〜姉崎まもり視点〜
『Set!』
試合終了まで後5分、神龍寺の攻撃を止めてボールを確保したい。
それなのに…ドラゴンフライとは似てるようで違う、細川君が雲水君の隣に立っている3人体制のフォーメーションになっていた。
「ありゃゴールデンドラゴンフライだ!」
「どぶろく先生知ってるのですか?」
「1988年の日大で生まれた3人のクォーターバックを並べる常識外れのドラゴンフライの亜種!ここでまさかそんなもの……雲水の奴、顔に似合わず大胆不敵な野郎だ…!」
『HutHutHut!』
2人のドラゴンフライでも大変だったのに3人になればもっと大変で、短い距離を確実に通すパスを繰り返して来た!
「このままゴールデンドラゴンフライで時間を稼がれつつ攻められちゃ終わりだ…!!」
『タイムアウト!』
残り時間4分…泥門陣地まで後60ヤード。
少しずつ進まれて来た中、泥門がタイムアウトを取った。
「みんな頑張って!」
給水ボトルをみんなへ手渡しながら応援の言葉を伝えたが返事は無く、みんな無言で休んでいる。
「何か方法はねぇのか?ヒル魔と蓮次なら何か思いつくだろ」
ムサシ君がヒル魔君と蓮次君へ話しかけていた。
「短いパスで100%通して来てる、あれだけ細かにやられりゃブリッツを仕掛けに行く暇もねぇ」
ヒル魔君の代わりに蓮次君が答えてくれた。
ブリッツへ行っても直ぐにパスをされてしまえば失敗に終わる、だからゴールデンドラゴンフライで攻められている今はセナも蓮次君もブリッツには行けてない。
「それでも止めに動かねぇと負ける。セナは何とか足を活かしてプレッシャーをかけてくれ」
「はい!」
「モン太は細川をマークしてとにかく進ませないように、あわよくばパスをインターセプト出来りゃ良いがさせないようにショートパスを選んでいるからキャッチした細川を1番に止めにいけ」
「はいッス!」
「黒木と瀧はヒル魔の指示をよく聞いてフォローに回ってくれ」
「うっす!」「OK!」
「ライン組はキツイがパス壁を崩すよりも中央突破をされないようにしてくれ」
「うん!」
蓮次君がみんなに話して作戦を決めたのはいいけど石丸君も確かディフェンスに……言わなくてもいいの?それとも気付いていない?
「いいよいいよ…」
「セナには負担をかけて悪いとは思うが何とかやるぞ」
「はい!みんなで勝ってクリスマスボウルへ行きましょう!」
「おう!」
ガツン!
セナが蓮次君へ拳を向けると、蓮次君が力いっぱい拳を当てて先に行った。
「い、痛い…」
セナが痛そうに手を振っていた。
『Set!HutHut!』
攻めの守備を続けるも3ヤード前後の超ショートパスと中央突破が止まらず……残り時間が30秒を切って泥門陣地まで後45ヤードまで進まれている。
もう時間がない……このまま終わってしまう。
『Set!Hut!』
ボールが雲水君へ放たれ、右サイドへ移動を始める。
同時に阿含君もサイドラインギリギリにまで移動してパスを貰う体勢で構えていると蓮次君が阿含君へ突撃。
「もうめちゃくちゃじゃねぇか!」
ボールを持ってないのにブリッツを仕掛けるなんて…でも雲水君が阿含君にパスをする選択肢が消えた!
逆サイドにいる細川君を見た雲水君が投げようとするけど、もう細川君にはモン太君がピッタリマークしていて投げるに投げられない。
「おおおおっ!」
そこへ更にセナのブリッツ!
「……」
冷静に状況判断した雲水君が後ろにいるサンゾー君へパスしようとしてる!
「…なっ!」
振り向いた瞬間、きっと雲水君は驚いて思考が止まったかもしれない。
だって―
「念仏は唱えたか?」
―阿含君に向かっていたはずの蓮次君が目の前に来ていたから。
雲水君が阿含君から視線を外した瞬間、蓮次君が方向転換して雲水君へ突撃。雲水君が阿含君から視線を外さなければこの奇策は成立しなかったと思う。
「ケケケッ!ここであの天才阿含を無視できるわけがねぇ……だからこそ無視する!!」
このプレイで試合が終わるかもという危機的状況の奇策。
泥門が今までに似たような状況であってもやらずにいたのはこの瞬間を狙っていたのかもしれない。
だからこそこの作戦が刺さったのかもしれない。
「こ、の゙…カスがぁ゙…!!!」
無視された阿含君が蓮次君にキレた顔をしているだけでフォローに行ってなく、蓮次君がもう雲水君の目の前でタックルをする体勢になっている。
「予定とは違うが、お前をぶっ壊してやらぁ!!」
「がはっ…!!」
蓮次君の右腕がスピアタックルの様に雲水君のお腹へ深々と突き刺さる。
「ボールを…寄越せぇ!!」
雲水君を軽く持ち上げて地面に叩きつけると雲水君がボールを落とした!
「拾えぇー!!」
ヒル魔君が叫ぶとセナがキャッチ!そのままゴールラインへ向けて走り始める!!
「いっけーセナー!!」
神龍寺陣地まで後45ヤード!時間がもう後3秒しかない!最後まで誰にも止められずに走り切って!!
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ゙!!!!」
獰猛な猛獣の雄叫びの様な叫び声が会場に響いた。
完全にキレた阿含君がセナへ向かって走り出し、正面に立ち塞がる。
「テメェをここで殺しゃあ終わりだ!ぶっ殺してやらぁ!!」
セナへ向かって全力の手刀…!!
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〜小早川瀬那視点〜
「死ねぇカスチビィ!!」
阿含さんの手刀が目の前に…!
今からでも抜く場所を探さなきゃ!
デビルバットゴーストで?それともハリケーンで?…………ダメだ!神速のインパルスで全部反応されてしまう!弱点なんかない!
「テメェをぶっ殺してGAMEOVERだ!!」
GAMEOVER…まただ、また言った。
―あ゙ーそういや何か言ってたな、クリスマスボウル?夢見ちゃったカスの4年間も、めでたくGAME OVERだ―
ヒル魔さんと栗田さんとムサシさんがクリスマスボウルを夢見て初めたアメフト部、その夢をこの人は貶した。
―No.1になるって良い夢から覚めたか凡人、テメェはここでめでたくGAME OVERだ―
双葉さんが1番になりたいって強い思いでずっと努力をしていたのを知ってる、この人は尊敬する先輩を貶した。
許せない!!
「この俺を攻撃!?」
阿含さんの心臓に向けて…全力で!
「舐めんなカスが!」
「い゙っ!」
腕に手刀を食らった、痛い………でも、ここで終わりたくない!
「うあぁぁっ!」
倒すんだ!阿含さんを倒すんだ!!
腕が折れたって良い!もう一度手を伸ばして攻撃するんだ!!
「このカスが!本気で死にてぇんだな!!」
また手刀…でも、腕を叩こうとするのに全力の今なら……!!
―デビルバットゴースト!―
「っ!」
よしっ抜いた!このままゴールラインへ!!
「逃がしゃしねぇ!!」
神速のインパルスでもう…!?
バシッ
「!」
どうしてか分からない、分からないけど阿含さんを倒すならヘルメットに手を乗せて力を込めれば倒せると感じた。
これまでヒル魔さん達をバカにして来たこの人を倒す絶好の機会…絶対に倒す!!
「おおおおあああああ!!」
「があああ!このカスが、こんなカスがこの俺を……!!!」
この後阿含さんがどうなったか確認せず、1度も振り返る事なく残りの距離を走り切ってゴールラインを超えた。
『タッチダウン!!』
審判の笛が聞こえてようやく振り返れば、泥門デビルバッツのみんなが笑顔で僕の方へ来て……会場全体が震えるほどの大歓声を浴びた。
「うおおおおおおっ!!」
ボールを投げ捨てて叫んだ僕は1番先に来たモン太に抱き着くとみんなに色々叩かれ、最後に栗田さんに押し潰されてしまった。
―35対34―
―残り時間…0秒―
次回神龍寺ナーガ戦ラストです。
更新は2026/02/11の0:00です。
それでは!