泥門の2番手   作:実らない稲穂

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神龍寺ナーガ戦その3

 

 

 28対0、1点も取れずに大差をつけられた泥門のメンバーの空気は重い。

 

 そんな空気の中両腕にアイシングを巻いて後半からの作戦を考えていた。

 

「腕大丈夫?」

「あぁ大丈夫だ」

「ならいいけど…」

「俺よりも問題はあっちだ」

 

 前半で細川との実力差を理解したモン太が明らかに落ち込んでいる。

 

「姉崎、頼んだ」

「え?あっうん」

 

 モン太を元気付ける為に姉崎を向かわせたが果たしてどこまで持ち直せるのか…。

 

「双葉さん」

「セナか、どうした」

「…この気持ちは一体何でしょうか」

「?」

 

 前半が終わったタイミングで阿含がGAME OVERだと言った時セナの様子は普段と違った。多分その時に心に火が着いたのかも。

 

「そりゃ怒りだろ」

「!」

「優しいなお前は、自分が貶されても怒らないのにヒル魔達を貶す言葉に怒れるなんて優しい奴だよほんと」

「…」

 

 セナは多分自分がここまで怒ってるのにどうして双葉さんは怒らないのだろうって思ってんだろな。

 あいにくその程度の戯言で動かされる俺じゃない。

 

「けどま、後輩がここまで怒ってくれてんだ。俺もそれに合わせて怒り爆発させてやるか!」

「双葉さん!」

「大丈夫だ、まだ俺の心は折れちゃいねぇ」

 

 

 

 セナが俺から離れて休んでいる間、阿含をどうするか考えよう。

 現状ブリッツは全部手刀で叩き落とされて成功していない、このまま特攻をし続けても進展がなければ悪戯にスタミナを消耗して西部戦の二の舞……フェイクを入れてるからあの時よりもマシとは言えこのままだと最後までスタミナがもつか不安だ。

 

 何より相手はあの阿含…尽きることのないスタミナと暴力的なプレイスタイル、何よりもあの神速のインパルスがヤバすぎる。

 異常な反応速度で全部を見てから対応されるとどうしても先手で動いた俺達が後手に回ってしまう。

 アレで練習してねぇとか意味わかんねぇよ、どれだけ練習を積み重ねて来たって阿含の前じゃ無意味だって嫌でも知ってしまう。

 

 これが最強、才能の塊、天才……ほんとムカつく奴だ。

 アイツを超えなきゃ俺は”最強の何でも屋”を名乗れねぇじゃねぇか!

 

 

 

 

「蓮次兄ちゃん!」

 

 阿含の事でイライラしながらも心を燃やしていると、上から撮影をしていたはずのセイジがジジイの手を引きながら最前列まで来た。

 

「どうしたセイジ」

 

 ベンチから客席の方へ歩いて近寄るとセイジがジジイを押して前に出した。

 

「お父さんほら早く!」

「………………」

「はよ言えマダオ」

 

 セイジが段差を利用してジジイの頭を叩いた。

 

「蓮次、ぶっ壊せ」

「あ?」

「守りたいものを守る為に相手をぶっ壊せ」

「……」

「後は……」

 

 ドォン!

 

「ここの熱!」

 

 胸を力いっぱい叩いてドラミングの様な音を鳴らしたジジイが言い切った。

 

「蓮次兄ちゃん!熱でもいいけどお父さんは多分覚悟って言いたいかも!」

「補足ありがとセイジ」

「頑張って!怪我しないように!」

「分かってる」

 

 覚悟か……それも相手をぶっ壊す覚悟(殺意)

 守りたいものを守る為に相手をぶっ壊す、か…守りたいもの?ジジイは相変わらず何を言いたいのかイマイチわかんねぇよ。

 双葉流柔道は護身術…となれば人、守りたい者って解釈で良いんだろうな。

 

 1番に守りたい人か……。

 

 

 脳裏には何故か以前部室で優しく微笑みながら手を握ってきた姉崎が浮かんだ。

 

 

 まぁ、身近で守りたい人って言われれば……な?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉崎」

「?」

 

 アイシング道具を外して姉崎に投げ渡した。

 

「もういいの?」

「あぁ、もう十分。だからよ……手、貸してくれ」

「?」

 

 不思議そうな顔をした姉崎が俺に右手を出してくれた。

 

 何も言わず、そっと姉崎の手に俺の手を当て……壊さないよう優しく握った。

 

「れ、蓮次君…?」

 

 柔らかく、少しでも力を込めてしまうと壊れてしまいそうな程の細くて小さい手。寒空の下にいたからか、指先が少し冷えて赤くなっている。

 

「……ちゃんと勝利を掴んで来るからな」

「……うん!」

 

 返事をしてくれた姉崎の笑顔は守りたいと思える程いい顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺何してんの?頭イカれてる、なんでハーフタイム中にマネージャーを口説いてんだよ。やべぇ、神龍寺側からの殺気も強まってるしやべぇなこれ俺死んだわ今日。でも姉崎が悲しい顔をするからアイツら全員ぶっ壊してやろう。

 そうすりゃ姉崎を守れるし勝ちも取れるしで一石二鳥じゃねぇか。

 

 

「悪い、頭イカれてた」

 

 頭を振って変な思考をどこかへ追いやってから手を離して謝るも、今度は姉崎が俺の手を握った。

 

「大丈夫、蓮次君が勝つって信じてるから」

「!」

「阿含君を超えたい、そんな顔をしてるよ」

「……あぁ超えたい」

「なれる!絶対に超えて1番になれる!」

「ありがと」

 

 俺の中にある熱が更に燃え上がる感覚があった。

 恋心なのか、欲なのかどっちか分からないがこれまで試合をした中で1番と言っていいほどに熱くなっている。

 

 

 

「双葉さんにオーラが…!」

「まもりさんに触れたら俺も…!!」

「いやただの湯気だから」

 

 

「ヒル魔、蓮次が燃え滾ってんぞ」

「……」

 

 ムサシがヒル魔へ話しかけているがきっと頭の中は後半の展開を想像して計算しているはず。

 あのヒル魔が俺のネタを撮らない程だ、どう逆転しようか策を練っているに違いない。

 

 

 

「双葉先輩、正直に言って欲しいっす。勝率どんぐらいっすか」

 

 姉崎から離れて水分補給をしていると、1年ライン組が来て先頭にいる十文字が聞いてきた。

 

「…このままだと甘く見ても1%」

 『!』

「低確率だと思う、だが0じゃねぇ!まだ勝てる確率はある!」

「うっす!」

 

「どれだけ点を取られようがその分取るのが泥門デビルバッツだ!99点取られようが100点取れば勝つ!勝てる可能性があるのに諦めるバカじゃねぇだろお前ら!!」

 『おう!』

 

「絶対に勝ってクリスマスボウルへ行くぞ!!」

 『おう!!』

 

 

 

 

 

 

 

 ハーフタイムが終わり、これから泥門のキックオフ。

 

 フィールドに出てムサシがボールの蹴る位置を確認している中、ずっと黙っていたヒル魔が口を開いた。

 

「聞いてっかテメェら」

「?」

 

 いつもの様子とは違う。

 

「この試合はもう……勝ち目なんざねぇ」

 

 は?

 

「怪我だけはしねぇように闘え。テメェらには来年がある」

 

 何を言ってんだこいつは…?

 

 一体何を……………………姉崎を見るとサインを出してくれた。

 

 ―全員が後ろ寄りになってる―

 ―みんなムサシ君のキックを無意識に警戒してる―

 

 サインを見てから神龍寺の立ち位置を見ると、阿含が最後尾にいる。

 ムサシのキックを警戒した神龍寺の作戦か、元々の定位置なのか分からねぇ……だけど阿含が後ろにいるなら前に転がせば取れる可能性が出てくる!!

 

「泥門の勝率はもう0コンマ数%っきゃねぇ状態なんだかんな」

 

 怪我をしないように…ヒル魔の言葉が真逆の意味だと言うなら、怪我をする様なプレイ…………こいつ神龍寺にバレねぇように嘘ついてオンサイドキックをすると言ってんだ!

 

 気付いてしまったなら誰にも言えねぇ!これは乗るしかねぇ!!

 

「ざけんじゃねぇぞヒル魔!まだ勝てる可能性があるのに何諦めてんだ!」

「はなから練習や努力でどうにかなる相手じゃなかった、そんだけのこった…」

「お前ぇ…!!」

 

「蓮次…俺らの夢はここで終わりだ」

「っ!」

「テメェも怪我しねぇように闘え。命令だ」

「…………」

 

 あーそうかよ、こいつは後半から俺を酷使するって言いてぇのか。

 上等だ!容赦なくやってやらぁ!!

 

 

 

 

 






 ハーフタイムが終わり次回から後半!

 マダオの言葉に何やら蓮次の様子が…?



 次回は2026/02/03の0:00です。
 それでは次回をお楽しみに!!

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