泥門高校の屋上からグラウンドを見下ろして撮影。
撮影する弟のセイジは試合が始まるのを今か今かとワクワクした顔をしている。
「興奮して落ちるなよ」
「うん!姉崎さんが一応って命綱を用意してくれて巻いてる!」
セイジの腰にロープが巻かれていて、どこと繋がっているのか目で辿るとしっかりと貯水槽の柱に結ばれている…これなら安心だ。
『ぶっころす!』
『YEAHー!!』
ヒル魔の掛け声に泥門デビルバッツのメンバーが気合いを入れて試合が始まる。ベンチには助っ人に呼んだ奴覚えが無い3人が怠そうな感じでベンチに座っているのが見えた。
背番号は…51、52、53。ライン組の面子か。
「うわっ!なにあれ!」
賊学のキックだが、蹴って直ぐに地面をバウンドさせるキック”オンサイドキック”からスタートした。
「オンサイドキック、ああやって跳ねさせて簡単にボールを取らせない様にして自分でボールを確保するか取った奴を直ぐにタックルするキックだな」
「あんなめちゃくちゃ跳ねたら取れないよ!」
「取れるさ」
「キャッチマックス!!」
モン太なら余裕で取れる。
だがその後が肝心、ブロックしてモン太を走らせるかパスをして……いや、モン太がパスをするのは……。
『アウトオブバウンズ!』
下手投げで何故か真後ろへ投げて外へ出してしまう珍プレイをしたモン太…当然ヒル魔から蹴られてしまう。
『Set!』
アウトオブバウンズした所から泥門ボールでプレイが始まり、ゴールまで後60ヤードでヒル魔の掛け声が聞こえる。
賊学のディフェンスの陣形はランとパス両方に対応しやすくバランスの良い”4-3ディフェンスフォーメーション”になっているが若干前寄り。
パスよりもランを、セナを警戒しているのが上から見てわかる。
『HutHut!』
2度の掛け声でヒル魔へとボールが渡りセナがヒル魔へ駆け寄るとハンドオフフェイクをしている。
「いいフェイクだ、上から見ても本当に手渡ししたみてぇに……おっ!マジで渡してんじゃん……あ?」
つーかセナ1人で突っ走る作戦!?
右サイドを大回りに走って進んでも誰もフォローに行ってねぇ!このままじゃディフェンスに詰められて終わりだ!
「バカ!味方に合わせろよ!」
案の定、賊学のラインバッカーの葉柱ルイが長い腕を活かしてセナと対決。セナへのフォローは無しで一騎打ちになった。
「あっ!」
隣のセイジが声を上げる。
正面からの一騎打ちで葉柱の腕に捕まってしまったからだ。
「あんのバカ、空回りしてねぇか?」
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〜小早川瀬那視点〜
『1ヤード後退!』
「カッカッカッ!王城で4回タッチダウンしたって聞いて警戒したがこんなもんか!」
強い…!簡単に捕まってしまった!
「こんな奴に抜かれたなんて進はゴミだな、最強のラインバッカーはこの葉柱ルイ様だ!」
「!」
進さんをバカにした!許さない!!
「落ち着けセナ」
「モン太…!」
「まだ試合は始まったばっかだ、次抜けばいいんだ、な?」
「……うん」
「パスで行く」
ハドルの時にヒル魔さんが作戦を伝えてくれた。
「今のプレイであいつらはランを警戒してるのが分かった。クソザルにロングパスを投げるから取れ」
「うッス!」
『Set!Hut!』
2回目の攻撃。作戦通りモン太が駆け上がる。
「いいっ!?」
だけど読まれていたのかモン太に2人のディフェンスがついている!
「ちっ!」
栗田さんが何とか持ち堪えていたけど栗田さん以外の所から抜かれてヒル魔さんにまでディフェンスが行ってしまい、パス失敗。
2回目の攻撃でも前へ進める事が出来なかった。
「ヒル魔さん、僕がボールを持って葉柱さんを抜きます」
ハドルでいつもヒル魔さんが作戦を考えて伝えてくれるけど今回は僕が提案した。
進さんをバカにしたのが許せない、僕の脚で何とかする!
「……アイシールドのランで行く。大回りすんじゃねぇぞ、テメェには足があるんだ一気に置き去りにしてやれ」
「はい!」
『Set!Hut!』
3回目の攻撃。
ヒル魔さんからボールを受け取り前へ進もうと……
「3人!?」
読まれてた!!なんで!?
「がっ……!!」
3人がかりで止められてしまった。
『4ヤード後退!!』
まずい、僕のせいで5ヤードも下げられてしまった。
ファーストダウンまで後15ヤード……遠い。
「こうなりゃパントだ、俺が蹴るからさっさと潰せ」
残り60ヤードの所から5ヤード戻されてパント……賊学がボールを取って早く止めないと半分以上進められてしまう。
最初のランといい、今のランといい何故か走りにくさを感じた。
それにヒル魔さんもどことなく焦っている様に見える。何故か視線が動いて何かを探しているように見えて落ち着きがない。
ハドルが終わってからヒル魔さんはパントキックを選択、賊学陣地へ向けた低い弾道の蹴りはあまり距離を稼げず賊学ボールになって攻守が入れ替わる。
さっきまでいた位置まで進まれてしまい、賊学ボールでプレイが始まるが…簡単に抜かれてしまうし、パスも簡単に通されてしまいあっという間にタッチダウン…………続けてトライフォーポイントでもキックで入れられてしまった。
0対7で賊学のキックから再開。また地面を跳ねるボールを蹴られ、モン太がキャッチしてくれたが直ぐに捕まってしまう。
第1クォーターが終わり、第2クォーターが始まって点差は0対14……2回タッチダウン取られて2回ともキックを入れられてしまった。
僕達の攻撃は上手く噛み合わず…残り60ヤード地点から攻撃を始める。
「タイムアウトォ!!」
『!!』
ピピィー!!
突然ベンチの方からタイムアウトを要求する声が聞こえ、笛が鳴った。
誰が言ったのか見ると、上にいたはずの双葉さんが居て僕達をこっちへ来るように手招きしている。
「何で降りてきたファッキンセカンド」
ヘルメットを外したヒル魔さんが双葉さんに質問している。
「お前が情けねぇからに決まってんだろバカ、お前何してんだ?いつからそんな腑抜けになったんだ雑魚が、脳みそ死んでんじゃねぇのか?」
「あぁ?!」
双葉さんの言葉にヒル魔さんがキレて胸ぐらを掴んだ。
「攻撃はフェイクなしで単調な攻撃、読まれて当然だ。後手の後手に回ってる癖に打開策も無くやられたい放題。この状況を作り出したのは司令塔のお前がバカな作戦しか思いつかねぇからだ。奇策は?ハッタリは?味方すら騙すフェイクは?普段のお前はどこへ行きやがった」
「…ちっ」
「ダサ過ぎて見てらんねぇ…ちったぁ頭冷やせバーカ」
「っ!」
双葉さんが給水ボトルの蓋を開けてダバダバとヒル魔さんの頭から水をかけた。
『うわぁ…………』
ヒル魔さんを除いた全員が双葉さんの行動にドン引きしている…だけど本人は知らん顔をして僕達の方へ向いた。
「モン太、パスルートを覚えたならルート通りに動け!上から見てたが全部真っ直ぐ上がるしかやってねぇぞ!」
「は、はいッス!」
「アイシールド、お前は味方と周りを見ろ!チームスポーツなんだから1人で突っ走るな、味方を頼れ!」
「は、はい!」
「ヒル魔が冷静さを失ってるなら栗田がラインを引っ張れ!お前が指示出さねぇからちぐはぐになってる、息を合わせてやれ!パスの時間を稼ぐにはラインがしっかりしなきゃ無理だぞ!」
「うん!!」
「その他のメンバー、泥門デビルバッツは攻めを第1でやってる。賊学だからってビビって全員消極的になるな。ぶっころすつもりでやれ!いいな!?」
『はい!!』
双葉さんの激が僕達の心に火をつけた。
「ヒル魔が使い物にならねぇから俺がやってやる……」
双葉さんが大きく息を吸う。
『ぶっころす!!』
『YEAHー!!』
ピィー!!
「試合再開します!」
審判員が言うと僕達はフィールドへ歩き始めた。
「ヒル魔」
「あ?」
双葉さんがヒル魔さんを呼び止め何か囁いている。
「…ケッ……ケケッ……ケーッケッケッ!!………クソがっ!」
「いったぁ!」
すると何故かヒル魔さんが笑い始め、双葉さんの太ももを蹴ってから僕達の方へ戻ってきた。
「ファッキンチビ」
「はい!」
ヒル魔さんが僕の傍へ来た。
「2度目の掛け声にボールを出す。テメェは俺の後ろについて栗田からボールを受け取って中央からぶち抜け」
「!……はい!!」
真剣な顔をしてヘルメットを被ると栗田さんの方へ行き、作戦を伝えると試合再開となった。
『Set!』
ヒル魔さんの後ろについた僕。
『Hut!』
次の掛け声でダイレクトで僕にボールが来る。上手く取れるか分からないけどヒル魔さんが僕を信じてくれているんだ!絶対に応える!!
『Hut!』
栗田さんからボールが投げられ、真っ直ぐ僕の方へ来た!
「ふんぬらばっ!!」
ボールを持って真っ直ぐ走ると、栗田さんが賊学のラインを押して道を作ってくれた!これなら行ける!!
ラインの間を抜けて前へ出ると、葉柱さんが両手を広げて待ち構えている。
「抜かしゃしねぇ!ぶち殺してやらぁ!!」
怖くない!進さんの方がもっと怖かった!もっと凄かった!
全力で走る!絶対に捕まらない!
「YA-HA-!」
ヒル魔さんが葉柱さんの前に立って視界を塞いでくれた!
これなら行ける…勝つんだ!!
「なっ…!」
葉柱さんの長い腕がヒル魔さんのブロックをくぐり抜けて僕のユニフォームを掠っただけ!もう誰も居ない!
フィールドを走っていると、風きり音と一緒に観客席からの声援が聞こえ、王城戦で受けた声援よりも近くにいるような錯覚と気持ちよさがあった。
『タッチダウン!!』
賊学戦その1でした。
最初はまさかの賊学陣がリードしての試合展開!
2番手を欠いたヒル魔のプレイミスというか作戦ミスというか…そのせいで押されてしまう状況。
状況を打破する為悪魔の頭に水をかけて冷やすという荒療治!
次回、賊学カメレオンズ戦その2……ようやくあの兄弟が出てきます。