出来る仕事だろって意味だ。他の職人に任せて自分は営業なり事務仕事なりして次の仕事を得るために行動すりゃいい、それをわざわざ棟梁のお前が来てヒル魔と会ってアメフト部と関わってる」
「……」
「俺から見ればムサシは未練があるからここに来てるって感じる。アメフトが好きだから近くで見たい、俺達と関わることでアメフトへの情熱を絶やさないようにする……そう見える」
目を見て話すとバツが悪いのかムサシがタバコに火をつけ始めた。
「やめろ、頼むからそれだけはやめてくれ」
火がついたタバコを口から奪って手の中に収めた。
「俺はお前と一緒にアメフトをやりたい。春は終わったが秋がある、お前が戻って来る為の席はずっと空けておくぞ」
「だから俺は……」
「良いから!キッカーは空けておく……あっつ!」
まだ火が消えてない!あっつい!
「おっと」
熱さから逃がすために手を振ると偶然にもタバコがムサシの方へ飛び、キャッチしてくれた。
「手に収めたなら早いこと火を消した方がいいぞ」
「それを早く言えって、火傷したじゃねぇか」
「はっ!カッコつけるからそうなるんだ」
「ははっ否定できねぇ…んじゃ、早く戻ってこいよ」
「だから俺は…」
「キックの練習サボんなよ、ヒル魔はどうだか知らんが俺は泥門デビルバッツのキッカーは武蔵厳だと決めている。タバコ吸って運動能力落としてキック力も落とされちゃ困る、絶対吸うなよ」
授業が始まるチャイムが聞こえ、ムサシと別れた。
■■■■■■■■■■
「……」
未だ掌の上で燃えるタバコ…すぐにでも消えそうな火を消そうと思えない。
「……またやりてえよな」
チリチリと燃えていき、灰になっても未だ熱が冷めず俺の掌に落ちる。
やがて燃え尽き…ポケット灰皿に入れて次のタバコを口に咥え──
『俺はお前と一緒にアメフトをやりたい』
『タバコ吸って運動能力落としてキック力も落とされちゃ困る』
──咥えたタバコを箱に直して箱ごと握り潰してゴミ箱に捨てた。
蓮次が手放したタバコを取った手が熱い。
まだ4月だがもう夏の気候に変わり始めているから
「蓮次がプレイ出来るようになったら考えてやる」
「厳ちゃんどうした?」
「なんでもねぇ、次の現場はキツイから気合い入れてけよ」
「おっしゃ!頑張るぞ!」
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放課後、カジノとなった部室でアメフト部以外の奴が筐体をジャンジャンバリバリうるさい音を鳴らしている中、セナが深刻な顔をしていた。
「なにか悩み事か?」
「あの…モン太が野球部に戻りました。それから何度か声をかけたんですが戻らないの一点張りで…」
「へー引き抜いたのに戻ったんだ」
「軽っ!?」
「まぁ折衷案で春大会終わったら好きにすればいいって言ったからな。どうせ逃げられやしねぇ、うちの悪魔がほら…」
「あー…」
アサルトライフルを拭いている悪魔ことヒル魔がこれでもかと怒りに顔を歪ませている。
「それになセナ、あの時は口八丁で騙すような真似をしたがモン太はきっと野球とアメフトの熱を天秤にかけるいい機会だと思う」
「熱、ですか?」
「熱っていうのが厄介でな、あそこで部費を寄付してくれているのみたいに景品が手に入るという熱に冒されてギャンブルに打ち込んでしまう。冷静に考えてやらない方が良いって分かってるにのめ込んでしまうのが熱ってものだ」
「そうなんですか」
「セナはギャンブルしちゃダメ!」
「まだ何も言ってないよ!?」
「ギャンブルに限らず熱ってのはあちこちにある。セナの場合初めはやりたくないって言ってたのにアメフトの試合を想像しただけで熱くなっただろ?」
「そうですね」
「実際体験してどうだった?もっとやりたいって思ったか?」
「はい!」
「それが熱、熱から始まり体験したことにより熱から欲へと変えて行く。もっと速く走りたい、進に勝ちたい、秋大会で優勝したい、クリスマスボウルへ行きたい、日本一になりたい。ほんの小さな熱がセナの中にある欲に火をつけて心を燃やす……気が付けば熱に体が支配されていくんだ」
「なんか壮大ですね」
「そうだろ?熱1つで人は変われるんだ」
「セナに悪いこと教えないで!」
「悪いことはなーんにも無い、熱があるからやる気を出せる、熱があるから1度離れてもまたやりたいと心を燃やせる。熱がなけりゃ
「う……くっ…!」
「はい論破」
姉崎が悔しそうにしているのを気分よく見てからセナと目を合わせた。
「モン太の話に戻そう。助っ人が終わったモン太が野球部に戻った、それを一緒にやりたいからと無理矢理引っ張ってくるのは間違いだ。それは分かるな?」
「はい、嫌々やるのは僕も嫌です」
「だよな。だからこそモン太の熱はどっちなのか、それを聞いてみればいい」
「モン太の…熱…」
「あぁ、野球ボールをキャッチした時とキャッチで決めたタッチダウン。どっちが熱かったか、どっちがもっとやりたいと感じたか…それを聞いてみろ。それでモン太が野球を選ぶなら潔く手を引こう」
「テメェ!クソザルをみすみす逃すってのか!?」
「強制させんなって言ってんだよ!お前は強制させてやらせてビビらせるから助っ人が集まりにくいんだよ!もっと心の熱を煽るような感じで誘えよ!」
「んな悠長な事してられっか!」
「面倒くさがるな!アメフト部員が増えて嬉しいのはお前もだろ!」
「僕……モン太と会って話をしてきます!!」
セナの心に火がついたみたいで、迷いが消えた顔で部室から出て行った。
「ケケケッ天然人誑し」
「またセナを誑かした!」
「これを誑かしたって言うなら俺はもう勧誘を一切やらん!」
「冗談だファッキンセカンド、俺もテメェの意見に賛成だ」
「今更フォローしても遅いぞ」
「熱意があるからこそやる気になる、ない奴はどんな事しても無駄だと知ってるから俺は先ずはやらせると決めてんだ」
「嫌よ嫌よも好きのうち理論か?よく分かんねぇがツンデレみたいだな……いやお前ツンデレだったわキモ」
「反対の骨も折ってぶっ殺してやる!今すぐ死ねぇ!」
「きゃー!ヒル魔君部室で乱射しないで!!双葉君も怪我してるのに煽るようなこと言わないで!」
ヒル魔が部室に入れたスロット機を全て壊してしまい、後日校長が新たに買ってくれたスロット機を楽しそうに遊んでいたのは秘密。
モン太正式加入フラグが建ちました!
そしてとあるキッカーの心にも熱が着き始め……これがいつ燃えるようになるのかはお楽しみに。
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