泥門の2番手   作:実らない稲穂

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試合を終えてから

 

 

 〜姉崎まもり視点〜

 

 ヒル魔君に言われて双葉君の後を追いかけた。

 

 選手用の出入口で2人が並んでいるのが見え、どこかへ行こうとしているので私も後に続いた。

 

「なんでわざわざ網乃でアメフト始めたんだ?」

「学校の方針で毎年違うスポーツをしていて今年はアメフト、蓮次がやってると知っていたから勝負しようと思ったんだ」

「ふーん」

「まぁ結果は惨敗、チームでも負けて蓮次にも負けて…柔道をしてた頃よりずっと強くなって驚いたよ」

「そりゃな」

「スポーツ医学で効率良く鍛えればどんなスポーツでも勝てると思っていたが違うって理解したよ」

 

 歩きながら後をついていくと2人の会話が聞こえる。

 

「効率的にやれば何でもできるって訳じゃねぇ、地道な努力が実を結ぶ。柔道でもアメフトでも、な」

「かもね、蓮次を見てその考えが変わったよ。けど無茶はしないで欲しい、ボクは純粋な気持ちで蓮次の事を心配して言ってるんだ」

「わかったわかった、しつこいなぁ。で?アメフトやってみてどうだった?」

 

「負けたけど楽しかった。蓮次と同じ場所に立って試合をして戦って…僕は3年だから今年で最後だ」

「もう1年程早くやってりゃどうなってただろうな」

「それでも蓮次が勝ったかもね、アメフトへの熱意の差で負けていたかもしれない」

「柔道はほぼ強制だったからな、熱を持ってやってたの兄貴だけじゃねぇか?」

「将来的には継ぐつもりだから、いつになるか分からないけど鍛錬は今もしてるんだ」

 

 双葉君…どっちもだから蓮次君がお兄さんへ話しかけている様子は、嫌っている顔じゃなくてヒル魔君と話してるような気楽な感じだった。

 

「なんで網乃に進学したんだ?跡を継ぐってなら網乃じゃなくても良かっただろ」

「スポーツ医学を学んで取り入れるのと、他の高校よりも高いレベルの医学を学べるから僕のやりたい事と被るんだ」

「へー」

 

 お兄さんが返事をする顔も少し楽しそうに見えた。

 

「やりたい事ってなんだよ」

「新薬の開発さ、完成すればきっと大勢の人が喜ぶ薬だ」

「ふーん……お、コーヒー飲むか?」

「弟に奢られる兄がどこにいる。僕が出すよ」

「ん、さんきゅ」

 

 自販機でコーヒーを2つ買ったお兄さんが蓮次君へ手渡し、チラッと私と目が合った。

 

「マネージャーさんが来てるけど話をしなくていいのかい?」

「あ?…なんで姉崎が来てんだよ」

 

 見つかってしまった。

 

「ヒル魔君に監視して来いって言われたから着いてきた」

 

 何も悪いことはないはず…。

 

「どうする兄貴」

「好きにすればいい、僕の話は別に誰かに聞かれても困る内容じゃない」

「そうかよ。後ろで着いてくるならこっち来い、ついでに何か奢るぞ…兄貴が」

「僕!?」

 

 結局お兄さんからお茶を奢ってもらい、お礼をして蓮次君の隣を歩いて話を聞くことにした。

 

「本題を話してもらおうか」

「いいとも、とは言え何から話したら良いか……みゃーちゃんの話からにしようか?みゃーちゃんは偶然家の…「猫の話は良いから…中学の時兄貴と試合した時を話せ」……わかった」

 

 お兄さんが語ってくれたのは、蓮次君が柔道を辞めるきっかけになった日の事。

 その日以前から隠れて猫を育てていたお兄さんはお父さんから試合するようにと言われ、蓮次君と試合をした。

 だけど道場に猫が入り込んでしまい、蓮次君が猫アレルギーを発症。

 

 目が腫れくしゃみが止まらなくなった蓮次君だったがまさかアレルギーがあるとは知らなかったお兄さんが蓮次君を倒してしまい、お父さんも蓮次君がアレルギーがあるとは思わなくてそのまま試合を継続…………結果、お兄さんが圧勝してしまった。

 

 

「……という訳さ」

「俺……あの時猫アレルギーが出てた?」

「うん」

「猫のせいで兄貴が卑怯者だって決めつけてた?」

「うん」

「…うわぁ…俺の勘違いってオチ?…クソダセェ…その、悪かった」

 

 真実を知った蓮次君がお兄さんへ頭を下げた。

 

「僕の方こそごめん、本来ちゃんと話すべきなのにしなかった僕が悪いんだ」

「いやけどよぉ…」

「それだけじゃない、蓮次の気持ちを考えずに僕の気持ちを一方的に押し付けて時代遅れや旧時代だと言って蓮次を傷付けていた」

「…まぁ実際時代遅れのやり方なのは否定しねぇよ。時間をかけて鍛錬すれば良いって思ってたし実際それで上手くなって行ったからな。今は睡眠時間をちゃんと確保してるし部活も休みの日があって酸素カプセルに入って疲労回復もしてる。心配されるような事はねぇよ」

 

 睡眠時間の確保って授業中寝るって言わないよね?

 

「…決して無理しないように」

「分かってる」

 

「確か姉崎さんって呼ばれていたよね、今後とも弟をよろしくお願いします」

 

 お兄さんが私に深々と頭を下げてきた。

 

「任せてください」

「ありがとう、良い彼女さんだね」

「え!?」

 

 お兄さんの言葉で何故か私の心臓が跳ねた…。

 

「ちげぇよバカ兄貴」

「そう?お似合いだと思ったけど違ったか」

「!」

 

 また心臓が跳ねる感覚があった。

 

「つーか新薬ってなんだ?スポーツ医学と関係するやつか?」

「違うよ。僕は猫アレルギーを治す薬を作ろうって思ってるんだ。完成すれば蓮次もきっと猫が好きになるはずだと思ってね」

「それはねぇよ…アレルギーがなくても関係ねぇわ。勝手に決め付けんなバーカ」

 

「いやいや!あの可愛らしい顔に毛並み!人を人として扱わず便利なものとして扱うくせに放って置いたら構えと言わんばかりに甘えてくるツンデレ具合!猫という生物は素晴らしいぞ!」

「うわっなんか変なスイッチ入った…」

 

 蓮次君がアメフトに熱を持ってるようにお兄さんは猫に熱を持っている所はほんと似てるなぁ。

 

「蓮次ならきっと理解できるはずだ!猫アレルギーが治れば一緒に愛でようじゃないか!!」

「やらねぇよ!?バカ言ってねぇで話が終わりならこれで帰る!」

「待て蓮次!」

 

「行くぞ姉崎!」

「え?……あっちょっと!…きゃっ!」

 

 私の手を引いた蓮次君が走り出してしまい、足がもつれてしまった。

 

「おっと、悪い悪い」

 

 転けてしまうと思ったが蓮次君が私の足に手を入れて抱えられ……お姫様抱っこをされてしまった。

 

「じゃあな兄貴!どうせ家で会うだろうけど今日はこれで別れるから!」

「おい蓮次!!」

 

 

 後ろからお兄さんの声が聞こえるが無視をした蓮次君は私を抱えたままお兄さんと別れた。

 まだ心臓がドキドキしてるのはきっと蓮次君にお姫様抱っこされているからだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの…蓮次君、そろそろ降ろしてくれないかな…?」

「あっそうだったな、ほらよ」

 

 人通りが少なくなったので言うとゆっくり降ろしてくれた。

 

「にしてもいざ真実を知れば呆気ないものだったとは…俺の勘違いだったとかダサすぎてマジで笑える」

「……ぷっ!ほんとにそうだね!」

 

 お兄さんが嫌いって言ってた割にはなんだか仲良さそうだったし蓮次君との仲もこれで改善されたかも。

 

「ふふっ…こ、これで兄弟仲も良くなったんじゃない?」

「かもな、頭がおかしいぐらい猫好きなのは相容れねぇがちょっと見る目は変わるかもな」

「ぷぷぷっ…!」

 

 ダメ…どうしても笑うのが堪えきれない…!!

 猫アレルギーは仕方ないにしてもそれに気付かずずっと勘違いし続けてたなんて蓮次君がおバカさんで…!!

 

「笑いたきゃ笑えよ…もう済んだ話だし今更柔道に戻ろうとも思わねぇ」

「あっはははは!!」

「そーそーそうやって笑い飛ばしてくれ」

 

 

 

 

 

「猫アレルギーで負けたのを気付かずお兄ちゃんを嫌い続けていた、と。恥ずかしいねぇ蓮次く〜ん?」

「ヒル魔!?」「ヒル魔君!?」

 

 いつの間にかヒル魔君がカメラ片手で私達の後ろに立っていた。

 

「ようやく脅迫ネタを手に入れたぜぇ〜!あとついでに面白い写真も手に入れたし、ボロが出たんじゃねぇかぁ?」

 

「写真?」

「ヒル魔君写真って?」

 

「クソマネがファッキンセカンドにお姫様抱っこされてる写真」

 

 ……………………。

 

 

 

 

「消してー!!!」

 

 

 

 

 なんでそんな写真撮られてるの!?

 

「おやおやぁ?ファッキンセカンドじゃなくてクソマネが反応するってのはどういうこった?」

「推理しなくていいから消して!」

「ケケケッ!ラッキー!クソマネの脅迫ネタもゲット〜!」

「そのカメラを貸してヒル魔君!」

「やなこったー!」

 

 あーもう!ヒル魔の銃にカメラを括り付けて高く上げられた!これじゃあ届かない!!

 

「なんで俺はヒル魔と姉崎のイチャつきを見せられてんだ…?」

 

「蓮次君だってあの写真は恥ずかしいでしょ!?」

「ノーコメント、大体恥ずかしがればその分ヒル魔が付け上がるんだ、放っておけ」

「そんな簡単な話じゃない!だってお姫様抱っこよ!?普通女の子にすることじゃないでしょ!」

「いやまぁそうだが…なぁ、咄嗟の行動だったし…事故みたいなものだろ」

「!!」

 

 蓮次君が恥ずかしそうに頬をかいているのを見て私の顔も何故か熱くなってしまった。

 

「…その、悪かった」

「う、ううん…転んでしまうところだったから…ありがと」

「お、おう…」

 

「……」「……」

 

「なんで俺はファッキンセカンドとクソマネのイチャつきを見せられてんだ…?」

 

 

 

 

 

「コホン、遊んでないでもう帰るぞ。次は夕陽ガッツと試合だからそれに向けた作戦を練り直して確実に勝つぞ」

 

 蓮次君が先に歩き出してしまった。

 

「作戦どうするか考えてんだろうな?」

 

 ヒル魔君が蓮次君の隣へ行き、一緒に歩き出した。

 

「いつも通りだろヒル魔」

「ケケケッ!よーく分かってんじゃねぇか」

「超攻撃型の作戦か。そう言っていつも俺を酷使すんだからたまには変われ」

「適材適所だバーカ、使える駒を最大限に使うのが俺だ」

「なら俺が潰れないよう上手く最大限に使ってくれよキャプテン」

「ケッ!言ってろファッキンセカンドが」

 

 2人か歩く姿を見て私は蓮次君の隣へ移動し、3人並んで泥門高校へ帰ることにしたのだった。

 

 






 というわけで日常パートその1でした!

 蓮次と長嗣との仲も改善、ぶっ殺したいほど嫌いな兄貴から猫好きで頭のおかしい兄貴へと変化しギスギスした関係も改善されました!

 そしてもうひとつの変化、まもりが「双葉君」呼びから「蓮次君」に変わりました!
 2人の仲もこれで……どうなるでしょうか!

 次の試合は夕日ガッツ、その前に日常パートを2話入れています。

 それでは次回をお楽しみに!!
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