アメリカ合衆国テキサス州。
本来NASAエイリアンズが乗るはずだった航空券を強奪し、夜の便でアメリカへ向かう。
宿なんてものは取ってないし用意も着替え程度しかない。
「お前っていつも急だよな」
「ケケケッ!思い立ったら吉日って言うだろ」
「初めから計画してただろ」
「さぁなー」
「俺もまさかアメリカへ来るとは思わなかったぞ…いつの間にパスポート用意してたんだ?」
「偽装」
「それ犯罪」
「パスポートだけは本物」
「……つまりパスポート発行までの手続きは全部偽装したと?」
「さぁなー」
ヒル魔…お前ほんとにやべぇ奴だ。
指摘すると脅迫手帳をチラ見せしてまた仕舞う、これで脅したな…?
「わざわざアメリカへ来て何するつもりだ?」
「デスマーチ」
「なんだそれ」
「超地獄の合宿、死ぬか強くなるかの2択。それともう1つ用事がある、ファッキンジジイなら知ってるだろ、どぶろくだ」
「アメリカに来てるのか!?」
「あぁ、そいつを捕獲する」
「??」
ヒル魔とムサシの会話についていけない俺は黙ってることにしたが、これ以上話すつもりはないのか、パソコンを閉じたヒル魔がアイマスクをして寝始めた。
「俺らも寝て少しでも体を休めるぞ」
「そうだな、俺も寝るわ」
「おう」
ムサシとの話も終えて寝ることにした。
やがて到着したアメリカ。
空港を出た俺達が先ず向かったのはビーチだった。
近くの店でヒル魔が交渉()して善意で水着をもらうとほとんどのメンバーがビーチへ駆け出して遊び始めた。
ビーチで遊んでいるセナ達を見ていて、適当な所に寝転んだ俺は遊ばずに昼寝をすることにした。
「双葉君」
「ん?……ふぁ〜……なんだ姉崎」
白いビキニをして腰にはスカート的なやつを巻いてる姉崎が俺を見下ろしている。
「そのままだと熱中症になるよ、これ飲んで」
「さんきゅ……ってなんか甘そうなスポドリだなこれ」
「これしか無かったの、あとパラソル貸してくれたから挿しておくね」
「いたれりつくせりで、何か忙しなさそうに見えるが何かあったのか?」
「うーん、セナ達がビーチフットボール大会に出るって言うからちょっとだけね。私は戦力外だって言われて代わりにヒル魔君が入ったの」
「ふーん、そりゃまた楽しそうなもので。セナを守りに行かなくていいのか?」
「うん」
「セナはもう私が守らなくても良いから」
どうやら成長したのはセナだけじゃないらしい。ずっとあれこれ言ってきた姉崎も成長していたと気付いた。
「どうしたの?」
「成長したなって思っただけだ」
「…あれだけセナが頑張ってる姿を見ればもう守らなくてもいいって思っちゃった」
「そうか」
「それに、試合だと双葉君が守ってくれるでしょ?」
「過保護にはしねぇけどな」
「セナにタックルされないようにして」
「無茶言うなよ…確実に無理だわそれ」
やっぱこいつ成長してねぇな?
しばらく2人で話していると、ビーチフットボール大会の方が大盛り上がりしているのが聞こえた。
「優勝チームが決まったのかもな」
「かもね」
「ずっとここに居たけど良かったのか?」
「下手に歩き回ってるよりここにいる方がいいかなって思ったから」
「まぁ姉崎って結構モテるだろうからな。男と居ればそう簡単には寄ってこねぇか」
「そうなの?」
「無自覚かよ…朴念仁じゃねぇか、本気で言ってんのか?」
「全然、知らなかった」
「こりゃ姉崎と付き合うって男は苦労するな……未来の恋人さんご愁傷さま」
「なんで私が悪いみたいな言い方するのよ…!」
「自分の胸に聞いてみな」
休むだけ休んだ、向こうに行って合流するか。
「行くぞ、あんまり待たせたらヒル魔が実銃でぶっぱなしてくるぞ」
「アメリカは銃社会だけど誰も止めようとしないのはどうしてだろうね」
そりゃお前……。
「フィクションだからだろ」
だから
ヒル魔達の元へ着くと、栗田が泣きながら誰かを抱き潰しているのが見えた。
どうやらヒル魔が探していた人物のようで、ヒル魔と栗田とムサシの中学時代の恩師”どぶろく先生”だと教えられた。
今は借金取りから逃げてアメリカに来ており、アメリカで高校に行ってない奴を見つけて泥門へ送るスカウトの役目を担っていたが……何故かビーチフットボールを教え、ヒル魔の怒りを買って背中に銃を撃ち込まれている。
そこからどぶろく先生のデコトラに乗ってベン牧場とやらへ出発。
どうやらそこで西部ワイルドガンマンズが宿をとっているらしく、送って行くついでに宿を提供してもらう段取りだ。
「お前さんタイトエンドだって?俺も現役時代タイトエンドだったからちょっと親近感が湧いてんだ」
運転中どぶろく先生が話しかけてきた。
「元々ラインしてましたがクビになってタイトエンドをやってます。それとライン以外のポジションもやります」
「元ラインマンで転向か、へー……おい待て、ライン以外のポジションだと?じゃあランニングバックもやるってのか?」
「あとクォーターバックも」
「何でも屋の意味が違ぇんだよ、こいつちょっと頭おかしいぞ」
「ヒル魔に言ってもらえません?試合中運動量が多くて最後までスタミナが持たないんですよ」
「ポジションが違えば使う頭も筋肉も違う、そりゃバテて当たり前だ。タイトエンドならそこに絞れってんだ」
「こいつは90点の結果を出す最強の2番手だぜ?使えるもんは使って当然だ」
「2番手ねぇ…何が得意だ?」
「さぁ…何だと思うヒル魔」
「ねぇよ、それがこいつだ」
「勿体ねぇなお前さん、色々出来るってんなら1点集中させれば化けるだろ」
「「無理だな」」
「ハモる程か!?」
「こいつは特化する部分がねぇ、どれだけ鍛えても精々1番秀でてる奴を目立たせる引き立て役が限界だ。アメリカ戦ではちぃーっとばかしバケモンの要素が出てきたけどな」
「あんなパワープレイ2度も出来ねぇよ」
「基礎さえ上がればパワープレイも余裕だ」
「ってぇ事は時間かけて基礎を作りあげりゃ最強になるってか?今のスペック言ってみろ」
「身長185cm、体重73kg、ベンチプレス140kg、40ヤード走5秒」
「スペック高ぇなおい!もうちょい体重増やせばもう十分だろ!」
「今思えばよく1年で記録70kgも伸ばせたよな」
「やべぇなこいつ!伸びまくりじゃねぇか!」
「そうだ!こいつは伸び代満載!1年でベンチプレス70kgも上げたんだぞ?後はスピードさえつきゃいよいよ泥門の2番手”白銀”の完成ってわけだ!」
「それがムズいんだよ」
「5秒の壁か、それを超えりゃ確かにバケモンの誕生だな」
「走り方を覚えてから色んなポジションをやらせては走らせて体に染み込ませてはいるがまだ成果がでねぇ。馴染むまで時間がかかるファッキンセカンドの不器用なところだ」
「あっお前それで俺を走らせる事ばっかさせんのか、今ようやく理解したわ」
「そこで短期間でスタミナ強化と長距離のランニングが必要不可欠、だったらもうやることは分かるよな?」
「デスマーチってやつだな?よしやろう」
「本気で言ってんのかお前ら!?あんな拷問をやるなんて馬鹿げてる!」
「やるんだよ、でなきゃ後1ヶ月ちょいで秋大会が始まる」
「俺達は最後の大会です、拷問だろうが何だろうが強くなるならやりますよ」
「ケケケッそういうこった。こいつはそういう奴だ、どれだけビビらせようが響かねぇよ」
「…………」
俺とヒル魔の言葉にどぶろく先生が黙ってしまい、ベン牧場へ到着したのだった。
という訳でどぶろく先生の登場!
元タイトエンドのどぶろく先生が蓮次の異常性にツッコミを入れるのは至極当然かと……ほんと、便利な蓮次君です(笑)
次回からはいよいよ死の行軍(デスマーチ)へ向けてのお話。
果たして蓮次はどのような鍛錬をするのでしょうか!!