①マティアスは何故バラキエルを受け入れた?
→マティアスにとってバラキエルは「取るに足らない、絵空事をほざく若造」でしかないです。好きにさせても何も出来まいと思ってました。いざという時はアルビレオ家に全部押し付ければ良いわけですし。
②スレン族の土地に資源があったなんて描写なかっただろ!!あったらファーガスやパルミラに取られてるわ!!
→「ある」という描写はありませんでしたが、「ない」ともされてませんでした。少なくとも『フォドラの人々の知る資源』はない、ってのが落としどころだと思います。鉄や銅、金・銀は無いわけです。そういった資源はね。
③どういうジャンルなの?
→ブラックジョークやユーモアを混じえたタイプの小説です。シリアス寄りにはしないかも。深く考え過ぎずに読んでいただければ幸いです。
この世界はフォドラの平行世界線的な感じで考えてください。
レスター諸侯同盟において、アルビレオ子爵家の立ち位置は極めて特殊、かつ危うい均衡の上に成り立っていた。
彼らは領地を持つ貴族でありながら、その本質は「移動する経済圏」である。自領の経営に固執せず、他貴族の領地に商隊を送り込み、関税をあえて多めに払うことで通行権を買い取る。本来、排他的なフォドラの貴族社会において、こうした「ヨソモノ」の介入は忌避されるものだ。
それでもアルビレオ家が成功し、王国・帝国の国境を跨いで商売を拡大できたのには理由がある。
一代で「商人」から「貴族」へと這い上がった、紛れもない新興家門。
父である初代アルビレオ子爵がその地位を掴み取れたのは、彼が「没落した中堅貴族の末裔」という、捨てたはずの血筋を最後の一線で「免罪符」として使いこなしたからに他ならない。貴族の礼法を解しつつ、商人の汚濁に手を染める。その二面性が、教団の腐敗や相次ぐ食糧難に喘ぐ諸侯にとって、法では解決できない問題を処理する「都合の良い道具」として合致したのだ。
だが、その歪な成功は、伝統を重んじる古参貴族たちからすれば「成金が土足で聖域を荒らしている」に等しい不敬だ。アルビレオ家の繁栄は、いつ誰かの不興を買い、どう首を刎ねられてもおかしくない薄氷の上にあったのだ。
アルビレオ子爵には二人の子がいる。
政略結婚の駒としての価値しか見出されなかった姉アリアドネ。そして、父以上の――あるいは父とは異質の――傑物として頭角を現した弟、バラキエル。
後世の史学者は、彼についてこう評している。
「彼は商人の皮を被った、稀代の略奪者であった。領土や人ではなく……それ以上の、未来の利権を奪う略奪者だ」———と。
◇◇◇◇◇
……そんな大層な評価が、時のよすがで下されることになるとはいざ知らず。
現在のバラキエルは、医務室のベッドの上で、思わぬ来客を前に冷や汗を拭っていた。
「へぇ。それじゃ、交易って言っても、ごく一部の氏族と細々とやり取りを始めただけに過ぎないってことか」
「ええ。誇張して広まれば、それこそ王国から教団へ糾弾が飛びますから。今回はマティアス卿の寛大さと、状況の切迫さが噛み合った幸運に過ぎません。一歩間違えれば、今頃私は北の空の下で晒し首ですよ」
「ははっ、笑えない冗談だね。……でも、あんたが事前に俺を捕まえて『親父が激昂したら止めてくれ』なんて泣きついてこなきゃ、本当に首と胴体が泣き別れてたかもな」
ベッドの脇でリンゴを弄んでいるのは、青獅子の学級のシルヴァンだ。
リシテアが去った後、お見舞いに来た彼に、バラキエルはスレン族との交易――その実情と限界を語っていた。
シルヴァンはいずれゴーティエ辺境伯を継ぐ者だ。彼の実家の庭先で商売を始める以上、仁義を通すのは当然の義務である。バラキエルがマティアス卿の前で「不敬」とも取れる正論を吐きながら、即座に斬首の憂き目に遭わなかったのは、こういう地味な根回しが効いていたからだった。
無論、当初はシルヴァンも反対した。絶対殺されるに決まっていると。だからバラキエルは息子である彼を説得し、いざという時のストッパー役を頼み込んだのだ。渋々ながらも了承してくれたのは、スレン族との可能性を、彼なりにも信じていたからだろう。
「この事を知っているのは?」
「ベレト先生とクロードさんだけです」
「級長と先生か……妥当だな。あの二人なら、あんたを少なからず守ってくれるだろ」
この男、シルヴァン=ジョゼ=ゴーティエは、軽薄な仮面の裏側に、誰よりも冷徹な観察眼を持っている。彼を味方に引き込めたのは、アルビレオ商会にとって、スレンの
「あんたの今回のやり方よ、かなりの無茶だったと思うぜ。先生にも怒られたんだって?聞いたぞ」
「えぇ。この前の実験の事故の件も合わせて……。ハンネマン先生やベレト先生には勿論、ディミトリさんにもしこたま怒られてしまいました。……………恐ろしすぎて涙を我慢するので精一杯でしたよ」
「あっはっは!バカだねぇ〜!」
あの生真面目な殿下に説教食らうなんて、それこそ死刑より堪えただろ、と笑うシルヴァン。
生の人間の圧というものを、あの時ほど感じたことは……それこそ先日のクロードの釘刺しくらいしかなかった。
「……でも、俺は嫌いじゃない。親父の肩の荷を少しでも軽くしてくれたのは、事実だからな」
「そう言っていただけると、高い保険料を払った甲斐がありました」
バラキエルは苦笑し、包帯の巻かれた腕をさすった。
そうして、ひらひらと手を振って出口へ向かう。
その背中が扉に消えてからしばらくして、扉の向こうから「ううぅ……無理です……死んじゃいます……」「ほら、ベルナデッタちゃん。ここまで来たんだから!」という、ひそひそとした争い声が聞こえてくる。
その後、おずおずと、しかし突き飛ばされるように入ってきたのは、ベルナデッタだった。その後ろには、苦笑いしたドロテアが立っている。
「べ、ベルナデッタさん? 来てくださったのですか」
「ひ、ひいぃぃ! 申し訳ありませんバラキエルさん! ベルみたいな引きこもりがお見舞いなんて……!」
「落ち着いて下さい。ちょっと意外だっただけです。貴女が来てくださったのは嬉しいですよ」
戸惑いと焦りを隠せないベルナデッタに、バラキエルも商人の仮面を少しだけ緩め、柔らかい笑みを向けた。
小動物のようとは誰が言ったか……今のベルナデッタはまさしく、引っ越しさせられて落ち着かない小型犬のようである。
「こ、これ……ベルが庭で見つけた、一番形のいい松ぼっくりです! 厄除けに……いえ、いっそ燃料にしてくださいぃぃ!」
「……厄除けとして、大切に飾っておきますよ」
「よかったぁ……! あ、あの、資材の発注……ベルが死ぬまで、続けてくれますか……?」
「ええ、もちろん。貴女が良い作品を作り続ける限り、投資は惜しみません」
ベルナデッタにとって、バラキエルは安心を提供してくれる数少ない人物である。
無理に踏み込むことなく……しかし、手伝いさえすれば望むものを持ってきてくれる………そのようなタイプとは、初めて出会った。
だからこそ、ベルナデッタは………どんな苦悩があったかはさておき、最終的にバラキエルの見舞いに来たのだ。
お見舞いの品を渡した彼女は「失礼しましたぁぁ!」と叫びながら、脱兎のごとく去っていった。
嵐のような面々が去り、今度こそ静かになった医務室。窓から差し込む光が、バラキエルのベッドを照らしたその時。そこに、重い足取りで入ってきた人物がいた。
青獅子の学級に所属する若き女騎士………イングリット=ブランドル=ガラテアである。彼女の表情は硬く、その手には強く握りしめられた手紙があった。
「バラキエル殿。……怪我の最中に申し訳ないですが、どうしても尋ねたいことがあります」
彼女の真っ直ぐな瞳が、バラキエルを見据える。そこには、騎士の矜持と、恩義に縛られることを恐れる貴族としての苦悩が混じっていた。
ベルナデッタの残していった松ぼっくりをサイドテーブルに置き、バラキエルは居住まいを正した。
「……イングリットさん。病み上がりの人間に、その剣呑な目つきは少々堪えますが」
「冗談は結構です! ……我がガラテア領に、多額の資金援助と、作物の輪作法……それから、寒冷地に適した小麦の提供したというのは、事実ですか?」
ガラテア領は、ファーガス神聖王国でも指折りの困窮した土地だ。領民は常に飢え、イングリット自身も家督や結婚という「家を守るための重圧」に晒され続けている。バラキエルの商会が動かした額は、彼女の実家にとって文字通り干天の慈雨だったはずだ。
だが、彼女の表情に喜びはない。あるのは、得体の知れない取引に対する強い警戒心だった。
「事実ですよ。アルビレオ商会にとって、将来有望な騎士を多数輩出するガラテア領とのパイプは、何物にも代えがたい資産ですから」
バラキエルはいつものように「投資」だと嘯く。だが、イングリットは一歩詰め寄り、震える声で叫んだ。
「そんな建前はいりません! 貴方は他学級の生徒、それも一介の商人です。没落寸前の我が家に、見返りもなく手を貸す理由がない。……貴方は、私を商会の嫁にでも迎えて、我が家の紋章でも手に入れるつもりですか!?」
それは、彼女がこれまで何度も受けてきた、家格や血筋を餌にした取引への心からの怒りだった。
だが、バラキエルは深い溜息をつき、心底心外だと言わんばかりの顔をした。
「紋章、ですか。……イングリットさん、貴方は、紋章を身に刻まれた黄金か何かだと思っていらっしゃるのですか?」
「は……? 何の話を……」
「紋章学上の
「ふ、不良在庫……?」
バラキエルの声には、紋章への渇望が微塵も感じられなかった。それもそのハズ、バラキエルが求めているのは紋章の
貴族には珍し過ぎる態度。呆気に取られる彼女に、彼は静かに、しかし真っ直ぐな視線を向けた。
「イングリットさん。貴方は以前、私に『騎士とは高潔であるべきだ』と仰いましたね」
「……ええ。その通りです」
「では、お聞きしたい。貴方の言う『高潔な騎士』は、領民が泥を啜り、子供が冬を越せずに死んでいくのを横目で見ながら、自分だけ誇りを守って死ぬことを指すのですか?」
言葉の鋭さに、イングリットは息を呑む。
「それは………」
「私にとっての高潔は、違います。……かつて、
バラキエルは、誇り高き同級生・ローレンツの姿を思い描きながら言葉を紡ぐ。
「私が投資したのは、貴方の紋章でも、貴方の美貌でもない。『イングリット=ブランドル=ガラテアという騎士が、命を賭して守りたかったはずの、名もなき領民たちの命』です。……民の胃袋が満たされてこそ、貴方はようやく、実家の重圧から解き放たれ、一人の人間として騎士道に邁進できる」
「しかし、それでは貴殿が一方的に損をしているではありませんか!」
叫ぶ彼女に、バラキエルは不敵な、だがどこか慈愛すら感じさせる笑みを浮かべた。
「それは違います。商売とは、ただ我らが儲かれば良いのではない。『売り手よし、買い手よし、そして世間よし』……。この三つを満たせる商売こそが、永続する富を生む。私は、私なりの騎士道を、商売という形で行っているに過ぎないのですよ」
バラキエルはベッドの下から一冊の帳簿を取り出し、彼女に差し出した。そこには、小麦の配布によるガラテア領の死亡率低下予測と、数年後の「物流路の治安維持」という名目の利益計画が、緻密に記されていた。
「貴方は将来、立派な騎士になる。その時、我が商会の物流を護衛してくれるかもしれない。そうでなくとも、ガラテア領の騎士の評判は、私の耳にも届いています。……これはそのための『前払い』です。誇り高い貴女のことだ。これだけの借りを踏み倒して死ぬなんて不誠実、貴女の騎士道が許さないでしょう?」
……完敗だった。
イングリットは、しばらく呆然と帳簿を見つめていたが、やがて小さく肩を震わせた。それは怒りではなく、長い間彼女を縛り付けていた鎖が解けた後の、安堵の震えだった。
「……貴殿は、本当に……油断のならない男ですね。優しいのか、強欲なのか、判断がつきません」
「商人ですからね。強欲である自覚はありますとも」
イングリットは、ようやく表情を緩めた。
商人の打算なのか、それともこの男が変わっているのか………未だ見分けはつかない。
しかし、バラキエルという男は、己の紋章や美貌だけを見る他の貴族商人達とは決定的に違う。それは、認めざるを得ない。
イングリットは、そう判断を下した。
「分かりました。……投資を受けてしまった以上、返さねばなりませんね。力になれることがあれば言ってください」
「『ファーガスの騎士は、約束を破らない』……でしたよね?」
「えぇ。貴方の誠意には、いつか必ず応えます」
踵を返し、病室を出ていく彼女の足取りは、入ってきた時よりもずっと軽く、迷いがないように見えた。
扉が閉まり、医務室に完全な静寂が戻る。
バラキエルは深くシーツに沈み込み、天井を見上げた。
「……やれやれ。これで青獅子のメイン盾の支援会話は、ひとまず確保できたか」
誰にも聞かれない独り言は、徹底して打算的だ。
シルヴァンの根回しによるスレンとのギリギリの交渉、ベルナデッタへの細やかな投資、そしてイングリットの騎士道への理解。すべては、これから訪れる破滅的な未来を生き残るための「布石」に過ぎない。
だが、彼自身の心臓は、激しい痛みを伴って高鳴っていた。
前世の知識というチートを持っていようが、この世界で「歴史」を変える代償はあまりにも大きい。ゴーティエ辺境伯の怒りを買うリスク、魔力の逆流で焼けた背中の激痛。
盤面を動かしているつもりが、いつの間にか自分自身が盤上の駒として、血を流し、泥を啜っている。
「……休める時に、休んでおかないとな」
目を閉じると、脳裏に浮かぶのは、直近に迫る最大のイレギュラー――フレンの失踪事件と、「死神騎士」の影だった。
静寂の中、バラキエルの休息は短く終わりを告げようとしていた。
ふ、フレン拉致編に入れない><
こういったタイプの、理詰めの書き方はしたことが無かったので、拙い面もありますが、何卒寛容な目で見ていただけると幸いです^^
早速ですが、設定ミスを見つけたので書き直しました。許してクレメンス。
バラキエル「私が誰をスカウトするか知りたいですか?…賭けてみるのはいかがでしょう?まぁ使える人間は、誰でも使いますがね」
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