泥門の2番手   作:実らない稲穂

53 / 105
1%の確率

 

 

 網乃戦が終わり、瀧の中途入学試験がやってきた。

 教師係に俺と雪光と姉崎が選ばれ、3人であれこれ教えはするもこれがまぁポンコツ。

 九九の6の段まで覚えているとドヤ顔で言った時に瀧を青天させてしまったのはいい思い出だ。

 

 そんな珍事は置いといて、無事に泥門生徒になった瀧を入れた泥門デビルバッツは次の対戦相手の夕陽ガッツ戦に向けて作戦を練ることにした。

 

「で、クソガキが潜入して得た調査結果がこれだ」

 

 どさどさと大量のファイルをテーブルの上に置いたヒル魔が言い、1冊手に取って流し読みした。

 

「……おいこれセイジが調べたってマジか?」

「おう!決勝まで当たる可能性のあるチーム全部夏休みの間に調べさせた。まともな資料がないところもあるがな」

「遊ばせてやれよ…!!」

「ケケケッ!使える駒は使う!当たり前のことだろ!」

「はぁ…もういい、本人がやるって言ったなら文句は言わねぇ」

「喜んでやってくれたぜ!」

「ほんとかよ…」

 

 ヒル魔の暴挙に怒る気力が湧かず、資料に目を通していると1つのページで手を止めた。

 

「夕陽高校はアメフトを除いたスポーツで名門と呼ばれていてアメフト部員は少なく部費も困っているだと?」

「そういうこった、ここ数年目立った成績を収められず部員も他の部活に取られているのが現状だ」

「各部活の助っ人を用意する噂が教師の中であり、と…随分込み入った話まで手に入れてきたな」

 

「じゃあ余裕ってことッスよね!」

 

 どこをどう見て余裕と思ったのか分からねぇが、これまでの成績を見る限り勝率は高い方かもな。

 

「客観的に見て勝率99%ってとこだな」

『おおー!』

 

 ヒル魔の言葉に全員が喜んでいる。

 何を油断してんだよほんと。

 

「1%負けるんだぞ」

 

 ヒル魔が締めると静まり返る。

 

「負けたら終わりのトーナメント、ここで油断していれば足元を掬われる。優勝するまで一切油断するなよ」

 

 とはいえ決勝まで行けば秋大会の次のステージである関東大会へは出られるんだが……それは教えなくていいな。

 秋大会は上位3チームが関東大会へのチケットを手に入れられる。準決勝で負けても3位決定戦があり、そこで勝てばギリギリ滑り込める。

 

 ここで3位までなら行けるかもしれないと言ってしまった場合、油断して負けてしまう……それだけは避けなければならない。

 だから俺とヒル魔は優勝しかないと目標を他のメンバーに誤認させた。

 

 

 

 

 

 作戦会議が終わり、メンバーが帰って行く中雪光がボールを手に俺の所へ来た。

 

「双葉君、練習付き合ってほしい」

「おう、今日も死ぬまでやるぞ」

 

 

 

 

 

 

「双葉君はパスルートを走る時どうしてる?」

「ん?どういう意味だ?」

 

 アップを済ませてパス練習の時に雪光が聞いてきた。

 

「僕は足が遅いから言われたパスルートを走らなくて最短距離で動いた方がいいのかなって思って。そしたらパスを貰うタイミングも早くなって良いんじゃないかな」

「あーそれは違う」

「え?違うの?」

 

「早くパスルートのゴールへ向かうのが正解じゃねぇ、遅くてもパスルートから離れない事が大事なんだ」

「離れない事…?」

「何度も繰り返して走っているのを見ればいつ雪光がゴールへ到達するか分かる。そうなれば到達しなくてもこのルートへ投げれば雪光がボールを取ってくれる可能性が1%でも出てくる」

「!」

 

「クォーターバックがサックされるタイミング、ヒル魔がギャンブル気味に投げたボールが雪光の走るルート上だった場合、最短距離で走っている雪光じゃ取れない。けど遅く走っていてもルートから離れずにいた場合、もしかしたらそのまま取れるかもしれねぇって訳だ」

「なるほど!」

 

「じゃあ実践だ、俺は高くボールを投げるから雪光はスライスインのパスルートで走ってみろ」

「うん!」

 

 雪光が走り、俺は雪光が走るルートの上に落ちるようにボールを高く投げ、スライスインのパスルートで走る雪光がギリギリで手を伸ばしてキャッチしてくれた。

 

「と、取れた!」

「これが最短距離で走った場合取れずに終わるってオチだ」

「すごく分かりやすかったよ!」

 

「パスルート通りに走るのが前提条件。だが場面によっては変える必要もある」

「え?」

「クォーターバック目線だがパスをする時周りを見てここなら空いている!って見つけても普通はそこへ投げられない」

「誰も居なかったら意味ないもんね」

 

「そ、だけど仮にレシーバーが見つけてルートから離れて空いているポジションへ行けたら……クォーターバックからすれば超絶有難いものなんだ」

「ルートから離れてるのに?」

「基本は大事だ。ルートから離れずパスを貰うのがレシーバーの仕事。けどクォーターバックとレシーバー、2人の思考が一致すればルートから離れてパスを貰う方法があるって話」

「なるほど…!」

 

「俺はそれが無理なんだよなぁ、タイトエンドだし周りにはディフェンスが集まりやすい。空いてる所へ俺が行けばそこはもうパス取りの激戦区、モン太はその辺の頭が悪いし瀧はな…」

「あ、あはは…」

 

「と、まぁ色々話したが練習再開するぞ」

「うん!」

 

 可能性は示した。後は雪光がレシーバーとしてどれだけ成長できるか、それに賭けるだけだ。

 

 

 

 

 

 

「即選ルートってやつか」

「どぶろく先生…帰ったんじゃ?」

「お前さんらが居残り練習してんのを見張ってたんだよ」

 

 雪光が死んでしまったのでベンチに寝かせた後どぶろく先生が酒瓶片手に現れた。

 

「どこでそんなパスルートを知った?」

「ヒル魔から教わりました。ものにできずに頭の片隅に入れてそのまま、それを雪光に託しました」

「へぇ?」

「成功率なんて1%あるかどうかのギャンブルですが雪光なら出来ると思っています」

「1%なんて低確率なのにお前は雪光にそれを賭けた、どうしてだ?」

 

「去年の俺と似てるんですよ」

「似てる…?」

「去年の俺も雪光みたいにひたすらに練習していました。春大会でムサシが離脱して秋大会も初戦で終わって……それでも今年に向けてずっと練習をしてました」

「それが雪光と被るってか?」

「はい。そんな奴を見ていれば自然と…雪光ならできるかもって感じます」

 

 多分ヒル魔も雪光と同じような俺を見て色々試したくなったんだろう。ヒル魔的に言わせれば”地獄の白銀魔改造計画”ってな感じ。

 俺がここへ到達する確率も1%だったかもしれねぇ、そんな低確率ではあるが賭ける価値が俺にはあったのかも。

 

「ちょうどいい、お前の昔話を聞かせてくれ。双葉がどうしてアメフトを始めたのか興味がある」

「ちょうどいいですか?」

「雪光が起きるまで暇だろ?ちぃっと語ってくれや、酒飲むか?」

 

「未成年に何飲ませようとしてるんですか…要りませんよ」

「がっはっはっ!そうか!双葉は真面目だな!」

「はぁ…まぁ暇なのは確かなので語りますよ。その代わりコーヒー奢ってもらいますから」

「おう!買ってきてやらぁ!」

 

 

 

 去年の俺か……どんな感じだったっけな。

 

 





 

 という訳で日常パートその2でした!

 瀧の中途入学についてはカット、それよりも雪光の強化フラグが建ちました!
 本来鉄馬から教わるはずの「パスルートから外れないこと」をここで教え、更にはオプション(即選)ルートの仕込み。
 この2つが雪光の武器であり、早期習得によって強化!!

 果たして雪光の初出場はいつになるのやら。

 次回はちょっと時系列を遡ったお話になります。
 
 それでは次回お楽しみに!!
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