FE風花雪月 神謀の黄金卿   作:伝説の超三毛猫

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「相手の狙いが分かっていれば、そこに罠を仕掛ける事を躊躇ってはならない。」
 …バラキエル=フォン=アルビレオ (帝国暦1163~帝国暦1251)



10.ペルソナ

 女神再誕の儀が間近に迫り、ガルグ=マク大修道院はレア大司教の暗殺計画の噂で揺れていた。セイロス騎士団が警備を固め、誰もが緊張に顔をこわばらせる中、金鹿の学級の作戦司令室(と化した一室)では、全く別の結論が導き出されていた。

 

「大司教の暗殺は陽動だ。敵の本当の狙いは別にある」

 

 クロードとバラキエルの意見は、完全に一致していた。

 バラキエルは、その真の目的が聖墓に眠る『紋章石』の奪取であることを知っている。昼間は目立つため、彼はその夜、リシテアの部屋の扉を叩いた。

 

「――というわけで、敵の目的を探りに行きます」

「……夜に二人きりで抜け出すことを、よくもまあそんな爽やかに言えますね」

 

 彼女の言うとおりである。

 もし、こんな所を誰かに見られたら、真夜中の逢瀬を疑われるだろう。

 そんな風に呆れるリシテアに、バラキエルは一つの包みを差し出した。

 

「その前に、これを。今宵の貴女のためのドレスコードです」

 

 中から出てきたのは、奇妙な形状の大きな眼鏡――いや、ゴーグルのようなものだった。

 

「なんですかコレ? 眼鏡…ですか?」

「仮面です。秘密任務ですから、顔くらい隠さなくては」

「……他に、もっと良いものはなかったのですか?」

「ありますが」

 

 バラキエルは自信満々に、他の仮面を取り出す。それらは、白黒のドミノマスクに、骸骨風のマスク、白地に赤を衒った狐面に、重厚な鉄仮面……と、彼が前世の記憶を元に作らせた、『心の怪盗団』の仮面の数々だった。

 

「貴女の怜悧な頭脳と、戦場を俯瞰するその才能を鑑みるに、これが最も相応しいかと」

 

 彼がリシテアに選んだのは、天才ハッカー『ナビ』こと佐倉双葉の仮面だ。つまり、そういうことである。

 リシテアは数秒間、黙ってバラキエルを見つめた後、静かに、しかし明確な怒りを込めて言った。

 

「………喧嘩、売っているんですか?」

「な、何を言いますか!? そんなことは滅相も…!」

「まさか本気でそれが似合うと? はっきり言います。センス、無いですよ。ダサいです」

「だ、ダサ…!?」

 

 洗練されたペルソナのデザインをダサいと断言され、動揺を隠せないバラキエル。

 

「私、こちらの仮面にしますので、あんたはその面白眼鏡(くそダサめがね)をつけてくださいね」

 

 そう言うと、彼女は様々なデザインの仮面の中から、迷わず白黒のシンプルなドミノマスクを手に取った。「それジョーカーの……」とバラキエルは思ったが、口には出さない。

 

「…………分かりました。代わりと言っては何ですが、今夜の活動はコードネームで呼び合っていただきます」

「ま、待ってください。そこまでするほど危険な任務なのですか?」

「詳しくは後ほど。貴女のコードネームは『ナビ』。私のことは『ジョーカー』でお願いします」

「本当に必要なんですか? それ」

「当然です。これは秘密工作における、紳士淑女の嗜みですからね」

 

 これから教会の重要な部分に不法侵入するのだ。バレた時のリスクは計り知れない。だが、どこかウキウキしているバラキエルの様子に、説得力はイマイチ欠けていた。

 

◇◇◇◇◇

 

 寝静まった大修道院の廊下を、奇妙な仮面をつけた二人が進んでいく。

 

「ナビ。聖セイロスの話くらいは聞いたことがあるでしょう?」

「いきなりその呼び方やめてください。…えぇ、もちろん。フォドラを統一し、セイロス教を興した聖人ですよね」

「では、その亡骸がどこにあるかご存知で?」

 

 何故そんな話をするのかと問うリシテアに、バラキエルはこれから向かうのが聖墓なのだと告げた。

 

「そこ、普段は立ち入り禁止区域では…」

「えぇ。ですが、女神再誕の儀の間だけは禁が解かれる。奴らが狙うなら、そこしかない」

 

 彼は、敵の目的が聖墓に眠る『紋章石』だと目星をつける。

 

「紋章石……どうしてそんなものを狙うのでしょうか」

「えぇ。私にも理解に苦しみます。あんな()()()()()()()を欲しがるとか、一種の化け物ですね」

「……おぞましいもの?」

「その事については、今教えることではありません」

「どういう意味ですか。子供扱いですか?」

「違います。紋章石と英雄の遺産の正体は、生半可に話して良い事ではありませんので」

 

 1つの失言から、リシテアが違和感に気付き、バラキエルに問いかける。そして、それを躱すバラキエル。

 この彼の失言だが……無論、わざとだ。紋章石と英雄の遺産に疑問を抱かせ―――彼女に、或いは仲間たちに、自力でそれらの正体に気付いてもらう。

 自分抜きでもいずれ分かる真実だが……今は、時期尚早だ。どんな情報が、身の危険に迫るか分からない。今は……というか、ずっと、レアと…教会と敵対するわけにはいかない。

 

「私も確証は持てていないので、念のため。

 それと……紋章石狙いなら、セイロスの聖墓も危ういですね」

「! まさか、聖セイロスのご遺骸にでも手を出すつもりでしょうか…」

 

 露骨に話題を逸らした。リシテアに気付かれない可能性は低いと思うが、一応セイロスの聖墓の危機も持ち出して視線を誘導する。

 

「その点については大丈夫でしょう。セイロスの遺骸など、あそこにはありませんので」

「…………何故、断言できるのですか?」

「簡単なことです。聖セイロスは、今も生きているのですから。生きている人間の遺骸など、存在するわけがありません」

 

 バラキエルの言葉は、フォドラの歴史を根底から揺るがす真実を、あまりに平然と含んでいた。しかし、リシテアはそれを信じない。

 

「…あのですね。セイロスは大昔の聖人なんですよ? 生きているわけないじゃないですか。常識です」

「常識は疑うためにあるものです、ナビ。この世界には天馬(ペガサス)(ドラゴン)も魔法もある。不死の存在が一人や二人いたところで、何もおかしくはない。もしかしたら、この修道院のすぐ近くにいるかもしれませんよ」

 

 レア=セイロスという真実のギリギリの線を突きながら、バラキエルは悪戯っぽく笑う。リシテアは、完全にからかわれていると判断し、深いため息をついた。

 

「……はぁ。もういいです、ジョーカーさん。あんたの非合理的なジョークに付き合っている暇はありません。さっさと行きましょう」

「……了解しました、ナビ。時間は有限です。急ぎましょう」

 

 バラキエルは、リシテアの言葉に満足げに笑いながら、その声で呼ぶなら、せめて呼び捨てにしてほしいものだな……と、そんなこの場に不釣り合いなことを考えていた。

 

◇◇◇◇◇

 

 聖墓の近くまで移動した二人。そこでバラキエルは、予め隠しておいた箱を指差した。

 

「ナビ、これを。潜入任務の必需品です」

「ただの箱じゃないですか!」

「ただの箱ではありません。触ってみてください」

「…? 妙な手触り……何ですか、コレ?」

 

 フォドラで慣れ親しんだ木箱とは明らかに違う手触りと、軽さを感じる。

 驚くなかれ、バラキエルが用意したのは、箱は箱でも、段ボール箱である。

 植物の繊維で紙を作り、それを何枚か重ねて貼ることで強度を増やし、人ひとり入るくらいの箱を作り上げた。

 

 流石に、現代レベルの段ボール箱には手が届かなかったが、これだけでフォドラの技術が1、200年は進む発明だ。

 

「これに隠れて進みましょう。さぁ、被って」

「あんたは何を言っているんですか!? こんなの見つかったら即バレるに決まっているでしょう!!!」

「甘く見てはいけません。伝説の傭兵、ソリッド・スネーク御用達の箱ですよ」

「伝説の傭兵はジェラルトさんでしょう!!! もうあんたの冗談には付き合いませんからね!」

 

 リシテアはバラキエルが力説した忠告を無視して、さっさと先行してしまう。その結果――

 

「おやおや、こんな夜更けに、素敵な仮面のお二人さんじゃないか」

 

 柱の陰からぬっと現れたクロードに、見事に発見されてしまった。

 言わんこっちゃない、とバラキエルは思った。素直に段ボールを被っていれば、クロードに見つかることもなかったものを、と。

 

「一瞬、誰かと思えばバラキエルとリシテアか……なかなかどうして、夜の逢引にしちゃあ趣味のいい格好だな?」

「わ、私は悪くありませんからね…!!」

 

 顔を真っ赤にして抗議するリシテアを尻目に、バラキエルは少しも悪びれずにクロードに包みを差し出した。

 クロードがここにいる理由も察しが付く。ここで出会ったら、逆に巻き込んでしまうのが得策だ。

 

「クロードさんの分もありますよ。一つどうです?」

「おいおい、俺が先生にチクるとは思わないのか?」

「いいえ、全く。貴方の目的も、敵の立場を想定して修道院を探した結果ここを見つけたとか、そんなんでしょう?」

「え、そうなんですか!!?」

 

 この時、クロードはバラキエルの評価を数段上方修正した。

 目的は合っているのだが、ここまでピタリと言い当てられたら、流石に恐怖を感じる。

 とはいえ、バレたら仕方ないと言わんばかりに、両手をあげ、肩を落とした。

 

「お前、どっかで見てたのか? ビビるくらいに当たってやがるぜ」

「私達も同じことをしていたので、想像を語っただけですよ。

 さて、そんな一夜限りの盗賊同士、一緒に行動しませんか? コードネームは『フォックス』でお願いします」

「いや、俺は遠慮し……うおっ、なんだこの仮面!? 妙に凝りすぎだろ!」

 

 白地に赤い紋様の、狐を模した洒脱な仮面のクオリティの高さに負け、クロードはつい受け取ってしまう。

 だが、一緒に行動することに異論はない。3人もいれば、この夜のアリバイも信憑性が高くなるというものだ。

 

 三人がかりで聖墓への隠し入り口を見つけたところで、クロードが言った。

 

「よし、入り口は見つけた。あとは先生に報告して…」

「待ってください、級長…いえ、フォックス」

 

 バラキエルが、ニヤリと笑う。

 彼の手には、アルビレオ商会特製の、小型だが凄まじい音の出る爆竹が握られていた。

 

「どうせなら、これから聖墓を荒らしに来るであろう不届き者たちに、ささやかな()()の準備をしていきませんか?」

 

 その意味を理解したクロードの口元にも、同じ種類の笑みが浮かぶ。

 

「……ククッ、面白い! 乗ってやろうじゃないか!」

「ま、待ってください!あんた達、何をする気ですか!?」

「聡明な貴女ならすぐに分かります。さぁ、()()。貴女にも手伝ってもらいます」

 

 悪巧みを始めた二人の男たち。

 意気揚々と棺の取っ手に細工を始める悪者たちを前に、リシテアはただ一人、頭を抱えた。

 やがて、バラキエル(ジョーカー)クロード(フォックス)に促されて、諦めたかのように近くにあった爆竹を手に取るリシテア(ナビ)である。




ひとまず、やりたい事の1つは出来ました^^
うちの子と級長に誘われたとはいえ、孫氏の兵法を実践できるようになって、成長したね、リシテアたん^^
…え?シリアスが台無し?……許してクレメンス…

バラキエル「私が誰をスカウトするか知りたいですか?…賭けてみるのはいかがでしょう?まぁ使える人間は、誰でも使いますがね」

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