泥門の2番手   作:実らない稲穂

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戦士達の安息日

 

 

 関東大会初戦が終わった。

 王城と茶土の試合は進がトライデントタックルと呼ばれるグースステップを取り入れた新たなタックルを披露、次の対戦相手である王城の攻略がより難しくなったという結果だ。

 

 

 

 

 

 そんな翌日。

 全員が筋肉痛となって練習は休み、腕や足が痛むのを堪えながら登校した。

 

「おはよう蓮次君」

「おっす」

 

 姉崎と教室で挨拶を交わした俺はゆっくりと自分の席に座った。

 

「筋肉痛大丈夫?」

「大丈夫な様に見えるなら眼科行け」

「なら大丈夫じゃないよね、アイシング居る?」

「要らねぇ、朝から氷風呂にぶち込まれて寒いぐらいだ」

「うわぁ…お兄さんが?」

「あーそうだ、朝飯食う前にぶち込まれて冷えた体に味噌汁が染みたわ。その後風邪ひかない様にって乾布摩擦、鬱陶しいったらありゃしねぇ」

「それだけ蓮次君の事が心配なのよ」

 

「勘弁してくれよ…これまで嫌ってた分兄貴の暴走が鬱陶しくて余計に疲れるわ。だーれも助けようとしねぇ」

「朝からお疲れ様」

 

「だから寝る」

「まだ話があるんだから寝ないで」

「あ?何だよ話って」

 

「ちゃんと勝利を掴んでくれてありがとう」

「…………おう」

 

 姉崎の言葉に恥ずかしくなった俺は目線を姉崎から外して自分の手を軽く握った。

 

 部室で姉崎から手を握られた事と昨日のハーフタイムに自分から姉崎の手を握ったのを思い出し、余計に恥ずかしくなった俺は馬鹿な思考を追い出す様に思いっきり机に頭突きした。

 

「だ、大丈夫!?」

「気にすんな、マジで気にすんな。思考を1回リセットしただけ」

 

 ヒリヒリと痛むデコを堪え、腕で顔を隠して寝る体勢を作って姉崎との話を終えた。

 

 

 

「まだ寝ないで…!」

 

 だが姉崎は俺を寝かせてくれず、肩を揺すって無理矢理起こしてきたので渋々顔を上げた。

 

「蓮次君って熊袋さんとお付き合いしてるの?」

「…………くだらねぇ事聞くなら寝る」

「答えてよ」

「脳外科へ行くのを勧めるぞ」

「正常です!」

「だったら答えは分かってるだろ」

「じゃあ付き合ってないんだね?」

「あーそうだ付き合ってねぇよ好かれてるだけだ」

「へー好かれてる…………え?」

「寝る」

 

 

 

 

 

 

 昼休みまでしっかり寝た俺は弁当を食べ終わり、筋肉痛で動くのも億劫になるがヒル魔のいる教室へ来た。

 教室ではヒル魔がガムを噛みながらパソコンを操作していて、俺を見つけると何も言わずにガムを投げてきた。

 

「王城に勝つプランは?」

 

 ガムを受け取って空いている席に座って聞くと、チラッと俺を見てパソコンをカバンの中へ戻していた。

 

「バリスタの正体次第だがいつも通りだ」

「超攻撃型の作戦か、了解」

 

 ガムを咥えながら答え、ポケットからカード型のプレーブックを机に並べた。

 

「秋大会から王城が偵察に来てたよな、王城の前でかなりのカードを使ったから初見のカードはあんまり残ってねぇぞ」

「カードの中身がバレてもどのカードをどのタイミングで切るかが肝心だ。これまでの試合を見てきた王城の奴らは今頃うちが持ってる手札の多さに頭抱えてるだろうな」

「手札が多ければ多い程混乱を招くってか」

「そういうこった。初見のやつもまだあるしやりようはまだまだある」

 

「こっちは雪光のオプションルートの様な隠し玉はねぇ、カードの切り方勝負はヒル魔の得意技だろ」

「そんな単純なものなら良いがな、アメフトはポーカーみてぇに単純じゃねぇ」

 

「確かに、選手ってカードの強さに作戦カードの組み合わせ、ポーカーってよりTCG(トレカ)みたいな感じだな」

「かもな」

「ヒル魔にとって俺は選手と合わせる装備カードか?」

「テメェ何言ってんだ?バカだろ」

「少しはノリに合わせてくんねぇかなぁ…?」

「ケッ!くっだらねぇカードゲームとアメフトを一緒にすんじゃねぇよ」

「はいはい」

 

 

 

 昼休みが終わるチャイムが鳴ったので自分の教室へ戻った俺は昼からの授業も寝た。

 

 

 放課後、部室へ向けて歩いているとどぶろく先生がグラウンドの隅にある砂場にいるのを発見した。

 

「はさーん…はさーん……だいふごー……」

 

 泥門高校の用務員として雇われているどぶろく先生がボロボロの姿で雑巾がけしていて…砂まみれの雑巾を手に持ち、全く意味のない場所を掃除していて哀れだ。

 

 神龍寺戦に賭けていた金を分配して、余った全財産を太陽と白秋の試合に賭けた結果ボロ負けして頭のネジが外れた結果だ、悪銭身につかずを体現してくれた大馬鹿者を反面教師として覚えておこう。

 助けるつもりは全くない、残念でもないし当然だ。

 

 

 

 

 部室へ着くと、1年達も来ていたが何故か外に追い出されているのが見えた。

 

「あっ双葉さんこんにちは」

「チワッス!」

『ちーす』

 

「おう、どうしたんだ外に出てて」

「ヒル魔さんに今から屋上へ行けって言われまして」

「?」

 

 

 全員で屋上へ向かい、ヒル魔がグラウンド側の柵にもたれながら俺達にグラウンドを見るよう指示された。

 

「あれが見えっかテメェら」

 

 グラウンドを見ると色分けされたアメフトのフィールドが描かれている。

 色の中には誰かが立っていて、姉崎から双眼鏡を手渡されて見てみると微妙に誰かに似ている様で似てない人達がいた。

 

「あれが王城の最強ディフェンスだ。色分けが各選手の担当ゾーン、何パターンもあるが…完璧に役割分配された完璧な連携だ」

 

 色と色の間の白線の上をおじいちゃんが走り出した。

 

「ゾーンの継ぎ目で戦わなきゃ勝ち目はねぇ、色分けを1番見やすい高いところからきっちり見て3次元で死ぬほど頭に叩き込め!」

「ゾーンディフェンスか、進の担当エリアはかなり広いだろ」

「あーそうだ、ゾーンから離れた場所も音速の脚を活かしてカバーに回る。抜いたと思っても後から追いかけられて捕まるのがオチだ」

「つくづく思うが進ってマジで化け物だよな。進よりも速いセナが抜いてから独走出来りゃ良いが…できそうか?」

 

「やります、じゃなきゃクリスマスボウルへ行けないので!」

 

 何とも頼もしい言葉だ。

 

 

 

「で、でも進さんを抜くって相当厳しいですし僕にできますか…?」

「頼りねぇ…」

 

「アハーハー!そこは勝つって言わなきゃセナ君!」

「瀧君…そう、だよね。勝たなきゃ!」

 

 

 しばらくグラウンドを観察した後は解散となり、俺とヒル魔以外のメンバーは屋上から去った。

 

「テメェはボールを持ったらとことん相手の担当エリアをぶっ壊してやれ、神龍寺相手にやったようにな」

「でた〜また俺を酷使する悪魔、ほんっと俺への気遣いってねぇよなお前、人の心あるか?」

「黙れファッキンセカンド、勝つ為に使えるものを使って何が悪い」

 

「別に、もう俺頼りの作戦を立てなくても良いんじゃねぇのかって言いてぇだけ」

「あ?」

 

「神龍寺戦で確信した、1年は全員成長してる。だからお前も俺も無理しなくても良いんじゃねぇのか?」

「…」

「1年はバカばっかだけど(1人を除いて)本当のバカじゃねぇ。やるべき事は自分らで模索するし勝ちたいって欲もある、アイツらの熱意を信用してやれよ」

「……」

「そんだけ、俺は帰る。じゃあな」

 

 振り返って帰ろうとする瞬間、ヒル魔の口角が小さく上がったのを俺は見逃さなかった。

 

「ゴジャゴジャうるせえぞファッキンセカンド」

 

 後ろからヒル魔が話しかけてくるが俺は振り返ることも立ち止まる事もしなかった。

 

「あーあーそうだな、2番手の癖にでしゃばんなって言いてんだろお前は」

「なーにが2番手だクソが、神龍寺戦でバカみてぇにチームを仕切りやがって」

「どっかのキャプテンは人のケツを蹴るか死ねとかぶっ殺せとか抽象的な指示しか出さねぇからな。どっちがバカかわかんねぇよ」

「ケッ!テメェが穴埋めするって知ってっからな」

「ははっ!俺を信用しての指示か!そうかそうか!」

 

 

 屋上から出るドアを少し開けてヒル魔の方を見た。

 

 

「ツンデレ悪魔」

「テメェやっぱぶっ殺す!」

 

 ロケットランチャー的な危険な武器を持ち出したヒル魔から逃げた。

 

 

 

 そしてこの日、屋上で爆発事件が発生(警察沙汰にはならなかった)……そして風紀委員の決定と教師陣の決定により屋上へ上がるのは校則で禁止されたのだった。






 気が付けばもう100話目前、思ってる以上に長く投稿していたんだと気付いた今日この頃……皆さんの応援のおかげです。本当にありがとうございます( ^ω^ )

 さて、あと2話連続で日常パートを挟んでいよいよ王城戦となります。

 次回をお楽しみに!それでは!!
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