〜桜庭春人視点〜
〜私立王城高校〜
「去年練習試合をした時と比べ今年は優秀なワイドレシーバーを獲得したようだな」
ショーグン…庄司監督が俺と進で撮ったビデオを見ながら感想を言っている。
「桜庭、進、実際に見てどう感じた」
「え、えっと……」
「クォーターバックの蛭魔妖一のパスは正確で鋭くインターセプトを狙うのは現実的では無いと思います。また昨年対戦した時双葉蓮次はラインをしていたのがタイトエンドへポジションを変えています」
隣で進が答えた。
「ラインからタイトエンドだと?動きはどうだった」
ビデオでも撮ったのに聞かれるなんて…どう言ったら良いんだろう。
「走力は変化していませんがパワーは上がり、初心者と変わりなかった昨年と比べて動きが良くなっていました。またランをフォローするブロッキングは良く、ランニングバックのランルートを上手く作り上げていました」
よく見ている…全然俺は気付かなかった。
「その上で進、お前が警戒すべき選手は誰だ」
「はい。1番は蛭魔妖一ですが、彼を除いた場合警戒する選手は背番号80番の雷門太郎。彼はポジショニングこそ初心者ですがキャッチするのが難しいパスを取り得点に絡む事からオフェンスの中心だと思います」
「うむ」
「また同じぐらい警戒するのが背番号2番の双葉蓮次、スピードは決して早くは無いですが持ち前のパワーでこちらのディフェンスをものともせずパスを取る可能性があります」
「うむ!泥門はパスワークを中心に攻撃をしてくる!必ずパスをさせないよう徹底してプレッシャーを与えていけ!」
『はい!』
「いいか!何度も言うが0点に抑えれば1点でも勝てる!アメフトで大事なのはディフェンスだ!!」
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〜双葉蓮次視点〜
「相手はディフェンス大好き王城ホワイトナイツ。今日の試合を漏れなく撮られてっから今頃対策を練ってるとこだろうな」
帰りの電車内でヒル魔が俺と栗田の前で話し始めた。
「ウチは秘密兵器を使うことなくクソザルと双葉でパス中心のチームだと認識させるよう仕組んだ。そこが狙い目だ!」
「秘密兵器投入でランを使うってか?」
「ここで使わねぇでいつ使うんだって話だ!去年の雪辱を晴らして春大会優勝!俺はそこしか見てねぇ!」
「でもほんとに大丈夫かなぁ…去年93点も取られて優勝候補だよ?」
「何弱気になってんだファッキンデブ!」
ポヨンポヨンと栗田の腹を何度も蹴ったヒル魔が栗田の鼻を指で押した。
「99点取られようが100点取りゃ勝つんだよ!アメフトで大切なのはオフェンスだ!!」
確かにな、攻めて攻めて攻めまくって相手よりも点を取って行けば何点取られようが勝てる。
「最初のうちはパス潰しに来るだろうが俺らはランで取りに行く!リードブロックでランルートを確保すりゃうちの秘密兵器が必ず100点取る!」
セナを見れば手を力強く握って気合いが入った顔をしている。
「ランが封じられてもうちにはパスもある、王城との試合までにパスルートを覚えるために練習するぞモン太」
「ウキッ!?次も俺出るんすか!?」
「ったりめぇだクソザル、テメェはもうアメフト部の部員だぞ」
「いやいやいやいや待って欲しいッスよ!俺は野球部で今日は助っ人だって聞いてるッスよ?!」
「双葉、そう言ったか?」
「本人には物は試しで今日出てみろとは言った。監督からは引き抜いてもいいと許可を貰ってる」
「なら次も試しに出ろ、つーかテメェはもう逃がさねぇからな」
「ぇぇえええ!!」
何をそんなに驚いてんだ?
「双葉君!ヒル魔君!モン太君を虐めちゃダメでしょ!」
「あっいや俺はモン太じゃなくて雷門…」
「虐めてねーよ、本人からやるって聞いてんだから最後までやるのが男だろ」
「た、確かに言ったッスけど…それは今日だけの…」
「だからって本人の許可無しに引き抜きは良くないでしょ!モン太君が可哀想じゃない!」
「あっだからモン太じゃ……」
「めんど…こうなりゃ折衷案。この大会が終わるまではアメフト部、今モン太が居なけりゃこの大会を勝ち進めるのは無理。モン太には悪いがこの大会中はアメフトを頑張ってもらうし練習もアメフト部の方に参加してくれ」
「えぇ…はい」
「ケケケッ話は決まりだな。この大会中クソマネがいくら文句垂れようがクソザルはアメフトをやる、大会が終われば好きにすりゃいい。野球部に戻ろうがアメフト部に残ろうが勝手だ」
ま、ヒル魔が逃すわけないから終わってからじっくりゆっくり追い詰めて取り込むだろうな。
「…………今はそういうことにしておく。モン太君もそれでいい?」
「…………男がやるって言ったんだ!俺も最後までやるッスよ!それにタッチダウンした時気持ちよかったし!!」
「はははっ!これは頼もしいワイドレシーバーだなヒル魔」
「ケケケッ!」
駅に到着し、ここで解散。
来週は王城ホワイトナイツと対戦、今日の試合の疲れを残さないようにと助っ人達に伝えた俺は帰ろうとした。
「蓮次、ちょっと付き合え」
だがヒル魔が呼び止めた。俺を苗字でもあだ名でない呼び方…真面目な話か。
「何事かと思って着いてきたがなんでわざわざ部室に来たんだ」
ヒル魔について来れば部室、明日でも良かったのに。
「次の試合までにパスを覚えろ」
「パスゥ…?」
俺にボールを投げて来たヒル魔が突然パスを覚えろと言われた。
「王城は俺だけがパスをすると思っている、実際パスをするのも俺だけのつもりだ」
「なら必要ねぇだろ、ヒル魔のパスならモン太へのロングパスでもインターセプトされる可能性は低い、そこまで不安にならなくてもいいだろ」
「当然前に投げるパスは俺がやるつもりだ。テメェに覚えてもらうのは後ろに投げるパス、それに関しちゃ回数制限はねぇ。俺と蓮次の連携プレイでやるぞ」
ここでアメフトルール。
ヒル魔がSet・Hutと掛け声を言う時、栗田がいるラインの事を”スクリメージライン”と呼ぶ。
そのスクリメージラインよりも後ろなら1プレイのうち1回だけ前へのパスが出来る。要するに、モン太へのロングパスや俺へのショートパスは1プレイのうち1回。
スクリメージラインよりも前、つまりスクリメージラインを超えて相手陣地側で前へのパスをすれば反則。
だが後ろへのパス、手渡しのパスと言った前へのパス以外のパスは回数制限無く場所を問わず何度でもOK。
そのパスを覚えろとヒル魔は言ってて、連携プレイをして王城との試合に勝つつもりだ。
「ファッキンチビのランを初見なら抜けるかもしれねぇが必ず進が止めに来る。ラインはファッキンデブを除いて貧弱、クソザルへのパスも蓮次へのパスも対策してこられたらいよいよ打つ手がねぇ」
「そこで連携プレイってか」
「そういうこった」
ニヤリと笑うヒル魔が無糖ガムを口に入れた。
「疲れてるとか文句は聞かねぇ、時間がねぇんだからとっととやるぞ」
「晩飯奢れ、それで許してやる」
「部費でいいもん食わせてやるよ」
支払いは校長……お労しや。
夜になっても終わらない連携プレイの練習。
ナイターで照らされたグラウンドの中俺とヒル魔の2人は連携プレイを覚えるために走ってはパスを繰り返した。先ずは走りながらパス、慣れてからは仮想ディフェンスとしてタックルマシンやライス君を置いてのパス回しをお互い倒れるまで続けた。
「もう無理…今日はもう走れねぇ…」
「まだだ……ついでだ、ちょうどライス君を出してんだ…前へのパスも覚えろ」
このライス君、ジェリー・ライスという史上最多のパスキャッチ記録を持つ選手から取った板にネットを付けたもの。
初め俺や栗田がパスを取れなくてヒル魔のパス練習をする時に作られたもので、倉庫の隅に置かれていたのをこの連携プレイをしてる時に取り出した。
「マジかよお前…悪魔か」
「ケ…ケケケッ……やれ」
やれやれ…お前が取ってくれたら楽でいいのに。
そしてとうとう腕が上がらなくなるまで続け、練習を終わらせた。
ヒル魔奢り(部費)で近くの食べ放題の店へと向かい、お互い無言でひたすらに食べ物を口へ運ぶ。
試合終わりでそこから練習してヘトヘトの俺とヒル魔はもう腹がペコペコ、男子高校生の食欲を爆発させて店にあるだけの料理を2人で食べ続け……売り切れ寸前になるまで食べたのだった。