鈍感探索者と暴走お嬢様ズ   作:天坂クリオ

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隠し通路とヤバイお宝

ロープを降りると壁に開いている穴を見つけた。上からじゃ見つからないよううまく隠されている。穴の周囲はしっかり固められていて、通路として使われていたのは間違いなさそうだ。

奧を見てみると、ふりふり動く尻が見えた。

 

「なにやってんだ、すぐに戻ってこい。初心者講習やってる時間が無くなるぞ」

「…………」

 

返事は帰ってこない。足が動いているように見えるが、進んでいるようには見えない。仕方ないので近づいて声をかけると、くぐもった返事が返ってきた。

 

「なにやってんだ」

「腰がつかえてますのよ」

 

ハチミツ大好きクマさんかよ。

 

「動けないなら引っ張るぞ。足持つけどいいか?」

 

耳をすまして返事を待つ。

 

「……して。……押してくださいまし!」

 

戻る気はないらしい。でもこの状態で押せる場所が限定されるけど、本当に大丈夫なのか?

 

「わかった、押せばいいんだな。本当に押していいんだな?押すぞ?」

「なんでもいいから早くしなさい!」

 

もうどうにでもなーれ、という気持ちで手を伸ばす。

 

「いくぞ。せーの!」

 

よほどうまく嵌まっているのか、なかなか動かない。もうちょっとこの肉を押し込めれば……と思った瞬間に、抵抗があっさりなくなった。

 

ガラガラという音が聞こえて、穴の向こうから埃が飛んできた。段ボールらしき箱が倒れ、中身がこぼれているのが見える。あれに尻が引っかかっていたのだろう。

俺はスムーズに通り抜けることができた。

 

「ここは……、倉庫かしら?箱がいくつもありますわね」

「うかつに触るなよ。今まで見つかってなかったみたいだし、ここはきっと隠し倉庫だ。危険なモノがあってもおかしくない。強力な毒物とか」

「問題ありませんわ。なんてったってわたくしが見つけたんですもの。知りませんの?わたくしはとても運がいいんですのよ」

 

知りませんのよ。俺が知っているのは自分の運の悪さだけだ。すぐにここを出て協会に知らせて、専門のチームを派遣してもらった方がいい。新発見をした者は特別報酬がもらえるから、そっちの方が確実で安全だ。

 

「まあ、地味な箱の割に良さそうなのが入っていますわね。これはチョーカーかしら?ネックレスの代わりになりそうかしら」

「おい、やめろって言ったよな?」

 

現物回収するとその分の報酬が減る……って、そうじゃない。鑑定してからじゃないと変な効果が付いていた場合危険だ。有名なものを挙げるとすれば、自分の意思に反して暴れてしまう【狂戦士の冠】とかだろう。

 

「うーん、うまく留められませんわね。もうちょっと、こう、かしら」

「マジでやめろ。付けようとするな」

「コレはわたくしが見つけたんです。くやしいならご自分も探してみたらどうですか?まだ残っているかもしれませんわよ」

 

へらへらしながら得体の知れない布を首に巻こうとしているのを見てイラっとする。俺は自分だけじゃなくお嬢様の安全も気にしているのに、当の本人はまったく理解していない、してくれない。

だから、油断をしていたのだろう。俺は手を出すべきではなかったのだ。なのにやめさせようと手を伸ばしてしまった。

 

「いますぐやめろって……いっ!」

「カヒュッ!?」

 

お嬢様が首に巻こうとしている布。それに指先が触れた瞬間に電流に似た衝撃が走る。それとほぼ同時に【鈍感の指輪】が反応し、すぐに収まった。

俺の指には何も変化はない。しかしお嬢様は地面に膝をついてた。

 

「お、おい、大丈夫か?」

 

顔を見ると呼吸はできているようだ。立つのを助けようと手を伸ばすが、お嬢様に叩いて払われた。

 

「いきなり変なことしないでくださいまし!」

「いや、俺は止めようと……」

「あなた様のせいで急にチョーカーが締まって死ぬかと思いましたわ。このことは協会に訴えさせていただきますわ!」

 

お嬢様は自力で立ち上がり睨み付けてきた。

先ほどの衝撃のせいで、指先が少ししびれている。お嬢様(こいつ)が勝手をしたせいで俺まで被害を受けた。なのに俺を訴えるだと!?

 

「おい、それは違うだろ。俺は止めたんだぞ。勝手にやって勝手に痛い目を見たのはお前だろ。俺の操り人形になれとは言わないよ。むしろ自分で考えて行動できるようになれって言うさ。でもさ、その行動の基準をお前は知らないだろ?それを教えるのが俺の仕事で、なのにお前は俺をまともに見ようともしてないもんな」

 

「突然なんですか。いったい何が言いたいんですの?」

 

「俺は指導者なんだよ。その指導者をさ、敬えよ。盲目的に従えって言ってるんじゃない。ちゃんと話を聞けって言ってるんだ。自分よりモノを知っていると認めて、それを教えてもらおうとしろよ。んで指導者の聞いたうえで正しいか間違ってるかお前が判断して、それから行動しろって言ってるんだ。わかるか?なあ」

 

ついついらしくない説教をしてしまった。でもこれくらい言わせてほしい。また聞いてなかったとしても、俺はちゃんと指導したんだと自分でも納得したかった。

でもやっぱり通じてないだろうなと諦め半分で待ってみると、お嬢様は唇をとがらせてから頭を下げてきた。

 

「わたくしの指導者さま、どうぞこれから、よろしくお願いいたします」

 

えっ。こいつ何を言っているんだ?

まさか今のキレ気味の説教で反省した?んなことあるのか???

 

◆◆◆

 

というワケで冒頭に戻ってきたのだが、振り返ってもよくわからない。

俺の説教が効いたと思うほどお気楽ではない。むしろ反発されると覚悟していたので、肩すかしを食らった気分だ。俺を騙してからかっているのか?いや、それにしては顔全体で不満だと主張している。

 

「納得してないって顔だな。いいぞ、言いたいことがあるならどんどん言ってくれ」

「では聞きますけど、なんでわたくしが貴方の話を聞かなければいけないのですか」

「お前が、探索者になろうとしてるからだ。迷宮には危険が多い。だがそれを回避する方法はある。俺は知っているけどお前は知らない。知らないと損をするしケガをするし、場合によっては命が危ない。俺はそれを教えてやれる」

「……わたくしだって、迷宮のことを知ってますわ」

「それはどこからの情報だ?ネットか、それとも動画サイトか……ああ、迷宮産業で商売やってるっていう父親か?」

「お父様は関係ありません!」

 

意地を張るような態度。反抗期か?

 

「何にしても、お前が持ってる知識が役に立たないことは、今までの行動でわかってる。これからは俺の言うとおりにやってみろ。やってからダメだと思ったらそう言え」

「……わかりましたわ。とりあえず、そうしてさしあげます」

 

めちゃめちゃ不服そうだが、そういうことになった。

それ以降のお嬢様は、ちゃんと俺の話を聞いているようだった。勝手に俺より前に出なくなったし、何かあると俺の指示を待つようになっていた。

 

例えばスライムとの戦闘訓練だ。

通路の真ん中でちょうどいいのを見つけたので戦えそうか聞いてみる。

 

「ぶよぶよして気持ち悪いです。本当にあんなのを相手にしなければいけないんですの?」

「放っておくとまた体当たりを食らうことになるぞ。そもそも数が多いから、どんどん駆除した方がいいんだ。お嬢様の武器はメイスか?ならとにかく思いっきりやってみろ」

「こんなの、私には必要ありませんのに」

 

お嬢様はぶつぶつ言いながらもスライムに近づいていく。メイスの柄を両手でしっかり握り、背筋を伸ばして立って構えている。

野球みたいな構えなので大丈夫か心配になったが、「えいっ」というかけ声ひとつでスライムを壁まで吹き飛ばした。

 

「すごいな。やるじゃないか」

「大したことありませんわ。本当にこれでいいんですのね」

「上出来だ。今回はドロップ品はないみたいだが、たまにピンポン球くらいの水袋を残す。これも売れるから拾っておくといい」

「そうなんですの?ちょっと見てみたいです。他のスライムを探しましょう」

 

やる気があるのはいいんだが、実行するのは難しいものだ。スライムはしょっちゅう見かけるけれど、天井みたいな武器が届かない場所にいることも多い。

全部倒そうと張り切っていると、そういうのを見逃したくなくて余計な体力を使うことになる。

倒せそうなのを見つけたら倒す、くらいの心構えでいた方が結果的に効率がいいのだ。

 

なんて思ってたら、さっそくお嬢様が吹き抜けの天井を指さした。

 

「いましたわ!ほら、アレ!」

「うん、スライムだな。でも武器を振り回しても届かないし、おびき寄せる手段もないからやめておこうか」

「いいえ、この石を使うので問題ありません。ちゃーしゅー……めん!」

 

お嬢様は拳くらいの石を宙に放ったかと思うとメイスを構え、きれいなフルスイングで打ち上げた。

石はスライムに命中し爆発四散。ドロップ品が文字通り床へとドロップ(落下)した。

 

「やりましたわ!」

 

どういうことなの?

 

「わたくし、野球が大好きなんです。お父様とよく球場へ見に行ってます。リトルリーグではスターティングメンバーだったこともありますわ」

 

意外とスポーツやってましたのね。でもバットより細いメイスで石を狙ったところに飛ばせるとか、野球の才能の方がありそうだけれど。

 

…………

 

「とまあ、そんな調子で今日の講習課題が終わりました」

「お二人とも、お疲れ様でした」

「疲れてなどいませんわ。わたくしならもっと先に進めましたのに」

 

相変わらずなお嬢様の言葉に苦笑する。出発ロビーに戻って今日の報告をしているのだが、初心者講習組は俺たちが最後のようで人が少なかった。

 

「疲れてから帰還準備を始めるのは遅いんだよ。プロは元気が残っているうちに帰りのことを考えておくもんだ」

「それを考えてもまだまだいけました」

 

口では不満そうだが、顔は楽しそうである。そんなお嬢様を見て、まだ報告していない重要なことを思い出した。

 

「そうだ、隠し部屋を見つけたんだった」

「隠し部屋ですか?」

「そうです。このわたくしが見つけたのですわよ。わたくしが!」

 

前に出ようとするお嬢様にちょっと黙っているように言う。

 

「2階の奧にあるトラップありの通路なんだが、そこにある落とし穴に横穴が開いていたんだ」

「待ってください。本当だったら2年振りの新発見ですよ。しかも2階だなんて信じられません」

「だよな。だから俺もびっくりしちゃって……」

「すぐに調査隊を出すよう要請します。いま地図を出しますので、鈍川(にびかわ)さんは詳しい場所を書き込んでおいてください」

 

山田さんはプリントアウトした地図をこちらへ渡し、それからどこかへ電話をかける。

話の途中だったので戻ってくるかと思ったが、電話が終わると上司の方へ行ってしまった。

 

俺は言われたとおり隠し部屋があった場所に印をつけ、見つけた経緯や注意点を書き込む。それが終わったあたりで山田さんが戻ってきた。

 

「ありがとうございます。ここだったんですね。たしかに通る人は少ないし、この穴に落ちる人なんて聞いたことないですね。情報料は調査後の支払いになります。金満さんも、それでいい?」

「もちろん、かまいませんわ。あと情報料よりも、わたくしが発見したことを高く評価していただきたいのですけれど」

 

山田さんがこっちへ目線を向けてきたので、うなずいておく。

 

「わかりました。新発見の評価をしっかり乗せるようにしておきます。ではこれで初心者講習の依頼は達成となります。お疲れ様でした」

 

調査は専門の部隊をそろえて行うから、俺たちは必要ない。何かあれば依頼が出るだろうし、今日はもう帰っていいようだ。

 

「それじゃあお疲れ。お嬢様も、気をつけて帰れよ。元気だと思っていても体は疲れているもんだからな。今日はしっかり寝ておけよ」

「はい、本日はありがとうございました。次回もよろしくお願いしますね。それでは失礼いたします」

 

お嬢様が優雅にお辞儀をするのを見て、初めて本物のお嬢様らしい所を見たなと思ってしまった。

 

……待てよ、次回も?

初心者講習のパンフレットを確認すると、受講者側が希望を出さない限り指導者の変更は無いようだった。面倒くさいという言葉が頭に浮かびかけるが、家賃と食費、そしてガチャがそれを押し流していく。

 

「しゃーない。やるか」

 

こうして俺の退屈な探索者人生が変わり始めたのだが、それに気付くのはもっと時間が経ってからだった。

 

◆◆◆

 

~数日後の探索者協会内、事務室~

 

「山田せんぱ~い。調査班から新しく発見されたとこの報告に来ました~」

「ありがとうね。何か重要そうなのあった?」

「ぜんぜんですね~。隠し部屋はひとつだけ。他の落とし穴もチェックしたけどそれ以外は見つからなかったみたいです」

「ふーん、どれどれ?……魔道具を3点発見てあるけど」

「あ、それはこっちに書いてありま~す。え~と、精神操作系の効果がある呪われたアイテムみたいです。『同時にこれに接触した2者(以下A、Bと呼称)に対して以下の効果が発生する。AはBに対して精神的に屈しやすくなり、BはAに対して著しく高圧的になる。以上のことからこれを【パワハラネクタイ】と命名する』って書いてます。よくわかりませんね~」

 

山田は大きくため息を吐く。

 

「オフィスエリアから見つかったからって、ひどいネーミングね。……そういえば、見つかった魔道具はこれだけ?」

「ハイ、3点とも全部が同じものだったみたいです。他は似たような布系素材と失敗作というか破損したものばかりだとか」

「ふーん。……片方は精神的に屈しやすくなって、もう片方は著しく高圧的に……。うーん?」

「せんぱい、何か気になることでもありました?」

「いいえ、たぶん私の思い過ごしだと思う。お疲れ様、ありがとね」

「これくらい大したことじゃありませんよ。じゃあ私は調査班に戻りま~す」

 

手を振ってから帰って行く後輩を、山田は見送った。

 

◆◆◆

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