セナ達が巨深高校へ潜入した翌日、小結が行方不明になってしまった。
理由はチームにいない方が良い、役立たずがこれ以上迷惑をかけられないからだとパワフル語で置き手紙が置かれていたそうだ。
「なーに考えてんだよ」
いてくれなきゃ勝てる試合も勝てねぇ、さっさと見つけて練習しねぇとな。
「いたか?」
「居ねぇな」
俺とムサシは軽トラに乗って捜索、ムサシの運転で町を見て回るも見つからない。
「この先栗田と雪光の捜索範囲と被る、大通りじゃなくて小道の方へ入るぞ」
「頼んだ」
やがて姉崎からの連絡でセナが見つけたと報告があり、場所へ向かうと既に全員が揃っていた。
十文字達が小結を袋叩きにして怒っているのを見て、これ以上何か声をかける必要もないと悟った。
「1年は1年の中で上手く回ってんだな」
今日の練習は休みだと言うのでこのまま家へ送って貰ってる最中ムサシが話しかけてきた。
「初めは喧嘩ばっかしてたけどな、毎回栗田が上から押し潰して終わりってオチだ」
「ははっ!あいつならやりそうだ」
「巨深戦はライン勝負になるだろうな。セナの話曰く、水町って奴は小結とマッチアップしてやるって言ってたらしい」
「あの水泳みたいな構えをする奴か」
「どうやら元水泳選手らしいぞ」
「蓮次から見て勝算は?」
「小結と水町だけなら五分、だがチームの勝率で言えば7割ってところだ」
「そうか」
「あのでかい筧だけが来るならまだ良いが、他にも2人いるらしい。油断はできねぇ試合になるだろうな」
「キックの出番があるなら蹴り抜くだけだ」
「頼もしい、ほんと頼りにしてる」
「逆に言えば俺はキックしか取り柄がねぇがな」
「あ?なんでそう悲観になるんだ、そんな訳ねぇだろ」
「分かってる、ちょっと愚痴を吐きたくなっただけだ」
「ならいいけど……ちょっとコンビニに寄ってくれ。車出してくれたから何か奢るわ」
「いいのか?さんきゅ」
コンビニの駐車場に止め、コーヒーをムサシへ奢った。
「俺はムサシが帰って来てくれて大助かりだと思ってる」
「ん?」
車に乗らずにボンネットに体を預けてコーヒーを飲んでムサシに話しかけた。
「泥門デビルバッツはヒル魔が中心、もしこれから先ヒル魔に何かあればチームの士気はガタ落ちだ」
「そんな事ねぇだろ、お前がいる」
「そう、俺だけになる……それが良くねぇって話だ」
「どういうことだ?」
「ヒル魔を抜きにした独播戦、俺は最後まで頭をフル回転させてあちこち見て展開を予想し体を動かして…ヒル魔が常にやっている大変さを身に染みた」
「だが勝った、それでいいだろ」
「それは相手がまだ勝てる相手だったからだ。これが王城や西部や神龍寺となれば話は変わる」
「そりゃそうだが…何がそんなに不安なんだ?」
「ムサシが居たから俺は安心してキックを任せられた」
「…」
「分かるか?キックがなきゃトライフォーポイントは安定して点が取れねぇ、高高度のキックで時間を稼いでくれなきゃディフェンスが間に合わねぇし距離も稼いでくれたから自殺点も取れる。キックしか取り柄がねぇ男がいるから安心出来んだ」
「何が言いたいのか分からねぇな」
「なんで俺だけになるのが良くねぇって話だよな。不安しかねぇからだ」
「…」
「ムサシが後ろにいるってだけで俺は安心感があった、キックって保険があるだけで攻めの作戦が立てられた。要するに、あの試合ムサシの存在は俺にとって精神的支柱になってたんだよ。独播の時じゃなくても復帰してくれたアメリカ戦からだ、キッカーがいるじゃなくて武蔵厳が居てくれるから安心できるんだ」
「そうだったのか、気付かなかった」
「口にも顔にも出さねぇがヒル魔も多分そう思ってる。後ろには頼りになる奴が期待に応える為に控えてくれている。そんな感じ、少なくとも俺はムサシが居てくれた事で安心感があった」
「……だとしたら俺も期待に応えねぇとな」
「これからも頼むぞ」
「おう」
翌日からは小結も復帰した代わりに探しに行ったどぶろく先生が行方不明…もう放って置いて練習する事となった。
「王城と比べりゃマシだがディフェンスチーム。長身のバックスを並べてパスコースを防ぎ、ランで来た奴を筧が抑え込むのが鉄板だな」
練習を始める前、シアタールームで巨深の試合を全員で見て対策を練るとヒル魔が言い、巨深ポセイドンについてヒル魔の見解を言い出した。
「じゃあ今回はパスはあんまできない感じっスか?」
「あの背丈に阻まれる可能性を考えるとパスを軸にするには厳しいかもな。俺も上がった場合、俺よりも背が高いラインバッカーに囲まれたらキツイ」
モン太の質問に答えるとモン太が俺へ向けて人差し指を伸ばして来た。
「それをビシッ!って取りましょうよ!」
「いやいやいや…俺よりも背が高い3人に囲まれながら競り勝てる程上手くねぇんだよ」
「状況によっちゃランの新フォーメーションを使う、ちゃーんと頭に入ってんだろうな?特にファッキンチビ」
「へ?新フォーメーションってウィッシュボーンですよね?」
「デビルバッツ流にアレンジしてるから教科書通りのパターンとは違えぞ」
「?」
カード化させたプレーブックにも描いてあるが…まぁ数が多いし覚えきれてないか。
「テメェまさか覚えてねぇって言わねぇよな!?」
「い!?いやいや!ち、ちゃんと覚えてますよ!」
「ほーう?じゃあテストだ、言ってみろ」
ヒル魔がセナへ銃を突きつけて脅し始め、カウントが始まる。
ゼロになっても答えられないセナへ発砲するも、姉崎がセナとの間に下敷きを差し込んで銃弾から守った。
「セナを虐めないで」
「ちっ」
「新フォーメーションはヒル魔君と蓮次君の連携プレイとウィッシュボーンを織り交ぜたフォーメーションでしょ」
「テメェが答えんなクソマネ」
「ヒル魔君の状況判断で走らせるランプレイ。石丸君かヒル魔君が走るパターンもあって、最後にセナを走らせるパターンなら蓮次君とのコンビプレイで突破。それがウィッシュボーンよ」
「あっそうだった…かなり難しいフォーメーションだよね」
複雑なランプレイが出来るウィッシュボーンにデビルバット・ウィングを混ぜてパスプレイにも対応する新フォーメーションは、フィールド上に司令塔2人という他には無い泥門デビルバッツならではの超複雑なフォーメーションだ。
「新フォーメーションはそこから派生してて、もっと難しいから覚えなおさないとね」
「複雑過ぎるフォーメーションだから仕方ねぇよな」
「テメェまでフォローすんなファッキンセカンド!」
「俺も理想を言えば覚えていて欲しかったが、アレはシチュエーションで行動が変わるから体で覚えるのに時間がかかる」
「……試合前日にテストをやる。それまでプレーブックを覚え直せ、90点以下は死刑にしてやるからな!」
ヒル魔がキレながらアサルトライフルを構えると1年全員が青ざめた顔をして頷いた。
一体テストの問題数が幾つあって配点が何点なのか、恐ろしいテストにならなきゃいいけど。
「し、指導…!!」
「あ?」
アップを終えた所へ小結が俺に頭を下げてきた。
「ラインの指導か?」
「!!」
フンフンと激しく頷いている。
まぁセナとモン太が二人羽織で仮想水町(笑)をするよりマシか。
「ヒル魔!」
「勝手にしろファッキンセカンド」
「よしっ!じゃあ相手になってやる、試合前日に相撲やるんだろ?それまで立ち会いの指導を徹底してやるからな!」
「おす!!」
小結が終われば次は新フォーメーションの練習、その後居残りで雪光との練習。練習量が増えてキツイが巨深に勝つ為ならやれる事を全部やるぞ!
試合前日。
泥門チビーズは相撲へ行き、その間にテスト問題の作成。
優勝賞品を大量に持って部室へ来た小結と助っ人全員呼んでテストを始めた。
テストの点数はまぁ……ヒル魔に処刑された哀れな者は石丸以外の助っ人と瀧だけだった。
そして試合当日。
『GO! DEVIL BATS!』
「打倒巨深ポセイドン!」
ベンチで試合の準備をしているとデビルバッツのチアチームが観客と一緒に盛り上がっている。
『ポーセイドン!ポーセイドン!』
対抗してなのか、巨深ポセイドンのチアチームも同じように盛り上がっていた。
「……デビルバッツもいいけどポセイドンのチア衣装もいいよな」
「蓮次君そういうのが趣味?」
独り言を言ったつもりだったが姉崎に聞かれていた様で、ジト目で俺を見てきた。
「いや別にそういうんじゃ………何だ?嫉妬か?」
「いや別にそういうんじゃ……って試合に集中!」
「イチャつくなバカップル」
「してねぇ!」「してません!」
「息ぴったりじゃねぇか…」
偶然ハモっただけだ…。
「おーいお前ら…ついに連れて戻ったぞ小結を〜!!」
どぶろく先生の声が聞こえ、声のする方へ向いた。
「元気にフゴフゴ言ってるぞ〜!!」
何故か子豚を連れてボロボロのどぶろく先生が狂った顔をしていたのだった。
「あのバカはほっとけ、どうせ飲み過ぎだろ」
「あーそういうこと」
言ってしまえばどぶろく先生ってトレーナーだし監督やコーチじゃねぇから居てもいなくてもそんなに影響が……いやまぁ怪我した時には頼れるしアメフトの知識も豊富だから居てくれた方が良いんだが、あんな状態じゃ期待しない方がいいな。
「全員よく聞け!」
円陣を組んだヒル魔が全員へ叫んだ。
「本物のアイシールドだとか身長がとかんなもんどうでもいい!ここで勝たなきゃ何の意味もねぇ!勝った奴が本物だ!勝った奴が強い!」
セナと小結を見ると力強く頷いた。
「勝つ為にはどうすればいいか!…言わなくてもいいよな?」
『ぶっころす!!』
『YEAHー!!』
お久しぶりです、私用が終わったのでまた投稿していきます。
今回は色々とカットして一気に試合前まで進めました!
次回からは巨深ポセイドン戦、5話連続でお送りします!