太陽スフィンクスとの試合が終わった次の日。
アメリカのNASAエイリアンズと試合が控えていたのだがまさかのNASAエイリアンズがドタキャン。
キャンセルされた月刊アメフト部がヒル魔へ報告すると、意気揚々とNASAエイリアンズの監督”アポロ”は臆病者だと罵る映像を撮影し、世界中へ拡散。
映像を見たアポロが1ヶ月後に日本へ来て試合すると公言し、更に10点差以上で勝たなければアメリカの地を踏まんと言い切った。
それに便乗したヒル魔も10点差以上で勝たなければ日本から退去と言い出し……急遽パスポートを用意しなければならなかった。
10点差以内で勝つか、負けてしまえば日本とはおさらば……背水の陣でNASAエイリアンズとの試合、まだ1ヶ月先とは言え気が滅入る。
勝てば良いんだとにこやかな笑顔で言うヒル魔に呆れながらも朝練を終えて教室へ入った。
今回はアメフトから離れ、ごく普通の泥門学生の1日を過ごそうと思う。
「おはよう双葉君」
「おっす」
姉崎と同じクラスなので軽く挨拶を済ませ、自分の席に着くと、姉崎が1冊の雑誌を俺の前へ置いた。
「月刊アメフトか、特集号?」
「ううん、今回は太陽戦の記事が組まれてるよ」
「もう読んだか?」
「読んだよ、後は好きに使っていいから」
「さんきゅ」
雑誌を手に取って特集のページを開くと、大まかな試合の展開と泥門の選手の評価も書かれていた。
「アイシールド21にモン太、ヒル魔に十文字は好評だが…こりゃ酷い、黒木と戸叶は落第だってよ、頑張ってたのにな」
「双葉君も取り上げられているよ」
「俺は別にこういう評価は気にしねぇな」
「色んなポジションができるユーティリティプレイヤーだって高評価よ」
「野球かよ」
「ところでさ、高校からアメフトを始めたきっかけって何?この前は誘われたからって聞いたけど本当は言ってない部分あるでしょ」
鋭いな……まぁ別に話してもいいか。
「そうだなぁ…俺は中学の時、柔道をしていたんだ。というより男兄弟全員がやらされたってのが正しいか」
「そうなの?なんか意外」
「先祖から続いている柔道場をしていてその一環。道場でも2番だった」
「へーじゃあセイジ君もやってるんだ」
「いや、スカウトされたから辞めた。俺は何とか必死に食らいついてたが中学の時に兄貴にやられて熱が冷めた、折れないよう必死に頑張ったんだけどなぁ…ポッキリ心が折れた」
「お兄さんが1番?」
「あぁそうだ、今は兄貴も柔道を辞めて今は網乃高校でなんかやってる。正直嫌いな兄貴だ」
「仲悪いんだ」
「兄貴だけな、勝つ為なら卑怯な手を使うクソ兄貴でジジイも容認していた。その辺が折れないはずの心が折れた瞬間でもあったかもな」
「卑怯な手を許してたの?」
「ん、まぁな……その辺は関係ない話だ。んでアメフトを始めたきっかけだよな」
「そこじゃなくてお家の話をしてくれてもいいのに」
「関係ねぇからな」
「ちぇ…」
「入学式の日、柔道を辞めてなんの熱もない俺は適当にバイトして過ごそうかと考えていた。そこへ栗田に誘われてヒル魔にプロのビデオを見せられた」
「それは前にも教えてくれたよね」
「あぁ、その時にな……ヒル魔が俺にこう言ったんだ」
『アメフトは個人でやるスポーツじゃねぇ。アメフトはチームスポーツ、テメェ1人がどれだけ凄かろうが1人に全部を任せるわけがねぇだろ』
「ってな。あの時は刺さったな、柔道は個人競技だから俺1人で全部の責任を背負わないと行けなかった。それがまさか!って感じだった」
「アメフトじゃなくても良かったんじゃないの?」
「否定は出来ねぇ、けど俺が見たプロの映像は新鮮で熱くて…ヒル魔の言葉にも感化されて俺の心に火をつけた。そこからはもう姉崎の知っての通りだ」
「そうだったんだ」
「俺の昔を気になってたみたいだが聞いてどう思った」
「なんて言うか、双葉君らしいって感じ」
「あ?」
「柔道をしていたのは意外だったけど、いつも誰かの為に行動するでしょ?セナの為に私を論破してきたり、賊学との試合の時だってヒル魔君の為に水をかけて叱咤激励したり、双葉君がチームのみんなを大事にしてるっていうのは凄く伝わる」
「そこまで褒められたら恥ずいな…」
「本当は双葉君って個人競技よりもチーム競技の方が合ってたんだよ」
「かもな」
放課後、部室へ行くと1年全員が椅子に座って頭を抱えていた。
「何してんだ?」
「双葉さん、どうしてテストってあるんでしょうか」
「あ?」
セナが弱気になってる…。
「来週期末テストじゃないッスか、それで赤点1つでも取ればヒル魔さんが地獄の合宿をするって言ったんスよ」
「んだよその程度で頭抱えんのかよ、そんなの赤点取らなかったらいいじゃねぇか」
「無理ッス!」
「うーん……セナは数学と英語が壊滅的だからね、かなり勉強しないと厳しいかも」
「壊滅的って…普段授業中何してんだよ」
「いつも寝てる双葉君がそれを言う?」
「うっせぇ」
「双葉さんもそれなら厳しいんじゃないッスか!?勉強しましょうよ!」
「するにはするがお前ら程切羽詰まってねぇよ」
「ちなみに双葉君毎回学年2位の成績…こう見えて私と雪光君よりも賢いんだよね。いつも寝てるのに…!」
「そんなイラつくなよ、カルシウム足りてるか?」
「足りてます…!!」
「やぁみんな勉強してるかい?」
突然部室のドアが開き、中へ入ってきたのは爽やかな笑顔をしているヒル魔。その後ろには栗田と雪光もいた。
黒の学ランを着て、頭には「東大合格」と描かれたハチマキ、手には辞書ぐらい分厚い本で表紙にはアメフトボールとデビルバッツが飾られている。
「みんな頑張って東大合格しようね!」
「誰だお前」
「ひどいなー双葉君、僕はヒル魔だよ?何をそんなに不思議そうな顔をしているんだい?」
「鏡って知ってるか?あると便利なんだがちょっと見て来いよ。今のお前めちゃくちゃキモイから」
「ぶちのめすぞファッキンセカンド」
「化けの皮を剥がすの早えなおい」
「今度のテスト赤点取った奴が1人でも居たら地獄の合宿だ!何がなんでも落とすんじゃねぇぞ!」
「なんで今更なんだ?別に中間テストで赤点取っても何も無かっただろ」
「ケケケッ!アメフト部が全員お頭が悪いってなると後々面倒だからな!ここらでいっちょ勉強会とシャレこもうじゃねぇか!」
「ふーん?」
アメフトの知識をここでねじ込もうって魂胆か?
ヒル魔の事だから教師全員脅してテスト内容は全部アメフト関係にするとかやりそうだ。ルールを始め、フォーメーションとかパスルート等々、アメフトの知識はあった方が良い。
まさかのヒル魔が教鞭を振るうとは思わず、1年全員にアメフトについての授業を始めた。
「まぁ勉強が終わっても無理矢理合宿だとか言ってやりそうな気がするな」
「あー…ヒル魔君のことだからやりそう」
「そうなったらお前は家に帰れよ、女1人だけだとアレだろ」
「私は別にそういうの気にしないけど?」
「いや気にしろよ…」
「?」
男だらけの合宿に女1人って時点で色々察して欲しかったが……俺の考え過ぎかもな。
ヒル魔がホワイトボードに色々と書いては模型を使って知識を入れていく様子を、俺も復習と思って聞くことにした。
それからテストが終わるまで放課後、練習と勉強の繰り返し。ヒル魔に教わった内容を練習で行って体で覚えさせるこのやり方のおかげで、この1週間の練習はかなり良い効率だったかもしれねぇ。
え?テスト?普通のテストだった。ヒル魔の勉強会?あれはアメフトについての内容でテストとは関係ない。
つまり……。
「1年全員赤点か」
「どうして普通の勉強をしなかったの?」
物の見事に1年全員が赤点を1つ以上取る始末。ヒル魔がアサルトライフルを1年全員へ向けて今にも放とうとしていた。
「ヒル魔さんの勉強がテストになるって勘違いしちゃって…」
「俺もッス」
「ふごっ…」
「バカ共が…雪光はどうだった」
「赤点は免れて上から10番目には、今回のテスト難しくて苦戦しちゃって…双葉君は?」
「2位、相変わらずの順位だ」
「羨ましい」
「ほんとに、何でいつも寝てる人が私達よりも上なのか理解出来ない」
「さぁな」
「YA-HA-!!テメェら全員地獄の合宿行きだぁ!朝から晩までしごき倒してやらぁ!!」
アサルトライフルを乱射するヒル魔と逃げる1年達、地獄の合宿は今日から始まりそうだ。
「じゃあなんで先週テスト期間なのにアメフトの勉強をしたんだろう…?」
「姉崎、細かいことを気にしてはいけない」
「??」
何がなんでもこの合宿をさせたかったヒル魔の思惑があるんだろう、きっと、多分。
というわけで日常パートでした!
蓮次の昔話を聞き出すことに成功した姉崎。
果たして蓮次からの好感度が高まったのか、蓮次への好感度が高まったのか……細かいことを気にしてはいけない。
今回は特に(二重の意味で)進展が無く、次回から2話連続オリジナル展開の地獄の合宿編へと繋がり、本編へと戻ってようやくNASAエイリアンズ戦になります!
それでは次回をお楽しみに!