鈍感探索者と暴走お嬢様ズ   作:天坂クリオ

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氷極院凍菓と魔道具

初心者講習3日目。いつものように探索者協会に行くと、山田さんが見知らぬ(・・・・)美少女を連れてきた。

 

鈍川(にびかわ)さん、本日からもう1人、初心者講習をお願いします」

氷極院凍菓(ひょうごくいんとうか)と申します。どうぞよろしくお願いします」

 

氷極院と名乗ったのは、濃紺のロングヘアを頭の後ろで結い上げた女学生だった。動きやすさを重視した軽戦士装備だが、腰に差した剣は装飾が多くて儀礼用のようにも見える。

おじぎの動きがなめらかで、頭の上からつま先まで整った上品な雰囲気を感じる。

 

「ああ、鈍川静真です。初めまして、よろしく」

「初めましてじゃありませんよ、シズマさま。先日に助けてくださったじゃないですか」

「俺が助けた?……ああ、あのオヤッサンが連れてた初心者のうちの1人か。オヤッサンの講習を受けてたんじゃないのか?」

「シズマさまにご指導していただこうと思い、変更願を出しました」

 

山田さんを見ると、無言でうなずかれた。

 

「へえ、変更できるんだ。わかった。でもその呼び方はやめてもらえるかな?さま(・・)をつけられるほど偉いわけじゃないし」

「あ、鈍川さん!」

「そうそう、こういう感じで……ってお嬢様が来たか」

 

呼びかけてきたのはいつもの金満お嬢様で、いつも通りの立派な装備で立派な動きをしながらやってきた。

 

「そこで何をしているのかしら、わたくしはもうとっくに準備できていますわ。早く探索に行きますわよ。……あら、そちらにいらっしゃるのは」

「ああ、こちらは……」

「初めまして金満さん、氷極院凍菓と申しますわ。あなたのお噂はよく聞いていますわ。どうぞこれから仲良くしてくださいまし」

 

氷極院から差し出された手を見て、金満お嬢様がびっくりしている。

 

「まあ、まあまあまあまあ!氷極院さまはもしやあの(・・)氷極院さまで御座いませんこと!?お会いできて光栄ですわ!わたくし氷極院さまと一緒に探索できますの?それはとてもとても光栄ですわ!」

「えっ、その、こちらこそ光栄でございます」

 

氷極院の手を取った金満お嬢様がその手をぶんぶんと上下に振り回している。テンションがとても高い。

それを見ていたら山田さんがそっと近づいてきて、小声で呼びかけてきた。

 

「鈍川さん、氷極院さんは歴史ある名家のひとつなんですよ。現在の当主は最初の迷宮探索を行った調査班の1人で、探索者協会の立ち上げにも関わっています」

「えっ、そんな偉い人の娘さんだったの!?」

「そうですよ。なのでこれからは更に安全に気をつけてくださいね」

「責任重大だな」

 

やっかいなお嬢様がもう1人増えてしまったようだ。

楽しそうに話す2人を見ながら、今日の予定の再検討を始めた。

 

◇◇◇

 

2人に増えた初心者を連れて迷宮に入る。まずは慣れているだろう階で、どのくらい戦えるのかを測ってみよう。最初の相手はどこにでもいるスライムだ。

 

「じゃあ氷極院の実力を見せてくれ。武器はその剣でいいのか?」

「はい、こちらは御爺様からいただいた魔道具になります。どうぞ御覧になってくださいませ」

 

氷極院が剣を振るうと冷気が漂い、正面にいたスライムが音を立てて凍り付いた。

 

「冷気を操る魔道具か」

「はい。他にも氷のつぶてを飛ばしたりすることもできます」

「すごいですわ。わたくしも欲しいですわ」

 

たしかにすごい魔道具だ。遠距離攻撃ができるし、近距離でも便利に使えるだろう。

 

「それはどのくらい使える?」

「ええと、今のと同じものならあと10程度はできるかと」

「10?」

「はい。力を込めれば大きな氷を作ることもできます」

「弱くして使うことは?」

「今のが一番弱いものです。それ以下だと、動きませんの」

 

ああ、そういうことか。だからオヤッサンが連れてた新人は多かったのか。

 

「変な顔をしてどうかしたんですか?何か不都合でもございますの?」

「うーん、この先のことを考えると、ひとりで20匹は倒せるようになってほしいんだ。仲間を増やせば分担できるんだが、今のままだとちょっと厳しいな」

 

金満の方に頑張ってもらうという手もあるが、バランス悪くなるとチームの雰囲気も悪くなるし……。

 

「氷極院さんは、魔法なしで戦うことはできる?」

「剣術はたしなんでおりますが、この剣は魔法の触媒なので切るのに向いていません」

「そっか。なら……」

 

ポーチから一振りの短剣を取り出す。

 

「それは?」

「これは灯火(ともしび)の短剣。魔力を流せば光るんだ。こんな風にね」

 

短剣の刃の部分が薄らと光り始め、まぶしくなる手前で光量を維持する。

 

「氷極院さん、今のと同じくらいで光らせてみて」

「あ、はい」

「あ……」

 

金満の方から何か聞こえたが、振り返っても特に何もなさそうだった。何なんだろうか。

氷極院さんが灯火の短剣を目の前に掲げて、慎重に力を込めていく。慣れていないからか、刃の光り方がとても不安定だ。

 

「落ち着いて。最初は弱くていいから光りを安定させることを意識して」

「はい。わかりましたわ」

 

氷極院さんがこくこくとうなずく。明滅していた光り方が少しだけ安定したが、まだ強くなったり弱くなったりしている。

 

「ふう、これ、疲れますね。魔力は使いませんが、集中しなくてはいけません」

「そうだね。それあげるから、ヒマな時に光らせる練習を続けてね」

「ありがとうございます」

 

短剣を握りしめて頭を下げてきた。素直でとてもいい。

 

「わたくしにもやらせてくださいな。ちょっと貸してくださいまし!」

「ああっ」

 

金満が短剣をひょいっと奪う。

そういや今まで魔道具を使っているところをみたこと無いけど魔力あるのか?と思ったところで、短剣が眩しく光り輝いた。

 

「ぐわー!目が!」

「あ゛あ゛!眩しいですわ!」

「い、いったい何が起きましたの!??」

 

ああもう、めちゃくちゃだよ。

 

◇◇

 

「じゃあ次。金満さんはこの階を1周しながら魔物を手当たり次第に倒してきて。いちおうタイム計るから」

「どうしてわたくしが、そのようなことをしなければならないのですの!」

「さっき言っただろ、次のエリアに行くためには魔物の群れを突破しなきゃならないからだ。たくさん戦って魔物との戦いに慣れる必要がある」

「魔物など、わたくしの敵では、ありませんわ!」

 

メイスをぶんぶん振り回して言う。

 

「毎回思いっきり振り回すのは隙も無駄も大きい。それしかできないなら、できないなりの体さばきを体に慣れさせる必要がある」

「だから、必要ないと言っているではありませんか」

「じゃあそれを証明してみせろ」

「わかりましたわ。しっかり見ていなさい!」

 

金満はメイスを構えながら通路の奧へと走っていった。

 

「追わなくていいのですか?」

「この階なら、手に負えない魔物は出てこない。それに間違っても他人を殴ったりはしないだろうから」

「信頼しているのですね」

「うーん?」

 

一般常識を持っているのは認める。だが判断基準が金持ちの目線なんだよなあ。最初の態度ならトラブルになりかねなかったけど、それもすぐに改まったので大丈夫だと思ったのだ。

それにこのエリアにいるのは初心者だろうし、それならすぐ近くに俺みたいな講習を請け負ってる指導者がいるはずだ。

つまり金満を信頼しているというより、この状況なら大きなトラブルは起こらないだろうという経験からの予測があるから1人で行動させたのだ。

 

時計を見つつ氷極院の魔力調節訓練を見守っているが、金満がなかなか戻ってこない。

この階の構造を思い浮かべるが、階を移動するようなトラップも、手に負えない魔物が出てくるような部屋も無い。

だから大丈夫だと思っていたのだが、そういえば金満(アイツ)は隠し部屋を見つけた前科(・・)があるなと今さらながら思い至った。

 

探しに行った方がいいだろうか。遅まきながら、氷極院を連れて移動する。

この階は通路がぐるりと一周しているので、反対方向に進めば必ずどこかで見つけることができる。

脇道や部屋ものぞいて戦闘の痕跡がないか確認しつつ進むと、部屋のひとつからドタバタ走り回る音が聞こえた。

 

「お待ちなさい!いいかげん逃げ回るのはやめにして、おとなしくメイスの錆びにおなりなさい!」

 

間違いなく金満の声である。この階に出てくる程度の魔物に、どうして苦戦できるのだろうか。

声をかけながら部屋に入る。

 

「いったい何をやって……」

 

入った瞬間に、横から何かが飛んできた。

予想よりも威力があったが片手で受け止めることができたソレは、赤い色をしたスライムだった。

 

「おおお!そのまま捕まえててくださいましぃぃぃ!!」

「うぉっ、武器振り上げたままこっち来んなっ」

 

持っていたスライムを金満へと放る。

 

「打ちごろですわーーー!」

 

スピードが乗った打撃が、赤いスライムに命中する。その威力によってスライムは一瞬で風船のように大きく膨らみ、破裂した。

 

「……ふぅ、やっと倒せましたわ」

「お前、ホントに何やってんだよ」

「鈍川さんのおかげで助かりましたわ。ガーネット色のスライムがあんなに素早いなんて、知りませんでしたわ」

 

かなり走り回ったのか、汗をにじませながら爽やかに言ってくるお嬢様。何か言うべきかと思ったが、言おうとしていた内容を忘れてしまった。

 

「俺も初めて見たよ。とりあえずドロップ品を拾って、あとで受付で聞いてみよう」

「そうですわね!形はいつもの水袋みたいですけど、ガーネット色をしていますわ」

 

金満は上機嫌でそれを手渡してきた。

 

 

帰還してから山田さんに尋ねると、ドロップ品を捧げるように受け取られた。

 

「ドレンスライムの色違い個体ですね。発見報告はあるんですけど、たいてい逃げられてしまうのでドロップ品が手に入るのは珍しいですよ」

「普通のとの違いは?」

「普通のドレンスライムの体液はとても独特な臭いがありますが、この色違い個体のものは紅茶のような良い香りがするらしいです。買い取り価格も通常の3倍になっていますよ」

「3倍!……でも量がぜんぜん無いからな」

「はい。見つけて倒せたらラッキー、倒せなくても気にしない。それくらいの扱いですね」

 

スライムのドロップ品は数で稼ぐものだから、3倍程度ではわざわざレア個体を探して狩る意味が無い。

 

「もしもし鈍川さん。これを使ってもっといいデイウォーカーを作れたりしませんの?」

「しないなあ。そもそも1個しかないから、量産ができない」

「せっかく苦労しましたのに。残念ですわ」

「探索者は、こつこつ稼ぐのが一番の近道だって昔から言われてるからな」

 

というわけで本日の稼ぎを精算して分配する。

ひとりでカジノエリアに行くより稼げていないが、初心者講習分の報酬と評価が入るので良しとしている。

 

「あ、そうでしたわ。鈍川さんに依頼していたものを受け取っていませんでしたわ」

「そうだそうだ。言ってくれてよかった。いま持ってくるから待っててくれ」

 

金満お嬢様に頼まれて、精神をすり減らしながら集めた魔物素材。それを金を払って加工してもらったものを倉庫から運ぶ。

 

「ほら、【アイテム収納袋(小)】だ。いちおう10個ずつまとめてある」

「感謝しますわ。では全てこちらの住所へ送ってくださいまし。鈍川さんへの料金も振り込んでおきますわね」

 

持ってきた箱の中身を確認もせずに輸送の手続きをしていく。お嬢様がいいのならいいのだが。

 

「あの、それは何なのかしら」

 

後ろで見ていた氷極院が金満に質問している。

 

「わたくし、商会を立ち上げることにしましたの。鈍川さんは社員みたいなものですね」

 

えっ、そうだったの?

 

「これは鈍川さんが集めてくれた素材で作ったアイテムを大量に収納できる袋で、オシャレにして一般用のアイテムポーチとして売り出しますのよ」

「いろいろと考えていらっしゃるのですね」

 

氷極院がすごく感心している。金満は半分くらい成り行きでこうなったところがあるから、深く考えてはいないと思うぞ。

 

「金満さん、よかったら私にも協力させてもらえないかしら」

「まあ、氷極院さんの方からそう言っていただけるなんてうれしい!歓迎いたしますわ!」

 

 

お嬢様同士で気が合ったようだ。この様子なら、パーティ内での問題は起きなさそうだ。その点だけは安心できそうでよかった。

 

◆◆◆

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