西部ワイルドガンマンズとの試合から翌日。
昨日は何故か鼻息を荒くしたセイジが「まも姉ちゃんと結婚して僕のお姉ちゃんにしてよ」と言われ、ゲンコツを落として早々に寝た。
試合中に痛めた足を診てもらう為学校よりも先に病院へ行くことにした。
結果は昨日と同じ異常なし、関節とか靭帯とか痛めたのかと思っていたが問題ないそうだ。
まぁ異常なしと分かれば後は今日一日疲労を抜いて明日から練習に励むとするか。
「おっす」
「あっ蓮次君、病院はどうだった?」
昼休み中に着いた俺は姉崎と目を合わせてくれなかったが挨拶を交わした。
「異常なし、やっぱ使い過ぎで炎症だってよ。今日一日休んでれば治るだろうし、放課後に酸素カプセルへ入っておく」
「良かった、来週の試合には間に合いそうね」
「怪我が原因で出られないってなればヒル魔に処刑されそうだ」
「確かに、湿布使う?」
「貰う」
湿布を貰う時だけは目を合わせてくれたが直ぐに逸らされてしまった。
「って訳で異常なし、心配かけたか?」
「別に」
放課後。
部室へ行くとヒル魔が居たので診察結果を伝えると素っ気ない態度で返事をされた。
「ま、今日はゆっくり休んで明日からまた練習だ。どぶろく先生がタイトエンドについて一から指導してくれるって話だから俺はそっちに集中するぞ」
「…」
「盤戸戦はいつも通り超攻撃的作戦か?去年MVP取ったあの赤羽が出てくるって話だからな、何かしらの対策を練った方が良いだろ。妙案はあるか?」
「…」
「黙ってガム噛んでねぇでなんか言えよ」
ヒル魔の様子が変だ、西部戦に負けたから落ち込んでるのか?まだ試合があるのにそんな様子じゃ困るんだよな。
「腹でも下したか?」
「違ぇよ」
「ならどうした、あと1つ勝てば関東大会へ行けんだぞ?落ち込む暇はねぇんだからいつも通りやれよ」
また黙ったか、俺の想像以上に敗戦が堪えてるみたいだ。
「調子狂うなぁ…まぁいい、先に酸素カプセル入ってくる。終わったら話があるから帰んなよ」
「……」
また無視、もういい。先に酸素カプセル入るか。
「おっまだ居たか、お前のことだから帰るかと思ってた。コーヒー飲む「テメェは今のままでいいと思うか?」…あ?」
今のままってどういう意味だ?
「チーム状況の話か?」
「ポジションコロコロ変えて酷使してる今の状態がいいと思うかだ」
「俺の事?ふーん、また何か変な事考えてんだな。つーか酷使してる自覚あったのか」
部室に置いてある電気ケトルに水を入れてコーヒーを飲むために湯を沸かした。
「試合に勝てるなら何だっていい。色々やらせてもらって面白ぇし、タイトエンドとしてすこーしだけ取っ掛りを掴めそうな気がする」
湯を沸かしてる間ヒル魔を見ないで自分の気持ちを吐いた。
「取っ掛りだと…?」
「クォーターバックとランニングバックで培った経験って使えると思わねぇか?俺は全ポジションを経験してるから純粋なタイトエンドと比べりゃ経験値は劣るけどその分他から得た経験値を利用すりゃ有利じゃねぇかと思ってる」
「…」
湯が湧いたので2人分のコーヒーを準備し、1つをヒル魔の前へ置いた。
「つまり俺の最終到達点は”最強の何でも屋”…それって良くね?」
「…かもな」
「試合中作戦でヒル魔やセナとも違うスタイルの選手が突然出てきて作戦の幅が広がるって算段…まぁこれまでと大差ねぇが、面白れぇだろ?」
「テメェはそれでいいのかよ」
「言ったじゃねぇか、試合に勝てるなら何だっていい。初めからコロコロポジションが変わるのはちょっと勘弁してくれ、スタミナがもたねぇ」
「あっそ」
「なーに落ち込んでんだ?西部に負けて落ち込む暇があるなら盤戸攻略へ向けた作戦を練って関東大会へ行ってリベンジ、まだ終わってねぇぞ」
「……あぁ」
ヒル魔がしんみりしてるのを見るのは初めてかもな。
「もしかしてお前俺を酷使し過ぎたって反省してんのか?」
「黙れ」
当たりっぽい。
「まぁそうだよな、秋大会前にキャノンは後半からにしようぜって提案したのに無視してトライフォーポイントで俺をとことん使ってバテさせてしまったしな」
「黙れ」
「その後もそうだ。ブリッツに何度も行かせて無茶ぶりして、後半はTフォーメーションで足を使わないやり方をしたのはいいけどトライフォーポイントはキックをしたからキッドにバレてしまったよな」
「黙れ」
「そんな疲労困憊の中鉄馬とマッチアップしたらそりゃ負けるわ、バテバテの俺とオフェンス限定でスタミナ余ってる鉄馬じゃ勝負にならねぇ。もっと早くからマッチアップしてりゃ結果は違ったかもな〜誰のせいだろう?」
「ぶちのめすぞ」
「おや〜?いつもより言葉に熱がねぇなヒル魔く〜ん、正論ぶつけられて言い返せねぇのか?」
「ぶちのめしてやらぁ!!」
とうとう堪忍袋の緒がキレたヒル魔がハンドガンの銃口を向けて脅された。
「悪かったな最後までもたなくて」
「あぁ!?」
「あともう少しでキッドに勝てるってタイミングで勝ちを逃したのは俺のせいだ、悪かった」
「……ちっ!」
舌打ちをしながらハンドガンを仕舞うと、俺にガムを投げてきた。
「テメェのせいじゃねぇ、俺がカードの切り方を間違えただけだ」
「ヒル魔だけのせいでもねぇよ、全部の責任を被ろうとすんな。西部戦は俺も頭に血が上っていたと反省してる、ヒル魔もこれを機にやり方を変えるぞ」
ガムを口に咥えながら答えた。
「……あぁ」
ギリギリ聞こえるかぐらいの声でヒル魔が返事をした。
「やっぱお前ツンデレ、可愛くねーわ気持ち悪い」
「今度こそぶっ殺してやらぁ!!!」
「はははっ!事実だろ!」
ヒル魔を揶揄った後、冷めたコーヒーを飲んでいるといつもの調子に戻ったヒル魔が話しかけてきた。
「赤羽隼人はどうやら帝黒学園に転校したが転校し直して6ヶ月の出場停止期間だったらしい」
「へぇー何か縁があるな、同じポジションだし帝黒学園もそうだ。もしかしたら同じチームになってた世界線もあっただろうな」
「ケッ!テメェが帝黒学園へ行くようなタマかよ」
「そりゃそうだ」
「今後テメェはタイトエンドをメインに据えて使ってやる、精々バテねぇようスタミナ鍛えとけ」
「今更だが俺のスタミナ切れの原因ってお前の作戦なんだよなぁ…多分純粋にタイトエンドやってりゃもつと思う」
「余計にスタミナ増やしとけクソが」
「そんな直ぐには増えねぇよ」
コーヒーを飲み干すとヒル魔がパソコンを操作し始め、俺は盤戸戦のビデオを見ることにした。
「作戦次第でクォーターバックをやらせるがどの程度までレベルを上げるつもりだ?」
「ん?ヒル魔の様なトリックプレイは無理、それにスタイルも被るから良くねぇだろ」
「だったらテメェはモバイルクォーターバックを目指せ」
「機動力のあるクォーターバックだっけ?」
「あーそうだ。移動式砲台、俺よりも足があるテメェにしか出来ねぇスタイルだ」
「そりゃいい、是非そのスタイルでクォーターバックをやろうじゃねぇか」
「ランニングバックはそのままでいいだろ」
「そうだな、セナと差別化出来てる」
「これからテメェはモバイルクォーターバックをものにしろ」
「あいあいキャプテン、けど先ずはタイトエンドだぞ」
「夜の特訓でやるぞ、ファッキンアル中も巻き込んで一から叩き込んでやる」
「練習終わって雪光と居残りしてからお前か…まーた眠れない夜が続くなぁ」
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〜姉崎まもり視点〜
「入らねぇのか姉崎」
「あっムサシ君」
部室前で中を覗いていると後ろからムサシ君が声をかけてきた。
「ヒル魔君の様子が変だって栗田君から聞いたから様子を見に来たけど大丈夫そうみたい」
「なんで分かる」
「蓮次君がいるから」
「ヒル魔の様子を蓮次にも言ったのか?」
「ううん何も言ってない」
「そうか、なら放って置け。あまり首を突っ込むとヒル魔に怒られんぞ」
「そうだね」
「ヒル魔のカウンセリングは蓮次がやるだろうし、姉崎は蓮次のカウンセリングを頼んだ」
「うん、もちろんそのつもり。私が蓮次君のサポートをするから…………マネージャーとして!」
「だんだん化けの皮が剥がれてんぞ」
「そんなことない!」
ホントの気持ちだから!
「んじゃ後は頼んだ。俺は帰る」
「あっうん、じゃあね」
ムサシ君を見送り、部室内を覗くといつの間にか2人が銃を突き合わせて喧嘩していた。
「何でお前は1つでも外したら全部おじゃんの超ギャンブルの作戦しか立てねぇんだ!少しは保険を用意しろよ!!」
「んなもん必要ねぇ!そこはテメェがフォローするだろうが!」
「そのせいで俺はバテるんだけど!?いつまで俺はお前の尻拭いしなきゃなんねぇんだクソが!」
「それがジョーカーの役目だろうが!」
「尻拭いさせる為に俺をジョーカーに仕立てあげた訳じゃねぇだろ!だったらもういっその事タイトエンドに集中させろ!その方がまだスタミナ持つわ!!」
なんて言うか…2人って仲良いね。
ああやって銃を向け合ってるのに少しも放とうとしないで言いたいこと言い合って、私は蓮次君とあんな風に言い合えてないのが少しだけ……やめよう、私は蓮次君を困らせる事はしたくないから。
という訳で日常パートその3でした!
次回はいよいよ試合前!
盤戸スパイダーズと3位決定戦となります!
それでは次回もよろしくお願いします!!