泥門の2番手   作:実らない稲穂

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1年の双葉蓮次

 

 

 ―1年前・入学式―

 

「ねぇ!君背が高いね!」

 

 体育館で校長の話が終わると俺よりも背が高くて栗みたいな頭をした栗田が話しかけてきた。

 

「体つきも凄いよね!何か運動部に入るの!?」

「…」

 

 面倒くさい、ひたすらに面倒くさい。

 無視して自分のクラスへ向けて足を進めようとするも、栗田が俺の前に移動して両手を広げて止めに来た。

 

「無視しないでよ!」

「邪魔」

「運動部入るの?!」

「入らねぇ、もうそんな熱もねぇよ」

 

 当時は兄貴にボコボコにされて柔道を辞め、何をするにも熱が出ないほど無気力状態だった。

 適当にバイトして自分の学費とこれから先弟達が進学しても大丈夫なように学費を貯めてやろう…そんな考えだった。

 

「アメフトやってみない!?」

「……あ?なんだそれ?」

 

 アメフト、その時はそんなスポーツを聞いたことがなく思わず聞き返してしまった。

 そして目の前で俺を通せんぼする栗田の目は熱く、アメフトというスポーツが好きなんだと察した。

 

「アメフトってね!パワーとスピードと作戦の三拍子揃った格闘スポーツなんだよ!」

「へー格闘ね」

「あっ興味ある!?良かったらこの後見学においでよ!ね!ね!」

「………………見るだけなら」

 

 後から思えば多分見るって言うまで退くつもり無かったかも。

 

 

 

「誰だそいつは」

 

 栗田に連れられてやってきたのはまだ改装される前の部室。まだ入学式なのに既にあったのは事前に校長を脅して作らせていたのかもしれない、部室の中へ入ればヒル魔とムサシが椅子に座っていてヒル魔が俺を見て聞いてきた。

 

「見学者!」

「名前は?」

「あっそうだ!僕は栗田良寛!名前教えて!」

「双葉蓮次」

 

「双葉蓮次?」

 

 ヒル魔が少しだけ考えた後に小さく舌打ちし、パソコンを取り出して操作を始めた。

 

「実戦型双葉流柔道場…競技向けじゃなくて護身術の方か。へぇー?その柔道場の次男か。こりゃおもしれぇ、少年部門から中等部門でずっと全国2位のゴリゴリの柔道家だ」

 

 よく知ってるなとヒル魔を見て思った。

 まぁネットに公開されてるだろうし、調べれば普通に出てくるから特に気にもしなかった。

 

「こいつが出た大会はみーんな実践派のやべぇ柔道家!そんな中全国2位か!ケケケッ!お兄ちゃんにだけ負けてんだなこいつ!」

「ほんとか?」

 

 ムサシが俺を見て聞いてきたが、頷くだけで何も言わなかった。

 

「そんな奴が柔道を辞めてアメフトに転向か、おもしれぇの引っ張って来たなファッキンデブ」

「見学者だよ〜まだ入部するって言ってないから」

 

 仕方なしにここへ来ただけ、入ろうとも思ってなかった俺は帰ろうと部室のドアを開けた。

 

「双葉君!アメフト部に入らない!?」

 

 外へ出る直前、栗田が俺の肩を掴んで止めた。

 

「知らねぇスポーツに熱なんかねぇよ」

「ガーン…!!」

「それに柔道も辞めた、何をするにも熱なんかねぇよ」

 

「熱…知らねぇなら教えてやろうか、アメフトの熱をな」

 

 ヒル魔がテレビをつけ、ビデオを再生。

 画面には防具に身を包んだ男達がぶつかり合い、激しい戦いを繰り広げていた。

 興味がなかった俺だったが、第1クォーターが終わる頃には手に汗が滲んでいて食い入るように画面を集中して見ていたのだった。

 

 

 

 

 

「どう?どう?凄かったよね!」

 

 再生が終わると栗田の圧が凄くて押し潰されそうな程俺に詰め寄ってきた。

 

「さっき見たのはプロの映像で!僕達高校生のアメフトで1番大きな大会はクリスマスボウルって言うんだ!」

「クリスマスボウル?」

「全国大会の決勝でね!東西の最強チームが東京スタジアムでぶつかるんだ!」

「へぇー」

 

「僕達泥門デビルバッツはそのクリスマスボウルに出て日本一を目指しているんだ!良かったら双葉君も入ろうよ!」

 

 日本一…1番、万年2位の俺がそんな舞台へ出てもどうせ負けて2番で終わる。

 

「俺なんかが入ったら1番にはなれねぇよ」

「そ、そんなことないよ!」

「…」

 

「万年2位だってさっき知っただろ。俺みたいな2位の男なんか入れてみろ、俺のせいでクリスマスボウルとやらを逃すかもしれねぇ。どうせ俺なんて何やっても2番で終わるんだよ」

「そんなことないよ!みんなで頑張ればきっと行けるって!」

「そのみんなの足を引っ張るのが俺なんだよ」

 

 

 

「黙って聞いてりゃなーにごちゃごちゃ言い訳してんだ双葉蓮次」

「あぁ!?」

「テメェのせいで2位で終わる?勝手に決めつけんなカスが、俺達泥門デビルバッツがクリスマスボウルへ行く可能性は1%あるんだよ」

「1%かよ…」

 

 ムサシのツッコミに激しく同意してしまう。

 たった1%、そんな低確率でクリスマスボウルへ行けるはずがない。

 

「だがな!ここでテメェがアメフト部に入れば1%が2%に上がる!人数が増えれば増えるほど上がって行く!それがアメフトだ」

「……俺のせいでクリスマスボウルを逃すかもしれねぇぞ」

「有り得ねぇな」

「なんでそう言い切れる」

 

「アメフトは個人でやるスポーツじゃねぇ。アメフトはチームスポーツ、テメェ1人がどれだけ凄かろうが1人に全部を任せるわけがねぇだろ」

 

「……!!」

 

 ヒル魔の言葉で俺の中で電気が走る程の衝撃を受け、そんな俺を見てヒル魔の口角が上がっていた。

 

「柔道じゃ2番だがアメフトなら1番になれる可能性が1%ある。やらねぇってなら0%。テメェは2度と1番にはなれねぇ…………おやおやぁ?その手はなんだ?力が入ってんぞ双葉蓮次」

「あ?……っ!」

 

 ニヤニヤ笑うヒル魔に指摘されて始めて俺の手は強く握り締めているのに気が付いた。

 

「なりてぇんだろ?1番」

「…」

「柔道で何年も2番になってりゃ1番への渇望は人並み以上にある、違ぇか?」

「…」

 

「ケケケッさぁどうする双葉蓮次。ここでしっぽ巻いて出て行きゃテメェは一生負け犬のまま、だが俺らと一緒にクリスマスボウルを目指すってなら1番になれる。喉から手が出る程欲しい1番の称号だぞ?テメェならどっちを選ぶ?」

 

 いつの間にかヒル魔の手には入部届の紙があり、ヒラヒラと揺らしていた。

 

「俺はアメフトの事なんて何も知らねぇ、それでもいいのか?」

「構わねぇ、誰でも最初は初心者だ」

「予想を裏切るようなド下手でもいいのか?」

「あー構わねぇ、テメェの恵体なら鍛えりゃ使えるだろうな」

「……」

 

 ビデオを見てから熱くなっていた俺は、ヒル魔の言葉に誑かされた気分ではあるが心に火がついた感覚があった。

 もう失くしたはずの熱意、柔道でという熱が冷め……代わりにアメフトという熱が俺の中で火がついた。

 

 

 

 そしてひったくるようにしてヒル魔の手から入部届を書いた。

 

「これでテメェも泥門デビルバッツの一員だ双葉蓮次」

「やったぁー!仲間が1人増えたよ!」

「唆された感じがあるが…まぁ本人がやる気ならそれでいいか。俺は武蔵厳って名前だ、よろしく」

「あぁよろしく」

 

 こうして俺はアメフトを始めたのだった。

 

 見学だけのつもりが練習にも参加し、俺が不器用だと知ったヒル魔にブチ切れられるまでそう時間はかからなかったのだった。

 

 

 ■■■■■■■■■■

 

「ってな感じでアメフトを始めました」

「そうだったのか」

「今思えば何でヒル魔は俺を引き入れるような事をしたのか疑問ですけどね」

 

「がっはっはっはっ!そりゃお前ヒル魔と似てんだよ!」

「似てる?」

「双葉の1番への渇望と、ヒル魔の勝ちたいって部分がな!ヒル魔は超負けず嫌いだろ?勝ちたいって最終的には1番になるって訳だ!それが双葉と重なったんだよ!」

「あーなるほど」

 

 どぶろく先生の見解を聞いて納得した。

 

「にしても、ふーん?双葉の体格の良さは柔道か。ならラインをやらせりゃ十分なのになんで今はタイトエンド(笑)をしてんだ?」

「何笑ってんですか…そんなのヒル魔に聞いてくださいよ」

「あいつが素直に言うと思うか?」

「言わないでしょうね、まぁきっとヒル魔の気まぐれでしょ」

 

「ま、そうだな。俺が初めて双葉を見た時完全にラインが合ってると思っていた。その体格とパワーがあってなんでタイトエンドなんだって本気で思ってたぜ」

「十文字達よりも背丈もパワーもありますから仕方ないですよ」

 

「栗田に迫るほどの体格とパワーがあってあえてタイトエンドに起用させたのは中央の密集地帯でのパスキャッチを双葉はやれるってヒル魔は判断したんだろ」

「ですね、その役目はほとんどないんですけど」

「それがおかしいんだけどなぁ…」

 

「とはいえ、ヒル魔の魔改造のおかげで泥門デビルバッツはここまで強くなれました。クリスマスボウルへ行って日本一になる確率は去年と比べて圧倒的に高いですよ」

「だな」

「まだまだ秋大会は始まったばかりです、日本一の称号を手にする瞬間まで油断せず勝ち進めます」

「随分先だな」

 

「1番の称号、欲しいので」

「がっはっはっ!いい目だ!目ぇギラギラしてやがる!」

 

「ん…んー双葉君そのスパルタパスは取れないよぉ…」

 

 死んだ雪光が生き返るのを見た俺は立ち上がった。

 

「今日はもう帰りな、雪光にはオプションルートってやつを叩き込んでおく」

「はい、では雪光をお願いします」

「また暇がありゃ昔話を聞かせてくれ」

「機会があれば、それでは失礼します」

 

 

 

 そして翌日も練習を続け、次の週末。

 

 夕陽ガッツ戦がやってきたのだった。

 

 






 という訳で日常パートその3でした!

 蓮次が泥門デビルバッツへ入った時のお話でした。
 この時既に部室があったと書きましたが実際どうなんでしょう?
 まぁヒル魔なら泥門へ入学すると決めた時、事前に校長を脅して作らせる事なんて余裕かなと(笑)
 

 次回はいよいよ夕陽ガッツ戦です!

 次回をお楽しみに!!
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