秋大会3回戦の相手は独播スコーピオンズ。
独播がやった1回戦のビデオとセイジの調査レポートを見る限りどうも相手は読み合いに強いチームだとシアタールームでヒル魔と姉崎の3人で見て結論を出した。
「読みに強いだけ、小技頼りのチームなら楽勝だな」
「そうなの?」
「読まれてると分かっていればそれなりの対応が出来る。逆もまた然りってな」
「そういうこった、独播の連中は読むことに長けてるが読まれる可能性を考慮してねぇ」
「ランをする時のラインの体勢、プレイが始まる前のレシーバーの目線、細かいが見る人が見れば分かる小さな癖だ。うちは癖を消す様に栗田とヒル魔が指導していてどぶろく先生が仕上げている」
「へー」
「いい機会だ、独播戦のクォーターバックはテメェ1人でやれ」
「へーそりゃいい作戦…………え、はぁ!?」
お、俺だけでクォーターバックやんの!?
「今後の試合展開次第では俺がフィールドを離れなきゃならねぇ可能性が出てくる。そん時にまともなクォーターバックがいなきゃ試合にならねぇだろ、テメェがやれ」
「お前はどうすんだよ」
「あー大丈夫だ、有事の際には出てきてやるよ」
ニヤニヤ笑うヒル魔を見て考える。
何故大事な秋大会のトーナメントで奇策中の奇策を用いるのか、クォーターバックの変更というのはチームの司令塔が変わり、これまでの作戦もほとんど変わってしまう。
本当に緊急事態を想定してのポジション変更?それにしては急過ぎる、もっと期間を設けて……って夏休みはデスマーチで殆ど連携練習はできてねぇ。
思いつくのはこれまでヒル魔を見てきて、色々な作戦を頭に叩き込んで来た俺を試そうとしている?
「…俺を2番手としてやれるかどうか試そうとしてるのか?」
「ケケケッ!よーくお分かりで!」
次の試合へ向けて部室で全体ミーティングを開いた。
「次の試合バックスのポジションを変える。緊急事態にならねぇ限りはそのポジションで通すからな」
模型を手に取ったヒル魔が一つ一つ並べていく。
「ライン組は変わらず使う。ランニングバックもアイシールドと石丸、レシーバーはクソザルをメインに佐竹と山岡を交代で使う」
「ア、アリエナイー!!ヒル魔君それじゃあ僕のポジションが無くなったじゃないか!」
瀧が怒るがヒル魔は顔色1つ変えずに瀧の模型を置いた。
「テメェはタイトエンドだ」
「アハーハー!任せてよ!蓮次君のポジションを奪ってごめんね!」
手のひら返しが早ぇなおい…別に奪われた訳じゃねぇしいいけどよ。
「クォーターバックはファッキンセカンド、以上だ」
「ヒル魔先輩がスタメンから外れるってどういうことッスか!」
「実験」
「じ、実験ッスか?」
「いつだったか、このクソ野郎が泥門デビルバッツを貰うとか抜かしたからな!これでクソみてぇな結果を出すならこのファッキンセカンドは使えねぇクソ野郎ってこった!」
俺へのプレッシャーがハンパねぇ…これでリードを許せばヒル魔が延々と俺を弄るネタにされるぞ。
「大丈夫?」
「だいじょばねぇ…既に胃が痛てぇよ」
「胃薬飲む?」
「キッついやつで」
姉崎に心配されながらも今日の練習が始まった。
「Set!Hut!」
栗田からのスナップを受け取るとレシーバーのモン太が走り出す。モン太の相手はセナでピッタリとくっついているが2人から離れた左サイドへ向けて投げる。
「あっ!」
狙った場所よりも思いっきり左へズレた!
「キャッチマーックス!」
最後にモン太が飛びついてキャッチしてくれたおかげで何とかパスは成功させた。それだけで冷や汗が出てきてしまう。
「Set!HutHut!」
2回目、ラインの対戦相手は十文字でマッチアップ相手の黒木を不良殺法で引き倒してから俺へサックを狙いに来た。
パスをする相手を探す暇もなく、目の前に十文字が来てスクランブルをしようかと思ったが……奥に雪光を見つけた。
「もらった!」
「それはどうかな…!」
サックされながらもボールを高く投げた。
「えーい!!」
パスコース通りに走ってくれた雪光のおかげでパス成功。これも上手く行けてホッとした俺がいる。
「なっ…!そんなパスありかよ!」
「練習の成果だ」
雪光を見た十文字が驚いた顔をしていて、取ってくれた雪光にサムズアップしてやると手を振って返してくれた。
「十文字もサックを狙うなら腕の方へ向かった方が良いぞ、それだけでプレッシャーがかなりある。だが避けられる可能性も考慮して気持ち腕狙いで来い」
「おう」
「黒木!引き倒されねぇように重心を落として耐えろ!」
「へーい!」
「小結!相手の下へ入り込んで片足を下げろ!お前のパワーなら上から潰されても支えきれる!」
「ふごっ!」
「栗田、気持ち高めにスナップしてくれると次の行動がやり易い。ヒル魔の時よりも少しだけ上げれるか?」
「任せて!」
「あと石丸、ジミィみたいにいるならいるってもっと分かりやすくアピールしてくれ、いるのが分からねぇからボールを渡せなくて困る」
「え?」
次はキックのボール立てをする練習。
「キックをする時縫い目があるとコントロールが狂うから裏向けて蹴らせてくれ」
「??」
ムサシに言われるがよく分からん…。
「お前ほんと不器用だよな…俺が蹴る時、ボールの縫い目はここにしてくれ」
ムサシがキックティの上にボールを置いて見せてくれた。
「把握した、練習しよう」
「おう」
2、3回ボールを立てる練習してから実際に蹴ってもらう。
「それでいい」
それだけを言うとキックの練習を再開したのだった。
「ケケケッ、クォーターバックの練習してどうだったファッキンセカンド」
「マジでキツイ、プレッシャーが半端ないわ」
練習終わりにヒル魔が話しかけてくると素直な気持ちを吐いた。
「お前いつも色々考えながらやってんだよな、ほんとすげぇよ。ただパスを投げるだけじゃねぇんだな」
「ようやく分かったかファッキンセカンド」
「これに懲りたらもう泥門デビルバッツを貰うなんて言わねぇよ」
「ケッ!テメェがそんな事をマジでやるタマかよ」
「そりゃそうだ」
「雪光にやったパス、あれはいつからできるようになった」
「あ?」
真剣な顔をして聞いてきた。
「パスルートから外れるなってだけを言って何度も合わせただけだ。来るって分かってるならタイミング見て投げればそれで終わり、ヒル魔も簡単に出来るだろ」
「ドンピシャのタイミングでなきゃ出来ねぇギャンブル技だがな、パスルートをお互い覚えているのが前提だ」
「そりゃデスマーチであれだけやれば覚えるだろ、俺もパスルートは覚えているし問題ねぇ。何を気にしてる?」
「他に何を言った」
「前にヒル魔から教えてくれたオプションルートってやつ」
「ほう?クソザルとファッキン顎ひげには出来ねぇ空のパスルートをファッキンハゲに教えたのか?」
「あぁ、雪光なら行けると思って賭けた。仕込みはどぶろく先生がするらしい」
事前に決めたパスルートとは違い、オプションルートは架空のルート。上手くハマればディフェンスを揺さぶれるし雪光のマークが厳しくなるなら他が空くから良いこと尽くしだ。
「……ようやく使えるようになってきたか」
「オフェンス限定、それも2クォーター持つかどうかって所のスタミナだ」
「4ヶ月でそこまで仕上げたなら上等だ、後は使うタイミングがあればだな」
「独播戦で使ってみるか?」
「司令塔はテメェだ、好きにしろ。だが仕上げは俺とファッキンアル中がする」
「…分かった、もう少しだけ様子を見る」
クォーターバックってホント大変だ。
アメリカでやった時は半分遊びって感覚だったから気楽にできたけど今回は負けたら終わりのトーナメント、試合までに何とかものにしておかねぇとな。
という訳で日常パートその2でした!
独播戦、急遽ヒル魔がスタメンから外れて蓮次をクォーターバックにつかせるその意図とは…!?
決して手を抜くとかではありません。ピンチになればヒル魔は登場します。
次回、独播スコーピオンズ戦は1話だけでお送りします。
それでは次回もお楽しみに!!