〜小早川瀬那視点〜
部室から野球部が練習しているグラウンドへ全速力で向かうと紅白戦をしていた。
「キャッチマーックス!!」
ちょうどモン太がボールに飛びついてグローブに収めている時で、ボールを取ってから手に持って投げようと振りかぶっている。
チッ……
投げたと気付いた時には僕の頬を掠めて校舎の壁に当たった……。
し、死んじゃう…!!モン太がノーコンだってアメフトの練習では知ってたけどその時よりも恐ろしい!!
また僕の方へ来て当てられるのが怖いのでネットの後ろへ避難!
「雷門の奴助っ人に行ってからキャッチ力は目を見張るものがありますね。ベースランニングも早くなってますし守備や代走要因なら…」
「肩もコントロールも悪い奴が使えるかよ」
僕の隣でコーチの人と監督さんが話してる。
「たとえ足が速くてキャッチが良くてもそれ以外がダメな奴は野球では使えん!野球は総合力だ!ひとつのことしか出来ねー奴は要らん!」
「まぁそうですね」
……なんて言うか、僕はモン太が凄いって知ってるのに他の人にはダメと言われるのが辛い。
2週間一緒に練習をして野球がどれだけ好きか教えてくれて、野球に活かせるからと双葉さんに言われて始めたアメフトを気に入ってくれて……酷い話を聞いた僕は監督さんの後ろに立った。
「あの!」
「あ?」
「モン太は凄いです!……誰よりもキャッチが上手くて野球が大好きでプロの野球選手になるって熱もあって……だ、だからモン太を悪くいうのをやめてください!!」
「「?」」
何を言ってるんだお前って顔をして僕を見ている。
「モン太って誰だ?」
「さぁ…?」
そこ!?……って普通に考えたらそうだった!
モン太って双葉さんがつけてくれたあだ名で本名は……えーっとえーっと……。
「キ、キャッチが凄い1年です」
「雷門の事か?」
「そう!そうです!」
「雷門を悪く言うな、か。お前アメフト部の部員だな?」
「確かに聞こえは悪かったと思う、だけど野球って総合力を問われるスポーツなんだ」
コーチさんが優しい言い方で教えてくれた。
「取って投げるは当たり前だけど、味方にちゃんと投げれないと相手に点を取られる。それだけじゃなくて打てないと点が取れない、それじゃあ試合に勝てないしうちも使えないと判断する」
「そ、そんな…」
「野球を知らんガキめ、野球はな走・攻・守揃って初めて使えるか判断する。中には一芸に秀でた選手も確かに存在するが雷門は一芸の中でも更に1点に秀で過ぎてアメフトでは活かせるだろうが野球では無理だ」
「!」
「欲しいのならくれてやる、どうせ三軍落ちで部員として認めん。せいぜい口説き落とすんだな」
「!!」
監督さんの言葉に怒ろうかと思ったけど辞めて、ベンチで休んでるモン太の元へ走った。
「モン太!」
「?…セナ!?どうしたんだ?」
「いいからこっち来て!」
「ちょ!な、なんだいきなり!?」
ここじゃいつボールが飛んでくるか分からないから避難!!
「ここまで来たら飛んでこない、はず」
「ぜぇーぜぇー…急に俺の手を掴んで走るなよセナ……」
「ごめん、モン太と話をしたかったんだ」
「悪いが俺はアメフト部に入らねぇぞ!俺は野球部!野球一筋なんだ!」
「モン太、僕の話を聞いて答えて欲しいんだ」
「?」
「モン太……アメフトは楽しかった?ヒル魔さんのパスを取った時やタッチダウンを決めた時、恋ケ浜と試合して勝った時、モン太は楽しかった?」
「あぁ、めっちゃ楽しかったぜ!タッチダウン決めた時なんてもう逆転サヨナラ満塁ホームランを打った時みたいに興奮したぜ!打ったことないけど」
「あっそうなんだ」
「俺は野球一筋でよ、本庄さんって元プロ野球選手が憧れなんだ。その人は俺にキャッチの凄さとか野球のカッコ良さとか色々教えてくれた師匠みたいな人でよぉ……その人を裏切る訳にはいかねぇんだ」
「裏切るってそんな…」
「いや待てセナ!言いてぇ事は分かる!別にアメフトをするのが裏切りとか言うわけじゃねえ!アメフトは純粋に楽しかったし燃えたし出来ることなら続けたいとも思えた!」
「なら…!」
「けど俺は野球選手の夢を諦めきれねぇ…!これまでずっと野球一筋で本庄さんみてぇになりたいと思ってやって来た。それをここで辞めてアメフトに変えるってのは俺の中で本庄さんに対する裏切りになると同じだと思ってんだ」
「モン太…」
「セナ、俺は同じフィールドに立ってアメフトの試合に出れて良かったと思ってる。王城には負けて悔しい思いをしたけど…またアメフトの試合の時助っ人呼んでくれよな!ぜってえ行くから!」
「あ…」
ここまで言われてモン太を誘うのが無理だと感じてしまい、モン太がグラウンドの方へ歩き出すのを止められなかった。
僕はモン太にアメフトの熱を伝えるのが無理で一緒にアメフトをやりたいって思いを伝えられず……なんて言って引き留めようか分からなくなってしまった僕は俯いた。
「逃がすわけねぇだろクソザルゥ……!!」シュバ!
「ウキ─ッ!」
やっぱり一緒にアメフトをやりたいって伝えよう!僕の熱をモン太にも…………。
「モン太!…………モ、モン太…?」
もう居ない、無理矢理連れ出されたのだから早く野球部に戻りたかったんだと思うと……寂しい。
とぼとぼと部室へ戻ると栗田さんとまもり姉ちゃんが掃除をしていて双葉さんが壁を拭いていた。
「戻りました…あの、すいません双葉さん……」
モン太の熱に負けましたと伝える前に双葉さんが僕の頭に手をのせた。
「よく頑張った」
アメフトで鍛えられたゴツゴツしているけど優しくて温かい手が僕の髪を優しく撫でる。
「すいません…モン太を…」
「気にすんな、どうせ痺れを切らした魔の手が伸びる」
「?」
「なんでもない。熱を伝えて人を動かすなんてそう簡単に行かないものだ」
「でも…双葉さんは簡単に…」
「経験値が違う。それにセナは俺みたいになれないし俺もセナみたいになれない。お互い違うからこそチームが成り立ってお互いを補える、セナが無理なら他の奴に頼れ、それがチームだ」
「…………はい」
「掃除を手伝ってくれ、ヒル魔が乱射して汚れがすごいことになってんだ」
「乱射した原因は双葉君だけどね」
「知らねー」
しれっとした顔で双葉さんが掃除に戻り、僕も掃除道具を手に取って始めた。
掃除が終わってまもり姉ちゃんがお茶を入れてくれると栗田さんが買って来たお菓子を食べながら一休みすることにした。
「双葉さんってどうしてアメフトを始めたのですか?」
「どうしたいきなり」
「あっいえ、ふと思いまして」
「簡単に言えば、入学式の日に栗田に誘われて見学しに行ったらヒル魔に誑し込まれた。それがきっかけだな」
「それだけですか…?」
「それだけ」
「そうだよ〜!僕が蓮次を誘ったんだ!」
「なんて言って誘ったのですか?」
「アメフトやってみない!?……だったか」
「うん!!そしたらなんだそれ?って返事して興味を持ってくれたんだ!」
「アメフトなんてスポーツを知らなくて興味持ったところへヒル魔にプロのビデオを見せられ、ヒル魔の熱意に伝道して火がついたのが始めたきっかけだな」
「懐かしいなぁー!」
「1年の時の双葉君ってどんな感じだったの?2年から一緒だったから知らないんだよね」
「ん〜特に今と変わりないかな?今みたいにショートヘアで紫っぽい黒髪だったし、細目でしょうゆ顔って言うのかな?……お腹すいてきちゃった」
「俺の顔を見てヨダレ垂らすな食いしん坊、俺はしょうゆ顔であってしょうゆ味じゃねぇんだよ」
「見た目の話じゃなくて性格なんだけど…1年の時もこんな感じだったの?」
「つーかなんで俺の昔話に変わろうとしてんだやめろ」
「あんまり話そうとしないから気になるの」
「関係ねぇから話さねぇだけだ、関係してんのなら話す」
「じゃあ話してよ、私弟さんの話聞きたい」
「関係してねぇだろバカ、俺は酸素カプセルに入るから失礼する」
カバンを肩に担いで双葉さんは部室から出て行ってしまった。
「もう!また逃げた!」
「まもり姉ちゃん、双葉さんの弟って?」
「双葉君の弟さんって芸能人なんだって」
「えぇ!?」
「へーそうなんだ!テレビ出てるかな?」
「まだデビューしてないって言ってたから出てないと思う。名前もどんな弟さんなのか教えてくれないんだよね」
双葉さんの弟って事は……双葉さんに似ててカッコイイのかな?
コンコンコン
しばらくすると部室のドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ?」
まもり姉ちゃんが返事をするとドアが開き、泥門の制服じゃなくて黒の学生服を着た茶髪の男子が入ってきた。
顔は幼さがあってカッコイイというよりかわいいって感じの美少年だ。
「こんにちは!今日から助っ人として来ましたセイジです!蓮次兄ちゃんいます?」
何故かニコニコしながらビシッと敬礼をするセイジ君……助っ人?蓮次兄ちゃん?
双葉さんの弟!?
モン太正式加入フラグが立ったがこの話で回収されるとは言ってません(笑)
今回はセナの熱意よりもモン太の熱意の方が勝ってしまったというものと、魔の手によって拉致される場面、そしてセイジの正式加入となります。