FE風花雪月 神謀の黄金卿   作:伝説の超三毛猫

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「奴と盤上遊戯をするな。バラキエルは、チェックメイトをかけたと思った瞬間、盤そのものをひっくり返して、それが自分の勝ちだと証明するような男だ。」
 …クロード=フォン=リーガン(帝国歴1162~帝国歴1246)


3.食えない男

 ガルグ=マク大修道院の巨大な食堂は、昼時ともなれば生徒たちの活気で満ち溢れる。

 騎士団の屈強な男たちの豪快な笑い声、貴族の子弟たちの優雅な談笑、そして平民出身の生徒たちの賑やかなおしゃべり。

 

 その喧騒の只中で、バラキエルは一人、淡々と食事を進めていた。彼の皿には、フォドラにはまだない、栄養バランスを考えた新しいレシピの料理が並んでいる。それは彼が自室で試作し、食堂のおばちゃんに頼んで作らせたものの1つだ。

 

「よう」

 

 不意に、気安く投げかけられた声。バラキエルは内心の警戒を悟らせぬよう、穏やかに視線を向けた。

 トレーの置かれる音と共に隣に腰かけた男は、一束だけ三つ編みを作った洒落た黒短髪に、食えない笑みを浮かべていた。

 

 金鹿の学級(ヒルシュクラッセ)を取りまとめる級長、クロード=フォン=リーガンその人だった。

 

「あんたがバラキエルか?」

「そういう貴方は、クロードさん。級長殿が私のような新参者に、何かご用でしょうか」

 

「(―――来たか。最も警戒し、そして最も味方に引き入れたい男)」

 

 バラキエルは即座に思考を切り替える。

 隣国パルミラの王族の血を引くこの男は、その出自を隠し、フォドラの常識を外側から観察する鋭い目を持つ。彼の権謀術数、情報網、そして野心は、この動乱の時代を生き抜く上で最高の武器になる。

 

「はは、そんなに畏まんなよ。ちっと気になってただけさ。最近、アルビレオ商会が随分と羽振りがいいって聞いてな。いったいどんな魔法を使えば、あそこまで商売が盛り上がるんだろうな~って思ってよ」

「魔法、ですか。残念ながら、そんな便利なものではありません。地道な企業努力の賜物ですよ。おぉ……もしかして、お得意様だったりします?」

「今はまだ…な」

 

 クロードは悪戯っぽく笑い、料理の肉をフォークで突き刺した。その眼は、バラキエルの言葉の裏を測るように鋭かった。

 

「あ、でも、アレとか気になってるぜ。石鹸、だっけ? 衛生観念にうるさいウチのじいやとか、気になってるヤツが何人かいてさ」

「ありがとうございます。よろしければ今度、試作品を持ってきましょうか?」

「え、マジか!? そいつは助かる!期待しちゃっていいのかな~?」

「えぇ。代わりと言っては何ですが、これからも我がアルビレオ商会を、どうぞ御贔屓に」

 

 完璧な商談の笑みを浮かべるバラキエルに、クロードは「あんた、面白いな」と笑った。

 そこからは学級のこと、クラスメートのこと、同盟の貴族たちの噂話など、当たり障りのない話題で互いの腹を探り合う。

 一見すればただの学友の、花の咲くような雑談だ。しかし、その実、互いの言葉の裏にある意図や思考を読み合う、濃密な時間だった。

 

 やがて「また話そうぜ」と笑顔のクロードが席を立つと、入れ替わるかのように、今度はバラキエルの正面の席にリシテアが腰かけた。その表情は、少しだけ不機嫌そうに尖っている。

 

「クロードと随分盛り上がってましたね」

「彼とはもう話しましたか?」

「失礼な人ですよ。私を子ども扱いして……子ども扱いが駄目ならお姫様扱いだ女傑扱いだなんて、絶対馬鹿にしています!」

 

 原作の支援会話通りの展開に、バラキエルは思わず笑みをこぼした。

 

「どうやら、智将と名高い彼も、女性を見る目はないようだ。リシテアさんほど、聡明で素敵なレディもいないというのに…」

「貴方は貴方で、堂々と口説きに来ないでくださいッ!」

 

 顔を赤らめて抗議するリシテアに、「失礼しました」と軽く頭を下げる。彼女の純粋な反応が、計算ずくで動く彼の心を和ませる。

 

「……それで、クロードとは一体何の話を?」

 

 気を取り直したリシテアが、本題を切り出した。

 

「話の内容自体は、他愛もないことですよ。学級のこと、先生のこと、私の商会で売り出した商品のこと……」

「石鹸ですか?」

「はい。貴族向けに香料を多めに使った物が、予想外の成功を収めまして」

 

 内心で笑いが止まらない。あの石鹸一つで、当面の活動資金は安泰だ。

 フォドラの衛生観念は、少なくとも現代日本よりも劣る。そう踏んで調べれば、ビジネスチャンスは転がりまくっていた。

 貴族用の香料多めの石鹸でコレだ。後はシャンプーの香りを開拓し、コンディショナーやら泡立てネットやら、洗顔料やら保湿クリームやらを小出しで開発していけば、莫大の富は確実だろう。

 そんなことを思いつつも、バラキエルは先ほどの会話でクロードについて感じたことを、リシテアにだけは率直に話す。

 

「少し話しただけですが、彼、なかなか頭の切れる男です。」

「そうは見えませんでしたが。ただただ、ふざけているだけで」

「そのふざけたような振る舞いが、こちらの警戒心を解くための『演技』だとすれば? 彼は常に、相手の反応や視線の動き、指先の癖まで観察していました。リシテアさんも、彼と話す時は気を付けるべきかと」

「私も?」

 

「ええ。貴女のお身体のこと…油断していると、あの男は早々に見抜いてきますよ」

「まさか……!?」

 

 血の気が引いたように目を見開くリシテア。

 知られたくない秘密なのだろうが、バラキエルから言わせれば解決のために相手を選んで言うべきじゃね?とか思っている。

 そのカスのような合理的思考を傍に置き、彼は安心させるように続けた。

 

「幸い、彼の性根は善良です。もし彼を味方にする時は、先生も巻き込んで、互いに腹を割って話せる関係を築くべきでしょう。見た限り、誠実さには誠実さで応える男です」

「なんでそんなこと判るんですか?」

「なぁに、彼が私を()ていたように、私も彼を()ていただけのこと」

 

「(流石はパルミラの王位継承争いを生き抜き、フォドラの血持ちと蔑まれながらも、その全てを自らの力に変えてきた王子だ)」

 

 バラキエルは、クロードの底知れなさに改めて感心していた。

 生まれながらに嫌われ、疎まれ、殺されかける。しかも王族同士の権力争いでだ。後継者の暗殺など当たり前のように企まれる。

 知識があったとしても、自分ならあの年になるまできっと生き残ることはできないだろう。そう考えると、やはりクロードは別格だ。

 彼の出自は、クロード自身にとっても最大の切り札。リシテアに明かすには、まだ時期が早すぎる。今は胡散臭い同盟盟主候補として泳がせるべきだな、と判断した。

 

 不意に、リシテアが意を決したように、真っ直ぐな瞳でバラキエルを見つめてきた。

 

「それと……あの、これ…何だかんだ聞きそびれてたのですけど」

「おや、何でしょう? 急に改まって」

「なんで、私の紋章のこと………二つあるって知っているんですか?バラキエルにも話してないハズですが」

 

 ついに来たか。リシテアの、小声で問われたそれにバラキエルは内心で息を呑みつつも、完璧な笑みを浮かべて答えた。

 

「商人は物知りでして。私には、かなりの腕利きの情報屋がいるのです。近い将来、貴女にも紹介しますよ」

 

 その情報屋の名が天下の任天堂だとは、才媛たるリシテアの慧眼をもってしても、今はまだ知る由もないことであった。

 

◇◇◇◇◇

 

 食堂の喧騒が遠のき、昼食を終えた生徒たちが三々五々に寮へと戻っていく。バラキエルも席を立とうとした、その時だった。

 

「そういえば」

 

 リシテアが何かを思い出したかのように、彼に近づいてきた。先の不機嫌さはすっかり消え、その表情は穏やかだ。

 

「アリアさんから、お手紙は来ていますか?」

 

 その名に、バラキエルの表情がわずかに和らぐ。

 

「……えぇ、勿論。今朝も受け取りましたよ」

 

 アリアドネ=フォン=アルビレオ。

 バラキエルの三つ年上の、たった一人の姉の名だ。

 包容力に溢れた大らかで、そして、救いようのないほどのお人好し。「幾ら利用されようと人助けを止めるべきじゃない」「どんな理不尽を受けようと争いに慣れるべきじゃない」と、この乱世に本気で言い切るほどの善性の持ち主。

 士官学校に行くという弟を心から心配し、他愛もない日常を綴った手紙を定期的に送ってくれるような、優しい姉だった。

 

「父に付き従って、商売のいろはを習っているそうです。まぁ、本人がアレなので、一人前になるには随分と時間がかかるでしょうがね」

 

 バラキエルは、親愛と呆れが混じった、複雑な口調で言った。

 リシテアも、その言葉に苦笑いを浮かべる。幼い頃からアルビレオ家と付き合いのある彼女も、アリアドネの人柄をよく知っていた。

 

「あー……あの人、昔から要領が良い方ではありませんでしたもんね…」

 

 アリアドネは、頭の回転も要領も決して良くはない。

 父も、そしてバラキエル自身も「商人には全く向いていない」と断言するほどだ。

 それでも彼女が慣れない商売の勉強に励んでいるのは、「少しでも弟の役に立ちたい」という、ただその一心から。その健気さに、厳格な父でさえ強くは言えないようだった。

 

「(役に立ちたい、か。来年から始まる地獄で、あの人が真っ先に死ぬタイプの人間だということは、火を見るより明らかだが)」

 

 家族に対してすら、バラキエルの思考は恐ろしいほどまでに冷徹だ。だが、さすがにその残酷な予測までは口にしない。

 

「商会は私と父で十分に回りますから、無理して修行などせず、自分の幸せを見つけてほしいと伝えたのですがね……。姉さんには、商人などよりもっと似合う職業がある。あの人自身が、幸せになる権利があるはずだ」

 

 バラキエルは、慎重に言葉を選んだ。

 アリアドネという名は、『ファイアーエムブレム風花雪月』という物語には影も形も出てこない。

 戦乱に巻き込まれて死ぬ、名もなき民の一人。それが、彼女に割り振られた役割なのだろうと踏んでいた。

 いざという時、自身とリシテアの生存を天秤にかければ、躊躇なく切り捨てる覚悟はできている。

 だが、積極的に死んでほしいわけではない。流れる血は、一人でも少ない方が良いに決まっている。

 

 その、どこまでも姉を思いやっているかのような言葉に、リシテアは一瞬、目を見開いてバラキエルを見た。

 それも束の間、彼女の口元から、ふふっ、と堪えきれないような笑いが漏れた。

 

「……なんですか、リシテアさん。私、何かおかしなこと言いましたか?」

「いいえ、何でもありません」

 

 気になるじゃないですか、と問いかけても、リシテアは楽しそうに首を横に振るばかり。

 彼女は、バラキエルにその笑みの意図を決して教えようとはしなかった。

 

「(……今の言葉、貴方がいつも張り巡らせている計算や策略とは、全く違う響きがしましたよ、バラキエル)」

 

 リシテアは、気づいていた。

 彼が姉を語る時、その瞳の奥に宿っていたのは、冷徹な策略家のそれではない。ただ、不器用な弟が、心から姉の幸福を願う、温かく、そしてどうしようもなく人間的な光だったことを。

 そのアンバランスさがおかしくて、そして、少しだけ愛おしいと、思ったのだ。




バラキエルの専用クラス+個人武器

専用クラス: 『黄金卿 (ゴールデンロード)』
取得条件: バラキエル専用。理学A、信仰A、指揮B
得意武器: 剣、理学、信仰
成長率補正: 魔力+10%、技+5%、速さ+5%、魅力+10%

スキル:
『情報網』: 自身から3マス以内の敵の能力値・スキル・戦技を全て確認可能。
『指揮官の才覚』: 計略の威力+5、命中+10。


個人武器: 『アルビレオの天秤』

武器種: 剣 / 威力: 10 / 命中: 100 / 必殺: 10 / 射程: 1 / 重さ: 4
効果: 装備時、技+5、速さ+5。戦闘でHPが減少した際、失ったHPと同額のゴールドを獲得する。

バラキエル「私が誰をスカウトするか知りたいですか?…賭けてみるのはいかがでしょう?まぁ使える人間は、誰でも使いますがね」

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