デスマーチが始まって3時間経過。
一切の休み無しで走り続け、既に痛みが出てきた。
足だけじゃなくて全身……俺は80キロの岩が入ったリュックサックを背負っているんだ、重くて重くて仕方ねぇ。
走る度に膝に負担がかかるし、上下に動けばリュックサックも動き、その反動で肩にも負担がかかる。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
長時間のランニングをすれば段々と精神的にも負担がかかってくる。
いつまで走ればいいのか、どこがゴールなのか、なんでこんな苦行をしているのか…延々と走り続ければ嫌な思考に回って来るものだ。
上り坂下り坂、変わり映えしない同じ景色で余計に精神を抉られてしまう。
「随分良い顔するじゃねぇかファッキンセカンド!」
「お前もだろクソ悪魔!」
時折ヒル魔が俺に発破をかけてくる。それに多少救われる部分もあってお互い罵りあいながらもデスマーチは続く。
「その銃が入った箱は随分軽そうだなぁ!そんなんで強くなれんのか!?」
「テメェの方こそ喋る余裕があるみてぇだしもっと重量増やした方が良さそうだな!」
「はっ!軽すぎるからお前よりも先に行ってやるよ!」
ヒル魔を抜かす為に足に力を入れて走る。
余計にキツくなってちょっとだけ後悔した。
今日のゴールに到着したのはデスマーチ開始から5時間程。
目印の看板まで来た俺は80キロのリュックサックを降ろしてその場に座り込んだ。
「キッついなぁ…これがデスマーチか」
「甘ぇな、デスマーチのキツさは地獄の合宿の2倍以上だぜ」
「…………おいまさか夜通し走るとか言わねぇよな?」
「ケーケッケッケ!」
「マジか、マジか!!」
「マジかよー!!」
徹夜で走りました。
「ここをキャンプ地とする!」
トラックを止めて宣言したどぶろく先生だが、誰も動かない。
「今から24時間後に出発だ、それまで冷やして体休めておけよ」
姉崎が率先してアイシング道具を渡して行くのを横目にトラックにもたれて座り込んだムサシの隣に座った。
「キッカーなのにライン組と同じ事するなんてな」
「現場で鍛えたとはいえ、これはキツイ」
「ははっどんまい、蹴る練習はしなくてもいいのか?」
「日本に戻ったらやるさ、ここでは基礎を鍛え直す。これまでサボってた俺にはちょうどいい鍛錬だ」
「ははっ!これがちょうどいいってか、流石ムサシだな。俺はちょっと裏へ行ってくる」
「おう」
ヒル魔の元へ行く前に1つアイシング道具を手に取り、トラックの後ろへ回った。
「ほれ」
「ん」
ヒル魔に投げ渡すと右膝に巻き始め、俺に無糖ガムを投げ渡して来た。
「秋大会の初戦は網乃だぞ」
「へーそう」
ヒル魔の隣に座り込んだ俺はガムを噛んで適当に答えた。
「選手登録者も公開されている。双葉長嗣の名もあるぞ」
「そりゃいい、合法的にぶっ殺せるって訳だな」
しばらくの間ヒル魔がカタカタとパソコンを操作する音だけが聞こえ、無糖ガムを噛み続けていた俺は銀紙に吐いて捨てた。
「……ガキの頃は仲は良かった」
「あ?」
「まぁ聞けよ、ちょっとした昔話だ。何をやっても上手く行くクソ兄貴を見ていた俺は兄貴に追いつこうと毎日朝から晩まで必死こいて稽古に励んだ」
「昔から変わらずクソ真面目だな、どうせ見取り稽古で覚えたんだろ?」
「さぁな、最初はすぐにやられたが稽古に費やす時間を増やせば増やす程戦えるようになった、同時にジジイから稽古する時間を減らされた」
「ほう?それは初耳だ」
今まで言ったことねぇからな。
「ジジイ相手に何度も稽古を頼んで繰り返しやられてりゃそのうち才能がねぇってレッテルを貼られる。どうせ俺に時間かけるぐらいなら才能ある兄貴に時間を費やした方が効率が良いって判断だろ。そこから段々とクソ兄貴との仲が悪くなっていった、理由なんてものはねぇ…ただ、クソ兄貴が俺を見る目が気に入らなかった」
「へぇ」
「時間を減らされ、ジジイから弟達の面倒を見ろと言われ……中学3年の時だ。ある日、ジジイが兄貴を連れて俺の所へ来た。開口一番、試合しろってな」
「結果は聞くまでもねぇな。やられたんだろ」
「あぁそうだ、コテンパンにやられた。もう2度と柔道をやりたくないって程にな。ボロ負けして仰向けの状態で道場の天井を見て涙や鼻水をダラッダラ流して情けねぇ格好で決意した」
「それで完成したのが入学式に見た無気力ファッキンブービーってか」
「まぁそんな感じ。あの時プロのビデオとお前の言葉で無気力だったのに火がついた。俺1人じゃ無理でもチームなら1番になれるって教えてくれたヒル魔のおかげだ」
「…突然何を言うかと思えば気持ちわりぃな」
「ははっ悪かった、変なテンションになってた。クソ兄貴の名前を聞いてついな」
「テメェと兄貴との確執はどうでもいい、俺らが目指すのはクリスマスボウルだ」
「あぁ、ここにいる全員で目指そう」
ヒル魔と話を終え、荷台の方へ回ると姉崎がアイシング道具を手に持って待っていた。
「はいこれ、双葉君だけ使ってなかったでしょ」
「お、さんきゅ」
受け取った俺は膝に巻いて適当な所に座り、その間姉崎は黙って俺を見ているだけだった。
「なんだ?」
「……ううん、なんでもない。明日からも頑張って!」
「おう」
きっちり24時間休んだ俺達はまた走り始める。
2日走って1日休み、そのサイクルを繰り返すのがデスマーチだ。
まだデスマーチを初めて間もないのに最後尾を走っていたセナに変化が現れる。
走ってはスピードを緩めて石を蹴って、走っては緩めて蹴ってだったが今は緩めずに蹴り続けている。
最後尾を走り、セナがどんどんと進んで行く姿を見ていると、デコトラを運転しているどぶろく先生が声をかけてきた。
「体を上下に動かし過ぎだ。無駄な動きがついてるぞ」
「は、はぁ!?」
「背中の岩を動かさねぇ様に背負え」
「動かさないように…?」
「ファッキンアル中!こいつに理屈を教えんじゃねぇよ!ぶっ壊れるじゃねぇか!」
「お前俺の事バカにし過ぎだろ!」
「テメェには無理なんだよクソ不器用野郎!!」
「できらァ!!」
「腹回りがキツイ…!」
体幹の筋肉をフルに使って支えねぇと背中にある岩が動く!だけど最初と比べて走りやすいのは確かだ!
徹夜して走り続け、サンアントニオ市に到着。
モーテル(宿)へ向かい、ヒル魔が交渉(脅しを)して1部屋をタダで泊まる事になった。
久しぶりのシャワーを浴びて戻ると、ヒル魔が部屋中にカードをばら蒔いていて、メンバー全員が拾っては見ていた。
「凝ったやり方だな」
俺の足元にあった1枚を手に取ると、スイープの作戦名と箒に乗ったお化けみたいなキャラが描かれ、カードの下には丸と矢印が描かれてやり方を記していた。
「お前が描いたのか?」
「美術部が1晩でやってくれたぜ」
「ジェバンニかよ…」
とは言え俺とヒル魔だけで考えてその都度伝えるのは面倒、アメリカ戦でノーハドルで攻撃して来たようにこっちもノーハドルでやれればかなり有利だ。
「キャノンにブラスト、中央突破系の作戦もか。派生にモータルもあるな」
「キッカーがいるから使える作戦だ」
「だとよムサシ」
「あぁ、その時になれば絶対に決める」
「まともなタイトエンドがいれば作戦の幅が広がるぞ」
どぶろく先生が言うとヒル魔が無言で俺を指さした。
「全ポジション出来るタイトエンドなんてまともじゃねぇぞ…」
「こいつが最強のタイトエンドだ。こいつ以外誰も務まらねぇよ」
「いやいや…」
「タイトエンドってどういうポジションだっけ?」
「双葉さんのポジションで、パスを受けたりランでリードブロックする何でも屋だったと思う」
「それだけ?」
「うん」
モン太がセナに質問すると自信なさげに答えている。ヒル魔の教育の賜物だろうけど簡単そうに言うなよ…。
「それだけって言うけどなぁ…色んな作戦の中でどう動くか考えながらじゃねぇと無理なんだよ小僧共」
「「でも双葉さんは出来てる」」
「しかも双葉さんがボール持って走ったりブロックするし」
「パス投げたり取ったりもするよな!」
「それが異常だって気付けよ!!」
「欲しいポジションって言えばレシーバーだな、モン太だけじゃ数が足りねぇ」
「ファッキンセカンドの言う通りだ」
「そんなの俺がバシッと全部キャッチするッスよ!」
「モン太だけをバンプで邪魔して3人で囲んでパスを封じれば終わりだな」
「そんな無茶苦茶な事あるッスか!?」
「だからタイトエンドもパスを受けに上がる事で3人が2人、そこにもう1枚レシーバーが居れば2人が1人になる。レシーバーが増えればディフェンスの数を分散できてパスの成功率を上げられるって話だ」
「なるほど!」
チラッと雪光を見るとやる気満々な顔をしている。
個人的には雪光を推したいが……ここで推すにはまだ雪光は育っていない。ここは堪えようか。
そして俺達はまた24時間休憩をする為に寝ることにしたのだった。
デスマーチ編その1でした!
現状欲しい戦力はレシーバー、雪光はまだ使えないと判断されていてまともなレシーバーはモン太だけ。(蓮次はタイトエンドなので省く)
そこへもう1枚まともなレシーバーが入れば…果たして誰が入るのでしょうか!!
次回はいよいよ?…お楽しみに!!