「んー!!!」
前回のあらすじ
放課後、アメフト道具でごちゃごちゃしている部室の真ん中に縄で縛り付けられている1年が居た。
以上
「ヒル魔!お前誘拐はやり過ぎだろ!!」
「ケケケッこいつのポテンシャルはやべーからな、運動部に取られる前にこっちで囲ってやんだよ!」
「そんなやべーのか?」
口に噛まされている布を取って縄を解いてやると、1年がホッとした顔になっている。
「ありがとうございます」
「2年の双葉蓮次だ」
「1年の小早川瀬那です。主務として入部しました」
主務だって…?
「おい、こいつのどこが黄金の脚を持つランニングバックだ。主務だって言ってんぞ」
「選手兼主務」
「そうか入部してくれてありがとう!」
「主務ですってばー!!」
兼任してくれるなんてめちゃくちゃ有難い!
手のひら返すのが早い?メンバーが増えるならなんだっていい。
「あの……双葉さんも選手なのですか?栗田さんと会った時に居なくて知りませんでした」
落ち着きを取り戻した小早川が質問してきた。
「まぁな、ポジションはライン。栗田と同じポジションだ」
「ラインはクビ、今日からタイトエンドな」
どうやら約束通り俺はラインからタイトエンドに変更になったみたいだ……別にいいけど。
「ライン…?タイトエンド…?」
「タイトエンドは何でも屋のポジションだが……アメフトはどのぐらい知ってる?」
「全くです…すいません」
「ファッキンセカンド、色々と教えてやれ」
「あいよ」
未経験者か、まぁアメフトを始める全員が未経験だから元から知ってる奴なんて居ない。俺もそうだったんだから教えてやらないとな。
「誰でも初めてはそんなものだから気にすんな。今日は簡単にルールとポジションだけな」
「あっはい!」
ゴミでいっぱいのテーブルを退かし、その上にお茶を置いて説明することにした。
「先ずアメフトは最低11人、攻守で入れ替わりやキックの専門チームもあるから30人以上で組んでいるところもある」
「そんなにですか!?」
「まぁ人数は11人居れば試合が成立するから気にすんな。で、アメフトは攻守の入れ替えがある陣取り合戦みたいな感じ、ボールを持った選手が相手陣地へ入ればゴール、専門用語でタッチダウンと言ってTDって略する」
「タッチダウンですか」
「タッチダウンは6点、その後2点を取るか1点を取るかの選択が出来てそれをエキストラポイントやトライフォーポイントって言ったりする。そこでもう1回タッチダウンすれば2点、キックで入れれば1点入る。ここまではいいか?」
「はい!」
「よしよしいい子だ」
小早川の頭に手を当てて撫でた。
「オフェンスは4回チャンス与えられて4回の内に10ヤード進めばもう4回攻撃する権利を得られる。それをファーストダウンと言ってオフェンスは連続して攻撃することが出来るが4回目の時に10ヤード進めなければそのまま攻守交代になる」
「ヤード…?」
「長さの単位な、10ヤードは約9m。1ヤード約0.9mだ」
「な、なるほど…!」
「アメフトとゴルフはメートルじゃなくてヤードで長さを決めてるから分かりにくいがメートル×0.9で計算すればヤードになるから覚えておくといい」
インチとかになるとまたややこしくなりそうだし言わないでおこう。
「ここまでは基本的なルール、何か分からないところは?」
「え、えっと……オフェンスはどうやって10ヤード進むのですか?」
「いい質問だ、それをポジションと合わせて話していこう」
また小早川の頭を撫で、指を2本立てた。
「やり方は2つ、走って進むかパスをして進むかだけ」
「それだけですか?」
「パントって言って蹴る方法もあるが今は省く。ディフェンスを避けながらボールを持って走るポジションのランニングバック、ディフェンスを躱しクォーターバックってチームの司令塔からのパスを受けるワイドレシーバーが進む為に必要なポジションだ」
話を止めると小早川が何か分かったのか手をポンッと叩いた。
「ランニングバックってヒル魔さんが言ってたあれですよね」
「そう、お前のポジションだ」
「だから僕は主務だって…」
「選手兼主務だろ」
「うぅっ……」
「ただランニングバックもワイドレシーバーも走るだけじゃねぇ、そいつらのフォローするポジションもある」
「そうなんですか?」
「あぁ、それがタイトエンドだ」
「あっ!それってさっきヒル魔さんが言ってた…!」
「そうだ。ディフェンスをブロックしてランニングバックの走る道を作り、時にはクォーターバックからのパスを受けるポジション。ヒル魔は俺をそこへ移すから試合だと小早川を守る役目になるかもな」
「双葉さんが…!?心強いです!」
「そうか?じゃあランニングバックよろしくな」
「…………ぁ」
自分で墓穴掘って項垂れてる、割と乗せやすいなこいつ。
「痛いのが嫌か?」
「へっ?……嫌です」
「だろうな、痛いのが好きな特殊な癖があるなら別だが大体はそうだ。俺も痛いのは嫌なタチだ」
「双葉さんもですか?」
「まぁな。それでも俺はアメフトを気に入ってやってる。本当に嫌なら俺からヒル魔に言ってランニングバックの話を止めて主務1本でやるのも良い、俺は歓迎する」
「!」
「怪我も多いスポーツだから痛い思いはかなり多い…それが原因でアメフトは怖いって思われるのは嫌だ。選手じゃなくてチームの為に貢献してくれる主務でも十分嬉しいと思ってる」
「……」
「小早川瀬那、目を閉じて想像してみろ。クリスマス当日、舞台は東京スタジアム。巨大なフィールドのど真ん中に立ったお前は大歓声に驚き、周りにある客席を見渡せば観客は満員。全員アメフトが好きでお前はそのアメフト選手の一員だ」
「…………」
目を閉じて想像している。
「ラストワンプレイ、タッチダウン1回で東西最強を決める最後の場面。小早川がボール片手に全力でディフェンス全員抜き去ってタッチダウン!小早川の脚のおかげで泥門デビルバッツは日本一を決めた!!」
「!」
「観客全員がタッチダウンに湧き、試合の終わりを告げるホイッスルが聞こえ、チーム全員が小早川へ向かって勝利を分かち合う為に自分に向かって走っている。始めは息を切らして何が起こったのか理解するまで時間かかるだろうな、だけど徐々に落ち着き状況を理解した時はどうだ?」
「……!!」
「今この瞬間に日本一になったと興奮が治まらずに心臓が激しく動きそれまで痛かった全部がどこかへ消え、仲間と勝利を分かち合う為に手を持っていたボールを投げ捨てて仲間の元へ走って一緒に勝利を分かち合う……想像した気分はどうだ?」
「…………凄く、熱いです。想像しただけなのに手に汗が滲みます」
「それがアメフトの醍醐味だ」
多く話したのでお茶を飲んで喉を潤すと小早川の顔つきが変わった。
「僕にも…できるでしょうか。痛いのは嫌だし力も無いですし貧弱の僕にもできるでしょうか」
「お前の黄金の脚ならできるさ。貧弱だろうが誰も触れられない最強のランニングバックになれる」
「や……やります!僕!ランニングバックをやります!」
「そうか、歓迎するよ小早川瀬那」
「はい!!」
その後小早川は入部届けを書いて帰って行った。
部室から出るとニヤニヤしているヒル魔が俺を見ていた。
「ケケケッ天然人誑し、上手く丸め込みやがったな?」
「誑し込んでねぇ、ただアメフトの熱を伝えただけだ」
「それが誑し込んでるってんだバーカ」
「やれやれと強制してアメフトが嫌われる方が俺は嫌なだけだ」
「……」
ゲシッと俺のケツを蹴ったヒル魔がアサルトライフルを肩に担いでどこかへ歩いて行ってしまった。
「ったく…同じような事を言って俺にアメフトの良さを教えたのは誰だって話だ」
「懐かしいなぁー!去年誘って入部してくれた蓮次だったもんね!」
「栗田に誘われたのがきっかけで、ヒル魔に誑し込まれて始めたんだ。アメフトに対する熱意は人一倍なのに顔に出さないで冷静なフリをしてるのはめんどくさいな」
「あははははっ!ヒル魔らしいよね!」
「確かにな」
何はともあれ、黄金の脚を持ってる小早川瀬那はランニングバックとして入部してくれた。
「ところで黄金の脚っていう話だけどどこが黄金の脚なんだ?」
「え……そういえばそうだね」
栗田も知らないって……ヒル魔のハッタリに引っかかってしまったか?