…バラキエル=フォン=アルビレオ(帝国歴1163~帝国歴1251)
フォドラの歴史は、三つの大国が互いを牽制し合う、冷たい均衡の歴史である。
南に千年以上の歴史を誇るアドラステア帝国。北に騎士道を掲げるファーガス神聖王国。そして東に、自由を謳う新興のレスター諸侯同盟。
その三国が水面下で繰り広げる勢力争いは、帝国暦1178年の今、張り詰めた糸のように危うい平和を保っていた。誰もが、その糸がやがて訪れる動乱によって断ち切られることを、まだ知らない。
レスター諸侯同盟の片田舎、新興貴族アルビレオ子爵の邸宅で、一人の少年が頭を抱えていた。窓から差し込む穏やかな光も、小鳥のさえずりも、今の彼には届かない。脳内で鳴り響く、けたたましい警報にかき消されて。
「『ファイアーエムブレム風花雪月』開始まで、あと二年……五年後の大戦までは、三年……」
絞り出すような声は、震えていた。
「前世でどれだけ悪いことすりゃ、こうなるんだ……?」
少年――バラキエル=フォン=アルビレオは、数日前に突如として蘇った記憶の濁流に苛まれていた。
それは、この世界とは違う、平和な日本という国で生きた一人のゲーマーの記憶。彼が愛してやまなかった、しかし、決して当事者にはなりたくなかった物語の記憶だった。
エーデルガルトの覇道。
ディミトリの復讐。
クロードの野望。
聖者セイロスの真実。
そして、血塗られた紋章の秘密と、「闇に蠢く者」の暗躍。それらはもう、画面の向こうの英雄譚ではない。これから我が身に降りかかる、残酷な現実の予告だった。
誰だって、リアルで死人が出る群雄割拠の戦乱を生き抜きたいとは思わない。ましてや、この物語の登場人物たちが、どれほど魅力的で、どれほど強く、そして、どれほどあっけなく死んでいくかを、彼は誰よりもよく知っていた。
「……腹をくくるしかない、か」
バラキエルは乾いた唇を舐めた。絶望に支配されていた心に、一つの冷たい覚悟が灯る。
「『先生』ですら全てを救えない。ましてや凡人たる俺なら尚更、ってことか」
そうだ、自分は主人公じゃない。女神をその身に宿した傭兵でもなければ、一国を背負う王族でもない。商人の才覚でのし上がった、新興貴族の長男。
持っているのは、いずれ傑物となる同級生たちに比べれば凡庸な才と、そして――この世界の未来を知っているという、禁断の知識だけだ。
弱い者は生き残れない。ならば、強くなるしかない。どんな手を使ってでも。
この後現れる、女神ソティスの寵愛を受けたあの傭兵でさえ、全てを救えなかった。誰かの手を取れば……その誰かを守るため、選ばなかった方を殺さざるを得ないのだ。
誰かを選ぶとは、誰かを選ばない事……その言葉の意味を、知ることになるとは思わなかった。
脳裏に、一人の少女の顔が浮かぶ。家族ぐるみの付き合いがある、コーデリア家の少女。
白銀の髪に、アメジストの瞳。気丈な振る舞いの裏に、誰にも言えない苦悩と、あまりにも短い運命を隠している、愛しい少女。
リシテア。
ゲームの中で、彼は彼女の健気さと過酷な運命に強く惹かれた。この世界で出会った彼女は、記憶の中の彼女よりもずっと愛おしく、守りたいと心から願う存在になっていた。
「君だけは、絶対に死なせない」
それは、誓いだった。自身が生き残るため。そして、前世から焦がれた最愛の人を、この手で救い出すため。
バラキエルはゆっくりと顔を上げた。その瞳から、先程までの怯えや絶望は消え失せ、底なしの覚悟と、氷のような合理主義の光が宿っていた。
これから始まる動乱の時代で、彼は英雄にはなれないだろう。だが、構わない。
歴史の裏で暗躍する道化にでも、金に汚い俗物にでも、騎士道を踏みにじる悪魔にでもなってやる。
いかなる汚い手も厭わない。この知識、この財産、この命の全てを使い、最も確実な勝ち馬に乗り、生き残る。
そして、リシテア=フォン=コーデリアに、幸福な未来を与えるのだ。
物語の「主人公」がガルグ=マクの士官学校に現れるその日まで、残された時間は、あと二年。後に「神謀の黄金卿」と称されることになる少年は、愛する者と己の生存のため、いかなる手も厭わない覚悟を胸に焼き付けた。
バラキエルの、静かな戦争が始まった。
◇◇◇◇◇
バラキエルが己の宿命を自覚し、静かなる戦争を始めてから二年。帝国暦1180年、ガルグ=マク士官学校への入学を目前に控えた春の日。
アルビレオ家の庭園に設えられた純白のテーブルセットは、この二年でアルビレオ商会がどれほど飛躍したかを雄弁に物語っていた。茶器は遥か東方の国ダグザから取り寄せた一級品。茶葉はフォドラではまだ珍しい、爽やかな香りが特徴の緑茶。これら全てが、バラキエルの現代知識と商才が生み出した富の結晶だった。
中・近世ヨーロッパ程度の価値観しかないフォドラにおいて、彼の脳内の現代のビジネスや知識は金のガチョウの卵そのものだ。この程度の出費、痛くもなかった。
「また試食ですか?バラキエル」
呆れたような、しかしどこか楽しそうな声と共に現れたのは、二年前よりも少しだけ大人びた少女、リシテア=フォン=コーデリアだった。
「お願いします、リシテアさん。新作スイーツの評価において、貴女という最高の味覚の持ち主から好評を得られたなら、私にとってこれ以上の喜びはありません」
「まぁ、口の上手いこと。……良いですよ。この前のスイートポテトも、とても美味しかったですから」
優雅な仕草で席に着いた彼女の前に、バラキエルはそっと一皿のパイを差し出した。
黄金色の焼き目がついたパイ生地の上には、なめらかな橙色のペーストが乗り、ふわりと甘く香ばしい匂いが漂う。
「ところで、今年の入学生リスト、もうご覧になりました?」
パイにフォークを入れるリシテアに、彼は何気ない口調で尋ねた。
「いえ、まだです。同盟からはリーガン家の嫡男殿が入学されると伺ったくらいで」
「では驚かないよう、先んじて教えておきましょう。今年は、次期ファーガス国王、次期アドラステア皇帝、そして次期レスター諸侯同盟盟主が、このガルグ=マクに一堂に会するのですよ。これほど運命的なことはありませんね」
「運命って……バラキエルらしくないですね。いつも合理的に物事を考えている貴方が」
リシテアは意外そうに目を丸くし、そして、こくりとパイを一口飲み込んだ。途端に、彼女の紫水晶の瞳が、ぱっと輝きを増す。
「……あっ、これ、おいしいです!濃厚な甘さですけど、しつこくなくて……初めて食べる味です!」
「ありがとうございます。光栄です」
バラキエルは満足げに微笑んだ。
「実はソレ、野菜なんですよ」
「これが!? 嘘でしょう? 言われなければ全く分かりませんでした。……なんて野菜なのです?」
「『
「ええ、ぜひ!」
パンプキンパイの感想を嬉しそうに語り、南瓜という未知の野菜に興味津々なリシテア。
直接食べることはないだろうが、今まで知らなかったスイーツに変貌する前の姿を知りたいと思ったのだろう。
その屈託のない笑顔を見ながら、バラキエルは胸の中で誓いを新たにする。
「(そうだ、この笑顔だ。この何気ない日常と、彼女の幸福こそが、私が全てを懸けて守るべきものだ)」
二年という月日は、ゲームの登場人物だった彼女への憧憬を、現実を生きる一人の女性への、どうしようもない愛情へと変えるのに十分すぎる時間だった。
「でもこれ、もっと砂糖をまぶした方が絶対に美味しいですよ!」
自信満々に言い放つリシテアの言葉に、バラキエルの表情がわずかに曇る。
「……Oh」
最近、新たに追加された目標リストの最上段には、こう記されている。
―――『リシテアの食生活改善計画』。
戦争で生き残れても、その先で最愛の伴侶が糖尿病で先立たれては意味がない。
そのことは非常に地味だが、しかし本人にとっては世界の命運と同レベルに重要な課題であった。
誰にも理解されないような、少しばかり気持ち悪い思考を巡らせながら、「次は人参かトマトでも見つけて加工しようかな…」などとこっそり呟くバラキエルであった。
名前:バラキエル=フォン=アルビレオ
イメージCV 梅原裕一郎
所属:レスター諸侯同盟・金鹿の学級
生年月日:帝国暦1163年3月31日
年齢:16歳→21歳(本編各部開始時点)
身長 170cm(本編)
個人スキル:???
紋章:持っていない
初期クラス:??(本編)
趣味:金策、絵画、将棋、(※ファイアーエムブレム風花雪月の攻略チャートを練ること)
好きなもの:女性、宝石、甘いもの(菓子から野菜問わず)、(※リシテア)
嫌いなもの:冷血漢扱いされること、戦争、バッドエンド(※FE風花雪月で生徒を殺した展開を何度も味わっているから)、(※闇に蠢く者たち)
※印がついている部分は、名簿には一切書かれておらず、本人もひた隠しにしている。家族でさえ知らない程に徹底している。
バラキエル「私が誰をスカウトするか知りたいですか?…賭けてみるのはいかがでしょう?まぁ使える人間は、誰でも使いますがね」
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