泥門の2番手   作:実らない稲穂

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 さぁ秋大会の初戦!
 今回は雪光視点から、ベンチの様子を交えた話となります。



 それではどうぞ。





網乃サイボーグス戦

 

 

 

 〜雪光学視点〜

 

 

「この最初の攻撃は大事だぞ」

「え?」

 

 どぶろく先生がお酒を飲みながら呟いていた。

 

 

 『Set!HutHut!』

 

 栗田君からヒル魔君へボールが渡り、ラインがぶつかる。

 

 ほんの少しだけ拮抗したかと思えば1年生のライン組が崩され直ぐに突破されてしまう。

 

「ちっ…!」

 

 ヒル魔君が直ぐにボールを捨ててパス失敗に終わってしまった。

 

「あーあこりゃ言葉で言っても聞かねぇか。まも姐ちゃん、ラインの1年共は初大会か?」

「はい。モン太君は春大会の初戦から、セナは2回戦から出場しています」

「バックス組にはヒル魔と双葉もいるから大丈夫そうだな」

 

 このワンプレイでどぶろく先生は何かに気付いた様子だ。

 

「何かあったんですか?」

「あいつら初めての大会で空回りしてやがんだよ。負けたら終わりのトーナメントって雰囲気にも呑まれてるかもな」

「な、なるほど…」

 

 同じ立場ならきっと僕も同じ気持ちになると思う。

 

 

 

「1年ライン組集合」

 

 ハドルの時に双葉君が4人を呼ぶと、黒木君と戸叶君の肩を組んで円陣をし始めた。

 

「なーに焦ってんだお前ら、そんなやり方でラインやれると思うなよ。練習した通りだったか今の?」

 

 

 

「ほう?よく見てるな。そういう所か」

「一体何の話ですか?」

「喝入れてんだよ、あいつが精神的支柱ってのも頷ける。ヒル魔からすれば大助かりなポジションだな」

 

 4人の様子を見ていると肩が上がっているのが段々と下がっている。言葉で伝わらないって言ってたどぶろく先生だけどどうやら違うようだ。

 

 

 

 

 

「数字通りだな、網乃の筋力の敵ではない」

「いやいや、胸肩さん計算外でしたよ。泥門ラインの連中…こんなにも弱いとは思いませんでしたァー!!」

 

 『!!』

「まだ話は終わってねぇぞ、俺の言葉に集中しろ」

 

 網乃の胸肩さんと青柳さんが話しているのが十文字君達にも聞こえ、怒り顔を向けると双葉君が無理矢理自分の方へ向かせた。

 

 

青柳(あおやなぎ)君」

 

 胸肩さんと青柳さんの所へ背番号21番の双葉君のお兄さんが近寄って声をかけている。

 

「そうは思いません双葉さん?」

「相手を侮辱する言葉は許されない、今すぐ謝罪してきなさい」

「いえいえ双葉さん!事実を言ってるだけですよ!」

「最後通告だ、謝罪してきなさい」

「ですからぁー!」

青柳卓(あおやなぎすぐる)、君は何様のつもりだ?」

「!」

 

「君がどれほど努力をして強くなろうが人として間違えるのは許されない。相手に敬意を払えない愚者は即刻出て行って貰うよう今から監督に言って来るよ」

「ま、待ってください双葉さん!ほんの冗談ですって!」

「言い訳は結構だ、今すぐ謝罪してこい」

「はい!!」

 

 お兄さんの双葉さんは違うチームだけど根本は双葉君と同じだと見て思った。

 

 

 

「よーし落ち着いたか?お前らがこれまでやってきたものは絶対に裏切らねぇ、泥門デビルバッツのアメフトを見せつけてやるぞ!」

 『おう!!』「ふごっ!」

 

「あの……酷いことを言ってすいませんでした」

「謝罪は受け取った、プレイで見返してやるからさっさと行け」

 

 青柳さんが十文字君達に謝罪すると双葉君が応対して解散、その場に残ったのは双葉兄弟だった。

 

「卑怯者にしては随分真面目だな」

「僕は正々堂々やると言った、それだけさ」

「さっき聞きそびれた、お前ポジションは?」

「両面、ランニングバックとセーフティーをしている。蓮次も両面かな?」

 

「あぁ、ポジションはコロコロ変わるけどな。最後までフィールドに出るつもりだ」

「良かった、そしたらお互い両面の対等な立場で勝負しよう」

「へー人数揃ってんだから休めばいいのに。わざわざご苦労な事で、ならお言葉に甘えて真っ向勝負してやるよ」

「ふっ」

 

 双葉兄弟が別れるとハドルを始めた。

 

 

 

 

 『Set!Hut!』

 

 泥門の2度目の攻撃、フォーメーションはIフォーメーション。

 双葉君とセナ君が後ろに控えてプレイが始まり、双葉君がボールを持って右サイドを走る。

 

「抜かせん!」

 

 ラインバッカーの胸肩さんが双葉君の前に立ち塞がると、胸肩さんが少しだけ左に寄るのが見えた。

 進行方向を変えず双葉君が右手でしっかりとボールを持つとそのまま突進。

 

「前座は引っ込んでろ!!」

「お、おおぉ!?」

 

 タックルに来た胸肩さんの腕に左手を添え、肘の所を手で押して胸肩さんを双葉君の後ろ側へ倒した!

 

「なんだ今の技は!?初めて見るハンドテクニックだ!」

 

 どぶろく先生がベンチから立ち上がって驚いている。

 

 

 

「勝負だ蓮次」

 

 セーフティの双葉さんが間に合い兄弟対決が始まる。

 ボールを両手でしっかり抱えて1度内側へ体を寄せるフェイクをしてから外側へ走った。

 

「捕まえた!」

「!」

 

 だけどフェイクに引っかからずに両手でがっちり捕まってしまった双葉君…このままじゃ倒れてしま…………。

 

「この程度か?」

 

 た、倒れない!!?

 

「な…何故、倒れない…?」

「この程度で倒れる俺じゃねぇんだ……よ!」

「!!」

 

 そのまま走り始めた!!

 網乃のディフェンスも追いかけようとするけど他のみんながブロックして追いつけない!

 

 

「双葉長嗣。40ヤード走4秒8、ベンチプレス100kg、身長190cm、体重80kg。1年前の双葉君と比べるとお兄さんの方が速くて力がありました」

 

 姉崎さんが双葉さんの記録を教えてくれた。

 今の双葉君は4秒7、ベンチプレスは測ってないけど前は140kg、身長は変わらず185cm、体重は少し増えて78kg。

 身長と体重だけ劣っているけどスピードとパワーは双葉さんを超えていた。

 

 というか…バックスでその記録なら兄弟揃ってラインをしても良かったのではと考えてしまう。

 

「非効率だと言われながらも1年半もの間アメフトの為に心血を注いで地獄のデスマーチを乗り越えた双葉にとっちゃ、目の敵である兄のタックルで止まる訳がねぇ」

「デスマーチで担いでいた岩と同じぐらいの重さですが止められないのですか?」

 

「まも姐ちゃんの言う通り普通は止められるかもな、だがあいつは今心で進んでいる。絶対に倒すって気持ちと兄を超えるって気持ちがあればそう簡単には止められねぇもんよ。精神が肉体を凌駕するってな」

 

 酒を飲みながらどぶろく先生が解説してくれた。

 

「兄弟対決…勝負ありだ、案外呆気ないもんだな」

 

 口元を腕で拭ったどぶろく先生が締めの言葉を言うと、双葉君が双葉さんを引き摺りながら網乃側のゴールラインを超えた。

 

 

 

 『タッチダウン!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■■■■■■■■

 

 

 〜双葉蓮次視点〜

 

 

 タッチダウンを決め、ボールを持ったまま地面に倒れている兄貴を見下ろした。

 

「何故止められなかった!?あの状態なら普通は止まるはずなのに…!」

 

 何をそんなにびっくりしてんだか。

 

「最新の医学を用いて体を鍛えた!それなのにどうしてだ!!」

 

 なんかこうして見れば哀れにすら思えてくる。

 

「兄貴はアメフトに熱を持ってやってるか?」

「熱、だと…?」

「柔道の時とは違って俺は本気でアメフトに臨んでいる。つまり自発的にやってるんだよ」

「まさかそんな根性論で強くなったって言わねぇよな?気合と根性だけで強くなるなんて非論理的だぞ」

「おーおー怖い顔、口調が荒くなってんぞ?さすが兄貴だ、俺とそっくり」

「蓮次…!」

 

「論理だとか効率だとか言うけどよ、俺達もスポーツ医学を取り入れてアメフトをしている。スポーツ医学は網乃だけに許された特権じゃなく万人が出来るものだ」

「っ!」

「それに加えて地道な努力と反復練習、俺はそれを徹底して鍛えてきた。例え砂粒みてぇな小さな積み重ねであっても諦めず、挫けそうになっても支えてくれる仲間が俺の背を押してくれてまた積み重ねて行く。それが今の俺だ」

「…春のデータと全く違う、一体この短期間でどうやってそこまで強くなった」

 

「80kgの岩を担いで40日間で2000キロ走った。それだけさ」

「そんな馬鹿げた事を…!?」

 

「お喋りはその辺にして……兄貴。俺はお前にずっと言いたかった言葉あるんだ」

「……なんだ」

 

「俺はつえーだろ!どうだ参ったか!」

 

 ずっと俺の前を立ち塞がっていた兄貴を正面から打ち倒した時、この言葉を言ってやりたかった。

 

「俺は」と言うのは今だけ。これからは泥門デビルバッツと網乃サイボーグスで決着をつける。

 その後、「俺達は」ともう一度言ってやろう。

 

「まだ、終わってない。試合はまだ始まったばっかりだ」

 

 兄貴がギラギラした目をして俺を見てきた。

 どうやら俺を倒そうと熱を持ち始めたな?

 

「はっ!そう来なくっちゃな!」

 

 それでこそ兄貴だ。

 

 

 

 ■■■■■■■■■■

 

 〜雪光学視点〜

 

 ムサシ君がキックを決めて7対0。

 そして泥門のキックオフでムサシ君が高々とボールを蹴り上げ、網乃陣地ギリギリまで飛んだボールをキャッチされるとセナ君がタックルして倒した。

 

「後1ヤードだ!」

 

 惜しかった!もしゴールラインを超えて倒していたら自殺点で2点ゲット出来たのに!

 

 

 『Set!Hut!』

 

 網乃の攻撃。

 選んだのは…ラン、双葉さんがボールを持って中央突破を狙う。

 

『おりゃあああ!!』

 

 泥門ラインが全員で押し倒して崩した!!

 双葉さんは……まだ倒れていない!

 

「攻守交代だな!」

 

 崩れた所を超えて一気に双葉君が捕まえに行く!

 

「くっ…!」

「遅い!」

 

 何とか腕を伸ばして双葉君から離れようとしたけど、双葉君が体全体でタックルして倒した!

 それってつまり……。

 

 『自殺点!!』

 

 これで2点追加!しかも泥門ボールでプレイ再開だ!!

 

「ラインが安定すりゃあこんなものよ。デスマーチであれだけ鍛えりゃ並のラインじゃ相手にならねぇ。今なら太陽ラインとも良い勝負するかもな」

 

 凄い!みんなデスマーチで強くなったんだ!!

 

 

 

 9対0で網乃のキックオフからプレイ再開。

 このまま攻め続けて行けば絶対に勝てる!!

 

 





 というわけで網乃サイボーグス戦その1でした。


 デスマーチで強くなった泥門デビルバッツは果たして網乃サイボーグスを相手にどこまでやれるのでしょうか!!


 次回も網乃サイボーグス戦です、お楽しみに!!
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